アカネちゃんの涙の海 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062771580

作品紹介・あらすじ

誕生日、おおかみの姿でアカネちゃんの所に来たパパには、実は死に神が近寄っていた。モモちゃんとアカネちゃんは多くの出会いや別れを経験し、前に歩き続ける。どうして人は亡くなるの?核実験や戦争は誰がなぜするの?『アカネちゃんとお客さんのパパ』『アカネちゃんのなみだの海』収録。

感想・レビュー・書評

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  • 『アカネちゃんの涙の海』タイトルを見るだけでも涙を誘いそうだ。

    モモちゃんとアカネちゃんシリーズの最終話となる今作では、遠い国で行われる戦争に心を痛めるアカネちゃんや、別れて暮らすパパとの永遠の別れなどが描かれている。少しずつ間を置いたりしながらゆっくりと読んでいった。

    アカネちゃんが流す涙に思いを馳せながら、自分の中のかすかな記憶を一つ掘り起こした。祖父が亡くなって何年かしての法事。何度目かは忘れたが、けっこう親戚が集まったから三回忌とかそういう特別なものだったのだろう。その日は雨が降っていた。静かな小雨だったと思う。お坊さんの読経と焼香が済んで、みんなで後片付けをしている時に、親戚のおばちゃんの一人が外の雨を見て、

    「おっちゃん、みんな来てくれて嬉しい嬉しい言うて泣いてるんやなあ」

    と微笑みながら言った。みんな「そうやなあ」とか言っていた。うちの母方の親戚は女系で昔みんな近くに住んでいたからとても仲がいい。その言葉はその場にいたおばちゃん達の誰から発せられてもおかしくない雰囲気だった。その言葉には自分よりも何度も人とのお別れを経験している人の悲しみの取り扱い方が滲み出ていた。私はごく若かったので、そこに共鳴するだけの人生経験も、言葉に乗せられる重みも持ち合わせていなかった。私もいつかこんなことをさりげなく言えるようになるのだろうか、とふと思った。

    雨を見て嬉し涙の方へと想像力がはたらくこともあれば、実際に流される涙が、別のものを想起させることもあるだろう。アカネちゃんが流す涙は、海となってくじらを呼び寄せる。核実験によってやけどをした地球の傷口を冷まそうとする。本来、涙は人間が持っている機能、という目でみれば、傷を癒していつもの心の動きを取り戻す、あくまで自分自身のためのものだろう。でも、この本の中で描かれるように、他の人へ働きかける作用も涙は持ち合わせているように思える。そんなことを思いながら読み終わった。

    子供が読んでわかるようなシンプルな言葉だからこそ、涙の向こうにある様々な感情が直接的に響く。泣いている子供を見る目が少しだけ変わるような体験だった。

  • モモちゃんとアカネちゃんシリーズ5作目「アカネちゃんとお客さんのパパ」と6作目「アカネちゃんのなみだの海」の合本で完結作

    モモちゃんは小学校中学年から中学生までになるし、同じくアカネちゃんも成長している


    戦争や核実験などの話題
    ママにまた死神がやってきた事
    そして、父親の死という出来事

    子供が読むには重めなテーマだけれども、これまでの話の流れ的に違和感があるわけではない
    父親に関して言えば、新たな相手がいるようなので、離婚の原因はそういう事だったのだろうと推測できる
    ママの元を訪れる死神はパパについて言及しているけれども、死神化来るという状態が既にママも精神的に不安定になっているという事を示唆しているようだ


    あと、ママに絵本を描くことをせがむというエピソード
    これは3作目の感想で書いたエピソードですね
    なので、随分と著者の体験や経験に基づいた話になっているのだろうと推測

    あとがきを読むに、やはり苦労のあった夫婦関係だったよう
    何と言うか、作家さんはこうして作品と通してその感情を昇華する術を持っている強さを持っている気がする

