訣別 ゴールドマン・サックス

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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062180801

作品紹介・あらすじ

将来を嘱望された若きエリートが身を賭して暴くウォール街の真実。

感想・レビュー・書評

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  • p13
    正直で、よく気がつき、協調性に富んでいる-これらはすべて、入社後、会社の期待に応えていくのに必要とされる資質だ。これらの資質はまた、顧客がゴールドマン・サックスの営業マンに期待する資質でもあった。なかでもいちばん価値が高いのが、正直さである。

    p14
    事実を捏造するな、誇張するな。ただひたすら、率直でいろ。わからないことがあっても、その情報を上手に調べ出すことができれば十分だ。失敗したのであれば、即座にそのことを認めろ-これは、ゴールドマン・サックスが今でも新人アナリストたちに言っていることだ。

    p63
    「オン・ザ・ワイヤー」とは、「今すぐ」という意味のウォール街用語だ。

    p65
    (カーリー・)フィオリーナは、2001年春までの自分の人生を一遍の小説になぞらえて、彼女自らが編集者となって、贅肉を削ぎ落していった結果、ついに一ページだけの、彼女の人生のエッセンスを抽出したという話をした。そして私たち卒業生全員に、人生のいずれかの時点で同じ作業をすることを推奨した。

    p88
    「今こそ、他者とは違うということを見せつけなくては。ゴールドマン・サックスがゴールドマン・サックスであると、世間に知らせるのだ。顧客の無理な要求にも、できるだけ応えるようにしよう。すぐに利益が出なくてもかわまないから、みんなが立ち直るのを助けるのだ。今、そういう態度をとれば、必ず記憶しておいてもらえる」

    p115
    「変化は怖いものさ。だが多くの場合、変化はいいことだ。新しい、面白い経験につながることがある。がっかりしないで、前向きな気持ちでやっていくといい」彼の言葉は、ずっと後まで私に影響しつづけたように思う。

    p130
    オンステージ/オフステージ誠実度が高い、つまり相手の社会的な身分によって態度を変えないというのは、真に尊敬されるリーダーに見られる資質だ。

    p273
    ゴールドマン・サックスは本当に巨大なヘッジファンドのようになってしまっていた。会社が儲けることが、顧客の役に立つことよりも優先されるようになったのである。

    p276
    どうやら、社風や士気を大切にするというのは、ゴールドマン・サックスにとって、昔の価値観と化してしまったようだ。

    p284
    「賢い顧客」「邪な顧客」「単純な顧客」、そして「質問のしかたを知らない顧客」…本当にこの四とおりんおだ。

    「賢い顧客」というのは、大手のヘッジファンドや機関投資家のうちで、銀行やトレーダーが、手を尽くして助けてくれるところを指す。

    「賢い顧客」が入手できる最もう重要な財産は、人材だ。本当に優秀な人々が、彼らのために働いてくれるのである。

    お次が、「邪な顧客」だ。これは、限度ぎりぎりまで利益を増やそうとする、きわめて頭のよい顧客であることが多い。

    三番目が、「単純な顧客」である。大手の資産管理会社や年金基金のなかには、唖然とするほど運用が下手で、やることなすこと時代遅れのところがある。大手ということでは、賢い顧客と見分けがつかないのだが、金融界に対する理解度では雲泥の差があるのだ。

    「単純な顧客」は、肉食系揃いのウォール街の金融機関にとっては捕食される小動物以外の何ものでもない。

    では、第四の顧客は?これは、「質問のしかたを知らない顧客」ということになる。実は顧客としては、このタイプが最も気の毒な結果になってしまう。というのも、「質問のしかたを知らない顧客」は単純であるうえに、お人好しだからだ。

    かつては「質問のしかたを知らない顧客」にとって、ゴールドマン・サックスは頼りになる相手だった。

    だが、2009年の段階で「質問のしかたを知らない顧客」が理解していなかった事実が一つあった。金融危機までのゴールドマン・サックスには健全だった受託者責任の感覚は、危機の後で失われつつあったというのが、それだ。

    p328
    「一つ、はっきりさせておきたいことがある。それは心配する必要がない、ということだ。ゴールドマン・サックスと取引を打ち切るような真似はしない。正直なところ、君たちを信用しなくなって、もうずいぶんになる。ゴールドマン・サックスはヘッジファンドだと私たちは見ているのだ。だが、ゴールドマン・サックスの人間がウォール街でいちばん頭がいいということも理解している。そういう会社だから、売買をする相手として、必要になる時が来るかもしれないからね」
    私は、開いた口が塞がらない思いだった。

