- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062586023
作品紹介・あらすじ
共和政期以来、七〇〇年にわたり、ローマ帝国を支えてきた元老院。
しかし、軍事情勢が悪化し、貧富の差が拡大した三世紀以降、
支配権はバルカン半島出身で下層民からのぼりつめた軍人皇帝の手に移る。
アウレリアヌス帝、ディオクレティアヌス帝、コンスタンティヌス帝など、
じつに七七人中二四人が、バルカン半島出身の軍人皇帝である。
ローマ文明を担うエリートの元老院の失墜と武人支配への変化を描き、
ローマ帝国衰亡の世界史的意味をとらえなおす。
感想・レビュー・書評
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ローマ文明が国と共に滅亡したのは、その担い手たる文人貴族に脆弱性があったからとする。文人貴族が武人支配に敗退したのはなぜか? その脆弱性を時に国が滅んでも文明としては存続した中国と比較しながら解き明かしていく。軍人皇帝時代以降のローマ帝国で中国のように軍人貴族が文人化しなかったのはなぜか? 文人貴族はなぜ富の都市への還元をやめてしまったのか? そうしたことがどのようにローマ文明の滅亡に影響したのか? 軍人皇帝時代のローマ史入門となる一冊。
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同著者の「軍人皇帝時代の研究」の発展編とも言える内容。イリュリア人皇帝の分析から、元老院の質的変化も追いつつ、帝国の衰亡要因の考察までが語られている。中国史との共通項とその違いについての記述は興味深かった。
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(後で書きます。参考文献リストあり。中国との比較)
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軍人皇帝時代に焦点を当てたローマ帝国(文明)衰亡論。
衰亡の原因を元老院貴族から軍人への支配層の変化に求めた一冊。
五賢帝時代までに政治的支配層である元老院身分の制度化に伴い文人化が加速した一方、領土拡大に伴う外圧・内乱の可能性は帝国全土に広まった。
その中で軍事経験に乏しい元老院身分に代わって、たたき上げの軍人が帝位に就き、かつ高い軍事能力の持ち主が抜擢され、ポストを得られるように変わっていったのが軍人皇帝時代であった。
外圧はこれにより凌いだものの、軍事力こそ権力の源泉という構図が明確になり、帝位の簒奪・僭称が頻発。帝国の分裂傾向が加速することになる。
その混乱のなかでローマは決定的な分裂、滅亡への道をたどっていくこととなる。
著者の視点のユニークなところは、ここで中国の歴史と比較することである。
中国では後漢末の混乱期以来、ローマ同様、文人に成り代わり武人が政権を担う時代が続いた(魏晋南北朝時代)。
ところが、中国では武人が政権をとっても、支配者層は依然として文人層が占めており、政権をとった軍人王朝の人間も、政権を安定させる過程で文人化するのが常であった。(北魏の孝文帝ほか)
この差異が、中国は統一王朝が滅びても中国文明は連綿と続いたのに対して、ローマ文明は帝国滅亡後、文明が承継されなかった要因と、著者は見る。
では何故、ローマでは政権をとった軍人が文人に同化されなかったのか?
著者は元老院貴族との物理的な距離(ローマ市と帝国全土)、婚姻関係が無かったこと、また当時世間一般に広まっていた元老院階級への嫌悪感をその理由に挙げる。
この末尾部分の主張はやや弱く感じたものの、筋は通っている。
全体に、軍人皇帝時代というあまり脚光を浴びない時代の概説書として貴重であること、かつその政治支配構造の移り変わり、五賢帝時代から末期ローマ帝国への変遷が分かりやすいこと、
それに加えて、中国文明との対比などユニークな視点が盛り込まれていることなど、
少し文章が冗長なのを差し引いても、十分に刺激的で面白い一冊だったと思う。