  • モモちゃんシリーズ読み終えた。
    深く考えさせられたのだが、楽しく素晴らしい本。
    こんな本、きっと他にない。

    アカネちゃんの涙の海では、パパについて完結するのだが、パパに会いに行く冒険があったり、モモちゃんのつらく悲しい気持ちに胸がつまりました。

    でも、ツバキの赤い花や真っ赤なもみじの素敵な場所でよかった。

    夏みかんや、サルスベリ、戦争と日曜日の学校だったり忘れ物1等賞なんかが心に残る。

    子どものころ読んで、大人になってまた読んで、子育て終わってからもまた読んでみたくなる本じゃないかな。

    • 9nanokaさん
      パパが死んでしまって気丈なモモちゃんが泣き明かした話、とても悲しかったです。
      別れてもパパはパパと説明していたのに、パパ死んじゃった…って...
      パパが死んでしまって気丈なモモちゃんが泣き明かした話、とても悲しかったです。
      別れてもパパはパパと説明していたのに、パパ死んじゃった…って感じでした。
      戦争反対、私も印象深かったです。
      私も子育てできたらまた読んでみます(^^)
      2014/11/22
  • 家族には話せないこと、助けられないことを、プーやタッタちゃんやタアタちゃん、もりのくまさんが寄り添うように助けてくれる。そういう存在を信じる力には、想像力が必要なんだなあと思う。
    自分には味方がいる、ということの心強さと、その味方がいても1人で乗りきらないといけない場面は必ずあるということを、やわらかい言葉で現実的に教えてくれる。

  •  パパは歩く木というのは、とても納得できる喩えでしたが、子どもが本当に大切なら「歩かない」こともできるのではないか、それでも「歩く」を優先したのなら、子どもを捨てたということではないのか?と、私自身は正直思ってしまうのですが、ただ本書を読んで、子どもはパパを愛しているし、それを取り上げたり嫌いに思わせたりさせてしまうのは、やはり親のエゴなのだろうとも思ったり。思ってもママのようには、ふるまえませんが。愛の差なのだろうか。
     そして、だんだん死神のサインが心臓に増えたパパが、とうとう亡くなって、モモちゃんとアカネちゃんはお別れをするのでした。
     少しずつ大きくなったモモちゃんと、アカネちゃんが、別れや死について考えたり、核実験や戦争について、疑問に思ったり、怒ったり、考えたり、そんな成長の後の追えるお話でした。
     単行本「ちいさいモモちゃん」が出版されたのは1964年、最後の「アカネちゃんとなみだの海」が出版されたのは1992年と30年近くかかっての作品。文庫版3巻は2012年に発刊されており、文庫版あとがきには、松谷みよ子さんが2011年に起きた東日本大震災についてふれていらっしゃいます。そうして2015年に、松谷さんは亡くなられておられました。

  • 子どもの時に読んでると
    分からなかっただろうなという事が
    大人になって読むと
    そういう事かと分かる

    周りによいサポーターがいれば
    意外に子どもは逞しく
    育っていたりする

    ブックオフ一宮妙興寺店にて取り寄せ

  • 初めて読んだのに、よく分からず手に取って最終巻を読んでしまった…
    モモちゃん、アカネちゃんのお話。
    松谷みよ子さんのおこさまたちの話を童話にしたものらしい。
    どおりで、親の離婚、死などメルヘンだけでは済まされないいろんな話が出てくるのね。
    そういう意味では、子ども向けではあるものの大人も面白いし、リアルな描写を柔らかく表現するヒントが詰まっているなと思います。
    涙を泳ぐクジラさんや、離婚したパパを歩く木に例えるなど。。
    松谷さん、忙しい中子どもをよーく見ていていらっしゃる。
    だからかな。子どもたちは幸せそうだなと感じました。

  • タイトルの「涙の海」の描写で、こっちまで涙が出てきた。優しい言葉ながら、リアルな世界を語りかけてるのがよく分かるシリーズ。

  • 2020.2月。
    3冊ともすばらしかった。モモちゃんとアカネちゃんと、まわりの人たちの物語でもあり、松谷さん自身のノンフィクションでもあり。大切なことがここにたくさんあった。

  • 作者が夫と別れ、夫の死を子どもたちに伝える童話である。

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著者プロフィール

1926年、東京生まれ。1944年頃より童話を書きはじめ、1956年、信州へ民話の探訪に入り、『龍の子太郎』(講談社)に結実、国際アンデルセン賞優良賞を受ける。以来、民話に魅せられ創作と共に生涯の仕事となる。日本民話の会の設立にかかわり、松谷みよ子民話研究室を主宰。著書に『女川・雄勝の民話』(国土社)『日本の昔話』『日本の伝説』『昔話一二ヶ月』『民話の世界』(共に講談社)『現代民俗考』8巻(立風書房)など。

「1993年 『狐をめぐる世間話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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