田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)
- 講談社 (2017年3月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062817141
作品紹介・あらすじ
発売直後から全国、そして海を越えて韓国でも大評判になった
新しい仕事と生活の提案の書、待望の文庫化。
30歳になるまで、空回りしていた「僕」の人生。
夢に出てきたじいちゃんの「おまえはパンをやりなさい」という不思議な言葉に一念発起。
そしてパン屋になって考えた。
劣悪な労働環境のおかしさ、腐らないパンのおかしさ。
ならば自分は人と違うことをしよう。
「菌本位」のパンづくり、そして働いただけ、働く人に還元できるパンづくり。
そのために、よりよい場所を求め、岡山県・勝山へ。
資本主義の未来は、この本に詰まっている。
文庫化に際し、さらにビール造りの場を求めて
鳥取・智頭町へ行ったその後の話も掲載。
感想・レビュー・書評
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パンとビールが好きなのと、昨年ミシマ社から出た新刊のを読みたいと思って、その前にと2013年発行(文庫化は2017年)を読んだ。
「腐らない経済」に疑問を持ち、天然酵母と地元産の素材だけで作る田舎のパン屋で「腐る経済」=利潤を求めない循環型の経済、暮らしを実践する。タルマーリーは哲学者であり、実践者ですね。
何より、サイトを見ると美味しそうなのがよいですし、
イースト菌と天然酵母の違いを知らなかったこと、勉強になった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
脱サラして田舎でパン屋さんをすると一念発起。
パンの製造過程に触れつつ、資本主義や労働のあり方に対して一石を投じています。
本を読んで、資本主義とは何か?一部のお金が有り余っている人達が世の中にその力を借りて色々とできるから強いのではなく、循環型の社会の方が無理がないのでは?利潤ばかり追い求めず、地元に根付いた細々とした生活の方が心の豊かさがあるのではないかなど考えさせられました。
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ずっと気になっていた岡山のパン屋さん、タルマーリー。腐る経済という考え方も気になっていました。
なんでもお金で買う世界に苦しさを感じていたけど、それは、資本家が利潤を得ること、から派生してきたことだったんだ。渡邊さんが、不思議なパン屋として確立していく中で、体で体得してきたことだからなのか、資本主義の問題点がとても分かりやすく伝わってきました。
小さな商いをすること、日本は資源がたくさんあるのに活かしていない、活かせる人が減っていること、腐らないお金も使い方次第で活かせる(投票の意味がある)など。
パンに出会えて、打ち込めて、渡邊さんが羨ましい、と思うけれど、自分らしさは、自分で何かに打ち込むことからしか生まれない。私にできることごある、という気持ちをちゃんと抱かせてくれる本でした。
いつか、タルマーリーのパンを食べたいな。 -
共感したこと。
「ほんとうのことがしたい」
勉強になったこと。
マルクスの話。資本主義の話。
パンが食べたくなる。
お餅でがまん。
餅もうまい。
「職人」の考え方が一昔前と今では、変わってきているような気がする。
昔は、一つのことを極めていくのが職人。
今はそれだけじゃだめで、世の中を、社会を知らないといけない。
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発酵界ではちょっとした有名人の渡辺格さん。千葉の田舎で完全天然酵母のパン屋さん「タルマーリー」をはじめ、震災後には鳥取県の智頭町の廃校(?)になった幼稚園跡地でに移転。今は、元給食室でクラフトビールも作っています。智頭町は図書館で町おこし(岡本真さん関わってる)もしているので、今回のイベントにはピッタリでは。
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ツイッターなどで見かけ、気になっていた本書。
いつか読もう読もう、と思う内に、気がついたら文庫になっているではありませんか!
イーストなどを使用せず、天然酵母や天然麹菌によってパンをつくり、店を経営する著者による本書。
面白いのは、マルクスの『資本論』をはじめ、いくつかの経済書を引用しながら、彼らがつくるパン、経営、労働についての考え方を言葉にしているところ。
複数の論点、かつ、著者の学生時代も含めると長いスパンの話を扱っているにもかかわらず、構成がとてもよく整理されているので、するすると頭に入る。
何より、著者が30歳にしてはじめて本格的な社会人として働きはじめてから遭遇する様々な理不尽や矛盾が、とても他人事とは思えず、はらはらさせられ通しである。
今の資本主義社会の中で、おカネがあふれ続けている……というくだりで、ふと『千と千尋の神隠し』の“カオナシ”を思い出す。
実体のない経済がどんどん膨れ上がりバブルが爆発することと、映画でのカオナシのくだりはとてもよく似ている。
カオナシは、銭婆のもとで仕事を与えられて穏やかな横顔をみせるようになるけれど、じゃあおカネは?
本の中で、著者は菌の声を聴いてパンをつくっているけれど、もしおカネの声を聞くことができたら、どんなことを言うだろうかと考える。
私のお財布の中のおカネたちは、もうちょっと大切にして、少なくともすぐレシートで財布のなかパンパンにするのはやめて、と怒っているかもしれないな。
資本主義社会の中で、どのように気持ちと生活の折り合いをつけて生きていくか。
正解のない問いに、果敢に挑む著者夫婦の姿が印象に残る1冊でした。 -
「ソフトランディングはできないものか」
この本が文庫化される前の話。「エンデの遺言」を読んだ後、書店に並んでいるのを何気なく手に取った。当時地域で通貨を発行するというアイデアは当時意外と扱われていた。村上龍の「希望の国のエクソダス」とか、石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」とか。
田舎で天然の酵母を使って本物のパンを作る渡邉さんが、パン作りを通して資本主義を乗り越える可能性について書かれた本だ。
品質の標準化、管理の容易さ、さらには価格の低下を求めて、パン作りで云えば純粋培養のイーストや農薬をふんだんに使った商品ができあがる。かくして生産物から生命力が失われ、職人はその座を取り替えのきく労働者に変えられていく。
とはいえ渡邉さんも資本主義を全否定しているわけではない。「資本主義もいいところはいい」(p183)と書いているし、パンの作り方を図解した各章の冒頭では機械でパン種をこねているようだった。技術の革新が人間を苦役から解放する面も確かにある。大事なもののために譲れるものと譲れないものがあるのだろう。
そう考えると、資本主義より高度なシステムであったとしても、それで単色に染め上げてしまうのは少し違う気がした。
パンを作る菌もそうだが、大事なのは「多様性」なのかも知れない。
資本主義が労働者を不幸にしながら継続したとしても、そこからこぼれ落ちる人々を救い上げる仕組みがあると良いなと思った。既に「小商い連合」や「ワーカーズコレクティブ」といった取り組みも始まっているようだ。
自分の携わる介護業界にも「ワーカーズコレクティブ」があるようだから、いつか関わってみたい。 -
鳥取県でパン屋を営む著者の、自らの経験(と、マルクス経済学)に基づく経済論。著者が家族や従業員の生活を回していけるだけの基盤を作って、それを維持していることは素晴らしいと思う。だが、資本主義の恩恵を受けていることを認めない姿勢が、なんだか釈然としない部分もある。スピリチュアルな感覚を持った人とは親和性がありそう。
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効率や利潤の追求から離れたところで、自然と向き合い、その中で自分たちが生きていく(生かされていく)ことを実感していく。素敵な生き方だと思う。