    私は、強烈な敗北感を抱いていた。自分が信用されていないという事実が我慢ならなかったのだ。

    p330
    いったい、ゴールドマン・サックスが掲げてきた「十四の鉄則」は、どうなってしまったのだろう?特に、「わが社の資産は社員であり、資本金であり、そして世間の評価である。これらのうちどれか一つが既存されたとして、世間の評価が最も回復させることが難しい」という、第二条だ。

    p333
    私は一度も「フラッシュ・クラッシュ」を引き起こすことはなかった。もっとも、部外者にとっては、この局所的な大事故は、ありうることのように思われるかもしれない。大きな売りが、投げ売りの先駆けとなるというだけの話だからだ。いずれにせよ、私は怖くてたまらなかった。グローバル金融市場に不自然な歪みが生じつつあることの兆候が、また一つ新たに登場したわけである。

    p335
    ゴールドマン・サックスの内部では、何が何でも収益を上げるべきだという圧力が増すとともに、社員同士の関係が悪化していった。同僚の顧客を横取りしたり、ゴールドマン・サックスを信用しきっている顧客を説得して、その顧客の利益にならない投資をさせたりする圧力が強まっていたのだ。

    金融危機の最中に出世した幹部は、リーダーシップではなしに現金をゴールドマン・サックスにもたらす才覚で昇進したわけだが、今や社内は彼らの天下だった。ある行動が正しいか、正しくないかという価値観は、過去のものとなってしまった。

    p336
    GEの元CEおで、経営の世界では伝説的な存在のジャック・ウェルチは、ある組織が利益を上げているからといって質の悪いメンバーに手厚く報いるようになると、質のよいメンバーはやる気を失い、社風が損なわれ、どっちつかずの連中が、自分も質の悪いメンバーのように行動しなくてはならないと思うようになる、と著書で論じていた。そして、放っておけば、やがては当初「質が悪い」とされていたメンバーの行動様式が、組織全体の規範となってしまう。この道徳的な腐食が、ゴールドマン・サックスにおいては急速に進んでいった。

    p370
    「私はこれを、友人として言うんだ。だから、絶対に漏らしてくれるなよ。いいか、今すぐこのビルの外に出ていって、仕事のオファーをもう一つ取ってこい。そうすれば、会社側を交渉できりきり舞いさせることができる。自分の価値にふさわしい報酬を取らなくちゃダメだよ。だって、これは大きな動きだろう?これまでの全人生を根っこから引き抜いて、別の国に行こうっていうんだから、君の犠牲だって大きいんだ」

    p371
    私の相談に真面目に応えてくれたマネージング・ディレクターは、とても話がわかる人だった。彼は単に、事実を直視していただけのことだ。
    「ゴールドマン・サックスは、いかなる形でも忠誠心に報いることはないだろう」
    「ゴールドマン・サックスの仕事は、日を追って数字のゲームになりつつある」
    「ここで働いた期間が、十年、十五年、二十五年という長期間になっているなら、会社側に自分の能力を正しく評価される唯一の確実な方法は、転職の機会を探ることで、自分の市場価値を知ることだ」

    p372
    転職を試したことがなかったせいで、私はほぼ確実に自分が得られる最高額よりも少ない額の報酬しか受けとっていなかった。そして私は時々、疑問に思ったものである。
    「私は会社に対する忠誠心を大事にするあまり、自分の利益をないがしろにしていたのではないだろうか?」

    p388
    ロンドン勤務の一週目には、24~25歳の新人アナリストが、済ませたばかりの取引について初対面の私に次のように説明してくれた。
    「私の顧客は”マペット”ですよ。提案した売買を右から左に素通ししたんですもの。おかげで、50万ドル余計に儲けさせてもらいました」

