円朝芝居噺 夫婦幽霊

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062138055

作品紹介・あらすじ

円朝が「残した」速記録を解読し、幻の傑作落語『夫婦幽霊』を現代に甦らせる。さらには、そこから浮かび上がる芥川龍之介の影…。辻原登が描く古今無双の知的エンターテイメント文学ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 偶然手に入れた落語の速記録を翻訳。
    そしてそれが書かれた真相に迫る…?

    「黒髪」からちょっと繋がりがあります。
    すごく凝ってる。
    『夫婦幽霊』の口演を聞く(読む)だけでもわくわくして面白い。
    円朝さんの語りに引き込まれる。

  • ストーリーの展開が、まるでノンフィクションのようで、楽しめた。
    速記録の解読と考察、それに夫婦幽霊の筋立てが入り交じり、読者を先へ先へと誘う。

  • 伝説の噺家円朝の未発表演目「夫婦幽霊」がとある国文の研究者の遺品の中から見つかり、はたして偽書か本物かを検証するという流れ。
    この小説のほとんどは「円朝でございまする」から始まるこの「夫婦幽霊」が占めている。ところどころで入るしゃれた訳注、最初からメタな感じ、途中で幽霊のごとく出現する、その当時にはなかったはずの速記記号など。
    円朝とのエピソードはあらゆる作家の(というほどでもないかな)随筆や日記から出てくるのですが、有名どころだと芥川龍之介があげられる。
    この作品でも最後に芥川と円朝の倅との共同作品ではないかなぁというやんわりとした落とし方をしている。
    結局偽書か本物か、著者の予測通り芥川と円朝倅の共同作品なのかは結論付けられていない。
    でも流れ的に、この作品自体がとってもきれいな「奉教人の死」の本歌取りというやつじゃなかろうか。
    つまり「夫婦幽霊」自体が「奉教人の死」の『れげんたおうれあ』的なね。
    「抱擁」といい、辻原さんやっぱり好きです。

  • 縁あって作者の元に二十万円の代価でやって来た反故の紙束が実は三遊亭円朝の未発表作品の速記記述。
    現在廃れてしまったその速記を解読し、文章に起こしなおしたのが本文。本文『夫婦幽霊』の前に手元に置いた経緯、後に種明かし的なことが書かれている。

    最初、フィクションかと思って読み始め、だんだんと「?」と思いつつ読み、最後に「うわ、してやられた!」となる本でした。

  • いつか誰か(久世さんだったろうか?)の書評で見かけて気になっていた作品。
    丸善で文庫化して平積みされているのを見て、図書館で借りてみた。

    筆者が親戚を通じて受け持ちかけられた「反故」と記された古紙の束。そこには田鎖式という今は途絶えかけた速記で記された三遊亭円朝晩年の未発表作品という可能性が出てきた。

    筆者は古本屋の店主には何食わぬ顔で「これも故人の供養・・・」と呟きながら反故束を手に入れ、伝を辿り田鎖式の継承者と連絡を取ると円朝の「翻訳」にとりかかることにする。

    その外題こそ「夫婦幽霊」
    安政の大地震に際に隠されたとある殺人事件と大金を巡る、男と女の血なまぐさい事件を取り扱った、円朝得意の幽霊噺なのである。

    物語は毎夜毎夜、円朝が安政の大地震当時の自分を振り返りながら(なんと、円朝その人も物語の重要な登場人物なのである!)事件の核心に迫っていくという時代ものであり、ミステリーであり、捕り物という落語の魅力てんこ盛りの作品だ。
    「口述筆記」ではなく「口演速記」な分、その描写は生々しく躍動感にあふれている。
    当時の日本といえば言文一致運動は起こりつつあったがまだまだ生硬な文章語しかひねり出せていなかった。
    この背景を考えると彼は言葉の魔術師であり、日本語の文章語の成立に円朝の落語が欠かせなかったという指摘はなるほど、とうなづける。更に日本語の文章語の完成は落語、漢文両方に素養があった漱石の登場を待たねばならないらしいのだがそれはまた別の噺。

    金、殺人、幽霊、と生臭い話ながら円朝の滑らかな口上で聞いていると不思議と恐ろしい気はせずどんどん先を知りたくなるから実際の高座はもっと興奮に包まれていたことだろう。

    各夜の終わりには訳者の注釈という頁が設けられ、落語や時代背景について不案内な読者への説明が施されている。
    そこには筆者の推理なども含まれ「反故の来歴」についてもぽつりぽつりと自体が判明してくる。

    そして「円朝噺」自体の翻訳が終了すると「ではこの速記を遺したのは誰なのか?」というもうひとつの疑問が残る。
    それについては筆者の推察が光りひとつの結論が導き出され、各夜の注釈が実は大きな複線であった事が判明しする、という非常に凝ったつくりになっている。

