ニッポン エロ・グロ・ナンセンス 昭和モダン歌謡の光と影 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062586405

作品紹介・あらすじ

「昭和初期は暗い時代だった」というイメージには根強いものがあります。
 ただ、戦前期の日本を暗黒だったと言いきれるかというと、そうでもありません。時代はつねに多面的で翳があれば光もあります。
 昭和初期はエロ・グロ・ナンセンス時代とのちに言われるようになります。出版界や新聞紙面のエロの跋扈は、厳しい思想弾圧によって国民に不満や圧政感が溜まらないようにするためのガス抜きではないか、との観測は当時からあったにせよ、芥川龍之介の謂う「ぼんやりした不安」を裏返しにした刹那的な享楽主義を軍縮とリベラル思想が後押しして、時代は暗黒どころか軽佻浮薄をきわめたのです。
 無責任にもほどがあるエロとジャズとゴシップの垂れ流し状態は誰にも手がつけられません。新聞もラジオもあわよくば享楽的な方向に流れよう流れようとする。そうした世相を写した流行小唄や映画主題歌が雲霞のごとく出現しました。

エロで生れてエロ育ち
私しゃ断然エロ娘

 こんな歌が平然と歌われていたのです。主義や思想に敏感な学生を息子にもつ親もまた「テロよりはエロ」「赤色に染まるなら桃色のほうがマシ」などと言い出す始末。閉塞感のなかで必要以上にクローズアップされた“エロ”という概念があらゆる分野に浸透する……。
 そもそもはやり唄とはどの時代にあっても世相を写すものですから、それはけっして珍しい現象ではないといえます。ただ、昭和初期がユニークなのは、その内容がエロに特化し、一時はレコード歌謡がエロ一色に塗り立てられたことにあります。
 エロ・グロ・ナンセンス時代に大量に作られ消費されたエロ歌謡群は、いつしか忘却の底に沈みました。まさに日本歌謡史におけるミッシング・リンクといってよいでしょう。それらを拾い上げ、つなぎあわせ、戦前の日本人が感じたエロを、その誕生から滅亡までたどってみる……。それが本書の目論見です。

感想・レビュー・書評

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  •  エロ歌謡を主に取り上げる。1920年代末のモボ、○○ガール歌謡を経て、30年代初頭のエロ歌謡ブーム。現代から見ても歌詞はかなり際どく、また歌の数はすさまじい。本文と歌詞の引用と合わせ、本書全体で「エロ」の語がいくつ出てくるのだろう。淡谷のり子、西條八十やサトウ・ハチローの名もあることから、マイナーな存在ではなかったのだろう。この時期、大手紙にもエロの語を含む記事や広告が多い。
     歌謡以外に、カフェーへの言及もある。銀座のカフェーはフランス趣味だったが、大阪カフェーの進出で、大阪式エロに取って代わられる。東京朝日新聞が「大阪エロ娘はエロ工場での熟練工」と報じている。
     しかし1932年にはエロ歌謡ブームは失速し、爆弾三勇士を題材にするなどエロから軍歌へとブームは転換する。こちらはこちらで、その娯楽性や大衆性は意外だ。
     また著者は、戦後では特にサザンや椎名林檎に、かつてのエロ歌謡との共通性を見ている。

  • 歴史

  • 副題を見落とした自分が悪いのですが、
    日本の「エロ・グロ・ナンセンス」について、もっと
    幅広く書いていると思ったので、期待はずれだった。
    それにしても「エロ・グロ・ナンセンス」っていうより、
    ほぼエロでしかない。
    「昭和のエロ歌謡」に興味がある人には面白いのだと思います。

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著者プロフィール

1972 年生まれ。音楽評論家・レコード史家。
 著作に『貴志康一 永遠の青年音楽家』(国書刊行会 2006)、『ニッポン・スウィングタイム』(講談社 2010)、『沙漠に日が落ちて 二村定一伝』(講談社 2012)、『ニッポン エロ・グロ・ナンセンス 昭和モダン歌謡の光と影』(講談社 2016)、共著に『モダン心斎橋コレクション』(国書刊行会 2005)、『大大阪イメージ』(創元社 2007)、『浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代』(森話社 2017)等がある。
2019年10月、ボン大学に於いてSPレコードの分類活用に関するワークショップと講演を行なう。2022年4月現在、ボン大学・片岡プロジェクト及び早稲田大学演劇博物館の招聘研究員。ビクター・エンタテインメントやインディーズレーベル「ぐらもくらぶ」でSP 盤復刻CD の音源提供・監修を手がけるほか、テレビ番組のリサーチャー、蓄音機を用いたコンサート・講座を行なっている。

「2022年 『SPレコード入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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