脱グローバル論 日本の未来のつくりかた

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062184274

作品紹介・あらすじ

本書は、日本のグローバル化が急激に進行し、グローバリスト=ナショナリスト・イデオロギーが国内世論で支配的であった時期(安倍晋三と橋下徹と石原慎太郎が高いポピュラリティを誇っていた時代)に、それに抵抗する理論的・実践的基礎を手探りしていた人間たちの悪戦の記録として資料的に読まれる価値があるのではないかと思います。
「資料的に読まれる価値がある」と思うのは、とりあえずシンポジウムが行われていたリアルタイムでは誰からも相手にされなかったからです。メディアからはほぼ完全に黙殺されました。
しかし、偶然にも、「まえがき」のために指定された締め切りをとうに過ぎてから督促されてこれを書き出したちょうどその時に、日本維新の会の橋下徹共同代表の「慰安婦容認発言」が国外のメディアから批判の十字砲火を浴びるという事件がありました。この発言をめぐる維新の会内部の意思不統一で、グローバリスト=ナショナリスト・イデオロギーの「尖兵」として我が世の春を謳歌していた維新の会も今は解党的危機を迎えています。安倍自民党も「侵略」をめぐる首相発言、靖国集団参拝、改憲、橋下発言に対する宥和的姿勢などが中国韓国のみならずアメリカ政府の不信を招き、ナショナリスト・イデオロギーの暴走を抑制せざるを得ない状態に追い詰められています。
これら一連の「逆風」が日本におけるグローバル化趨勢が方向転換する歴史的な「転轍点」になるのかどうか、ただの挿話的出来事で終わるのか、それはまだ見通せません。でも、この20年日本を覆ってきた「支配的なイデオロギー」に対するある種の不安と倦厭感が国民の間に、ゆっくりではありますけれど、拡がりつつあるようには感じられます。
この本は2013年7月の参院選の直前に発行される予定です。選挙で、グローバリスト=ナショナリスト的政治勢力に対する有権者の信認がどれほど減るのか、それとも支持率はこれほど国外からの批判があっても高止まりしたままなのか、私は興味をもって見守っています。私たちがこの本の中でそれぞれに主張してきた言葉がすこしでも理解者を獲得してきていたのであれば選挙結果にそれなりに反映するはずです。そうなることを願っています。
(内田樹氏 はじめに 「脱グローバリズム宣言」から抜粋)

感想・レビュー・書評

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  • 内田樹・中島岳志・平松邦夫・イケダハヤト・小田嶋隆・高木新平・平松克美『脱グローバル論』講談社、読了。平松前大阪市長主催の公共政策ラボでの連続シンポジウムの記録。グローバリスト=ナショナリスト・イデオロギーにどう対抗するのか。「日本の未来のつくりかた」(副題)を識者が構想する。

    世界は急速にフラット化し、国民国家の諸々の障壁が融解し、風通しがよくなると夢想されたグローバリズムだが、日本での実態とは「社会制度を『弱者ベース』から『強者ベース』に書き換える動き」がその実で、多くの国民が嬉々として同意署名した20年。

    グローバル人材wの要件とは何か。それは「高速機動性」。その本質は素早さ。英語でガシガシ交渉し「自分の祖国が地上から消えても、自分の祖国の言語や宗教や食文化や生活習慣が失われても、私は別に困らない」と言い切れる人間たちが「最強」と格付けされる。

    しかしグローバル人材とは「その人がいなくなると困る人がまわりに1人もいない人間」のことでもある。再弱者と格付けされるのは、「地に根付いた」最底辺の労働者・最も非活動的な消費者だが、地に根付いた人々こそミニマム社会へのスライドへの先駆となろう。

    4回のシンポジウムは「グローバル社会VS国民国家のゆくえ」、「おじさんと若者たちとの対話」、「衆院選直前! 『政治』について考えよう」、「新しいジモト主義が日本を救う」。「地味でもいいから少しづつ『気付いた人』の輪を広げていきたい」(平松)。

    余談ながら、『脱グローバル論』で小田嶋隆さんが、がむしゃらに走り続けて40代になった時、アル中と診断されたそうですが、今の日本が置かれている状態とは、チャレンジチャレンジ負荷がかかった方がのびるではなく、「すごく頑張ってきたけど、医者にアル中っていわれちゃったよ、どうしよう!」みたいな状態というのはドンぴしゃ。

