赤ヘル1975

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (514ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062187046

作品紹介・あらすじ

一九七五年――昭和五十年。広島カープの帽子が紺から赤に変わり、原爆投下から三十年が経った年、一人の少年が東京から引っ越してきた。
やんちゃな野球少年・ヤス、新聞記者志望のユキオ、そして頼りない父親に連れられてきた東京の少年・マナブ。カープは開幕十試合を終えて四勝六敗。まだ誰も奇跡のはじまりに気づいていない頃、子供たちの物語は幕を開ける。

感想・レビュー・書評

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  • 1975年、ぼくはまだ高校生だった。
    学校に行けば授業と野球部の部活、家ではラジオの深夜放送を聴きながら受験勉強に励む毎日を送っていた。
    「ながら族」という言葉が産まれ始めた時代だ。

    街はもう完全に近代化され、数年前まで走っていた市電も廃止になり、新興住宅地がどんどん造成され、新築の住宅が頻繁に建造されていた。
    ぼくの頭の中には「戦後」などという意識はこれっぽっちもなかった。

    原爆の話は小学校のころから授業で教えられ知識としてあったし、広島では8月6日が原爆記念日として慰霊祭が行われることも当然テレビで見て知っていた。
    それでも、遠い地で行われる催しと過去の歴史は、ぼくにとっては肌で感じるほど現実味のあるものではなかった。
    だが、被災した広島に住んでいた人々の多くは、ぼくの感覚とは全く違ったものだったようだ。
    思い直してみれば、敗戦からまだ30年しか経っていなかったのだ。
    もう30年ではなく、まだ30年。
    遥か以前に「もはや戦後ではない」などと語った首相の言葉は、この地広島ではまるで重みのないものだったに違いない。
    この年になっても、広島は「やりきれない戦後」をまだ抱え続けていたのだ。

    そしてようやく------。
    赤ヘル広島カープがそれまでの万年弱小球団から変貌を遂げた奇跡の年。
    この1975年になってようやく、広島が新しく生まれ変わったのかもしれない。

    空襲や原爆で被害を受けた人々の悲惨さ。その苦しみと悲しみを乗り越えようとする新しい広島の子供たち。
    1975年の広島カープのペナントレースの戦い方に重ね合わせながら、その姿が描かれていく。
    家族の問題、家庭の事情、友情の重さなどを織り交ぜながら、重松清はこの物語を見事に書き切った。
    広島の人々たちのカープに寄せる愛情の重さの理由、街に対する思い入れ、原爆や戦争によって失ったものの大きさと無念などが伝わってくる。
    野球が好きじゃなくても、充分に心に響いてくる名作だと思う。
    お薦めです。

    ちなみにぼくはこの二年後に上京し、学生寮に入ることになるのだが、そこで広島からやって来た男と友達になった。
    初めて彼のカープに対する熱狂ぶりに触れたときは呆れ、何故に広島人はそれほどまでカープを好きなのか理解できないでいたが、その理由がこの本を読んでよくわかった。
    この奇蹟の1975年から、僅か二年しか経っていなかったんだよな。

  • 小学3年の夏、大野豊投手の引退式を広島の祖父の家で正座させれてみたことを思い出す。当時は理解できなかったが、「我が野球人生に悔い無し、背番号24 大野豊」の言葉だけは、復唱させられた。そのときは意味がわからなかったけど。
    この本は原爆、広島カープ、そして異邦人としての主人公の三つの柱が絡み合うのではなく、平等に描かれ、それが、普通の人たちにどのように影響したのかがよく分かる。
    広島は、理解するまでは過去の経緯もあるし、そこの間を埋めることは容易いことではない。でも、一つ繋がるとそこからは一気に深い関係となる度量の深さがある。そして地元の誇りと一体感がとても強い。
    1975年、赤ヘル軍団の勝利と敗北で一喜一憂しながら他者を受け入れる過程、そしてルーツとして揺ぎ無くなってしまった原爆。転校生と親友。3つの話が平行して、絡み合うのは感情と別離。清清しいとはいえないけど、目の前のことに全力で立ち向かう広島県人の熱さと暖かさが、赤ヘル軍団のハラハラドキドキの初優勝へ向かうドタバタ劇とともに、絡み合うのではなく、一貫して繋がるからこそ広島県人の生活に繋がる、ヒロシマだからこそ起きない、できない話がこの本にはある。主人公は確かに短い時間だったけど広島の人になったのだと思う。

  • 1975年は広島カープが優勝した年だったんだなぁ。
    そうか、75年はこんな時代だったのだ。
    マナブの友情に涙。中学生の男の子ってちょっと恥ずかしくて素直になれない、でも、相手のことはしっかり考えてる。うん、そんな感じかもしれないなぁ。
    市民が一団となれるカープという球団は特別な存在なんだろうなぁ。
    赤、広島にピッタリかもしれない。