    何の話かというと、顧客がこの新人を全面的に信用して、同じサービスに対して他社が課している価格を調べようとしなかったから、ゴールドマン・サックスはうまく手数料の過剰請求ができたというのである。これは、会社側の監督が甘いので新人が無茶をやった、などというのとは違っていた。というのも、新人がこの話をしている横には彼の上司がいて、ニコニコしながら何度も頷いていた。

    時代は変わった。私がアソシエイトだった頃には、若手がこんな下品な言動をとれば、デスクを統括するパートナーのオフィスに呼ばれて、厳しい叱責を受けたはずである。いや、叱責で済めばいいほうで、顧客が長期の取引関係を持ってくれるよう、顧客の利益を第一に考えるという、ゴールドマン・サックスが長年にわたって堅持してきた経営哲学に、真っ向から対立すると見られただろうから、馘になったかもしれない。

    p418
    「私はゴールドマン・サックスの社風、その従業員、その会社としてのアイデンティティが、これまでどういう軌跡を描いてきたか、そしてこれからどのような軌跡を描いていくかが理解できるだけの時間を、この会社で働いてきたと思う。そして、正直なところ、ゴールドマン・サックスにおいては、かつて見たことがないほどに内部の環境が毒性を帯び、破壊的となった」

    ゴールドマン・サックスとウォール街は、本来の任務-顧客に奉仕する事-を見失ってしまった。

    p434
    それにしても、そもそもウォール街はどうやって、あれほどの大金を稼ぎだすのだろう?

    それは、一言で説明できる。「情報の非対称性」だ。今日の金融界は、そもそも不公平な世界なのだ。金融機関の側は、市場におけるどの顧客の行動も手に取るようにわかる。カジノ側が客に配られた手札を完全に知ることができ、時にはどの札を配るかを決めることまでできれば、ゲームでカジノ側が一度でも負けるはずはないではないか。

    どこの誰が、どの売買のどちら側(「買い」か「売り」か)についているかを知っているのだ。

  • インターン生は徹底的に質問攻めにされる。そこで求められるのは知識と正直さであり、嫌われるのは嘘とごまかしである。
    新規公開株の主幹事は会社と顧客の利益相反を抱える。会社の問題点に精通しながら、顧客にはなるべく高く売ろうとするからである。
    先物取引の起源は農家が収穫時の販売価格をあらかじめ決めてリスクヘッジすることである。これを株式に応用したのが先物取引である。
    人事評価から人格面の考慮が無くなり、売上という数字の評価のみになっていった。
    06年頃から投資より自己資金による投機が収益のメインと変わっていった。顧客は助言相手から取引相手に変わった。利益相反を敢えて選ぶという理屈がまかり通っていた。資金調達契約書の中断条項を厳格に主張し顧客の現金引き出しは中々認めないようになった。
    08年サブプライムローンにより、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに吸収されリーマンブラザーズは倒産した。GSは政府から金利ゼロで借入可能な銀行に業務転換した。投資銀行ではなくなった。
    質問の仕方を知らない顧客はカモにされた。短期的な利益をを欲しがるようになった。かつての長期的に貪欲であれという格言は忘れられかけていた。
    2010年、証券取引委員会からサブプライムローン販売時の説明義務違反により詐欺罪で提訴される。複雑怪奇な金融商品は顧客どころか作り手さえも理解できていないことがある。
    サハラ砂漠で氷を売る連中が出世し、いい奴は出世できない状況が生まれていた。

  • 最初に知ったゴールドマン・サックスのことは就活時代で、「ケタ違いの年収」の企業というイメージしかなかった。そんなゴールドマン・サックスのここ十数年の変遷を一社員の立場から語った一冊がある、と知って読んでみた一冊。グラウンド・ゼロの頃にNYを訪ねたことがあったけど、まさにそのときに著者もそこにいたそうで少し縁を感じたりもしました。ただ、この本を読んでやっぱり環境が人を鍛える部分が大いにあるように感じましたね。しんどい思いをして、期待に応えて競争に勝って仕事を続けてきた人でないと身につかないものってやっぱりあるなと思います。そんな時期の工夫について、実力を認めてもらうためにできることを自分もまだまだ考えていかないとなと思わされた一冊でした。

