脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ (ブルーバックス)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062579643

作品紹介・あらすじ

自閉症と診断される人の割合は、40年前には5000人に1人でしたが、2014年には68人に1人と、約70倍に増えています。
「アスペルガー」「大人の発達障害」という言葉もよく話題にのぼるようになり、いまや自閉症はごく身近な障害といえます。
しかし、自閉症にはいまだに多くの誤解や偏見がつきまとっています。
「親の育て方が悪いと自閉症になる」「親が自閉症だと子も自閉症になる」「三種混合ワクチンを接種すると自閉症になる」……これらは明らかな間違いであり、誤りの原因は、
自閉症という障害がなぜ起こるかが知られていないことにあります。
自閉症は、脳ができあがるまでのほんのちょっとした「バグ」で起きます。
脳ができあがるプロセスは複雑をきわめていて、無数の「罠」に満ちています。実は誰の脳にもバグがあり、
「完璧な脳」など、どこにも存在しないのです。では、どんなバグが自閉症になるのか?
第一線の研究者が最新の研究成果をもとに、やさしく解き明かします。

目次
第1章 自閉症とは何か
第2章 脳はどのように発生発達するのか
第3章 ここまでわかった脳と自閉症の関係
第4章 自閉症を解き明かすための動物実験
第5章 自閉症を起こす遺伝子はあるのか
第6章 増加する自閉症にいかに対処するか

感想・レビュー・書評

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  • なんとなく、よくわからない自閉症を、

    「器質的な原因」で

    「機能的な疾患」が出ていることを

    わかりやすく、説明した一冊。

    遺伝的要因、遺伝子の劣化による原因、発生時の原因など、各ステージに合わせた原因追及をしている。

    正しい理解をすることができた。

  • 自分の子供に軽い発達障害が有るので、興味を感じて読んでみた。
    肝心の脳を直接、細密に検査する機会が中々得られない為に、医学・医療機器の進歩程には進んでいない現状は有るものの、素人から見れば様々な知見が得られていることを知る機会となる本。
    自分は男だが、男性の晩婚化による自閉症発生リスクが高い(理論的にも理解・納得できる説明がある)という点は、"ああ、そうなのかー!"と思わされた。
    難解な生化学の説明部分も多いが、要点だけ読もうと割り切れば読める。
    いろいろと考えさせられる、ある意味では"重い"本だが、読んで良かった。

  • 自閉症は「発達障害」の1つであり、近年、増加傾向があるという。
    精神疾患はとかく「わかりにくい」イメージがあるが、その「わかりにくさ」にはおそらく、いくつかの原因がある。
    1つは、症状が目に見えず、また数値でも表しにくい点。癌や脳卒中であれば、腫瘍や病変部分がある。高血圧や糖尿病などには、血圧や血糖値など、設定された基準値を外れていれば治療が必要とされる目安となる、測定値がある。心の病の場合、チェック項目があるが、診断者(医師)の主観はどうしても入ってくる。
    それから、前の項目とも関わってくるが、「正常」と「異常」、「健康」と「疾患」の間に明確な線が引きにくい点。何となく困難を抱えているが、しかしはっきり精神疾患と言えるほどでもない、精神疾患的な「気質」「傾向」がある。いわゆるグレーゾーンである。極端なことを言えば、誰もがどこかしらに傷を抱える。完璧に異常がない精神は存在しない。身体でももちろんそうではあるのだが、精神の方がより「見えにくい」「線を引きにくい」感がある。
    そしてまた、多くの場合、精神疾患は複数のものが重なる。自閉症とてんかん、鬱病と統合失調症、あるいは、自閉症に不安障害に強迫性障害といったように、複数の精神疾患を抱える人は決して少なくない。

    こうして考えてみると、精神疾患の「わかりにくさ」は、見えてくるのが主に「症状」の部分で、「原因」の部分が見えにくいことによるのではないかと思えてくる。
    足をすりむいたからその傷が痛い、血栓ができたから血流が滞った、というようにはっきり目に見える部分が少ないのだ。
    では精神疾患の「原因」はどこか、といえば、もちろん、脳である。
    脳で何が起きているのか、疾患(本書の場合は自閉症)が起こるのは、脳のどのような現象が原因なのか、発症の根底に何があるのか。現時点でどこまでわかっていて、どこからわかっていないのかを、脳発生の見地から解説するのが本書の目的である。
    著者は、歯学部から、顔面発生学を通じて神経発生を専攻とするようになったそうである。本題に加えて、このあたりの研究遍歴も興味深い。
    全体として、ブルーバックスらしく、非常にわかりやすい1冊である。

