ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062772242

作品紹介・あらすじ

事件を起こすなら、私のほうだと思ってた。

母を殺してしまった娘と、母との確執を抱える娘。どんな母娘(おやこ)にも起こりうる悲劇。

地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。

辻村深月2009年書き下ろし作品が待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 同年代の女の子たちの間にある、『私の方があの子よりはまし』という暗い感情、マウンティングがとてもリアルで身につまされた。口では相手を褒めて自分なんて…と言いながらも、常に自分の位置を確認せずにはいられないあの感情はなんなのだろう。
    競うものが自分の仕事や学歴、容姿なんかであるならまだわかるけど、年を重ねるうちにそれは彼氏の容姿や仕事、自分がいかに大切にされているかであったり、結婚相手となれば職業や年収、住んでいる土地や家のランク、子どもができればその子どもの成績や運動神経、性格までがマウンティングの指標となる。女同士の比べ合いには終わりがない。

    その中でいつも自分は下層にいると感じていたチエミ。彼女には自分がなくて、そんな自分を変えるすべを知らなくて、周りの人が全て自分より上手くいっていると思っていたのだろうなぁ。
    そういう気持ち、本当によくわかる。
    わかるからとっても切ないお話だった。

  • タイトルの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」という意味が、ラストでやっとわかった時に、この物語の全てがそこには詰まっていて、なるほどこのタイトルのつけ方は秀逸だなと思いました。

    母子関係をテーマとした物語は他にもいくつかあって、これまで印象に残っているのは、湊かなえさんの「ポイズンドーター・ホーリーマザー」「夜行観覧車」。最近気になっているのは、角田光代さんの「坂の上の家」。
    作家さんが、母子関係をテーマとした作品を手がけるとき、きっと、自分自身の生い立ちと向き合うだけでなく、心の奥底に沈めた記憶や生々しい感情が溢れてくる。苦しくて、忘れたいから封じた過去、それと、対峙していく作業。
    親との関係は、親子の間でなされることだから、みんな自分の親子関係の異常性には気付かない。誰かからみたらある人の親子関係は異常だし、ある人から見たら誰かの親子関係は異常だ。だから、自分では自分の親との関係性こそが普通だと思っていて、その関係性が、後に自分の人間関係のベースとなってゆく。だんだんと社会が広がってゆく中で、自分の親の異常性に気付く。

    チエミの母子関係を、異常と思うかどうか。わたしは異常、とまでは思わなかったけれど、チエミがチエミの力で切り開いていく力を、奪う存在だったのかな、という気はする。この点では及川さんと同意見だ。
    子どもに様々な選択肢があるのは、親が様々な選択肢を呈示することができ、かつ、子どもに選択する力があるからだ。子どもに力があったとしても、親がその力を元から奪っていては、選択肢なんてなんの意味もない。選択肢だけがあってもダメなんだ。親が、奪うこと、それが何よりの悲劇なんだ。略奪は支配のはじまりだ。まずは、親が子どもを信頼すること、それが、すべてのはじまり。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつも感想読ませていただいています。
      この作品、naonaonao16gさん書かれている通り、親...
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつも感想読ませていただいています。
      この作品、naonaonao16gさん書かれている通り、親子関係について色々と考えさせられるものがありました。ある意味閉じた世界なので、なかなか自分の家の関係というものが世の中と比べてと、比較することもままならず、異常性というものに気づきづらいというのは全く同意見です。一日で読むには結構な文章量でしたが、思うところ多岐な一冊だと思いました。
      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/11
  • 第一章は読みにくかった。
    みずほのプライドの高さや
    格好をつけたような文章や
    チエミを下に見た、ものの言い方が。
    母親との話も思わせぶりで
    だいぶ引っ張った挙句そんな話?
    と思ってしまった。
    言い方は悪いけれど
    そんなに大層な事でもないのでは。。
    みずほはとても傷ついた、と
    くどくどと語っていたけれど
    でもそれって
    下に見ていたチエミ親子と何が違うの?と
    冷酷な気分になってしまった。
    読者をモヤモヤイライラさせるのが
    多分、作家さんの狙いなのだろうけど。
    にしても、どうして妊娠、流産を経て
    赤ちゃんポストの事が気になるとか
    友達もその意識に納得するとか
    取材するとか無理があるのでは。。
    出てきた時点でチエミが関係するのね
    とわかってしまい、
    何度か読み続けるのが辛くなってしまった。

    一転、第二章はとても読みやすく
    スピード感も出てきて
    チエミの気持ちが素直に現れていた。
    みずほが思っているほど彼女は弱くもないし、
    プライドも誇りもあるし。
    翠もいいキャラクターでチエミを守ってくれて
    別れの場面は涙が出てきた。

    チエミからはみずほが眩しく見えていて
    でも彼女の、私はあなたとは違うという
    雰囲気を感じ取っていて。
    だから彼女と同類の彼と関係を持つことで
    勝った?もしくは同等だよと気持ちに
    なりたかったのかな、と思う。
    結局、それは叶わなかったし、
    ただ徒労に終わっただけだったけれど。。

    こういう女性同士の関係は煩わしい。。

  • 何とも辛いお話でした。
    親と子の繋がり、人付き合い、様々な摩擦の中で人は揉まれて歳を重ねていく。
    自分の家のルールは他人から見ればおかしく思えることもあるだろう。でも、他人からとやかく言われる筋合いは無いんだよな。この作品は凄いところを突いてくる。極端ではあるけれど、分かるんだ。

