私が最も尊敬する外交官 ナチス・ドイツの崩壊を目撃した吉野文六

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062148993

作品紹介・あらすじ

日本の外交官と外務省の隅々までを知り尽くす佐藤優が、これまでに接した当事者のなかで能力、実績、人格ともに最高に評価するのが吉野文六氏。95歳。
吉野氏は、沖縄返還において日米両政府間に密約が存在したことを、2006年に日本側の交渉当時者として初めて明らかにした。アメリカ局長、外務審議官、旧西ドイツ大使などを歴任した外交官の「職業的良心」はいかに生まれ、形成されていったのか。
旧制高校時代に身に叩き込んだ英米系哲学、帝国大学での学生記者経験、高等文官試験を行政科・司法科・外交科すべて合格し、外務省へ入省。真珠湾攻撃前夜の太平洋を横断、たどりついた北米大陸での見聞、動乱の欧州を視察してベルリンへ。、松岡洋右外相、野村吉三郎駐米特命全権大使らのエピソードや、各在外公館でおこなわれていた諜報活動、またソ連のドイツ侵攻時に、在ベルリン大使館から南方へ避難した大島浩大使からの下された決死の司令。1945年5月ナチス・ドイツ第三帝国が崩壊する瞬間に立ち会う。そして命を賭してシベリア鉄道横断からの帰国。
1941年から1945年にかけた激動の欧州を青年外交官はどのようにとらえたのか。本書は、若き外交官の真実のビルドゥンクス・ロマンである。
太平洋を渡り、アメリカ経由でのドイツ赴任行のとき、ドイツ語でつけた日記が、近年、奇跡的にビュルツブルグ大学図書館で発見された。その全文も併せて収録する。吉野文六と佐藤優が語り合う新感覚のオーラル・ヒストリー・ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 沖縄返還に関わる取材から、佐藤優が掘り起こした、あの日、アノ時、の物語。時は、1945年5月、場所は、ソ連軍の猛攻に晒された首都ベルリン。ドイツの首都陥落を経験した日本人外交官(吉野文六氏)へのインタビュー そして佐藤優の解説等もあり。時の全権大使‘大島浩‘の逃避行等についても記載。ベルリンにソ連軍が迫る中、在独在留邦人の保護等に勤めることもなく、大使館幹部とともにドイツ南部への逃避行(観光旅行な)を行っている大島全権大使ご一行の行状等に、いやはや、であります。日独防共協定を結んだ大島浩のひとつの実像でもあります。

  • 読もうと思ったのは、沖縄返還の際のさまざまな密約について、近年自分が関わったことを認めた吉野文六さんについて、もっと知りたいと思ったため。しかしながら、内容は吉野さんが外交官になった初期のドイツ駐在時代の、ナチスドイツの崩壊過程についてであり、残念ながら沖縄密約の話なかった。まぁサブタイトル通りではあるが。
    そして、佐藤優のスタイルなのだろうが、他の著書からの引用が非常に多くて、吉野文六さんの話というよりは、吉野さんの話もワンオブゼムで、いろんな資料から戦時中のナチスドイツの経過や、当時の日本の外交を整理した本という印象。オーラルヒストリーならもっと読みやすかったと思うが、引用が多くて少し読み疲れる感じ。

  • 副題の通り第二次世界大戦でのドイツ崩壊を目の当たりにした、外交官のノンフィクションの内容で興味深い。日本を含め敗戦国の直前の混乱ぶり、人間としての本性がよく分かる。そしてロシアのしたたかさというか、酷さがわかる。

