武器としての<言葉政治> (講談社選書メチエ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062583435

作品紹介・あらすじ

利益分配が不可能な現代、民主主義を動かす要因は「議員の数」から「国民の支持率」へ劇的に変わった。その変化を前に、首相たちはいかにして「言葉」で国民の意識を変え、支持を動員してきたのか。「言葉の政治力」の重要性を初めて具体的に明かし、新しい政治手法の可能性と本質を摘出する。

感想・レビュー・書評

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  • 政治家の言葉は重く、「綸言汗の如し」と例えられるという。
    歴代首相の演説などを資料に、言葉の修辞を駆使して国民の信任を得るところまでたどり着いた小泉政治までの軌跡をみる。
    いまや「不利益分配」となってしまった政治が、「言葉」の力により国民の理解を得られるのか。今後も興味深いところです。

  • 政治家と言葉の関係が議論になって久しい。そして、奇しくも時の首相が所信表明演説を行う期間にこの本を読んだことは、今後、政治家の言葉にさらに注意を向けようと思うきっかけとなった。

    戦後の歴代首相の言葉を、国会答弁や演説などで丹念に追う前半はやや出し惜しみ感を感じた。明瞭に〈言葉政治〉の輪郭を示してもらえるのが、成功例の分析を行っている中盤あたりからとなる。そこまで待ち望んで読んでいくと、同時に著者の主張も明確に把握できるようになる。

    最終部の記述を読んだ上で、平成政治を思い返すとき、まるで平成末期〜令和初頭の顛末が予言されていたかのような錯覚を覚えるのは私だけではないはずだ。

    最後に、上述の記述の趣旨とは異なるが、心に残ったフレーズを。
    「シニカルであることは、クリティカルであることとは違う。」186ページ

    政治との向き合い方、そして、政治家の言葉との付き合い方を考えさせられる一冊となった。

  •  先日読んだ『不利益分配社会』が面白かったので、同じ著者の旧著を読んでみた。

     副題からわかるとおり、本書と『不利益分配社会』では扱うテーマが重なっている。ただ、本書は「不利益分配社会」そのものより、その社会にふさわしい政治手法である〈言葉政治〉のほうにウエートを置いているのだ。

     というわけで本書でも、『不利益分配社会』同様、小泉純一郎の政治手法の分析にかなりの紙数が割かれている。『不利益分配社会』を先に読んだ私は、そのへんはナナメに読み飛ばす(著者の主張は当然同じなのだから)。

     本書の3分の2ほどを占める「第一部」で、著者は戦後の歴代首相(吉田茂から小泉まで)の〈言葉政治〉能力を「査定」している。

     ここでいう〈言葉政治〉能力とは、たんに演説がうまいとか、話す内容が論理的だということではない。言葉の力を、国民の意識を変え、自身の政治目的達成の武器とする能力のことだ。

     歴代首相のうち、著者が〈言葉政治〉能力を高く評価するのは、小泉純一郎と中曽根康弘の2人である。
     というと、小泉と中曽根がキライな人は読む気を失うかもしれないが、著者にはとくに思想的な偏りはないので、政治に関心の高い人には食わず嫌いせずに読むことをオススメする。

     とくに面白いのは、著者が細川護煕と橋本龍太郎の〈言葉政治〉能力に辛い評価をつけ、“小泉と比較して2人はどこがダメだったのか?”を分析していくくだり。

     一般に、細川と橋龍は小泉に近いイメージでとらえられているだろう。細川は小泉的なパフォーマンス政治のハシリといえるし、橋龍は首相時代、小泉同様に“痛みを伴う構造改革”の必要性を強く訴えた。また、2人とも見た目のカッコよさに恵まれ、一時期までは国民的人気を博した。

     だが著者は、細川と橋龍には〈言葉政治〉能力が決定的に欠けていた、と結論づける。2人とも、国民を鼓舞する強い言葉を発しなかった、と……。

     首相時代の橋龍の演説を分析して、著者は次のように言う。

    《橋本の演説は、突きつめると自分の目標の提示と自分が全力を尽くすとの宣言に終わっている。そこには、小泉のような聴衆を巻き込もうという呼びかけは見られない。》

    《〈言葉政治〉に無理解な人は、世論の支持など、かっこいい政治家がもっともな理屈を語れば簡単に得られると思っている。たしかに、顔と頭のよさは、ないよりあったほうがよい。だが、橋本を見てわかるように、この二つだけでは国民の心を政治的に引きつけるには不充分である。正確にいえば、風貌と知性と政策立案能力と党内基盤のすべてが揃っても、橋本にはまだ足りないものがあった。国民を鼓舞する言葉である。》

     また、細川については、見栄えのする「パフォーマンス」(記者会見のときにペンで記者を指すような)だけがあって、「言葉による自己アピール」は乏しく、〈言葉政治〉能力は意外に低かった、と分析。そのうえで、次のように言う。

    《政治的パフォーマンスについては誤解も多い。パフォーマンスさえうまければ政治リーダーとして有能であるというのも錯覚であるし、パフォーマンスに走る政治家はしょせん中身がないと決めつけるのも極論である。
     細川のケースから考えると、政治的パフォーマンスは、〈言葉政治〉の一環である場合にのみ、本当の有効性を発揮するといってよい。言葉で表現すべき政治的メッセージの一部がパフォーマンスによって代替されている場合はよいが、伝えるべきメッセージをもたないパフォーマンスはたんなる自己陶酔にすぎないからである。》

     不利益分配時代の政治リーダー(とくに首相)のあるべき姿について説得的な議論を展開し、示唆に富む好著。

     東大教授の田中明彦は、2000年に本書の類書ともいうべき『ワード・ポリティクス』を上梓し、「ワード・ポリティクス」という造語に「言力政治」という訳をあてた。
     外交における言葉の重要性をおもに論じた『ワード・ポリティクス』に比べ、本書は首相の能力という身近なテーマを扱っているだけに、いっそうわかりやすく面白い。

  • 勉強になった。
    小泉、中曽根的政治対話手法。
    技術論だが。

  • [ 内容 ]
    利益分配が不可能な現代、民主主義を動かす要因は「議員の数」から「国民の支持率」へ劇的に変わった。
    その変化を前に、首相たちはいかにして「言葉」で国民の意識を変え、支持を動員してきたのか。
    「言葉の政治力」の重要性を初めて具体的に明かし、新しい政治手法の可能性と本質を摘出する。

    [ 目次 ]
    第1部 「言葉政治」能力から見た歴代首相の評価(「言葉政治」の諸類型;「言葉政治」の時代区分;稚拙・未熟な「言葉政治」;「言葉政治」の衝撃)
    第2部 不利益分配時代を動かす「小泉型政治手法」(「小泉型政治手法」の有効性;「小泉型政治手法」の陥穽)

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著者プロフィール

(たかせ・じゅんいち)
1958年東京生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業、
同大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。
現在、名古屋外国語大学現代国際学部・大学院国際コミュニケーション研究科教授。
早稲田大学政治経済学部・商学部・社会科学部講師。
著書に『武器としての〈言葉政治〉?不利益分配時代の政治手法』(講談社選書メチエ)、
『情報と政治』(新評論)、
『サミット』(芦書房)など。

「2005年 『情報政治学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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