南の島のティオ (講談社青い鳥文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062852418

作品紹介・あらすじ

小さな南の島に住む少年ティオは、お父さんが営むホテルの仕事を手伝いながら、島を訪れてやがて出て行くさまざまな人たちと出会います。そして、自然も人の心も豊かなティオの島では、ちょっと不思議な出来事も起こるのです。ティオが教えてくれた、とっておきの10の物語。第41回小学館文学賞を受賞した、池澤夏樹の初の児童向け小説。小学中級から。

感想・レビュー・書評

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  • ★理を説くのだ。情に訴えて聞く相手ではない。(p.190)
    ▶素朴な暮らしも、新しい文明も、古くからの伝承も、リアルも幻想もない交ぜに受け入れている環礁の島々での暮らしはぼくらから見てとてもシンプルで満ち足りたものです。読んでとても豊かな気分になれました。
    ▶スカイエマさんの絵ということで手に取ったら池澤夏樹さんの作品でした。▶題名からなんとなく「七つの海のティコ」を思い出しましたがもちろん特に関係はありませんでした。

    ■簡単なメモ

    【アガーニャ】ティオの遠い親戚。サンライズ貿易の支配人の家で女中をしている。
    【アコ】アンドー先生の娘。島で生まれ四歳になる。みんなに好かれている。
    【アサコ・キタムラ】四十代くらいの日本人女性。「あれ」を取りに行こうとしているが行けないのでヘーハチロにお金を送って管理してもらっている。なんかアーティストっぽいがティオにはよくわからないことをする人のようだ。島にはいい感じの流木を探しに来たらしい。
    【アニータ・コモ・クスティラン】マリアの友人。偶然にもティオの父の叔母、ティオの大叔母だった。
    【アンス】環礁。
    【アンドー】外科医。日本人のようだ。家はサマン岬の近く。
    【絵はがき】ナイスデイ絵はがき会社の絵はがき。見るとそれを実際に見たくなるので受け取ったら必ず客として来ることになる謎の絵はがき。送り先の名前を書いて切手を貼って郵便で出さないといけない。写真絵はがきでクランポクの山、ホテルの全景、白いラン花の三種がある。それとは別にティオが写った絵はがきが一枚だけありいつかティオに好きな人が現れ来て欲しくなったら送るといいとピップさんは言った。
    【エミリオ】ククルイリックからの避難民の一人。少年でティオと友人になる。大人の仕事を半分だけ遊びに変えたような本格的な遊び方をする。自然相手の知識や技術もよく知っていた。島に来ていろんな新しいものを知るが《これはなくてもいいものだ》p.214とつぶやいたりする。《そう、エミリオはどんなことがあっても自分は一人で生きられるという自信を失いたくなかったのだ。》p.215。エミリオに比べるとティオははるかに文明の子だった。
    【演説】《大人というのはなぜ演説があんなに好きなのだろう》p.39
    【エンリカ】ティオたちの仲間の女の子。
    【オリアナ】ティオの二歳上の従姉。ぼんやりしている。
    【女】《女はね、ほっておかれると、最後には死ぬのよ。》p.169
    【母さん】ティオの母はいるようだが作中あまり姿を見せない。
    【カイ】ティオの八歳ほど下。
    【カマイ婆(ばば)】島では有名な変人だが子供たちに怖い話をして楽しませたりする。予言のようなこともし、唐突に忠告したりするとみんな言うことをきく。
    【神さま】《どういうことが神さまの目から見て悪いことなのか、人間にはなかなかわからん。》p.132。そう思います。ついつい擬人化してしまいますがもし神さまが実際にいるのなら人間とはまったく異なるメンタリティを持つ生物だと思います。
    【ククルイリック】六百キロほど南の環礁。台風に襲われ大きな被害を受け避難民が島にやって来た。その中にエミリオもいた。
    【クマネップ村】北部西よりにある村。引き潮のとき珊瑚礁まで歩いて行ける。
    【グラジオ】ティオの六歳ほど下。
    【グラガルーギナ】遺跡がある。
    【グラマナムの村】島の東端にある。石材を採るのにちょうどいい場所がある。
    【グランド・パシフィック航空】名前は壮大だが実際は乗客五人のパイパー・アズテックが一機あるだけ。ハンコックさんが経営する。
    【クランポク】島を象徴する山。絵はがきやホテルの専用便箋のマークになっている。ぎざぎざした形が特徴。
    【クリストバル】ドルフィンズの投手。
    【ケシウス】ティオの従姉。看護師。子供の頃は意地悪だった。
    【小屋】島の人間なら誰でも小屋程度は作ることができる。子供たちだけで作りしばらく滞在することもあるって
    【ササフラス】ロスト・K・ササフラス。アメリカ人。本名かどうかは不明。ホテルの客。花火をみせた。
    【サプランガ島】島の北東部にある環礁の一部が島っぽくなっている。今は誰も住んでいない小さな島。アサコさんの「あれ」がある。
    【サブロー】建設局の人。
    【サマン岬】町とサマン村の間にある。岬の先端までは町から三キロ。町との間はリギンラガンの湾となっている。
    【サマン村】町の東方面にある。
    【サラティムカ神】いたずらはするが邪悪ではない。ウミガメの姿をとることが多い。
    【島】《そしてこの島に滞在した日数分だけ幸福になって帰ってゆくだろう。》p.11。どこかモデルはあるかもしれないが架空の島と思われます。でも、とてもリアルに描かれています。パパイアの実を切って伏せたような形。中央にムイ山がありそこから四方に川が注いでいる。町は北端にありティオのホテルもそこにある。ホテルの西にクランポク山がある。グラガルーギナ遺跡は南西部にある。島は環礁に囲まれており礁湖は穏やかで危険なサメも入ってこない。