  • 【作品紹介】
    日本の読者のみなさまへ
    多くの人にとってウォール街は謎めいた場所のようです。私はあなたのような一般読者のことを念頭に、本書を執筆しました。「大手の銀行がなぜあれほど金儲けができるのか」「金融機関の〈社風〉はどのようにその会社を形づくっているのか」「どういう人物が出世するのか」、それから「金融機関はどうやって利益相反を犯して収益を上げるのか」といった業界の謎を、本書では解き明かしています。この本で目を開かれた、おもしろかったとみなさんが思ってくださることを願ってやみません。――グレッグ・スミス

  • 160730 中央図書館
    南アフリカ出身の著者。綿密でありかつ物怖じせずに献身的に仕事をするユダヤ人という像。スタンフォードを出て、ゴールドマンサックスで過ごした10年の自伝のようなもの。
    投資銀行、トレーディング、デリバティブを説明する金融入門のカラーは薄い。むしろ、インターンシップの中身や、組織内での振る舞い方、人事評価の要諦が、アメリカの中のアメリカらしいウォール・ストリートのトップ企業ではどのように考えられているのかが、非常にクリアに記述されているので、「ライトスタッフ」や「ハーバード・ロースクール」のように知的なことや世俗的成功にアグレッシブな考え方を持つ人向けの修養読み物なのかもしれない。
    テーマは、サブプライム問題以降、ゴールドマンサックスが誠実さやチームワークや顧客への忠誠心が希薄になってしまったという主張。

  • ゴールドマンサックスの顧客に対するスタンスがどのように変わっていったのかを、社員として働いていた作者の視点で書いており、大変興味深い内容だった。
    やはり投資は人の意見鵜呑みにしてやっちゃいけない。確実にババを引かされるということが判った。

  • 大卒後投資銀行に12年勤続し、時代の変わり目を見た著者の自伝。

    仕組み債の話は食傷気味だが。環境は大いに違っていても、上司に対してどう根回しするかという点に関しては学べることがとても多い。

  • 確約された将来を投げ打ってまでよくこんなリスクの高い内容を書けたと感心するばかり。ただの告発本ではないのは、彼がゴールドマン・サックスや金融界に心から愛情を持っていて、変わってほしいという目的のもとに書かれているところであり、愚痴や文句の本ではまったくないので素晴らしい。

  • 世界トップの学生がGSに洗脳され、生き残りをかけ争う様子が生々しく描かれていて面白かった。かつての顧客第一主義から、儲け第一主義へと変貌(著者曰く腐敗)したGSひいてはウォール街に一石投じたい思いで執筆したとのこと。けど、著者入社時点=ドットコムバブルが崩壊した時期に果たして著者の言う伝統の投資銀行業務がメインだったかは疑問だし、辞める前に高額の報酬を要求していたとのことだし(GS側の主張)、何より退職関連の話は飛ばされていたし、あくまでも、中堅社員から一方的に見た手記、とのことで。

  • 如何に欧米系の金融機関がセコく金をむしり取っているかが書かれており面白い。

    著者の語ることが真実の全てではないと思うが、世界最高峰の金融機関の世界を少しでも味わうにはもってこいの内容。

    量の割には読み易く、スラスラと読み進められるのも良い。著者の人間性の素晴らしい部分が垣間見られ、「あなたも所詮はその組織に手を貸していたのでしょ?」何ていうことを感じずに読了。

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著者プロフィール

1978年、南アフリカ共和国ヨハネスブルグ郊外に生まれる。高校を総代で卒業すると同時に、米スタンフォード大学の全額給費奨学生の権利を得て渡米。大学1年次に受けた経済学の授業に触発されて進路を決める。3年次の2000年にゴールドマン・サックスで夏期インターンシップを経験し、新卒で採用される。入社直後の2001年9月11日、ニューヨークを襲った「同時多発テロ」を目撃する。
入社3年目で20億ドルの先物取引をこなし、20代後半でヴァイス・プレジデントとなる。その4年後、32歳の時にロンドン異動を命じられた。ロンドン時代は、欧州、中東、アフリカ向けのデリバティブ事業責任者として活躍。
その間、特に2008年の世界金融危機以降の社風の変化に疑問を持つようになり、2012年春に12年勤務したゴールドマン・サックスを退職。「私がゴールドマン・サックスを去る理由」”Why I Left Goldman Sachs”と題する手記を『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿して話題となる。

「2012年 『訣別 ゴールドマン・サックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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