悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 617
感想 : 107
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062163705

作品紹介・あらすじ

父から「悪の欠片」として育てられることになった僕は、「邪」の家系を絶つため父の殺害を決意する。それは、すべて屋敷に引き取られた養女・香織のためだった。十数年後、顔を変え、他人の身分を手に入れた僕は、居場所がわからなくなっていた香織の調査を探偵に依頼する。街ではテログループ「JL」が爆発騒ぎを起こし、政治家を狙った連続殺人事件に発展。僕の周りには刑事がうろつき始める。しかも、香織には過去の繰り返しのように、巨大な悪の影がつきまとっていた。それは、絶ったはずの家系の男だった-。刑事、探偵、テログループ、邪の家系…世界の悪を超えようとする青年の疾走を描く。芥川賞作家が挑む渾身の書き下ろしサスペンス長編。新たなる、決定的代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 「悪と仮面のルール」
    邪悪な家系に囚われた男の話。


    お前は邪に育てるために私の意思で生まれた。お前に生得の権利などない。お前は邪になる。お前は邪を避けようとして邪となる。それは変更されない。


    久喜家の当主である父は死ぬ前に僕にそう告げたが、父に久喜家の歴史を告白された時点で僕は既に邪だった。


    世に邪を生み出す風習がある久喜家に生まれた久喜文宏が、初めて好きになった香織(久喜家養女)を久喜家から守り通す物語。ともすれば純愛小説に見えるが、邪に苦しむ文宏の苦悩の物語の様にも見える。香織を陰から守る為、父を始め一人また一人と殺していく。殺された相手は悪人であり、文宏にとって香織は悪も善も超えた存在であることを踏まえると、自らを邪と認識している文宏は気に病むことは無さそうだが、父に取り込まれたように顔が父に似ていき、麻薬の売人を殺した時は後悔を吐露するかのような悪夢にうなされる。


    本書のテーマに愛が含まれるとすると文宏が苦しんだ邪もその1つだと思います。邪をもっと具体的に言えば、人は何故人を殺しをしてはならないか?。父や兄は邪としての喜びを語り尽くす一方で、文宏は香織を守る為に人を殺したからこそ分かる感覚や重さを邪を引き継ぐ伊藤に語るが、その語りの量は膨大。その後、伊藤が殺人を犯すことは無かったのかは定かではないが、伊藤と文宏はある種の信頼関係を結ぶことになる。


    最終的には香織に本性を告げず、久喜家の魔の手から彼女を守り切り、海外に逃げることになる文宏だが、そこで探偵のルール破り(プレゼント)が発覚する。


    全てを投げ打ってきた文宏がその後どのような人生を歩んだのか興味深い終わり方だった。

  • 201803
    あとがきがなーい。著者のあとがき好きなのに。共に生きましょう。

  • 殺人を犯したという
    罪に苦しむ 主人公の姿が
    とても哀れです
    こんなやつらのために苦しむなんて
    割に合わないと思うから
    殺人に一歩踏み出すべきでは
    ないのかもしれません

  • いつか読もうと思っていた作家だが、今は作家が多すぎてフォロー仕切れずにいたが、米国でも有名になり本作が映像化されるので読んで見た。一風変わった小説である、貫井徳郎風でもあるがちょっと違う。基本は殺人犯の話ではあるがピカレスクロマンとも言い難い、悪に対する考察や邪についての説明があり理屈っぽいところもある。最後香織が現れるのかなとも思ったがもう一人の方が現れたがまあそれもいいかな。途中北にミサイルを打たせるという話は今としてはタイムリーであるし、そうなればきっと9条を守れなんてのは忘れ去られるのであろう。

  • 1日で読み終えた。
    タイトルや、出だしから興味を惹かれて読み進めたが、結局、いつ面白さのピークが来るのだろう、と思いながら読み終えていたと言う感じだった。

    ストーリー自体はとても重く、引きずり込まれそうな感じだが、一人の女性を愛するが故の行動、主人公にそこまでの異常性は感じられず、以外にあっさりと感じた。

    私の読み方が浅かったからかな?

  • 邪として育てられ、大切な人を守るために父を殺し、その重みに苦しめられる男の純愛の物語。

  • 50悪魔の伝道書

  • 絶対的な父親から『邪』になることを決められた久喜文宏。久喜家の養子として連れてこられた香織。
    二人はお互いに気持ちを伝え、心と身体で愛し合う幸福な時間を過ごす。

    文宏の父親は彼が十四歳になったら、彼を『邪』にするために地獄を見せると予告した。それは香織が痛めつけられることを意味していた。
    十三歳の文宏は香織を守るため、香織にも誰にも秘密で父親を殺す。

    二十代後半になった文宏は相続した久喜家の遺産で、別人の身分を買い、別人の顔に整形していた。
    探偵を雇い、大人の女性になった香織の情報を集めた文宏は、彼女に危害を加えようとする詐欺師や実の兄を殺す。

    久喜家の『邪』の呪いに生まれてからずっと悩まされてきた文宏は日本を離れることにした。
    自分が人を殺したことについて悩み、再会した香織にも別人として接した文宏。離陸した飛行機のなか、彼の横にいる女は飲み屋で声をかけた吉岡恭子だった。

    --------------------------------------

    十三歳で愛する人のために父親を殺し、『邪』を背負わされた少年が、大人になってからもその中途半端な『邪』に苦しみつつも、陰ながら愛する人を守るために二つの殺人を行う話だった。

    少年時代から一気に大人に変わるあたりが、なんとなくドラクエ5っぽいなと思った。大人になった文宏と香織が結ばれなかったところは、ビアンカじゃなくてフローラを選んだって感じ。

    子は親を選べない。
    でも、未来は少しくらいなら自分で選べる。

    (久喜家の人たち全員頭おかしすぎて最初のほう読むのがしんどかった)

  • 純愛はニヒリズムを凌駕する。

  • この本は一人の女の子をさまざまな悪から守るため、悪をもって悪を征していく究極の愛の物語です。登場人物の全員にそれぞれのルールがあり、そのルールに沿って生き、死んでいきます。この本は悪をキーワードとして生と死に向きあっています。主人公が生きる理由はかおりとの幸せな記憶を残していたいから。

    とても面白い本だった。特に登場人物が魅力的だった。どんなに社会的成功者でもどんなに悪を背負った人でも、どんなに平凡な人でもだれでも愛を求めていた。だから共感できるところもあった。人間の根本を知れた気がする本だった。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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