  • イケハヤさん26 才の時の写真
    今と全然違いますね。

  • 前大阪市長の平松邦夫が立ち上げた「公共政策ラボ」主催のシンポジウムの模様をまとめた一冊。この本を手に取った理由は、ほかでもない内田樹が討論をリードしているから。早くから橋本徹の教育に関する施策に異議を唱えていた内田樹が、その橋本徹に選挙で敗れた平松邦夫とタッグを組んだわけだから、ちょっと見過ごすことができなかった。
    内容は、内田樹がかねてから唱えている(かつ、ワタシも賛同している)「贈与経済」という考え方を、国家規模、グローバル規模であてはめていったらどうなるか、という討論が中心になっている。そして、これをあてはめていくとグローバル社会から脱してゆくことになる、というのがこのシンポジウムのコアの部分なんだろう。なるほど名うての論客達の討論からは、思わず唸るような数々の指摘が。でも、この国はそれほどグローバルな社会を持っているんだろうか、という疑問がふとわいてくる。善し悪しはともかく、グローバルな社会を目指そうとしているんだろうが、いま現在はまだそんなレベルには到達していない。この本の指摘するところは十分刺激的だが、後の時代に「早過ぎた指摘」と評される可能性があるような気もする。

  • 献本にて頂く。

  • 日本の株式会社化は今も着々と進んでいる。
    「選択と集中」というプロパガンダに煽られ、私たちは次々と国に大事な物を手渡している。

    その結果がどうなるのか、私は今から非常に楽しみにしている。

  • イケダハヤト(ITジャーナリスト・ライター)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授)、小田嶋隆(コラムニスト)、高木新平(コンテクストデザイナー)、中島岳志(北海道大学大学院准教授)、平川克美(㈱リナックスカフェ代表取締役)、平松郁夫(元大阪市長)の7人が、今の社会の問題をテーマに対談した内容をまとめたもの。

    7人に共通するのは、競争社会が人を育てるという、弱者をおいてけぼりにするような社会制度に疑問を抱いている点。商品を企業で競わせることでサービスや品質、コストなどが改善されることはあっても、これを教育や社会制度に持ち込むと、どういう結果になるか。落ちこぼれはいらない、母国語より英語が堪能の方が優秀、お金を持っている方がいい医療を受けられる、長時間働ける人間が優秀・・・となる。

    国政は日本から出られない、日本語しか話せない、日本の食文化や生活習慣の中にいないと居心地が悪いという人たちをどう守るか、に焦点を当てるべきであるのに、どこで暮らしても平気で(つまり自国のことを気にしなくてよい)、いつでも拠点を変えられる人や企業(留まる理由は安価な労働力や税制)が優遇される社会ってどうよ?落ち着いて考えようよ、そして、もう次のことを考えている人たちも出始めているよ、全体をざっくりまとめるとこのような内容です。

    対談のテーマが抽象的で漠然としたものであるのに、皆さんそれぞれ一冊の本が書けるくらいしっかりとしたビジョンをお持ちであることには驚きですが、自分の人生を全うするに当たり、自分が根をおろす国、地域というところが実は自分のことを考えてくれていないとなると、それはそれは不安だろうから、本当はもっとこういうことを考えなければならない。それを他人任せにしてしまうと、気付いたら自分が思ってもいない社会になってしまった、そうなると遅い。

    本書の中身は全て対談という形式をとっているので、個々人の著書を読むよりは浅く広くという感じですが、基本、会話ベースに作っているので、話があちこちに飛んで分かりにくいところもあります。資本主義やグローバリズム批判は最近よく出てくる話で、7人はその代表的な人たちです。多くの人が今の生活をこのまま続けていくのはどうもあぶないんじゃないかと考え始め、行動を起こしている人も増えていると言います。

    もし私が英語が堪能で24時間働ける体力があれば、自分のために使います(笑)

  • 今のような時代にこそ、こういう議論はもっともっと盛んになっていかなければならないと思う。

  • グローバル化について本当の意味での豊かさを実現出来るの?と、問いかける一冊。教育や医療や昔ながらの商店街にもグローバル化を持ち込むことで、金銭的な豊かさは良くはなっても、二極化が進むだけだよ。中間層が一気に引き落とされるよ、心が貧しくなるよ、といった本。グローバル化に違和感感じる人にオススメしたい一冊。

  • ポストグローバル社会論と日本の未来を考えるシンポジウムの記録。
    第2回の、イケダハヤト氏と高木新平氏の視点がユニークで面白い。
    マスコミ報道ではわからない橋下市長に選挙で敗れた平松氏の思想や人となりも知ることができる。

  • グローバリズムという資本主義レールの目先にあるものに向かって進んでいた自分としては最初の数ページは腹オチせず読み進めるのに躊躇したが途中からこの本の目線はもっと先にあることを気がつくとぐんぐん引き込まれた。自分が去年体験した一連のボラ活動などの経験とこの本の中に出てきた2名の20代が言っていた言葉が重なり曖昧だったミライの日本のあり方がぼんやりと見えてきた気がする。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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