- Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062210249
作品紹介・あらすじ
警視庁捜査第一課伝説の刑事・原雄一氏による待望の手記。
1995年3月30日朝、東京・荒川区において、國松孝次警察庁長官が何者かに狙撃された。警視庁は、当時の社会情勢等から、オウム真理教団による組織的テロと見て、警察の威信をかけた大捜査を展開、2004年に至り、オウム真理教関係者の逮捕にこぎつける。しかし、被疑者らが起訴されることはなく捜査は迷走し、2010年3月、多くの謎を残したまま事件は時効を迎えてしまった。
実は、この捜査の陰で、濃厚な容疑を持つ人物が浮上していた。その人物は民兵組織の結成を目指した「中村泰」。中村の内偵を進めた原氏は、徹底抗戦する中村の取調べを継続し、ついに中村から、警察庁長官を狙撃した自供を引き出す。そして、その供述は、現場の状況に合致して迫真に富み、犯人しか知り得ない内容に満ちていた。原氏が率いる捜査班は、幾多の困難を克服しながら中村の捜査を推し進め、多くの証拠を蓄積していくが、中村が立件されることはなかった。
なぜ、中村の捜査は封印されたのか。警視庁幹部、警察組織、現場捜査員、被疑者、社会情勢等、様々な「宿命」が絡み合い、葬り去られた事件の真相に迫る。
感想・レビュー・書評
-
公表されたこととは別の真実があるという話。当事者の執筆なのでリアリティが半端ない。警察小説との違いは手続きや捜査事実の描写が多めという点。読み物としては心理描写や恋愛感情が入る方が読みやすいのだろう。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1995年に起きた國松孝次警察庁長官狙撃事件。犯人を挙げられないまま、2010年に時効を迎えた。オウム真理教の関与を疑っていた警視庁公安部に対し、捜査一課の刑事・原は「中村泰」なる人物に焦点を当て捜査を進める。自供を引き出し、数多くの証拠を積み上げていく原であったが・・・
NHKスペシャルを見て図書館へ。ここまでの証拠と自供があるのに逮捕しないというのは、腑に落ちない。うがった見方をすると、警察の思惑で犯罪は犯罪ではなくなると思ってしまう。 -
ノンフィクションだけあって面白かったでふ。
-
警察庁長官狙撃事件の捜査に長年たずさわった刑事の本です。
昼夜を問わない苦労に頭が下がります。
私は当時6歳と小さかったことで報道の記憶はありません。
有名で度々特集を組まれることもあり、未解決事件が好き(と言ったら失礼だけれど)知っていました。
知った当時は「限りなく黒に近い人がいるのにどうして逮捕しないんだ?」と不思議に思いました。
今考えると警察トップを撃ったという事実を根拠にオウムを追い詰めたかったのか、一旦決まった方向性を変えられるプライドがなかったのかな、って思ってます。 -
警察庁長官狙撃事件の犯人はこれで確定。
警察組織の、真摯さと低能さの両方をよく伝えている。
もちろん、真摯すぎるほど真摯なのは著者のほうで、人として低能なのは一部の公安上層部である。警察人としても公僕としても完全に失格。
広く世に知らしむべき内容の本である。 -
このようなことがあっていいのかと思った。
中村泰のことは、週刊新潮の記事を読んだ時から、へー、と思っていた。あれから15年も経っていたことを今回知り、そのことが個人的にショックだった。へー、と思っただけで、その後も結局どうなったのか、なんの関心もないまま今日まで来た。
淡々と著者は書いておられるが、「無念」に押しつぶされることはないのだろうか。
この著作で、たくさんの人が真実を知り、真犯人も他の事件ではあるが無期懲役で刑務所にいるわけだから、いいのだろうか。
著者がこのように書物として著される力のある方で良かった。
23年他の事件も扱いながら、第一線でご活躍されたこと、ありがたく思う。
それにしても、こんなことがあっていいのか。私の知らないところで、こんなことはいっぱいあるのだろうな。いやだ。いやだ。
-
オウムによる数々の犯罪を許し、長官銃撃事件を闇に葬った挙句証拠のない団体に罪をなすりつけた公安。
事件を未然に防ぐという本来の職分は果たさず、起こった事件すら解決しない。
何だこの部署。 -
結局、公安警察としては2018年7月に13人の死刑執行によってオウム真理教に対する国家意思を貫徹した。この事件が死刑の構成要件にならなかったとしても。であれば、わざわざ時効時点でオウム真理教の犯罪だと断定発表を行う事の意味が判らない。公安組織の保身故であろうか?
中村泰が最初に警官射殺を行なった時代は武装共産党が方針変更した六全協後に位置する為、まだまだ警察に対する反抗心は健在であった。それが終身刑であっても服役19年で釈放された理由の様に思われる。中村泰の行動は表面的には銀行強盗であるが、奪取した金は偽名旅券による海外渡航やマシンガンを含む銃器蓄積であった。このあたりは70年代始めの赤軍のM作戦と酷似しており、本人も自称革命家と名乗ったりチェ・ゲバラのゲリラ戦を中心にした武装革命に心酔している事から精神の情動としては、武装工作の一環として位置付けていたのだろうと推察する。
ともあれ、時代の裏側を真っ当に生きた稀有な人物と評価する。著者が調査した事実は真実であると確信する。この本を上程する事により(公安警察とは逆の方向ではあるが)、刑事警察の結論を提出したと言えよう。貴重な記録である。 -
OBとはいえ元警察幹部がこのような著作を上梓して大丈夫なんでしょうか、と思うほど衝撃的内容。勿論プロ作家ではないのでノンフィクション作品としての出来はおいて、後世に残る記録作品だと思います。公安捜査ゆえに真犯人の特定とそれに対する刑罰はくだりませんでしたが、客観的事実を後世に残したという記録的価値は十分あると思います。