  • 女ともだち、母娘。女同士の間に流れるさまざまな感情が、見事に描き出されていた。女って、弱かったり強かったり、自分勝手だったり愛情深かったり…なかなか複雑な生き物だよなぁと思う。
    この物語のように劇的なことは起こらなくても、どこかで経験したことのあるような、女同士特有の、面倒とも言える関係性。私自身はそういうものが苦手だったので、若いころの色々な感情を思い出してしまい、正直読み疲れてしまった部分もあった。
    ストーリー的には、ミステリー要素もあり面白く読めた。

  • 辻村さんの作品は、傲慢と善良やかがみの弧城、ツナグなどから読み始めたため本作品は20番目に読みました。いずれも私の読む力が弱いためか、冒頭は苦労しました。途中から一気に夜ふかしさせられてしまいました。親子関係は、数十億以上の関係性の種類がありますね。うちも、ふつう、、ではありません。刃傷沙汰ではなくて少し救われました。

  • 同級生・チエミが失踪した。
    自宅にはチエミの母が亡くなっていた。
    チエミが失踪してから半年。チエミの行方を探すみずほ。チエミを知る人を訪ねて、自分が知らなかったチエミを知ることに。

    チエミはなぜ失踪したのか?
    チエミの母はなぜ⁇

    女友達、母娘。
    男同士とは違った関係性なんだろう。
    常にマウンティングするような。
    田舎なら特に。
    東京に出て、大卒。大卒でも有名か有名じゃないか。
    彼氏も同じく。
    田舎なら世間体もあるんだろう。
    実際、大卒のみずほ、亜里沙は、地元しか知らない政美、果歩、チエミを意識はせずとも上から見ていただろう。
    必ずしがらみはあるんだろう。
    なかなか本音は話せないような。

    みずほとチエミ、どちらも母娘の関係は特殊だった。
    虐待を受けていたみずほ。
    母離れができないチエミと子離れができない母。

    コーラが身体によくないからって、頭から浴びせるなんて、子供が忘れるわけはないだろう。その上、自分の価値観を押し付けるなんて。
    『自爆テロ』は当然だろう。

    チエミの母娘関係は近過ぎる。ひとり娘だから、そうなったのかもしれないが。『親が娘の限界を決めてしまった』のかもはしれない…
    もっと子供の可能性を広げてあげるべきなんだろうが。田舎で農業という環境は親にもそれをさせなかったんだろう。
    『地元で結婚して、子供を産む』が幸せみたいな。

    『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』、最後までわからなかった…
    誕生日はダメって、言ってたのに…

    『辻村深月すごろく』のつながりはわからなかった…

    あと1冊。

  • 湊かなえみたいな作風だと思った。
    今の私の気分ではなく、
    あまり気乗りしないまま読み進めたが、
    「すべての娘は、自分の母親に等しく傷つけられている。」
    とか母娘関係についてぐさりとえぐられるような部分が時々あり、身に迫るような思いも抱いた。
    どんな家庭にも、親子関係には、美点や汚点というか素敵なものとネガティブなものとがあるのだろうと思う。
    「傲慢と善良」みたいに結婚前後の女性の苦悩が描かれているのも、読んでいると苦しいが、リアルだなぁと思う。

    そして、あらためて、我が子を大事に(かつ自立もできるように)育てたいと思った。

  • 女性作家の方でないと、これは書けなかったのではないか。と、思う。微妙な女性の心の動きや気持ちを、何ならものすごく複雑に書き綴っている。共感するところも、共感しないところもありながら、ただただ、胸が苦しくなった。
    婚活、結婚、仕事、出産、そして地方都市と東京…みずほとチエミ。
    30歳という歳だからこそ疎遠になった彼女たちの、複雑な思いが絡み合った友情関係。物語はチエミの母親の殺害事件と同時に彼女の失踪事件でもう一度、手を繋ぎたい、探したいとみずほが腰を上げるところから始まる。
    当時、仲の良かった友達と、チエミの会社の同僚などに話を聞き、みずほが連絡を断っていた期間のチエミの背景を掘り下げていく中で、チエミの、そしてみずほの、周りの人たちの複雑な女性特有の感情が溢れ出す様に渦を巻いていく。そこに、赤ちゃんポストという大きな存在が。
    少しづつ、真相に近づいていく感じは、ミステリーの様でした。
    そして、私は悲しかった。30歳という年齢の迫りくる強迫観念は痛いほど分かるし、あのドロドロ感もとても分かる。でも多分、この小説はそれだけじゃなくて、これから先、歳を重ねていく過程の中で、それがこの時期の必要な試練だったのであれば、どう乗り越えるのか。自由に解き放たれて色んな生き方や幸せが、特殊なことじゃなく、普通に転がっている世界になればいいなと思う。

  • 家族病理を問う長編。長いよ! 辻村先生。そして自身の内面を鋭く抉られるんです。自身の傲慢さと他者視点にはどう足掻いても立てないことに愕然とするんです...。秀逸なプロットと終盤の回収。みずほ編とチエミ編のボリュームの対比が...。この感覚は自身で手に取って感じて欲しい。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻村深月の作品

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