最後の命

著者 :
  • 講談社
3.24
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本棚登録 : 218
感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062139595

作品紹介・あらすじ

ある日、帰宅するとベッドの上で女が死んでいた。警察で取り調べを受ける私は、そこで意外な名前を聞く。その名は、私を強制的に記憶の奥底へと引き戻す-。少年時代に起こったひとつの強姦殺人事件。その日を境に心の奥底に宿った欲望の種子は、ふたりの男の運命を切断していく。暴力、欲望の生みだす罪。その残酷さの中にある人の希望とは!深遠なテーマと向きあい、たどり着いた著者の新境地!渾身の傑作長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 二人の少年がホームレスの強姦事件を目撃する。発覚することを恐れたホームレスは強姦した女を殺す。幼い二人の心には衝撃と罪悪感が植えつけられた。

    一方の少年は女性を怖がりつつも、性交渉の練習のような経験を重ね、精神を病みつつも大人になった。
    もう一方の少年はレイプされる女性にしか興味を持てず、危ない橋を渡り続け、警察から追われる身になっていた。

    ベッドの上で死んでいた女を殺したのは誰か。本当の罪とは何か。
    一方的なメールの告白で明かされるトラウマによる苦悩の日々。

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    幼少期に見てしまったレイプ現場。少年二人はそれにとらわれ続けた。すごく難しい話だと思う。
    おっぱいが大きい人が好き、とか、色白な人が好き、という性的嗜好の人はとてもラッキーだ。自分のタイプの人にアタックすればいいのだから。
    けれど、今回の話のようにレイプでしか興奮できなくなってしまった人や、ロリコン趣味の人など、自分の欲望を満たそうとすると犯罪になってしまう。
    もちろん他者に迷惑をかけてまで自分の欲求を満たす行為は許されない。だけどどうしてだろう。彼らを悪者だとは思えない。かわいそうな存在だと思ってしまう。
    疑似体験で欲求を満たせばいいとか、そういうプレイができるお店で性処理してもらえばいい、というのは性的嗜好がノーマルな側の意見だ。だれだってリアルを求める。それが人間の本能だ。

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    どちらが殺人を犯したのかをはっきりさせないのは最高のラストだと思う。震えた。

  • 過去に、衝撃的な出来事を経験してしまった二人がそれぞれ縛られ、それぞれに違った、とてつもない影響を及ぼされてしまった。 

    レイプを目撃するという、その出来事さえなければ、普通に生活できていたかもしれない、少なくとも今みたいに悩んだり
    生きることに苦しくなっていなかったかもしれない、

    でももしかしたら、その出来事がなくても、自分の恐ろしいもう一人の自分からは逃げられなかったのではないか、

    などと、自分についていつまでもいつまでも深く深く考え悩む姿は、共感してしまう。


    人と違う、明らかに自分はおかしいと思う部分があると、それを隠そうと表面的にはとても上手に取り繕うとする。それができるほど、本来の自分とのギャップに差がありすぎて、自分がぼろぼろと壊れていく気がするんだよなぁ、と。
    なんとなく、主人公のやっていること、考えてること、分かる気がした。


    こんなにも矛盾だらけの人の気持ちに、深く入り込むことができて、
    そんな経験ができたので、この本を読んで良かったとは思う。



    最後に、主人公が窓の外に、豆電球で安っぽい光を灯すシーンの終わり方はなかなか良かったと思う。
    小説の真ん中らへんで、
    クリスマス前にライトアップされたそれぞれの家のイルミネーションに、
    主人公の恋人が、
    幸せな家に見えるね
    と話していたところにつながるからだ。

  • この方の作品を読むのは2作目。
    主人公の想いを語る事で物語が進んでいく感じ。
    その想いがちょっと重いと言うか、くどいと言うか。
    トラウマが重なって性に不安を抱く主人公と同じトラウマを共有して性の悪に目覚める友人。性癖って元々持ってるものなのか。そんな事を考えさせられる作品でした。でも私は性癖は何かのきっかけ次第じゃないかと思う。結局トラウマ的なそうなる何かきっかけがあるんじゃないかと思いながら読みました。
    また男の人の性衝動は私にはわからないのでやっぱり読んでて謎です(笑)

