- Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062208932
感想・レビュー・書評
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クリスマスイブの華やかな店内。見渡せばほとんどが若いカップル。その只中、四人掛けのテーブルに揃いの作業着姿の男が6人。女に一切縁がなくテーブルには一様にミックスグリルとライスの大盛り。皆一様に押し黙り、ただひらすらに箸やフォークをカチャカチャ動かしている。その座のそれぞれが虚しさと寂寥を漂わせている。短気さえ起こしていなければこんな場所にいなくてもよかった。加えて意想外な方向からワリカンと知らされる。自分で払うのなら吉野家で良かった。悔恨の波が次から次へと押し寄せる。
普段はえらく大人しく小心者が、何かを契機にスイッチが入ってしまうと、人が変わり暴言が暴力に発展し破滅へとまっしぐらに落ちてゆく。水戸黄門ばりのワンパターンだが、物語は初から終わりまで引き締まっており一寸の隙もない。終始唸らされながら読まされた。二度読み三度読みしてよい傑作。凄すぎる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表題作はともかく、三作目はひどい。小説のネタにするにしても。
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2022/01/22
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この人の小説を読むと非常に憂鬱な気分になる。読後の胸糞悪さは計り知れない。主人公貫多の病的な性格はまるでコント。あまりの不憫さに笑けてくるほど。まあいつものこと。
でも何故か、不思議とこの作者の作品を読むのはこれで11作目。読後のあの胸糞悪さを求めて、作品にまた手を伸ばしている。そんな私はもはや西村賢太作品の中毒者なのかもしれない。-
2022/01/22
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表題作の中編と、短編2編を収めた最新作品集。
ここ数冊、長編はともかく短編は低調だった西村賢太だが、本書は久々の本領発揮という趣。とくに表題作は素晴らしい。帯の惹句に言うとおり「新たな代表作」と言ってよいかも。
賢太の分身・北町貫多が24歳のころの話。過去のいくつかの短編にもチラッと言及があった、貫多の4人目の彼女(「秋恵」の前の彼女に当たる)との出会いから別れまでの物語である。
賢太の手持ちの材料のうち、「切り札」とまではいかずとも、ジャックかクイーン級のカードを出してきた感じ。
内容はいつも通り。バイト先で知り合った2歳下の「佳穂」とつきあい、途中までは仲睦まじくつきあうものの、例によって貫多が「キレる」ことによって一気に破綻に至る。
ワンパターンといえばワンパターンだが、そこに至るディテールが丹念に描きこまれていて、読ませる。微塵も華々しさがない、いわば〝地を這うような青春小説〟として秀逸だ。
賢太がキレて佳穂を殴り、前歯を折ってしまうまでの、ジェットコースターが頂上に向けて上っていくようなドキドキの高まりもスゴイ。
また、怒りに燃えた佳穂の両親(過去の短編で「廃業した力士のような」と表現されていた父親の描写がよい)に怒鳴り込まれ、卑屈の極みの姿をさらしてあやまり倒す場面では、笑いがこみ上げてくる。
クズ男のクズな行動を描いているだけなのに、乾いた笑いと胸を衝く哀切が随所にある。「これぞ西村賢太!」という味わいの傑作中編である。
ほか2編の短編のうち、冒頭の「寿司乞食」は凡作だが、もう1編の「青痰麺」がこれまた傑作。かつての名短編「腋臭風呂」(しかし、2つとも汚いタイトルだなァ)を彷彿とさせる歪んだ笑いが炸裂する。
とくにラストシーン。北町貫多の行動は「クズオブクズ」であるにもかかわらず、爆笑せずにいられない。
「西村賢太健在なり」を示す一冊。 -
図書館借り出し
近年の北町貫多
寿司乞食
夜更けの川に落ち葉は流れて
青痰麺 -
ただ、面白い。新作がもう生まれないのは残念でならない。壮絶な生き様だったかと。
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私のブログ
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1994903.html
から転載しています。
西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html
ほんっとに、西村賢太作品は面白い。何故今まで出逢わなかったんだろうっていうくらい。出逢わせてくれた後輩のFantasmaくんには感謝しきれない。そう言えば、そのFantasmaくんは先週の人事異動発表で隣県へ栄転することになったとの情報。西村賢太を紹介してくれたお礼も兼ねて盛大にお祝いしてやろう。
さて、本書は短編3作品から構成されており、全て初見。どれも甲乙つけ難いほどの面白さ。
「寿司乞食」
念願の築地市場で働くことになる21歳の貫多。初日の勤務後に開かれた歓迎会で酒に溺れて翌日無断欠勤する、というダメダメな話。人間の本質そのものを描いており味わい深い。
「夜更けの川に落葉は流れて」
警備会社で短期アルバイトに勤しむ24歳の貫多の恋の話。地味な性格良さげな簗木野佳穂と付き合うも、またぞろ倦怠期を迎え、貫多の暴言と暴力により破局を迎える。面白かったのが、佳穂の変貌。貫多の暴言がエスカレートしていくと、それに伴って人が変わったように佳穂も信じられないほどの罵倒となる。こういうのが人間の本質なんだな。私も過去に体験済みなのだが。
「青痰麺」
お気に入りのラーメン屋さんで席を変わらざるを得なかったことに腹を立て、出されたラーメン -
西村賢太お得意の私小説、北町貫多シリーズ。3作品が収録されている。
気が弱いくせに相変わらずの愚行を繰り返し、着実に破滅に向かう寛多の生き様は、寛多ファンにとっては清々しい。心の底では平穏を望んでいるのに、どうやっても破滅に向かってしまう寛多の運命を傍観するのが、ファン心理だ。悪代官が水戸黄門の印籠にひれ伏すのを待つようなものだ。
そんな主人公の破滅への道は3作品それぞれ。新たな職場の初日の歓迎会で飲みつぶれ、翌日から無断欠勤。恋人を殴りつけて、その父親に土下座謝り。店主の態度が気に入らず、出されたラーメンにゴミを打ち込んで店から逃走。これぞ、北町貫多で、何者でもなかった若き著者。
と、過去の何者でもない著者の話ばかりだと思っていたら、小説家として大成した著者は今でも変わることなく、破滅に向かう。そんな衝撃的なラストが展開される。