「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062766036

作品紹介・あらすじ

貧困と人種差別から解放されるために18歳で入った海兵隊。そこでの訓練で、人を殺すことのためらいや、罪の意識が薄れていく。やがて戦地に赴くことになり、降り立ったのは、ベトナム。「ほんとうの戦争は無慈悲で残虐で愚かで、そして無意味です」著者の口から静かに語られる、殺し合うことの悲惨さ、命の尊さが心を揺さぶる。

感想・レビュー・書評

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  • ベトナム戦争の帰還兵が、PTSDに苦しみ、母親から家を追い出され、ホームレスとして、日々思い出される悪夢に苦しんでいる。

    そんなとき、昔の同級生だった教師に、小学校でベトナム戦争の経験を語ってほしいと言われる。

    彼は、小学生向けの話をする。しかし、最後の質疑応答で、ある少女が質問する。それが、この表題。
    彼は、自分が人殺しと罵られる恐怖に震えながら「イエス」と答えるが、子供たちは…


    筆者がいかにして「残酷で卑劣な兵士になったか」、「ベトナムで何をし、何を見たか」、それに絡んで人種差別の問題や、沖縄の基地問題などの問題を取り上げる。

    子供にも読みやすい、そして共感しやすい本だった。戦争の悲惨さを伝える本は多いが、これは本当に、「語りかけてくる」ような戦争の本。命とか平和について考えさせられる。

  • 日本ではあまり話題に上がることのないベトナム戦争について知る事が出来る本。
    ひらがなが多く分厚くないので、子どもや普段本を読まない人も読みやすいと思う。
    読書感想文の題材としても強く推したい作品だ。
    でも内容が結構ヘビーなので読むのには意外と時間がかかるかも。

    アレンネルソンさんが海兵隊へ入隊し、過酷な戦場を経験し帰国。
    その後戦争の語り部となるまでのお話が書かれている。
    彼自身がしてしまったことや戦場の実情が具体的に詳しく書かれているので、本当に胸が苦しくなりながら読んだ。
    ベトナムの戦場では民間人と兵士の見分けをつける事が大変難しく、自分の身を守るために人を殺す事に何も感じなくなったという。
    そんな経験をした彼が訴え続ける平和への想いはとても重い。
    日本の基地問題や憲法9条などにも触れているので、こういった事は他人事ではない。

    ベトナム戦争の枯葉剤の影響で61歳で生涯を終えたアレンさん。
    戦争体験で発症したPTSDに後年も苦しまされたという。
    最後まで戦争に翻弄された人生だったと思う。
    アレンさんだけではなく、戦争を経験した兵士たちはこういった病気に苦しみ人知れず亡くなっていったのだと思うと本当に悲しい。
    戦争はその場限りのものでなく、関わった人の人生に永遠に影響を与えるのだと改めて思った。

    あとがきにかえてアレンさんを慕う人々からのメッセージが載っている。
    アレンさんは本当に沢山の人に愛された方だったのだなぁと感じた
    惜しい人を惜しい形で亡くしたが、本は残り続けるので私もこの本を沢山の人に読んで欲しいと思う。

    とても心が揺さぶられて、沢山の事を学んだ作品でした。

  • 戦争とは何か。

    戦争の残忍さと、それによる悲しみ・苦しみを描く。
    戦場で生き抜くために「殺人マシン」になり、しかしある村でベトナム人女性の出産に偶然立ち会うネルソン青年。「ベトナム人が自分と同じ人間である」ことに気付いた時、ネルソン青年は人間の感情を取り戻した。

    除隊後の彼を待ち受けていたのは、PTSD。銃声や爆撃音のない日常に慣れない、戻れない。ベトコンたちが、村人たちが戻させてくれない。トラウマに苦しむネルソン氏の心を闇の底から救い出してくれたのは、とある小学校の女子生徒の涙だった。

    彼が最後に記す、憲法9条に対する思いには、胸を大きく打たれた。
    「第二次世界大戦以降、日本は世界中のどこにも爆弾を一個も落とさず、世界中の人々の命をだれひとりもうばっていません。」
    憲法9条には、イデオロギーや理論では説明できない意味があるのだと思った。
    そして本書も、イデオロギーや理論を超越する、根源的な意味を持つ本だった。

  • 平和学習の教材の一つとして、小学生から大人まで、どの年代にも推薦できる本だと思います。
    実際にベトナム戦争の全線でベトコンと戦い。数えきれない人を殺した元海兵隊のアレン・ネルソン氏が淡々と語る文章は、特別に飾り立てているわけではないにもかかわらず迫力があり、「戦争をしてはいけない」という真理を読者に突き付けてきます。
    筆者が自らの戦場での体験を踏まえ、日本国憲法9条について
    「戦争を放棄する。戦力は持たない。国というものは戦争をしてはいけない。第九条は、はっきりとそういっています。▼わたしはそれ以後、世界中の国々がこの第九条を共有すべきだと確信するようになりました。第九条こそが戦争をなくす唯一の道だと思うのです。▼第二次世界大戦以降、日本は世界中のどこにも爆弾を一個も落とさず、世界中の人々の命をだれひとりもうばっていません。▼これが第九条の力であり、この力を日本人みずからがもっと理解すべきだと思うのです。」
    と語っていることについて、「現実問題として”非武装中立”があり得るかどうか」ではなく、平和そのものを希求する視点から改めて見つめなおす必要があると感じました。
    憲法改正の話題が政治で取り上げられ、国民投票関連法案の審議も着々と進む中、どのような選択をするべきか、国民全体での議論が必要だと改めて感じます。

  • 憲法第9条改正だの、必要な戦争もあるだの、日本人としての誇りを養うには徴兵制をだの言っている輩は、この本を読むがいい。
    戦争とはどういうものかよく分かる。

