雪子さんの足音

著者 :
  • 講談社
3.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (130ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062209830

作品紹介・あらすじ

東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。
20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。

人間関係の襞を繊細に描く、著者新境地の傑作!

第158回芥川賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • アパート経営者と住人たちとの密な関係。足音とはそういうことか。

  • 第158回芥川賞候補作。薫が大学時代過ごしたアパートには雪子さんという大家さんがいた。雪子さんが亡くなったと知り、過去のことを思い出す。大学時代の仲間と雪子さん、住人の女性とのこと。雪子さんは下宿人に食事の世話やお小遣いまであげるほど、世話を焼きたがったのだった。
    どうも『大家さんと僕』が終始頭から離れず。全然違う内容だし、トーンも違うんだけれどね。
    雪子さんにも薫にも他住人もあんまりいい感情は抱かなかったけれど(雪子さんの寂しさ等はわからないでもないですが、みんな都合が良すぎではないですかと)、ページの続きが読みたくなる内容だし、雰囲気はうまくまとまっていた印象をです、薫の苛立ち等の心情、さらりと書いてしまうのはうまいんではないかい。

  • ちょこちょこと読んでいた木村紅美作品、今回は芥川賞候補作ということで、期待して読んでみた。
    あらすじ等何も知らずに読んだので、展開がちょっとドロドロになりかかってからの正直な感想は「思ってたんと違う」…だったのだが、軽い不快感を感じながらも一気読みしてしまった。
    学生時代お世話になっていたアパートの大家さん・雪子さんが熱中症で亡くなったことを知り、薫は20年前に交流を持っていた雪子さんのことを思い出して、当時住んでいた高円寺のアパートを訪ねようとする。
    甲斐甲斐しく世話を焼く雪子さんの親切がどんどん重みを増していき、負担だと感じつつも中途半端に利用する薫の狡さ。もう一人の住人の女性・小野田も絡み、歪な三人のバランス…何だろうこのじっとりとした湿っぽさ。立ち回りがイマイチ下手くそな薫に苛立ちを感じるのだけれど…不快と言いながらも三人の関係から目が離せないのである。つい薫も依存してしまうのも少しわかる、フード描写のうまさ。木村さんの他の作品もそうなのだけれど、登場する食事がどれもおいしそうで、読んでいる自分も絡めとられている。
    読み終えてからもう一度冒頭に戻り、ストーリーには描かれていない空白の時間に思いを馳せ、ちょっと切なくなる。好みの分かれる作品だろうなという気はするが、自分に置き換えて考えると、ここまで濃くはなくても少し似たような思いは感じたことはあったなぁ…と。ヘタレな薫を突き放しきれないなと思ったのであった。舞台が高円寺というのもよかったな。あの雑多な場所に、本当に月光荘のようなアパートがありそうで。

  • 読んでいて戸惑った。タイトル、装丁からはとうてい想像できないストーリーだったのだ。
    とある大家さんの訃報から話ははじまっている。それを耳にした主人公は中年の男性だが、かつてはその大家である雪子さんのアパート・月光荘に下宿していた大学生だった。
    高円寺にあるそのアパートは今どうなっているのかと足を運びつつ過去を思い出していく、という回想部分がメインになっています。
    踏み込みすぎた親切。お節介。過干渉。絶望的に雲行きがあやしくてゾッとさせられるのだが、罪悪感と申し訳なさもごっちゃになる。なぜって、雪子さんのそれはどこまでも純粋な善意だからだ。悪意は一切ない。多少の下心はあれど、でも善意なのだ。
    見返りを求めない優しさは素晴らしいものであるはずなのに、人はどうしてかそれに怯えてしまう。得体の知れないものに対する恐怖だろうか?
    雪子さんに対するそんな恐怖と、行き場のない怒りや憤り、煩わしさや鬱陶しさを薫とまったくシームレスに私も感じていた。
    小野田さんという女性住民の存在もまたこの不協和音をいっそう響かせている。
    彼女らとどう付き合うべきだったんだろうか?正解はみつからず、やるせなさだけが残る。

    ホラー小説と紙一重。
    綿で首を絞められているような、どんどん空気が薄くなっていくような物語のはこびがとてもよかった。
    8月の埃っぽい風。後味は悪い。が、あたたかみもあるのだ。なんともいえないこの感じ好きです。

  • 公務員の遊佐薫は、20年前に住んでいたアパートの大家さんが熱中症で孤独死したことを、出張先のホテルの朝刊で知る。
    川島雪子(90)
    眠るように死んで、まだきれいなままで下宿人に発見されたい、というのが彼女の夢だったが…
    (たぶん、眠れる森の美女みたいな自分を妄想していたのだろう)
    死後一週間は発見されなかったらしい。
    下宿人ではなく、連絡がつかなくなったことを不審に思った親戚によって発見されたのだった。
    薫は、自分がアパートを飛び出すきっかけになった、大家の過干渉に思いをはせる。