    発達障害に関わるリスク要因は、脳の発生に合わせて、いくつか挙げられる。
    神経の単位であるニューロンの産生。その配線。ニューロンとニューロンの連絡部分に当たるシナプスの形成。神経形成の際に補助や調整を司るグリア細胞。過剰なまたは不要なシナプスを刈り取る工程など。
    脳の発達に関する基礎研究が進むにつれ、こうした各段階の詳細が判明してくる。
    それとともに、自閉症などの発達障害は、それぞれの段階の不具合や不備から生じている場合があることがわかってきている。複数の段階で不備がある場合もあり、不備の程度もさまざまである。
    単純にここに不備があるとわかったからといって、薬物等で対処して直ちに改善されるというものではないが、解きほぐす手がかりが掴めるようになってきたのは大きい。
    神経細胞同士の連絡は、興奮と抑制によって制御されるが、自閉症でよく見られる「常同行動」(同じ行動をずっと続ける)は、抑制部分が働いていないことを示唆する症状と考えられる。細胞レベルで何が起こっているかがわかってくると、薬剤開発などの糸口になる可能性もある。

    脳発生を知る上で役立つ遺伝学の基礎知識も平易に説き起こされている。
    「冷たい母親」に育てられると自閉症となる、ワクチンで自閉症になる、といった、自閉症に関する「誤った神話」が明確に否定されている点も、有益な情報だろう。

    著者の拠点は東北である。大震災の後、本書が上梓されるまでの経緯を述べたあとがきも読み応えがある。

    自閉症に関する一般向けの書籍は数多いと思われるが、基礎生物学寄りの最先端の研究も盛り込んだ本はおそらくそう多くはない。
    研究の前線に触れつつ、自閉症への理解を深める点で、格好の入門書である。

  • 多くの偏見の中にある(私にもありました)自閉症について、生物研究の先端の動向を織り交ぜて解説されており、私の古い遺伝研究のイメージが大きく刷新され、膝を打つ部分がたくさんありました。ちょっとセンチメンタルですが、中高生の頃、ブルーバックスをたくさん読んでいた時の感触がよみがえるような感じをもちました。

  • 内容紹介
    自閉症と診断される人の割合は、40年前には5000人に1人でしたが、2014年には68人に1人と、約70倍に増えています。
    「アスペルガー」「大人の発達障害」という言葉もよく話題にのぼるようになり、いまや自閉症はごく身近な障害といえます。
    しかし、自閉症にはいまだに多くの誤解や偏見がつきまとっています。
    「親の育て方が悪いと自閉症になる」「親が自閉症だと子も自閉症になる」「三種混合ワクチンを接種すると自閉症になる」……これらは明らかな間違いであり、誤りの原因は、
    自閉症という障害がなぜ起こるかが知られていないことにあります。
    自閉症は、脳ができあがるまでのほんのちょっとした「バグ」で起きます。
    脳ができあがるプロセスは複雑をきわめていて、無数の「罠」に満ちています。実は誰の脳にもバグがあり、
    「完璧な脳」など、どこにも存在しないのです。では、どんなバグが自閉症になるのか?
    第一線の研究者が最新の研究成果をもとに、やさしく解き明かします。

    目次
    第1章 自閉症とは何か
    第2章 脳はどのように発生発達するのか
    第3章 ここまでわかった脳と自閉症の関係
    第4章 自閉症を解き明かすための動物実験
    第5章 自閉症を起こす遺伝子はあるのか
    第6章 増加する自閉症にいかに対処するか

    著者について
    大隅 典子
    神奈川県出身。1985年東京医科歯科大学歯学部卒業。1989年同大学大学院歯学研究科修了。東京医科歯科大学歯学部助手を経て1996年国立精神・神経センター神経研究所室長、1998年東北大学大学院医学系研究科教授。2006年東北大学総長特別補佐(男女共同参画担当)。2008年から2010年、東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサー。
    日本分子生物学会理事長。専門は神経生物学(神経発生学・発生発達神経科学)。脳の発生・発達の観点から人間の心のなりたちを理解しようとする研究を展開し、特に精神疾患にまつわる問題への関心が高い。

  • 不要

  • タイトルには「脳」と謳ってあるけれど、実際はその中の「遺伝子」が本書の中軸。つまり自閉症における遺伝子の影響は如何なるものかと言うことなのだけれど…。なにせ、著者が「かなり長くなりましたが、これでやっと自閉症と遺伝子の関係を見ていくための準備運動は完了です。」と記すのは245ページ中の193ページ目なのだ。で、本編はほんの数小節、しかもサビの部分である自閉症が増えている理由として挙げられているのは、遺伝子というより、母体環境だの父親の加齢だのといったあまり「遺伝」とはカンケーない要因(しかもほんの数ページ)なんだかなぁ…下手くそな前座の小咄を延々聞かされて、肝心の真打は風邪を理由にすぐに引っ込んじゃった、って感じ。ガマンして聞いてたのに足が痺れただけだった…。