  • 筋を通す、人の生き方として至難の技である。
    国益を考える時、後世の人間が、あの時の判断はそれがよりベターな判断であったと追認できるような処理の仕方。
    私心を捨て、冷酷な決断が必要だ。
    佐藤優さんが最も尊敬する外交官 吉野文六さんの取ってきた行動を著した著作でした。
    外交官という職責、命を賭しての職務遂行だ。
    内容
    第1章 教養主義
    第2章 若き外交官のアメリカ
    第3章 動乱の欧州へ
    第4章 学究の日々と日米開戦
    第5章 在独日本大使館・1944
    第6章 ベルリン籠城
    第7章 ソ連占領下からの脱出
    第8章 帰朝
     吉野文六 ドイツ語日記
     あとがき

  • ナチスドイツの行動についての現場報告。ヒトラーはナチスの原理を体現していたがヒムラーとゲーリングや軍人は反共で一致していたのみで官僚主義的で真のナチではないと分かる。ヘスの渡英も自己判断での実施とのこと。日本がナチスドイツのゲリラ戦ノウハウを輸入し毛沢東のゲリラ戦研究していたのは驚き。

  • 本書は、佐藤優が、後に外務省アメリカ局長となる吉野文六氏から、第二次大戦期に当たる駆け出しの外務省員の頃の話を聞くという形を取っているが、純粋なインタビューだけでなく、佐藤優の解説部分も多い。吉野氏の沖縄返還時の密約問題はともかくとして、このインタビューの対象となるのが、太平洋戦争直前のアメリカの様子とか、第二次大戦中のドイツ各地と敗戦時のベルリンという歴史の舞台そのものであり、非常に興味深い。ドイツ敗戦時のベルリンについては、新関欽哉の「ベルリン最後の日」を読んでいたので、それとの関連や対比を含めて面白かった。

  • あの当時のドイツの大使は本当にこんな行動をしていたのか。悲しさを感じる。

  • 日本大使館にはドイツ人の女性タイピストが2人いた。2人ともユダヤ系だった。日本大使館はあえてユダヤ系ドイツ人を雇用していた。親日だが反ナチスという知識人は多かった。そのような人々の依頼に応じて、日本大使館は、あえてユダヤ系ドイツ人を庇護したのだった。同盟国である日本の大使館に勤めているならばゲシュタポもうかつに手を出すことができなかった。

  • 何故、ドイツが米国やソ連に戦争を仕掛けたか。
    大島ドイツ大使のような情勢認識と判断能力に劣る無能が、日独の軍事同盟を推し進めた事実を歴史にきちんと刻み込む必要がある。本著を読む限りでは、大島大使は確かに酷い。しかし、外交に限らず、物事の決断には、その役割を担った個人の資質に左右される事が多いのは事実、情報がその担当のフィルターを通じてしか得られない場合は特に。その決断が国単位で国民全体に影響を与えるとなれば、考えるほど恐怖である。

    佐藤優も書いている。人間の職業選択などというのは、ちょっとした偶然で決まる。この偶然が人生を大きく左右するのである、と。況んや、国事をや、だ。

    本題に入る。

    このドイツでの経験が吉野文六にとって、どのような影響を与えたか。沖縄返還時の密約の取り扱いに際し、当然、その影響は小さくない。一人の人間としての感情、判断能力、職業的良心の形成、そこへの忠実度の醸成という意味においてだ。しかし、本著では、この沖縄返還におけるエピソードは語られず、戦争の終わりと共に幕を閉じる。つまり、判断が形成された過程のみを語り、理解せよという趣旨だ。

    佐藤優の著作は、雑誌に寄稿する類の時事問題への評論的な本と、対談本、自らの実体験を語る本、記録を整理した本に類別できる。本著は対談本でありながら、過去の記録の整理も合わせて試みた本。佐藤優の記録整理、解説本は当たりが多い。読んで損はない。

  • 分厚い本のわりにさくさく読めた。第2次世界大戦時、ドイツに赴任していた吉野氏の体験談。ただ、当時まだまだ下っ端だったので、本のタイトルから期待するようなナチス・ドイツのリアルを垣間見ることはできないが、当時の日本人の考え方が現代と同じような感じなのが意外だった。映画でもなんでもステレオタイプにしすぎなんだな。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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