暁の旅人 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062761390

作品紹介・あらすじ

日本の近代医学はこの男から始まった!

幕末の長崎、オランダの医官ポンぺから実証的な西洋医学を、日本人として初めて学んだ松本良順。幕府の西洋医学所頭取を務め、新撰組に屯所の改築を勧め、会津藩で戦傷者の治療を指南、さらに榎本武揚に蝦夷行きを誘われる。幕末、そして維新の波にもまれながらも、信念を貫いた医家を描く感動の歴史長編。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末から明治初期に活躍した医師、松本良順を描いた歴史小説(解説によれば、より史実に忠実な゛史伝゛とのこと)。

    良順は、「洋医学の大家佐藤泰然の子として生れ、幕府奥医師松本良甫の婿養子となり、幕府の医官として長崎に遊学し、オランダ医師ポンペについて西洋医学を身につけた。江戸に戻って医学所頭取となり、幕府崩壊を眼にして奥州に脱出し、いずれも幕府への忠誠をくずさぬ会津、庄内両藩のもとで戦傷者につくした。」その後、榎本釜次郎から北海道行きを乞われるが、土方歳三の勧めで横浜に戻り、新政府に捕えられ蟄居させられたものの赦免され、日本初となる洋式病院を開業、その後は山形狂介(有朋)に乞われ陸軍軍医総監として新政府にも尽くした。

    淡々とした筆致で良順の人となりや功績をコンパクトかつ地味に語る本書には、「胡蝶の夢」とはまたひと味違った良さがあると思った。

    また、井伊直弼が、長崎に派遣された良順を気遣っていたことは、ちょっとした発見だった(「これに対して井伊は、良順が伝修生として医術を修業するのは、決して法をおかすものではなく、幕府からの留学費の支給を中断してはならぬと内々に指示していた」という)。井伊直弼の(悪者のイメージとは違う)先進的で合理的な人となりが伺える気がした。

    本書は、「評伝関寛斎―1830―1912―極寒の地に一身を捧げた老医―」を読んでみたくて(現在図書館で予約中)、その関連で手に取った書だったが、関寛斎については残念ながら一瞬名前が登場しただけだった。

  •  医師・松本良順を扱った司馬遼太郎氏の「胡蝶の夢」を読んでいたので、ずっと気になっていた本だった。
     司馬遼太郎氏のような、人格を浮きださせるような描写はないものの、蘭方医が必然不可欠になっていくのが判る。開国に向かうにつれ、日本でコレラが流行り、対処効果が見られたのは蘭方であり、天然痘にも種痘が効果的となっていく。 
     この時代の流れは凄い。さらに松本良順の魅力は時代に乗るのでなく、本人に備わった能力から、時代が取り残さなかった、”暁”という存在出している。
     幕末から明治になる中、戊辰戦争側について、会津藩、仙台藩へと進み、横浜へ戻っての投獄。才覚と実績あればこそ、日本初の私立病院の設立、初の軍医組織の編成と軍医頭にと、世に埋もれずに再び表舞台へと出てくる。
     牛乳普及も良順だったのかと、驚いた。

     ドクロのエピソードは、家茂崩御の口止めにオランダ医官ボードウィンに渡した(吉村昭)のか、江戸を脱出する時に医学所に置いてきたものを関寛斎が保管していた{司馬遼太郎)のか、前者は、良順らしい交渉術がでていて、後者は現実的な創造に思えた。

  • "☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA86881414

  • 昨日、吉村昭の「暁の旅人」を一気に読みました。
    このテンポの良さは何だろう!
    会話文が極端に少ないせいかもしれません。
    話は幕末時代の幕臣医師・松本良順の生涯です。
    幕府から派遣され、長崎でオランダの医師ポンペから本格的な近代的西洋医術を教わります。
    そのためには当時としては大変珍しい刑死した遺体の解剖までおこなっております。
    その後、幕府の西洋医学所頭取、幕府陸軍軍医なり、
    戊辰戦争となり維新をむかえ、一時投獄されます。
    彼の豊富な医学知識と技術をおしんだ山県有朋らは
    新政府の初代軍医総監としてむかえております。
    この様に書くと彼は英雄の様に思われそうですが、
    吉村の筆は実子を失った不幸、近藤勇、土方歳三らを失い、
    晩年を寂しくむかえた所まで書いております。

    司馬遼太郎のように、フィクションを織り交ぜながら、
    主人公を英雄のように仕立ててゆくといった歴史小説ではなく、
    史実小説作家吉村は幕末から維新にかけて医師としてひたむきに生きた一人の医師の生涯を綴っております。

    最後に、ウィキペディアから得た情報を紹介しましょう。
    松本良順らが長崎で研究施設使っていた所には、
    日本近代医学発祥の地として現在長崎大学医学部があり、
    その中に良順会館も建てられております。
    そして、当大学ではあのオランダ医師ポンペの言葉
    「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もしそれを好まぬなら,他の職業を選ぶがよい」を建学の基本理念しているそうです。

  • 幕末の医師・松本良順。
    司馬遼太郎の『胡蝶の夢』が好きで、吉村昭氏の小説も好きで読んだ。
    司馬氏の場合、言わずもがな、長編なので、様々な主人公が奮起しどのように近代医療を輸入したか、激動のこの時代をどのように生きたのかが具に表現されていた。
    一方、吉村氏のこの作品は、淡々とではあるが、松本良順が、その仲間や親族たちとどの時期の時点でどう行動し活躍したのかをくまなく述べている。

    どちらも読んだからこそ、どちらの良さも実感。

    だからこそ、感銘を受けた小説こそ解説までも楽しみなのに、解説には少々ガッカリ。
    本作とあとがきだけで十分。

  • 我々日本人が牛乳を飲むようになったのはこの方のお陰!
    「ふぁんしいほるとの娘」を読んだらコレも読んで欲しい。

  • 20210618

  • 医学の話は、普通の歴史小説とは別ジャンルに感じていましたが、医学もまた西洋からの知識の一つであり、科学者として、道を切り拓いた人たのだと思いました。その点で、いわゆる歴史小説の主人公と何も変わりはないことに気づいたのは発見でした。

  • 幕末の長崎、オランダの医官ポンペから実証的な西洋医学を、日本人として初めて学んだ松本良順。幕府の西洋医学所頭取を務め、新選組に屯所の改築を勧め、会津藩で戦傷者の治療を指南、さらに榎本武揚に蝦夷行きを誘われる。幕末、そして維新の波にもまれながらも、信念を貫いた医家を描く感動の歴史長編。(親本は2005年刊、2008年文庫化)

    吉村昭、最晩年の作品。史伝小説のせいか、淡々としている。
    この本の良順にはイマイチ、共感を感じない。読んでいて、つまらないということではないが、水を飲んでいるような感じがして、コクとか旨味とか手応えを感じない。あるいは、良い酒は水に近くなるということなのだろうか。史伝小説家として著名な吉村氏ではあるが、肩透かしを喰らった気がした。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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