- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062200097
作品紹介・あらすじ
「法廷で裁かれるのは〈犯罪〉だ。神が裁くのは、〈罪〉だ」
革命は終わった。
登場人物たちは、フランスを脱出してイギリス・ロンドンへ。ローラン、ピエール、コレットは、革命期に負った「傷」への代償としての「復讐」を試みる。
「革命という名の下になされた不条理に、私は何もなし得ない。ゆえに、個が個になした犯罪の是非を糺す資格も、私は持たない。私は、法がいうところの犯罪者になるつもりだ」
私は、殺人を犯す。それは罪なのか?
あの「バートンズ」も登場!下巻は産業革命期のロンドンを舞台にしたイギリス編。
感想・レビュー・書評
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後半のイギリス編。
いやあ、暗かった。
うーん…やはり私には、本作は今ひとつ合わなかった。
ポエティックだし実験的なところも多いけど、惰性で読み切っただけでした。
ブーヴェの一件でここまで引っ張れるの、逆にすごいな。
エルヴェの心の闇みたいなものは描かれないのかな、やや不完全燃焼。
鰐、読者にも忘れられないようにしょっちゅう出てくるけど、なんかよくわからない。
終わり方は嫌いではないけど。
海賊女王みたいにワイルドなシーンが見たかったなあ。
でもまあ、クロコダイル執筆時の作者は85歳くらい…、本当にすごいよね。
余談だけど、この本の中で、イギリス人は決闘が大好きでみんな決闘をやりまくるし、アイルランド人はもっと決闘好きです、という描写があった。
ウォルター・スコットで18世紀の最後のスコットランドでも、ごく普通に、決闘しましょー、そうしましょー、の展開があったのに納得。
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フランス革命が実際の出来事だと知っていてもなんとなく架空のことのような感覚でいたけど、2まで読んでその歴史が現実味を帯びてきた。
ロンドンへ渡った人々の心情が誰にしても極端ではなく、その記憶が考えや行動に影響している様子が自然に感じられて、当たり前だけど革命前から革命後まで生き続けた人がいてこんな風に生きたのかもしれないと思った。 -
「竪琴の全音階を奏でるような秋であった」
フランス革命前夜、富裕な商人の息子が貴族の御曹司とともに田舎で馬を駆けさせているこの出だしで、心は瞬時に作品世界にトリップ。上下二巻の分厚さがまったく気にならなず(それどころか、もっと読んでいたいくらい)、著者ならではの華麗で端正で、同時にグロテスクな世界を堪能した。
これはどういうジャンルに分類したらいいのか。歴史小説であり、妖美な幻想ものであり、ミステリ的要素もある。途中で「語り手」の存在が明かされて、読者を揺さぶったりもする。あちらから、こちらから、幾重にも声が響いて重なり合うようなストーリーだが、にもかかわらず非常に読みやすい。練達の筆とはこういうことかと思う。
教科書では、旧特権階級に対する民衆の戦いの勝利として描かれる、フランス革命。その内実を、大きな歴史に翻弄される個人の側から描いて、圧巻の迫力だ。世の中の枠組み自体がうねりながら変わっていくとき、人間の弱さや醜さが否応なくさらけ出される。己というものを保つためにもがく人たちの姿が胸に突き刺さるようだ。著者の作品ではいつもそうだが、絶望が描かれているのに、なぜかすがすがしい。この清潔感はどこから来るのだろう。
ここ数年、新作(それも大作ばかり)が出るたびに、失礼ながら心のどこかで「これが最後の作品かも…」と思ってきた(ほんと、失礼)。いやしかし、この力強く繊細な世界はどうだろう。その知力・精神力に敬服するばかり。著者の人間観はずっと一貫していて、より深いところに達しているように思った。 -
Ⅰは歴史小説、Ⅱはミステリ小説に色づけられてたのかしらん。
Ⅰでは狂乱の革命時代を鰐と共に見上げ、Ⅱになると、懐かしの解剖学が・・・そこで開かれる蝋人形館、奇矯な手を持つ少年、しめやかなる殺人、復讐と哀れみ、まさに皆川博子ワールドの長編物語。 -
革命から数年後、すでにフランスはナポレオンの時代となり、イギリスに逃れたブーヴェ、ロレンスはテンプル商会で、エルヴェ、ピエール、ジャン=マリは貿易船で、順調に働き生活している。しかし仕事でナントへ戻った彼らはマダム・ブランシュのもとでコレットと再会。ロレンスは罪の意識からコレットの復讐に手を貸し、フランソワを諦めきれないピエールは、間接的な原因を作ったシモン元神父やアルノーを復讐相手と見なす。