    口演速記は速記されたものを改めて翻訳するというひと手間加わるため、「録音テープ起し」とは若干異なるものらしい。
    なぜなら速記には一人称がひとつしかないため英語の"I"を日本語に翻訳するのと同様に「私」と訳すか俺、ボク、あたしなどと訳すかは翻訳者その人の力量の委ねられるからだ。
    速記した本人ならばなるほど円朝その人の言葉をそのまま元に復元することもできようが、当然のことながら速記者本人はもう何十年と前に儚くなっているし、田鎖式自体が風前の灯であるのだという状況を考えるとこの発見はまさに奇跡の発見だったといえるのだ。
    現実と創作、作中作(この場合は作中噺?)どこまでが本当でどこまでが創作なのか、幽霊噺のように曖昧な部分が更に謎を呼ぶすばらしい仕掛けが施されている。

    これ映像化したらものすごく知的好奇心を刺激する文芸ミステリになりそうな予感がする。
    普通に高座に掛けてくれたら聴いてみたいし、こんなにワクワクする作品は滅多にない気がする。

    ちょうど宮部の『ぼんくら』『日暮し』を読んで深川の同心の話なんぞにどっぷり浸かっていたもんだからすんなり物語りの世界に入ることが出来た。

    ああ、面白かった!

  • いや、これはおもしろい。
    落語中興の祖として知られ、また数々の人情噺・怪談噺を創作した三遊亭円朝に、実は人知れぬ噺がもう1作あった、という設定。この速記が見つかったところから物語が始まり、その内容、ひいては『夫婦幽霊』と題されたこの落語の創作の秘密にスリリングに迫っていく。

    フィクションなのだがノンフィクション仕立て。
    円朝が生きた時代や、円朝の名声を高めるのに大きな役割を果たした速記、出版事情とお上の検閲についての丁寧な描写は、本作に重厚な説得力を与えている。
    語り手が作者自身となっており、また、作中の円朝が作ったとされる落語の中にも円朝が登場する凝った作り。雑誌に掲載されたものだが、掲載時に読むとまた一段とスリリングだったのかもしれない。

    これだけ練れた作品にするまでに、どれだけの史料にあたったのだろう。すばらしいの一言。

    *円朝は幽霊画のコレクションでも知られているが、本作では、その中の「夫婦幽霊図」がうまく盛り込まれている。カバー絵にあるが、ちょっとぼかしてある。装幀としてはそれでいいのかもしれないが、はっきり見えず、ちょっとじれったい。
    ちくま学芸文庫『幽霊名画集』(辻惟雄監修)には、この絵を含め、円朝コレクションが多く収録されているので、興味のある方はどうぞ。

    *円朝の落語って、幽霊が出てくる怪談でも、「いやー、でもやっぱり一番怖いのは生きてる人間だよなー」と思わせる感じ。作中の落語には、そんな雰囲気がよく出ていたような。ただ、濡れ場の描写が直截的すぎて、ちょっと違和感があった、かな。

    *辻原登といえば、『花はさくら木』もおもしろかった。こちらも史実に空想を巧みに織り込んだ展開。

  • 小説だとわかっていながら、あの円朝ならきっとこうだったのだろう、と思わせてくれる秀作です

  • いつもながらワクワクさせられてしまう辻原登さんの本。本当に物語を紡ぐ力量のある人だなと、またまた感心させられる。幻の円朝の怪談噺と創作秘話。落語を「速記」という技法を用いて記号に置き換え、さらに円朝の語り口で文章化する口述筆記ならぬ口演筆記。速記者=翻訳者であるということの面白さ。芝居噺の新鮮な内容。極めつけは、円朝の息子の消息とあの芥川龍之介との微妙な絡みと後日談まで推測の域を出ないのだろうが、興味の尽きない世界を堪能できた。

  • 三遊亭円朝、最晩年の幻の落語『夫婦幽霊』の原稿発見!?
    というところから、この話は始まる。

    落語と速記の切っても切れない関係と、それを土台にした幻の落語発見という舞台設定が、とてもワクワク感を誘う。
    原稿の中身も、落語の軽快な語り口がそのまま生きていて、とても楽しかった。

    これは、舞台設定を含めて本当に楽しい作品だと思う!

  •  名人円朝さんは自ら噺を創作され、高座にかけて、さらに本にされていたそうです。記録する機械のない時代。速記によって。 虚と実が くるり くるり・・推理小説のような ミステリーのようなとても面白く読みました。 谷中全生庵にも いつの日か行ってみなくては。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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