堕落する高級ブランド

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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062146920

作品紹介・あらすじ

誰よりもブランドを愛するファッション・ジャーナリストが描く「高級ブランド」神話の栄光と矛盾。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の立ち位置はアンチ高級ブランドではないし、邦題が示すとおり高級ブランドの「堕落」した部分を批判はするが、最終章を読めば明らかなように、その前提として「堕落していない」高級ブランドこそ、この世の真・善・美を体現するものだ、との価値観を背景にしている(やや大げさに言えば、であるが)。ここのところになんら引っかかりを覚えない読者であれば、本書は非常に気の利いた高級ブランドの大衆化批判として、またグローバル化、株主(収益)至上主義化批判として、興味深く読めるだろう。もちろん、普段ブランドのこと等一切考えたことも無い評者のような読者であっても、それぞれのブランドの成り立ちや買収合戦などの近年置かれた状況についてもわかりやすく説明してくれていて、これだけでちょっとしたブランド雑学に親しむこともできる。
    ただ、冒頭示した価値観にやや引っかかりを覚える一読者からすれば、例えば、偽ブランドビジネスを即、人身売買や児童虐待、麻薬密売などの犯罪行為と結びつけ悪辣非道であるかのような印象を与えるような書きぶりには、「なぜ偽ものを売ることが悪いのか」という本質的な問いに答えず、議論を横道にそらせて誤魔化しているように思えてしまうのだ。ほぼ本物と見まがう品質の偽物が10分の1の値段で売られているとすれば、それはブランドの信用に傷をつける行為であると同時に、実はその信用の基となっている品質の価値そのものに疑問が投げかけられているということを忘れるわけにはいかない。
    本書の中で特に非西欧系の富裕層を形容する際に「完璧なマナー」や「クイーンズイングリッシュ」などの表現を見るとき、無意識の文化帝国主義を感じてしまうのだが、考えてみれば高級ブランドこそまさに諸文化間の階層構造を資本主義市場の中に厳然と位置づけるためのキーストーンなのだった。極東の文化植民地の一大衆読者としてはそんなことを考えさせられた。

  • ルイヴィトンやシャネル、エルメスなど所謂高級ブランドがここ最近の景気減速を受け売上げを落としていることは、報道でも知られている。一方、ユニクロやH&Mなどのファストファッションブランドは、勢いを増している。<br /><br />こうした現象が、実は景気減速などといった一時的な現象ではないことが本書を読むことでより理解できる。そもそも、高級ブランドはかつて、限られた特定の顧客だけを相手に、クラフトマンシップによる高い品質とサービスに裏づけされる、目に見えない価値を提供していた。しかし、株式会社化することで、目に見えない価値を利益という目に見える形で追求した結果、本来限られた顧客のためのブランドが中間所得層を相手にしはじめ、ブランドの大衆化・民主化をもたらす。さらに、利益を求めた結果、コスト削減に走り、生産を中国などの安価な労働力に求めてしまった結果、その根幹である品質への妥協という禁じ手に手を染めてしまうのである。<br /><br />本書は、多くの著名なブランドについて、創業ストリーからその発展まで丹念に取材し、それぞれのブランドが提供してきた核となる価値について書いている。しかし、残念ながら創業時のポリシーをそのまま現在においてもかたくなに守り続けているのは、シャネルとエルメス位であり、その他は全て利益至上主義の薄っぺらい虚構であることが本書で浮き彫りにされている。<br /><br />バッグや香水、スカーフ、など全ての高級ブランド製品の世界市場規模は、1500億ドル、つまり1ドル100円換算にして15兆円にもなるという。そして、ルイヴィトンやPPR、リシュモンなど主要なブランド企業集団が35グループあり全体の売上げの60%を占めるという。残り40%が無数の小規模なブランド群である。<br />しかし、何よりもショッキングなのは、その世界市場の47%の消費が日本人によってなされており、二位のアメリカ18%、ヨーロッパの16%を大きく引き離しているということである。日本人のブランド好きは、誰もが知っていることであるが、これほどまでに世界市場でのプレゼンスが大きいとは呆れるばかりである。いわば、日本人はこうした欧米の高級ブランド企業のカモにされていたと言っても過言ではないであろう。<br /><br />しかし、日本でも以前と比較してブランド信仰は弱まったような空気は感じる。最大の顧客である日本人が買わなくなって困るかと思いきや、高級ブランド企業の次の標的は中国やインド、ロシア、ブラジル、所謂BRICsだ。中国は、ブランドの最大の生産基地であるばかりではなく、今後は豊富な人口を背景とした消費地として大きな成長が見込めるという。<br /><br />ブランドは、それ自身の民主化・大衆化を成長の源泉としてきた。今後、グローバル化に伴う新興国での政治経済の民主化・大衆化の機会が存在する限り、たとえブランドの根幹が失われようとも、かつて先進国で行われてきたことがまた繰り返されるのであろう。本書のタイトルにあるように、ブランドは堕落し、そして輝きを失っているが、それはあくまでも先進国の中だけであり、新市場で貪欲に新たなカモを捕まえ続けるであろう。日本人が少しでも利口になった兆しが見えるのがせめてもの救いであるが。