コレットの蝋人形館、そしてロレンスのパノラマ館と日本なら江戸川乱歩ばりの復讐の舞台が整えられ、どんどんダークサイドに落ちてゆく彼らと、2巻から登場したイギリスの労働階級の子供たち=スティーヴとメイの兄妹と親友ベニーらの前向きな逞しさが対照的。少女の頃から手段を選ばない生き方をしてきたコレットが、やはりその手段の犠牲にしたある人物に対してたけは罪悪感を抱いていたことは意外なくらいだった。
個人的にはやっぱり最後までピエールが切ない。打算的な生き方をしてきたコレットや流され体質のロレンスにはそれほど同情的な気持ちにならないのだけれど、ピエールの後悔、生死すら明確でないフランソワへの哀惜は想像するだにしんどい。そして結局、ロレンスもピエールも、最初の一行、革命前の1788年10月「竪琴の全音階を奏でるような」秋のフランソワと過ごしたあの一日に想いを残したままこれからも生きていくのだろうと思うとつらい。
そしてなんとイギリスでは『開かせて~』シリーズのバートンズのその後が登場したことにも感無量。といっても生きて登場するのは当然イギリスに残ったアルとベン、作家になったネイサンと、ディーフェンベイカー氏と結婚したアンの夫妻。アルが自分の息子にエドの名前をつけていると知ったところでひとしきり涙にくれる。エドの死を知らされてとアルは言っていたけれど、それを知らせたのはもちろんクラレンスだろうし、ということはクラレンスもまだどこかで生きている。いつか新大陸で彼らが出会う話など書かれないものかと夢想。本作が上下巻でも前後編でもなくⅠ、Ⅱとナンバリングされているということは、Ⅲもあるかもしれないと少しだけ期待。 -
手記という形態をとりながら,語り手が変わることで過去が現在になり,未来が今となって立ち現れるという複雑な構造.目には目をの復讐と非道なことのはびこり,罪もないものへの救いのなさ,それらが神の不在を示唆して物語は進む.そして最後,ピエールがオーストラリアへ行く船の中で突然掴んだ感覚,「神」と呼ぶしかない感覚にこの物語が収斂しているような気がした.
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18世紀末革命期のフランスの都市ナント、19世紀初頭のイギリスのロンドンを舞台に、時代の波に翻弄される若者たちの姿を2冊に渡って描いた長編小説。
フランス革命と言うと、富を貪った挙げ句ギロチンにかけられる王族と、勝利を得た市民で完結するイメージが強いが、ここではその後の恐怖政治や虐殺など、革命の負の影響にスポットを当てている。かつて『ベルばら』に夢中になってフランス革命を知っているつもりになっていたが、革命後の残酷な歴史には疎く、闇の側面に衝撃を受けた。
貴族の嫡男とその従者は戦で極限状態を経験し、富豪の孫は目の前で家族を惨殺され、平民の兄妹は極貧で住む家もないというように、それぞれが死と紙一重の過酷で絶望的な状況におかれる。
人の命が虫けらのように踏みにじられていく時代に、心の支えを失い精神の均衡を失っていく若者たち。狂暴なワニの口腔の底知れぬ空洞に虚無を見出だし、同化していく姿は象徴的だ。
ヨーロッパを舞台とする力作が光る作者ならではの作品だったが、登場人物が多いうえにカタカナ名で、状況を把握するのに苦労した。また、語り手が目まぐるしく変わるため、せっかくの重厚な世界がややぼやけてしまった感もある。
クロコダイルの模様を型どった遊び紙や装丁、雰囲気のある装画はとても魅力的。 -
フランス革命によって運命を狂わされる人々の物語が、視点を入れ替えながら展開していく。
上巻は貿易都市ナントを舞台にしたフランス編。争乱の中、必死に生きようとする登場人物たちの苦悩が、混乱する都市を背景にビビッドに描かれる。相変わらずキャラ造形は巧くて、ステキ。そんな彼らが生き抜くために新たな人生の舞台として辿り着いたのがロンドン。下巻は産業革命期のロンドンを駆け巡るイギリス篇。
上巻は動きが多くて読み応えも抜群。下巻は動きとしては落ち着くが、その分心理描写で読ませるストーリーが印象的。革命によって受けた傷は大きすぎた、特に無垢な少年少女の彼らには。 先が気になる展開ではあるけれど、全体にスローペースで進んでいくので、中盤でややだれる。視点も目まぐるしく変わり、若干混乱したような。
タイトルである鰐がキーワードになっているが、鰐に魅入られ、やがて囚われて徐々に執着していく心理的な側面がイマイチ理解できず。他にも作中との距離感があるなと感じた箇所もあり、皆川ワールドにどっぷり浸かれなかったのが心残り。 -
鰐男や蝋人形館などギミックたっぷり。フランス革命の暗黒面を、残酷で数奇な筆致で練り上げていて、もうお腹いっぱい。『開かせていただき光栄です』のその後とも繋がっていたのは、残酷な話の中に一縷の明かりが灯っていたようで嬉しかった。