  • まず最初に本を開いて、折り紙のような銀紙に、黒字でタイトルなどが書かれたページに圧倒した。このような本は初めてだったので、なおさら印象深く残っている。はっきりと映し出す鏡ではなくとも、銀紙なので本の前にいる自分の顔や背景が歪んで見え、これから読む物語の内容を示唆しているかのように感じた。
    しかし物語は予想を遥かに超える陰鬱なものだった。著者の本を読むのは「銃」を読んで2冊目。今回の本もダークなストーリーなんだろうなという考えを頭からいきなり殴られたよう。集団レイプの現場を見てしまった子どもたちを無理やり共犯に仕立て上げたホームレスたちに怒りを感じた。最悪なトラウマを植え付け、子どもたちのその後の人生が大きく狂い、悪い影響を与える展開に。
    前作の「銃」では目を背けたくなる程度だったが、これはもう読むのを辞めたくなるほど。でも、犯人が気になるしな...という思いで読み進めてみる。途中、ドキュメンタリーで見た小児愛者の話を思い出した。「自分の理性を日常的にコントロールしなければいけない。子どもを無意識に見てしまうと性的衝動に駆られるから、目を逸らすことを常に意識して見ないようにしている。これが制御できなければ捕まってしまう」詳しくは忘れたがこのような内容だったと思う。
    特殊な性癖を持つということは、社会から常に後ろ指を指されるため、生きづらくとても大変だ。その思いは理解できるが、共感はまったくできない。
    結局、犯人は誰だったのか。自分の親友か、自分の恋人か。どちらにせよ、残酷な話だがそれを曖昧にすることで、この物語で重要なのは犯人の正体ではない、という著者の意図が見受けられる。
    この物語を読んで酷く疲れてしまった。生々しいレイプの現場を描いて(現実はもっと酷いのだろうけれど)、読者にもトラウマを見事に植え付けた著者の表現力は凄まじい。けれどこの著者の本はあまり女性受けは良くないと思う。男たちの身勝手さが描かれており、本を読み進めるにつれ怒りが沸く。きっとこれからも再読はしないだろう。

  • 中村氏のは全部追っかけてると思い込んでいたのに、これが抜けていました。2007年ですからかなり初期ということですね。

     悪ということに正面から向かってやはり悪は勝ってはいけないけれど、排除はしたくないという複雑な思いが伝ってきて好感が持てる作品です。あがいているのがいいですね。
     追っかけだからいえるのであって、作品としてはまだ粗削りすぎたかなということで☆3個。

  • 幼少期に負ったトラウマ。
    その後も歪み、軋み続ける心。
    罪とは、罰とは、狂うとは、生きるとは。
    全編苦しみ悶え続ける。

  • 生きることの意味や価値をあらためて考えさせられるという意味で示唆に富む1冊だった。

  • 暗い、分からない。理解や同意もできない。言いたいことも分からない。わかる人にはわかるのかも。

  • とっても暗い。
    もう1人の自分がいつも線路に飛び込んでる感じ。
    レイプが関係してくる話なので読めない人があると思う。
    思春期から引きずってしまっている抜け出せないどうしようもなさが痛々しく突き刺さります。

  • 淡々と進み、淡々と読んだ

     素晴らしいという評価が多い中、私にはその感じがわからなかった。だから、エンディングの意味がわからなかった。自死しようとしていたのではないかと思い何度か読み直したが、そうではないようだ。きっと、豆電球を使ってガスか何かで一緒に死のうとしたと思ったのになぁ。どこで読み違えたのかなぁ。

     映画化もされている作品だが、どうもピンとこない作品だった。狂気の世界は理解が難しい。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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