    【白いランの花】山の奥に咲くので絵はがきの題材の中では見るのにいちばん苦労する。
    【世界の音】エミリオが魔法によってティオに聞かせてくれた。
    【タカギ】1945年頃島に駐留していた日本軍の兵曹長。マリアにしつこく迫った。
    【タマンテグ】建材センターの人。モーターボートと船外機を売る立場。
    【ダリムナール】政府資材局の人。
    【誰のものでもない】島には誰のものでもないものが多くある。木に実ったバナナとかパンの実とか。誰かのものであってもわりとルーズっぽい。逆に誰かのものだとはっきりさせておくとわざわざそれを侵すものも少ない。
    【チャバック】ワウの村にいる腕のいいカヌー職人。新造の話はあまりなく古いものの修理に追われている。
    【ティオ】主人公の「ぼく」。ホテル経営者の息子。ピップと出会った一年前十二歳だったので今は十三歳か。絵ではもう少し年下に見えるが。
    【天の者】神さまど同一のものかどうかは不明。カマイ婆《理を説くのだ。情に訴えて聞く相手ではない。勇気を見せろ。一歩も下がってはいけない。》p.190
    【父さん】ティオの父はホテルを経営している。島を発展させようとしているようだ。新し物好きというかちょっとお調子乗りのところも歩も。
    【トーラス環礁】となりの島。野球チーム「パイレーツ」がある。いいものを十字路に埋めておくとそこを歩くみんなにいいことがあるという言い伝えがあるのでトーラスの十字路にはいろんなものが埋まっている。素敵な言い伝えですね。
    【トトパイ】尾の長い鳥。
    【トム&トモコ】日本人カップル。Tシャツ、ショートパンツ、バックパックにたぶん登山靴。ヨーロッパの風景なんかではわりとよく見かける姿だがティオには違和感あったようだ。この島では山に登る人がいないらしい。ムイ山に登るつもりのようだったが道もないし登るのは不可能と知ってからは島をとても気に入ったこともあり手持ちのお金でどれどけ長く滞在できるか楽しみ始めた。ティオのそのゲームに参加したような気分になって楽しんだ。トムさん《どうしてここがこんなに好きになっちゃったんだろう?》。トモコさん《もう一人の自分に出会う場所。》《わたしは、トムちゃんのいるところならどこでも大好き。》p.150
    【トラパンナ爺(じい)】一人でお気楽に小屋暮らししていた。トム&トモコが来たときの三ヶ月前に亡くなっていた。
    【ドルフィンズ】島で一番強い野球チーム。十三歳のときティオはこのチームのフォースとを守っていた。
    【ナイマン】ドルフィンズのショート。
    【ネイバーフッド】政府の船。
    【バム】農業技術センターの技手。仕事はきちんとする漁師としての腕もよい。彼のピックアップはドルフィンズの専用車となっている。なにかと言えば「精神力」を持ち出す。トーラス環礁の出身。
    【ハンコック】グランド・パシフィック航空の経営者兼パイロット。
    【パンダナス】空港の屋根はこの葉で葺かれている。
    【ピップ】絵はがき屋さん。ナイスデイ絵はがき会社の外交員。東洋人と白人の血が半々に混じっているような感じ。
    【ぶらぶら者】定職につかない者はみんなぶらぶら者と言える。
    【ブレッドフルート】木の実かと思われる。木は島では「マヒ」と言い、ククルイリックでは「マア」と言う。カヌーの材料になる。
    【フレンドシップ】政府の船。
    【ヘーハチロ・リドゥドゥ】アサコ・キタムラのために「あれ」を守らされている。奥さんも家族もいないのでぶらぶら者に徹している。その気になれば家の回りのパンの実とバナナを食べていれば生きていける。
    【ベッシー】子どもたちの一人。
    【ヘルナンデス】イザイ・ヘルナンデス。トーラス環礁の一番大きな島でスーパーマーケットを経営している有力者。
    【ホセ】1945年頃島に住んでいてその頃の知り合いだったマリアさんを探しに来た。四十年以上前の話とのことなのでこの物語の現在は1985年のちょい後かと。ぼくらの現在のさらに四十年ほど前か。
    【待つ】《遠方で大事なものがいつまでも待っているというのは、なかなか幸福なことではないだろうか。》p.113。少年とは思えないティオの感想。みんな待つこと嫌うからなあ。《待つというのは、心の支えになるもんだ。》p.173
    【マリア】ホセさんの尋ね人。が、島の女性の半分はマリアという洗礼名を持っている。1945年頃島にいて日本軍の兵曹長タカギにしつこく迫られていた。
    【マルコス爺さん】公設市場の人。いつも不機嫌だがアコちゃんに対するとデレッとなる。
    【ミゲル】内科医。いまいち頼りにならない。
    【ムイ山】島の中央にある。
    【勇気】カマイ婆に「勇気があるか」と聞かれたティオは「わかりません」と答えた。そういう答えのできる人は勇気を出せる人だろうと思う。自分で勇気があるという人は当てにアテにならないもので。
    【行方不明】行方不明というのでもないが島の子供たちはちょいちょい家に帰らないことがある。だいたいの場合よその家に泊まっているか秘密基地的なとこにいるかのようだ。大人たちはあまり気にしていないが長くなると叱られて連れ戻される。
    【ヨランダ】アンドー先生んとこの手伝い。女の子と思われる、アコちゃんのことが大好き。みんな知らないがマルコス爺さんの孫。
    【リラン】ティオの五歳ほど下の女の子。父親が中国人、母親は島の人でとてもかわいい。ときどき行方不明になる。
    【リュウグウオキナエビス】貴重な巻き貝。いいお金になる。ベニオキナエビスは以前四円切手の図柄になっていたので馴染みのあるタイプではあります。
    【流木】その中には昔、天を支えていたような木もありそれが倒れてからいろんなことがうまくいかなくなってきた。
    【ワウ村】島の南端にある。

