祭りの場・ギヤマン ビードロ (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960237

作品紹介・あらすじ

如何なれば膝ありてわれを接しや-。長崎での原爆被爆の切実な体験を、叫ばず歌わず、強く抑制された内奥の祈りとして語り、痛切な衝撃と深甚な感銘をもたらす林京子の代表的作品。群像新人賞・芥川賞受賞の『祭りの場』、「空缶」を冒頭に置く連作『ギヤマンビードロ』を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 林京子は長崎原爆の投下中心部付近にいたにもかかわらず、奇跡的に生存できている今年(2012年)81歳になる作家さんです。周囲の人間が被爆により次々亡くなっていく中、結婚出産も経験し、被爆から30年後に処女小説として『祭りの場』を執筆しています。淡々とした語りで自分の感情をおさえ、長崎原爆投下とその後の記録と事実を、リアリティを持って描写しています。核を否定する力のある言葉を持つ数少ない文学者です。昨年の大地震により安全の概念が崩壊しましたね。今まさに、林京子が発し続けた「核」「放射能被爆」について地球規模の環境問題として真剣に考える時なのでしょう。

  • すごい本だった。打ちのめされるとはこのこと。読まずに死ぬ事態にならなくてよかった。教えてくれた先生に心から感謝。
    考えてみれば原民喜も読んだことがないのだが,絶対に読んだ方がいいな。

  • 内容で読んだ本だ。文章が微妙とかそういうことではなく、書かれているものがすさまじい。

    上海時代の話もよかった。

  • 原爆被爆者による手記や小説。すごい。被曝を嘆くでもなく淡々と克明に生々しい、それでいて諧謔さすらのぞかせる筆致がたまらなかった。皮肉るでもなく、原爆症の後遺症や恐怖と暮らす日々のこと、家族との意識の乖離、友人達のこと。もっとこの人の書いた随筆などを読みたい。

  • 芥川賞、群像新人賞

  • 「黄砂」を読む。

  • 最初の「祭の場」は、芥川賞受賞作なので、(当時の純文学の大御所はかなり手厳しい人ばかりだったから)相当巧いに違いないと思って読み始めたら、意外に巧者とは言えない文章。しょっちゅう時間が飛び、主語が省略され過ぎてたり、文末が唐突だったり。そうか、「火花」みたいなことは前にもあったのだな、と。体験者にしか書けない世界は、実際あったことはインタビューや文献を読み込んで書いてきた作家にとっては凄い衝撃で、多少文章に難があっても、認めるしかないのだろう。
    しかし、一番読みにくいのは「祭の場」で、どんどん読みやすくなってくる。それは、巧くなっているということでもあるのだが、巧さが勝つと、生々しさが薄くなりがちで、そこが文章の難しさなのかもしれない。
    確かに、日本は加害者でもあったことを考えれば、被爆者の人生をたどり、思いを描く作品群は一面的かもしれないし、いかにも無辜の民であったという書き方もどうだろうかとは思う。(当時14歳だった作者にはもちろん何の罪もないが。)
    しかし、戦後、復興第一で邁進した日本が忘れたかっただろう被爆者の真の姿を公にした功績は大きい。
    個人的には、少女の微妙な友情を描いた「二人の墓標」、上海の日本人遊女との交流を描いた「黄砂」も良かった。
    被爆者だって、一人一人違う、思いはそれぞれなのだという当たり前のことを、体験していない人間は忘れがち。
    8月には読むべき作品だと思う。

  • 被爆の痛みを知らず、また、忘れ、日々を安らかに生きる私たちにとって、林京子の徹底した“傷を負った者”側からの描写はあまりにも痛くて重い。まるで「被爆について、誰もがあまりにも無知に日々を過ごしすぎる」と言ってるように感じられる。または「被爆者が精神的にも肉体的にも深く負った傷を、自分のものとして受け入れることが、現代に生きるすべての人間に課された宿命である」とでも言うように。

    『「どこの女学生さんじゃろか。可哀そうか。」…洋子は死んでいた…膝を抱いたまま、死んでいた。女の一人が「かわいそうに、ハエのたかって」と横顔に群がるハエを、手で払った。…太陽に向って飛んで行くハエを見おくりながら、洋子は死んでしまった、と若子は思い、「だけど、あたしには関係ない」とつぶやいて、山を降りていった。』(「祭りの場」の連作のなかの「二人の墓標」より)

    いま、中高生に課題図書として、この作品を薦めるべきだろうか?
    “作り物”の痛みの描写と、安っぽい共感しか得られないライトノベルしか読んだことがなく、恋愛とか「自分が興味のある身近な痛み」だけを軽く受け入れて、原子爆弾による想像を超えた痛みについては、自分の日常に直接的に関係ないというだけで無関心を装うというような隙間だらけの感受性ですべてを語ろうとする勘違いした中高生やその親にいきなりこの本を読ませることに、異論もあるかもしれない。
    でも、この本の物語は、60数年前に実在した女子中学生の、率直な心から生まれたことを忘れないでほしい。

    血が流れ、肉をえぐるありのままの描写を、何も知らない子どもの眼前に突きつけることは、非難されるべきではない。私たちは、現実を隠し、目をそらさせて、綺麗ごとのみで覆い包む行為こそ責めるべきだ。
    (2010/8/9)

  • 確かに語り継ぐことを命じられた人間の魂の記録であり、戦争の記憶が完全に消えつつある現在の日本に生きる人間が確かに継承していくべき歴史。
    でも何だろう、違和感ではないのだが微妙なズレみたいな感触がある。もしかしてこれが「原爆ファシスト」と呼ばれた所以なのだろうか?
    どういった文脈でそのような酷い仕打ちをこの作家が受けたのか全く分からないのだが、一方で文学に必要な要素である冷徹なまでの客観視という観点に欠けているような気がするのも確か。
    結局、文学という「社会体制」は生命そのものを描き出すことは出来ないということだろうか。
    極めて重い命題を突き付けてくる作品かと思います。

  • 2012.9.23読了。

    血を核とし、常に不在者がまとわりつく。「原爆ファシスト」とも言われるが、『叫んでも甘えても、返ってくる思いは漠漠として空しい』のである。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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