  • 言葉が出てこない。
    どんな言葉なら、この本を的確に表現することができるんだろう。

    ベトナム戦争から時は流れて、現代では人間に代わりAIやドローンを兵器として人間が遠隔で戦っている。


  • 帰還兵の手記はたくさんあるが、これは読みやすい上、全く呼び知識のない子供にも戦争の恐ろしさがリアルに伝わる。
     飢えから逃れたい、誇りを持って生きたいという貧しく鬱屈した若者を巧みに勧誘して兵士にする。訓練は殺す技術の習得と洗脳。殺す相手は同じ人間ではなく、醜い下等な生き物だから、心を痛める必要はない。それどころか、狩猟感覚で楽しんでよい。そして、それを心から楽しめる鬼畜は、戦場では英雄扱いされる。
     著者はベトナム人と会話をし、ベトナム人の女性の出産に偶然出くわしたことで、ベトナム人も自分と変わらない人間だということに否応なく気づかされる。もし、そういうことがなかったら、自分で自分を終わらせたかもしれない。そういう帰還兵もたくさんいたはずだ。
     戦場で多くの人を殺し、帰還後PTSDとなり、改めて贖罪に生きる姿は、心を打つ。
     この本は、読解力はあまりいらないし、長くないので、是非ともあまり本を読まない中学生に読んでほしい。いざ戦争ということになったら真っ先にリクルートされるような、貧しい家庭の子どもに、親とうまくいっていない子どもに。

  • Amazonで中古にて購入。実は『戦場で心が壊れて』を先に読んだのですが、どうしてもどうしても、こちらの方も読みたくなりました。ところが、出来るだけ新品で読みたいというのもあって書店で売っていないか探していたのですが、なかなか見つからない。仕方なくAmazonで注文しました。本日読了です。

    アレン・ネルソンさんの戦場での体験がメインで語られています。表題の質問、「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」のエピソードは序盤に出てきますね。ベトナム戦争帰還後ホームレスをしていたアレンさんのもとに小学校教師をしている元クラスメートが現れて、戦争で体験していたことを子どもたちに語って欲しいと請われる。最初は嫌だったアレンさんも、子どもたちから手紙や絵を受け取ったりする中で子どもたちの前で話そうと決心する。そして当日、同じアフリカ系アメリカ人の子どもたちを前にして戦争について語りだすアレンさん。しかし、口から出てくるのは、戦争に関する上辺だけのキレイゴトの話ばかり。「ほんとうの戦争」については一切語らないまま、語れないまま、話は終わり質問タイムへ。子どもたちからの様々な質問が出てくる中、最後に手を上げた女の子の質問が、
    「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」

    私はおそらくこの本で初めて「ほんとうの戦争」では何が起こっているのかを知ったように思います。
    本当に、アレンさんはよく人間性を失わないで戦場から帰ってこれたなぁと思います。私が同じ状況だったら、海兵隊員だったら……死体を見て発狂するか、徹底して殺人マシーン、モンスターに進んでなろうとするか、どちらかになるのではないか……

    そして、女の子の質問に対してよくぞ、YESと、答えたなぁと思います。いや、「答えた」のではなく、アレンさんの人間性そのものがアレンさんの口にYESと「答えさせた」のかもしれません。
    本当に答えにくかったろうと思います。事実としては人を殺した。でもそれは認めたくない。YESと子どもたちの前で答えてしまったら、その瞬間から子どもたちの目の前にいるのは「ネルソンさん」ではなく「人殺し」。逃げ出すべきか、誠実に答えるべきか……。その壮絶な葛藤、しんどさが読んでいる私にも伝わってきて、胸が苦しくなりました。
    しかし、そのなかでアレンさんはYESと言った。ここから、ほんとうの懺悔の日々が、戦場とは言え「人を殺した罪」を身に引き受けて、背負っていく日々が始まったのでしょう。そして、このことがあったればこそ、アレンさんを通して私たちは「ほんとうの戦争」について学び、考えを深めることが出来るのだと思います。
    特に、沖縄に関することは決して他人事では済まされません。日本は米軍を沖縄に駐留させることを認めたために、間接的にもベトナム戦争に加担してきた戦争責任があります。そして、未だに基地被害があるのにも関わらず、基地を撤退させようとせず、むしろ基地を増やそうとまでしている。
    これがどれほど残酷なことなのか、悲しいことなのか、人道を無視したことなのか。アレンさんから「ほんとうの戦争」について聞くことがなかったなら、考えもしなかったろうと思います。

    どう戦争と向き合うべきなのか、改めて問い直していきたいと思います。

  • アレン・ネルソン氏が2010年に発刊した戦争体験記

    ベトナム戦争に従軍した兵士の目線から見た戦争の実態について記されている。
    ネルソン氏が軍に志願した時の心境。戦闘に参加している時の心境など、心の変化がとても分かりやすく描写している。

    直接戦争を経験したことのない世代、特に10〜30代くらいの人に向けてリアルな戦争像を伝える作品だと思う。

    なかには残酷な描写も出てくるが、それも踏まえて読んでおくべき一冊であると思う。

  • 感想
    英雄と犯罪者。線引きはどこにあるのか。殺していい人などいるはずないがその判断が求められる。過酷であるのに虚無な戦争。繰り返してはいけない。

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著者プロフィール

1947年、ニューヨーク・ブルックリン生まれのアフリカ系アメリカ人。海兵隊員としてベトナム戦争の前線で戦う。帰国後の戦争による精神的後遺症から立ち直った後、日米両国で精力的に講演活動を行い、戦争の現実を訴えつづける。2009年3月逝去。

「2010年 『「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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