    =======================

    【第一話 絵はがき屋さん】見たらそこに行きたくなる謎の絵はがきを作る会社。
    【第二話 草色の空への水路】礁湖を安全に航行するための標識を作ったときティオの父親たちが遭遇した不思議なできごと。島の地図あり。
    【第三話 空いっぱいの大きな絵】不思議な感じの女の子リランと花火が空に描いたここではない地の姿。
    【第四話 十字路に埋めた宝物】島で初めての舗装道路の十字路のど真ん中に穴が開けられた。
    【第五話 昔、天を支えていた木】アサコさんは今年も自分では来れずヘーハチロに「あれ」を管理してもらうためのお金を送ってきた。
    【第六話 地球に引っ張られた男】トーラス環礁の有力者であるヘルナンデスさんはカマイ婆から「落ちる」と予言される。
    【第七話 帰りたくなかった二人】トムさんとトモコさんは島を気に入ってしまいできるだけ長く滞在しようと考えた。
    【第八話 ホセさんの尋ね人】ホセさんという旅人は四十年前いっしょに暮らしたマリアという女性を捜している。
    【第九話 星が透けて見える大きな身体】誰からも好かれるアコちゃんの体調がよくないが原因がわからないのでカマイ婆に聞きにいく。
    【第十話 エミリオの出発】ククルイリック島が台風被害を受け避難してきたエミリオは古くからの知識や技術を大事にし自然とともに生きていける少年だった。

  • 1992年に単行本が刊行されたんですね。古さを感じさせませんでした。
    不思議なことが起こる南の島の話、最初はなかなか作品に入り込めませんでしたが、だんだんと面白くなりました。

    「絵はがき屋さん」
    ラストでティオが絵はがきを使うのかな〜と思いましたが…。どうやって絵はがきを作るのか気になりますね。

    「地球に引っぱられた男」
    こういう話が好き!因果応報、神様は見ている。

    「帰りたくなかった二人」
    きっと二人はもう来ないけれど、「いつか行きたい場所」があることは、生きる理由になりそう。

    「ホセさんの尋ね人」
    いやいやホセさんよ!!!きれいな話で終わらせるのズルくない?男はいつも待たせるだけで、女はいつも待たされるだけで…。

    「エミリオの出発」
    エミリオかっこいい。無事に島に帰って、一人で島で生きていることが想像できる。

  • 太平洋のどこかの美しい島の、優しく素朴な人たちの物語。常夏だなぁ。

  • #42 あぁ、こんな島に行きたい!モデルの島はミクロネシアのポーンペイ島とのこと。「絵はがき屋さん」と「エミリオの出発」がすごくよかった。

  •  え? 池澤夏樹氏が児童文学?とタイトルを見てびっくりして、読み始めて難しい漢字があるとびっくりして、読み進めて非常に納得した。
     タイトルのとおり、南の島での短編集だ。
     読んでいて、世界があまりにもきらめいていてときめいてしまう。

     そういえば、子供の頃ってこういう全部の漢字にルビ振ってある本をよんだよなーと思い出す。
     子供だからといって、ひらがなばかりで難しくもない明るい世界の本ばかり読むわけでもないものね。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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