    他人がプライベートに踏み込むことをどこまで許せるかによって、この本の感想…雪子さんや主人公の薫に対する印象も変わるのではないかと思う。
    私にとっては、ホラー。牡丹灯篭レベルの。
    (この本のジャンルはホラーではありません、念のため)
    しかし、怪異に取り憑かれるのは、やはり隙があるからなのだ。
    しおらしくされ、「断ったら可哀想だから」
    利益になること、手っ取り早くならばお金を惜しげもなくくれることに「都合のいいところだけ利用すればいい」
    そんな気持ちの裏側にするりと滑り込まれる。
    毎日食事に誘われたり、美術館に行くと言ったら付いてきたり、足音で帰りの時間をチェックされたり、恋人はいるのかとしつこく詮索されたり。
    留守の間に部屋が掃除され、ゴミ箱の中のものを保管される。
    私だったらすぐに出る。
    ごはんもお小遣いもいらない。
    子供が引きこもりの暴力息子になってしまったのも、世話しすぎのせいだったんじゃないかと思ってしまう。

    江戸時代の大家さんは、親代わりのように店子の面倒を見たというけれど、雪子さんの場合はそういうものではない。
    恋愛の方は小野田さんを使って代用しているみたいだが、金持ちの老婆が若者に恋して、金をつぎ込むことで歓心を得ようとしているのと似ている。
    雪子さんは全くそのつもりはないのだが、見ようによってはそう見えてしまう。
    つまり、女二人がかりで取り憑かれていたようなもの。
    小野田さんも非常に不気味だ。

    しかし、食事の誘いも最初から断って、ドライな関係を維持している住人もいる。
    雪子さんも薫も、お互いに距離の取り方に失敗したのだ。

    20年たって振り返れば、色あせた写真の中のような思い出だ。
    “今思い出してもぞっとする”という印象ではない、過去として薄れた感がちょうどいい。
    しかし、近づいてくる女性をどこかで警戒してしまうようになったのは、月光荘であったことが薫に全く影を落としていないわけではない、ということだろう。
    いまや40代で独身。
    チラッと遠い未来の自分のことが頭をかすめたりもするのだ。
    …やはり、そこはかとなく怖いのかな?

  • 人との距離感というのは難しい。押し付けず嘘をつかず相手の気持ちを考えながら誠実に向き合う。程度の差はあれ完璧にこれをこなしている人は実は少ないのかもしれない。みんなどこかで矛盾しながらも人間関係を成立させているのかな、なんて事を考えた。

    にしても雪子さんは極端だし薫は甘え過ぎだ

  • 「(松本)竣介が盛岡中学で、彫刻家の舟越保武と同学年で親友だったというのは、すごいつながりですよね」(p. 19)ーーなるほど、そこはつながるのか。それはたしかにすごいな。

  • 第158回芥川賞候補作。「おらおらでひとりいぐも」もそうだったけど、芥川賞候補にしては読みやすく、分かりやすい。私は、こちらの方が好きだけどね。
    すんなり読めるけど、時々心にクッと引っ掛かりを残す文章とかがあって、手を止めて「あ~そうだよね」と考えたりしながら読んだ。
    最後もあっさり終わるのだけど、読後感が不思議と良く、なんだかうっすら希望のようなものまで見えて、いい感じで本を閉じられた。

    薫が出て行ってからの月光荘の後日談を是非読んでみたいものです。

  • 大家と店子の関係,親切がお節介に,さらにはストーカー的な行為に感じるほど主人公は心理的な圧迫を覚える.しかし主人公にも打算的な甘えがあり,不気味な関係ながらどちらもどちらという感じがして,むしろ雪子さんがかわいそうだった.嫌だ嫌だと思いながら毎日ご飯を出前してもらう神経の方が,つまりは主人公の厚かましさの方が理解不能だった.

  • 初めての作家さん。
    私自身も他人の、ましてや気遣いには無下に断る事はなかなか出来ないと思う。お世話になっていたり、同情すべき事があるとなおさら。。人との距離感って大事だなあ。
    それでも大学生の薫にとっては嫌な思い出ばかりではなく、ほろ苦く、悔いがありながらも時には温かく。そんな思い出だからこそ、大家さんのニュースを聞いてアパートに足を向けたのだと思う。

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著者プロフィール

1976年生まれ。2006年、『風化する女』で第102回文學界新人賞を受賞しデビュー。2022年、『あなたに安全な人』で第32回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に、『月食の日』『夜の隅のアトリエ』『まっぷたつの先生』『雪子さんの足音』などがある。


「2023年 『夜のだれかの岸辺』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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