さざなみの日記 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 71
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984745

作品紹介・あらすじ

平凡にひそやかに生きる女たちの心のさざ波

「明るく晴れている海だって始終さざ波はあるもの、それだから海はきらきらと光っている。」――手習いの師匠を営む母と年頃の娘、そのひっそりと平凡な女所帯の哀歓を、洗練された東京言葉の文体で、ユーモアをまじえて描きあげた小説集。明治の文豪幸田露伴の娘として、父の最晩年の日常を綴った文章で世に出た著者が、一旦の断筆宣言ののち、父の思い出から離れて、初めて本格的に取り組んだ記念碑的作品。

村松友視
濡れた和紙の束を1枚ずつていねいに剥がしてゆくような手さばきが、幸田文の文章の真骨頂だ。(中略)相手の生活を慮り、相手の気持を気遣ったあげく、その虚しさに落着したとしても、慮りや気遣いをまったく作動させずにいる人生より、1ミリほど贅沢だという余韻が、読後の私には強く残った。――<「解説」より>

感想・レビュー・書評

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  • 母と娘のお互いへの心配りや思いの伝え方があまりにも細やかで濃密で。それなのに、お互いを独立した人間として扱っているのもすてきだ。親子ふたりきりの家族は、恋人同士より短くて太い絆で結ばれうるものなのか。

    あんな人間関係は理想郷にしかなさそうに感じるけれど、わたしが知らないだけで、普通にあるのかもしれない。別に生き直したいわけじゃなくて、人とはそれくらい心を込めて付き合っていいんだなあと思って、心があたたまった。

  • 昨夜は、『さざなみの日記』を読みながら寝落ちした。まあ「落ちる」というよりは「ふんわり着地」したかのような寝つきだったのだけれど。あれが、幸田文の文章のなせる技なのだろう。急かされることのない文章で、それはそれでありがたい。文庫本も十数冊入手済みで、死ぬまで「寝落ち本」を任せられる量だと思う。著者である幸田文は既に鬼籍に入っている人であり、その人の文章に手を引かれて緩慢に死んで行くのだ。「行く」のだから後ろ向きな気持ちは全くなく、焦る道行きでもないので穏やかだ。

  •  静かで穏やかな母娘二人の生活の中にあるさざなみのような出来事を丹念に掬い取って、流れる変化を緩やかに受けとめようとする。その筆致の端正さに酔いしれる―これぞ至福。

  • 母と娘だが女と女。
    刻々と変化するものの中にこそ幸せや憐み、美しさを見出すことができる。

    幸田文とか、その作中の人って口数が少ないから好きだ。その分、奥の方で考えている量と質がすごい。表面にその中身がチョロッとしか出てこないから、一言一言がすごく効いてくる。

  • 見事な幸田式口語体の小説。
    余韻が長く残ります。

    成人した娘と二人で暮らす女の話。
    至って平凡と当人は言うけれど、なかなかどうして、細やかなあれこれを見つめる目を通して描かれた日々は、とてもドラマに満ちています。

  • 図書館の本 読了

    内容(「BOOK」データベースより)
    「明るく暗れている海だって始終さざ波はあるもの、それだから海はきらきらと光っている。」―手習いの師匠を営む母と年頃の娘、そのひっそりと平凡な女所帯の哀歓を、洗練された東京言葉の文体で、ユーモアをまじえて描きあげた小説集。明治の文豪幸田露伴の娘として、父の最晩年の日常を綴った文章で世に出た著者が、一旦の断筆宣言ののち、父の思い出から離れて、初めて本格的に取り組んだ記念碑的作品。

    美しい日本語はこういうものかと思う言葉の積み重ね。
    登場人物全員の陰に文がいるような気持になって読む。
    いとおしくて哀しいというもののみせ方が素晴らしいと思う。

  • 幸田文の断筆宣言の後の初小説。
    最初読んだときよりも読み返したときの方が、結構よかったんじゃないの、と思える小説です。お母さんと娘さんとお手伝いさんのホームドラマなんですが、登場人物の描写、特に心の変化をとらえたところが光っています。親の気持ち、娘の気持ち、両方の視点からぜひどうぞ。

    ネタバレは http://d.hatena.ne.jp/ha3kaijohon/20120402/1333334145

  •  つましいながらもささやかなゆとりのある、母子ふたりの家庭の情景。
     そんな暮らしのなかにも、表題どおり「さざなみ」のような出来事が降りかかるわけですが、自身の自伝のような他の作品に比べると、角がとれて胸の痛む事件はほとんどありません。
     淡々と、賢く堅実。道を踏み外さない日々がいいです。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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