  • 「真っ赤な、真っ赤な、炎と燃える真っ赤な花が、いま、まぎれもなく開いた。祝福の万歳が津波のように寄せては、返している。苦節26年、開くことのなかったつぼみが、ついに大輪の真っ赤な花となって開いたのだ。」

    1975年広島、原爆投下から30年・・・その爪痕は大人たちにとって生々しく、肉体にも、心にも癒えることのない傷を遺し、その傷跡は次世代にも受け継がれ続けている。
    原爆による壊滅的被害からの復興を目指し、市民と共に歩んできた弱小球団「広島東洋カープ」のリーグ初優勝。
    それらが個性豊かな中学生たちと、周りの大人たちを絡めて、見事に織りなされてゆく。
    さまざまな思いが交錯し、いろいろ考えらされつつも爽快に、希望に目を転じられる物語。

    空は、想う人と繋がっている・・・必ず!

  • 小説現代での連載開始当初から、そのタイトルゆえに注目していた作品。
    その期待は読了してみて、良い意味で裏切られたといっていいだろう。
    1975年といえば、広島人ならば忘れもしない、カープ初優勝の年だ。球団創設26年目にして、ようやくたどり着いた栄光。
    この作品ではそのシーズンの要所要所をしっかりと描いているが、私がそれ以上に注目したのが、原爆関連の話。
    登場人物が喋る広島弁もぎこちなさがなく、容易に脳内で声になっていた。
    一つの作品を一言で表現するのは難しいが、間違いなく、2013年、自分の読書トップ3には入る名著。
    カープファンは勿論、そうじゃない方もぜひぜひ読んでほしい。

  • 広島で連想するものといえばなんといっても赤ヘル!カープ。

    でも、ヒロシマと書いた途端、原爆投下を誰もが連想するはず。

    広島とヒロシマ・・・このふたつはきってもきれない関係。でも、ヒロシマの悲しみを広島に託した球団は財政事情もあり、とっても弱く、いつも負けて、負けて、負けて、負け続け、セリーグのお荷物と呼ばれます。

    そんな広島とヒロシマが1975年に生んだ、大いなるキセキ。その状況に絡めるかの如く、巨人ファンの少年が広島に転入して、広島とヒロシマを感じながら、友情を育む物語です。

    当時のカープ戦も刻銘に記載されています。当時、わたしは相模原に住みラジオ中継を聴いていました。中日戦後の暴動などは、リアルで記憶していて懐かしさを感じました。

  • 最後の最後まで、マナブのどうしようもない父親が改心し真面目に働き出さなかったのが心残り。
    ヤスはカープの選手に、ユキオは中国新聞の新聞記者に、そしてマナブは医者になって、また広島で再会する未来を私の中で描いて、本を閉じた。

  • 素晴らしい作品だと思う。被爆4年後にできた弱小市民球団が市民を支え、市民に支えられ、初優勝する物語。ヒロシマに暮らす人々の苦しみ悲しみ、そこで育っていく中学生の姿が、きれいごとでなく描き出されている。

  • 1975年の広島カープ優勝を背景にした友情物語。

    良くも悪くも重松節炸裂です。
    作者得意の転校生を絡ませた少年3人の友情物語を中心に、戦争、原爆、マルチ商法と社会的テーマも盛り込んだ秀作となっています。
    会話に出てくる広島弁で物語のめり込めるかどうかが分かれるかもしれません。
    自分は、映画「仁義なき戦い」、漫画「カバチタレ」で予習?していたので抵抗感ゼロでした。
    舞台は戦後30年、現在は戦後70年、自分も子供のころにはまだ残っていた戦争の傷跡もすっかりなくなってしまったので、このような形で戦争を語り継ぐ必要もあると思います。
    本作前年の1974年は自分の地元の中日が優勝して、常勝巨人のV10を阻止したのですから、本作同様に地元は盛り上がっていました。
    例えば、優勝直前の給食の時間は毎日「燃えよドラゴンズ」が流れていて、今でも歌詞を覚えています。
    逆に、広島にはV2を阻止されという苦い記憶も思い出しました。
    さらに別の話ですが、大学時代の広島出身の友人から金山次郎節をさんざん聞かされていたので、大変懐かしく思いました。
    最後に、本作は福島に向けても、今後30年、70年とがんばって行ってほしいというエールとも感じました。

  • 主人公の年齢は3つ下。
    舞台は当時1年だった基町高校の近隣。
    今年、父が描いた油絵は被爆直後の爆心地。
    今年は久々にカープが優勝争い。
    このように、内容があまりにも自分に身近。
    それに当時から3年以降、広島を離れている身には頻繁に記されている本物の広島弁が懐かしく、当時の当地へワープさせてくれる。
    500ページ余りの大作で時間がかかったが、ここ数年、もしかしたら、今まで読んだ小説でMy BESTかもしれない、傑作!

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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