楽しい夜

著者 :
制作 : 岸本 佐知子 
  • 講談社
3.84
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本棚登録 : 517
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199513

作品紹介・あらすじ

メキシコの空港での姉妹の再会を異様な迫力で描いた、没後十余年を経て再注目の作家による「火事」(ルシア・ベルリン)、一家に起きた不気味な出来事を描く「家族」(ブレット・ロット)。アリの巣を体内に持つ女という思い切り変な設定でありつつはかなげな余韻が美しい「アリの巣」(アリッサ・ナッティング)、30代女子会の話と思いきや、意外な展開が胸をつく表題作「楽しい夜」(ジェームズ・ソルター)。飛行機で大スターの隣に乗り合わせてもらった電話番号の紙切れ…チャーミングでせつない「ロイ・スパイヴィ」(ミランダ・ジュライ)など、選りすぐりの11編です。

【収録作品】
「ノース・オブ」マリー=ヘレン・ベルティーノ
「火事」ルシア・ベルリン
「ロイ・スパイヴィ」ミランダ・ジュライ
「赤いリボン」ジョージ・ソーンダーズ
「アリの巣」アリッサ・ナッティング
「亡骸スモーカー」アリッサ・ナッティング
「家族」ブレット・ロット
「楽しい夜」ジェームズ・ソルター
「テオ」デイヴ・エガーズ
「三角形」エレン・クレイジャズ
「安全航海」ラモーナ・オースベル

感想・レビュー・書評

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  • 好みだった作品は、
    ルシア・ベルリン「火事」
    ミランダ・ジュライ「ロイ・スパイヴィ」
    アリッサ・ナッティング「亡骸スモーカー」

    特に「亡骸スモーカー」は、たった7ページしかないのに五感に訴えてくるような美しいラブストーリー。初めてキスした彼の息の香りを「まるでライラックの雨の香りのシャンプーみたい」と表現しているところは、よく分からないのに実際にその香りがしてくるから不思議。

    岸本佐知子訳にハズレなし。

  • 『アメリカの国旗が、学校の窓に、車に、家々のポーチのスイングチェアにある。その年の感謝祭、わたしは実家にボブ・ディランを連れて帰る』ー『ノース・オブ』マリー=ヘレン・ベルティーノ

    岸本佐知子信仰の命ずるがままに詞華集を読む。大団円ではない物語が並ぶ。大団円など現実の世界では滅多に起こらないので、平均的な人生によくありそうな程度に不幸な話が並んでいる、とも言えるのかも知れない。しかし、それが繰り返されるうちに不幸は徐々に幽体離脱しその辺りを漂う。平均的であるが故にどことなく身につまされたような物語は、徐々に自分とは関係の無いところで起こるものと信じ込んでいた不幸が直ぐ隣にまで来ていることを教える。

    作家も異なるし翻訳も作品ごとに味わいを変えて提供されているが、どこかでお互いに響き合う。岸本佐知子の行商の行李に集められた品は質が高いことはもちろんだが、同じ行李の中に入れられていると似たような味わいになるのかも知れない。それは受け止める読者である自分が同じ手捌きで異なる魚を同じような料理にしてしまうからなのかも知れないけれども。

    『外から見れば、そのときのわたしは何もしていないように見えたかもしれないけれど、じっさいは物理学者か政治家なみに目まぐるしく働いていた。次なる動きをどうするか、戦略を練っていたのだ。次なる動きはいつも“動かない”だったから、よけいに事はむずかしかった』ー『ロイ・スパイヴィ』ミランダ・ジュライ

    ああ、やはりミランダ・ジュライは特別だな。映像作品を造ることと即興パフォーマンスをすることと小説を書くことには差を余り感じないとどこかで作家が言っていたように記憶しているけれど、こんな作品を読むとそれも納得する。この私小説風の作品からは、彼女が監督を務める映画の主人公が彼女自身であることと同じような効果を強く感じる。もちろん虚構であるとは思いながら読むのだけれど、例えば、腕の長さが強調されるシーンの立ち振舞いなど、映像としてはすっかりミランダ・ジュライが動いているところが見えてしまう。

    この才能豊かでコケティッシュな魅力の持ち主である作家の嘘には、どこかで拾った錆びた釘から拡がる話とでも言えばよいような趣があって、拾った錆びた釘という現実がどこまでも嘘の中で意味を主張し続けるところが魅力の一つだと思う。もちろんスパイヴィもその隣に座り遇わせた女性も虚構でありはするだろうけど、話の芯にある筈のミランダ・ジュライがどこかで経験した出来事のことまでいつの間にか想像してしまう。それは、川上弘美を読む感覚ととても似ていることなのだけれど、そう言えば二人とも背が高いね。ああ、そろそろ真面目にThe First Bad Manに取り組もう。

  • 不思議で少しゾットする短編集だった。アリの巣、亡骸スモーカー、三角形が印象的。

  • 1番好きなのは「楽しい夜」
    1番心に残ったのは「三角形」
    でもどれもほんとに好きだった。

    斜めの世界を歩いてるみたい。
    歪んでたり、欠けてたり、過剰にあったり。
    そんな世界観で笑えて泣けてズドンとくる。
    自分がどこで生きてるのかわからなくなるようだった。

