怪物的思考 近代思想の転覆者ディドロ (講談社選書メチエ)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062586221

作品紹介・あらすじ

「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」──この著名な一文を記したのは、テオドール・アドルノ(1903-69年)である。そのアドルノが第二次大戦直後にマックス・ホルクハイマー(1895-1973年)との共著で刊行した書物の表題が『啓蒙の弁証法』(1947年)だったことは、よく知られている。
この書物の表題に「啓蒙」の語が含まれていることがもつ意味は、今日ますます重くのしかかってきている。実証主義に基づいて自然を理解し、合理的思考に基づく技術で自然を支配できると考え、人間の理性を絶対視する思考。それこそが「啓蒙」と呼ばれてきたものだが、まさにその「啓蒙」の結果、人間は大量殺戮を可能にする兵器を生み、みずから統制できない危険をもたらす技術を生んできた。
アドルノとホルクハイマーが糾弾したこの事実は、しかし、まさに「啓蒙」思想の全盛期である18世紀フランスを代表する人物によって、はっきりと、そして過激に示されていた。その人物こそ、『百科全書』を編集したことで知られる啓蒙思想を代表する巨人ドニ・ディドロ(1713-84年)にほかならない。本書は、その事実を明らかにし、西欧の近代思想に対して抱かれているイメージを根底から覆すことを企図した、きわめて野心的な1冊である。
この課題のために、著者はディドロの代表作『自然の解明に関する断想』(1753年)を精緻に読解する。具体的な文章の向こう側に先達の、あるいは同時代の思想との関係を読み解く。あるいは、具体的な表現に込められた意図をディドロ自身の他の作品を参照しながら解明する。「法則/例外」、「基準/逸脱」、「正常/異常」といった区別を無効にする「怪物的思考」のスリリングさを体感させてくれる本書は、私たちの思考がとらわれている常識を心地よく転覆することだろう。
その読解の果てに広がっているのは、実証主義や合理主義がもたらす危険や弊害から目をそらせなくなっている現在、真に必要な「新しい思考」にほかならない。

著者プロフィール

田口卓臣(たぐち・たくみ) 1973年、神奈川県生まれ。宇都宮大学国際学部准教授。東京大学人文社会系研究科博士後期課程修了。博士(文学)。著書に『ディドロ 限界の思考――小説に関する試論』(風間書房、2009年)、『怪物的思考――近代思想の転覆者ディドロ』(講談社、2016年)。編著に、『世界を見るための38講』(下野新聞新書、2014年)。訳書に、ドニ・ディドロ『運命論者ジャックとその主人』(王寺賢太との共訳、白水社、2006年)。

「2016年 『脱原発の哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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