  • 自閉症の正式名称は自閉症スペクトラム障害であり、発達障害(正式には主に胎児期における"神経発生発達障害")の一種である。自閉症の発案者である精神科医ブロイラーは、"自閉"の意味として「自分以外の他者・外界の一切を排除しているかのような患者の状態」とし、ギリシャ語の自己(Autos)を引用して名付けた。
    自閉症のコア症状は、①社会性の異常(人への認識・興味が薄い、他者の心の状態を推測しにくい)、②常同行動(興味の限定)、③感覚・運動の異常(音に敏感など)である。患者本人にとっては③が最も苦痛とされ、外界の正常な認識や積極的な接触を妨げる原因となっている。
    (神経発生)発達障害の一種である自閉症は、胎児期の神経発達プロセスのエラーが原因であり、通常、ご両親は我が子が3~5歳頃に気が付つ先天的なものである。つまり、自閉症は親の"育て方"により生じるものではない。著者は脳科学者であり、脳の発生学的知見(器質的なデータ)から自閉症等の原因究明にアプローチする。余談であるが、健常者が罹患する鬱病や統合失調症などは後天的な精神疾患であるが、器質的原因については自閉症とも共通する部分もあるかと思われる。自閉症は、先天的原因(遺伝子変異や脳発生プロセスのエラー)の観点では急激に増える障害ではないが、実際、自閉症認定される患者数は増加傾向にある。1975年の自閉症患者は5000人に一人だったのが、2014年には68人に一人にまで増加している。この背景として社会環境の変化が挙げられ、具体例として①診断基準の変化(自閉症の疾患概念が拡大)、②自閉症が社会に認知され受診者増加に寄与、③対人関係が重視される第3次産業の割合が上昇、④発達障害に対する社会支援の拡充(2004年の発達障害支援法の制定)などが考えられる。
    著者によれば、胎児期の神経発生プロセスは複雑であり、健常者だからといって全くエラーがないわけではない。問題は、エラーの程度と本人周囲の受け取り方による。それを個性と呼ぶか障害と呼ぶかは、本人(や周囲の人)が苦痛を感じるか否かで決まる。第一に本人が、症状に対して苦痛ではなくむしろ満足を感じるならば"個性"と言えよう。
    著者の専門である脳の発達メカニズム(と遺伝子の話)には多くの紙面が割かれている。哺乳類の脳が他の脊椎動物と比較して大型化する理由として、インサイドアウト型のニューロジェネシスであることを挙げており、同時に神経発達の複雑化も伺い知れる。一般に医学的な障害の分類方法は、顕微鏡等の観察により得られる客観的な原因、つまり、健常者との身体的(細胞レベル)な違いが明白な"器質的な障害"と、器質的には健常者と大差ない"機能的な障害"に分けられる。ただし、この分け方はその時代の解析能力に依存する。先端分析技術であるfMRIやPETなどにより、従来は機能的な障害とされた精神疾患に対して脳における器質的な障害として捉えられるデータが蓄積しつつある。例えば、統合失調症患者では、ニューロンの電気信号の漏電を防いで通信速度を飛躍的に高めるミエリン鞘と呼ばれる、絶縁体(電線を覆うゴム膜のような)構造が減っていることが指摘される。ミエリン鞘が減るとは、パソコンの基盤に水がかかったような状態で計算させるようなもので、思考スピードが遅くなり、時系列の整理や思考の統合もままらない。もちろんドーパミンなど神経伝達物質の過剰分泌などミエリン鞘の減少のみを原因とするわけではないが、器質的に調べられるとそれを正常化させる薬の開発につなげられる。
    脳科学者である著者は、自閉症の解決策として最終的には器質的な原因、つまり、脳の発生プロセスのエラーを引き起こす遺伝子の特定とその機能の解明がひとまずの目標となる。本書でも、パックス6と呼ばれる神経発生制御遺伝子と自閉症の関係性について言及されている。最近の研究では、ゲノム情報は同じであっても、実際に保有する遺伝子が適切に働くかどうかによって現れる状態が変化する…というエピジェネティクスの考え方に注目が集まっている。つまり、何か特別な身体的特徴やスキルを手に入れるためには遺伝子自体の変異は必ずしも必要とせず、もともと持っている遺伝子を単に長く働かせたり、全く働かせないようにすれば環境適応できる個体が生じうるということだ。キリンの首は長いが、遺伝子自体が変化したのか、遺伝子は変化せずに働かせる方法が変化しただけなのか。いずれにせよ環境変化はストレスの負荷が大きく、そうしたストレスが遺伝子のオンオフに関与したのでは…と想像する。このオンオフ切り替えのほうが世代交代を必要とする遺伝子変異よりも環境適応の即時性は高い。遺伝子のスイッチのオンオフはDNAのメチル化やヒストン化学修飾によって引き起こされる。これを人工的に行うことでキリンの首を成長させず短いままにする遺伝子があれば、キリンの進化において遺伝子自体の変化は必要なかった(実際はどうかわからないが)…と言えるのではなかろうか。

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著者プロフィール

東北大学

「2021年 『個性学入門 個性創発の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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