    海外文学初めて読んだけど、日本と雰囲気が全然違っておもしろい。
    夜に読んでたからほんとに「楽しい夜」だった。

  • ちょっと変わった作品集。面白いっちゃあ面白いけどあんまり理解できないものが多かった。

  • 11のアンソロジー。どれも記憶に残るような短編ばかりだった。
    表題作の『楽しい夜』は見事に心を奪われた。女3人の楽しい時間だったはずなのに、ジェーンの身に起きていることが明かされてから、途端に景色が違って見える切ない話だ。病を受け入れるにはまだ早すぎる、その無念が伝わってくる。
    『テオ』は神話のようで面白かった。いつか2人で目覚めてほしいと願いたくなる。
    『三角形』は悪夢が正夢になったような衝撃で身がすくむ。遠い日の出来事ではなく自分の身に起きたら、と考えずにはいられない展開だった。
    『安全航海』は少女のような無邪気さがあって、とてつもなく愛おしさに溢れている。老女たちの交流が、なんだか妙にあたたかい。子どもの頃の話をするところなんか、これが愛なのかしらと思った。魚をリリースして別れを告げるのが、まるで愛する人との別れのシーンのようだった。最期に行き着くところはどんなところだろう、でもきっと祝福に満ちた場所だと信じられる。
    この4作が特に好みだった。

  • 若干目も当てられない私小説が混じっていてきつかった。「ノース・オブ」、「アリの巣」、「亡骸スモーカー」の三作品が好きかな。

  • ルシア・ベルリンの話がもっと読みたかったのだけど翻訳されてるものが少ししかなくてここに辿り着く。翻訳者が編む短編集って珍しいよね。そして翻訳者が同じだと小説の手触りがすごくよく似てる、同じ人が書いたみたいだ。まあ翻訳者の好みの小説が集まってるからそうなるのか。
    そして蛇の道はヘビなので、また新しく読みたい小説家を何人も知れてよかった。
    ロイ・スパイヴィ読んだらヴィゴ・モーテンセンと友達になる夢見ました、ふふふ。

  • 独特な狂気性の高い作品が多く楽しめた。アリの巣。亡骸スモーカーが特に良かった。

  • 初読

    ボブ・ディランを実家の感謝祭に連れて帰る
    「ノース・オブ(マリー=ヘレン・ベルティーノ)」
    癌の妹サリーに会うために着いたメキシコ・シティの空港での火事
    「火事(ルシア・ベルリン)」
    有名俳優と飛行機で隣り合う
    「ロイ・スパイヴィ(ミランダ・ジュライ)」
    犬達の厄災の犠牲となった女の子の
    「赤いリボン(ジョージ・ソーンダーズ)」
    骨の中に蟻を寄生させる美しい女の
    「アリの巣(アリッサ・ナッティング)」
    死者の髪を吸って記憶を味わう男の
    「亡骸スモーカー(アリッサ・ナッティング)」
    夫婦喧嘩をしていたら成長した子供達がクーラーボックスで生活している
    「家族(ブレット・ロット)」
    NYの夜、3人の女達のお喋り
    「楽しい夜(ジェームズ・ソルター)」
    神話のような、山が人間だった
    「テオ(デイヴ・エガーズ)」
    気まずくなった恋人へのナチスのワッペンのお土産
    「三角形(エレン・クレイジャズ)」
    祖母たちの彼方の世界への船旅
    「安全航海(ラモーナ・オースベル)」

    優れた小説は普遍的であるのか、
    現在のコロナ禍など想像出来ようもないのに、
    今の心境に沿うような作品がいくつもあった。

    ロイ・スパイヴィ、家族、楽しい夜、三角形
    が小説として特に好きだな、と思ったけど
    ラスト(である事が重要なのかもしれない)の
    安全航海の余韻、残り香のような儚さの。も、印象的だ。

    訳者あとがきで改めて思うのは、どの作者もたいして和訳されていない事!
    改めて岸本佐知子という目利きの行商人が選んだ魚たちを味わえる
    事に感謝な群像紙の素晴らしい企画。

    「家族」のブレッド・ロットはボールドウィンに師事、
    名もない市井の人々の生活の細部を丁寧にすくい上げるようなリアリズムで書く作家で、この作品は変化球。
    とあり、俄然他の作品も読みたい。
    「楽しい夜」のジェームス・ソルターは50年キャリアにして
    長編短編合わせて10作足らずの寡作、ぎりぎりまで削ぎ落としたストイックな文体と鋭い人間描写でこちらは
    ソルターのエキスが凝縮された一編との事。

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著者プロフィール

岸本 佐知子(きしもと・さちこ):上智大学文学部英文学科卒業。翻訳家。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短篇』。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』、『死ぬまでに行きたい海』など。

「2023年 『ひみつのしつもん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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