  • 結局、希少価値のあるラグジュアリーという概念をなくした高級ブランドが儲けのために大衆化を図ったため、ブランド=素晴らしい品質で高級という図式が崩壊してしまったということが長々と書いてあるだけ。
    偽物の増加などもそれに寄与しているそうです。

    海外の人の書いた本って要点だけ書いてないから苦手です。

  • 面白かった!
    ハイブランドは商品ではなく「商品を手に入れたら幸福になれる」という虚像を売っているという事を改めて理解した。
    少しネガティブに聞こえるが、そんな虚像を作れることはすごい事だと思う。「幸福な被害者」であり、もしかしたらその人はそれ以外で幸福になれなかったかもだし。
    アルノーだって、資本主義の「幸福な被害者」ではないか?

    株や財産、名誉、地位、ほとんど目に見えないものにこんなに踊らされてるのはすごい社会だ

  • 蔵書整理で手放すので、再び出会い読む日もあるか

  • ビジネス

  • ルイヴィトンやシャネル、エルメスなど所謂高級ブランドがここ最近の景気減速を受け売上げを落としていることは、報道でも知られている。一方、ユニクロやH&Mなどのファストファッションブランドは、勢いを増している。

    こうした現象が、実は景気減速などといった一時的な現象ではないことが本書を読むことでより理解できる。そもそも、高級ブランドはかつて、限られた特定の顧客だけを相手に、クラフトマンシップによる高い品質とサービスに裏づけされる、目に見えない価値を提供していた。しかし、株式会社化することで、目に見えない価値を利益という目に見える形で追求した結果、本来限られた顧客のためのブランドが中間所得層を相手にしはじめ、ブランドの大衆化・民主化をもたらす。さらに、利益を求めた結果、コスト削減に走り、生産を中国などの安価な労働力に求めてしまった結果、その根幹である品質への妥協という禁じ手に手を染めてしまうのである。

    本書は、多くの著名なブランドについて、創業ストリーからその発展まで丹念に取材し、それぞれのブランドが提供してきた核となる価値について書いている。しかし、残念ながら創業時のポリシーをそのまま現在においてもかたくなに守り続けているのは、シャネルとエルメス位であり、その他は全て利益至上主義の薄っぺらい虚構であることが本書で浮き彫りにされている。

    バッグや香水、スカーフ、など全ての高級ブランド製品の世界市場規模は、1500億ドル、つまり1ドル100円換算にして15兆円にもなるという。そして、ルイヴィトンやPPR、リシュモンなど主要なブランド企業集団が35グループあり全体の売上げの60%を占めるという。残り40%が無数の小規模なブランド群である。
    しかし、何よりもショッキングなのは、その世界市場の47%の消費が日本人によってなされており、二位のアメリカ18%、ヨーロッパの16%を大きく引き離しているということである。日本人のブランド好きは、誰もが知っていることであるが、これほどまでに世界市場でのプレゼンスが大きいとは呆れるばかりである。いわば、日本人はこうした欧米の高級ブランド企業のカモにされていたと言っても過言ではないであろう。

    しかし、日本でも以前と比較してブランド信仰は弱まったような空気は感じる。最大の顧客である日本人が買わなくなって困るかと思いきや、高級ブランド企業の次の標的は中国やインド、ロシア、ブラジル、所謂BRICsだ。中国は、ブランドの最大の生産基地であるばかりではなく、今後は豊富な人口を背景とした消費地として大きな成長が見込めるという。

    ブランドは、それ自身の民主化・大衆化を成長の源泉としてきた。今後、グローバル化に伴う新興国での政治経済の民主化・大衆化の機会が存在する限り、たとえブランドの根幹が失われようとも、かつて先進国で行われてきたことがまた繰り返されるのであろう。本書のタイトルにあるように、ブランドは堕落し、そして輝きを失っているが、それはあくまでも先進国の中だけであり、新市場で貪欲に新たなカモを捕まえ続けるであろう。日本人が少しでも利口になった兆しが見えるのがせめてもの救いであるが。

  • 今までのようなモノづくりを続けていくためグローバル化や顧客層の拡大を図ったと考えることことも出来そう。

  • 筆者が、ブランドを、少なくともかっての、筆者が本来のブランドと考えるブランドを、とても愛していることが、読んでわかります。非常に面白く読んだ。残念なのは、原著の書かれたのが2007年で、それ以降にも、多くの変化が起きていると思う。ぜひ、本書に書かれた以降の、ブランドの現状について、知りたいと思う。

  • 高級ブランドの興隆史。西欧ブランドを中心に高級ブランドが拡大、そして大衆化していく姿を鮮やかに切り取っていく。
    久方ぶりに高い服買いたくなってきた。

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