日本共産党の研究(一) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061830417

作品紹介・あらすじ

戦前の共産党の実態はどうだったか。その成立のいきさつ、コミンテルンによる支配、資金の出所、組織、相次ぐ転向者など──戦時下の弾圧による党崩壊までの激動の歴史を実証的に追い、当時の関係者の証言を記録する。理論や主張としてではなく、生きた人間研究としての初の本格的な通史。全3冊。

感想・レビュー・書評

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  • #3235ー58

  •  現存の政党で唯一、戦前から存在する日本共産党。日本で全体主義が台頭した時代、最後まで戦争に反対した政党と言われるが、本書は、そんな長い歴史を誇る政党の結成から戦後の日本共産党のあり方を考察する。
     共産党の核となるのが、マルクス・レーニン主義(正統派)で、さらに分かれて教条主義と修正主義がある。共産党側としては教条主義が絶対で、修正派は党の規約に反すると見なす(修正派は社会民主党へと流れた)。著者は、この規約というのが共産党の特異性だという。レーニン主義の要素、すなわち暴力革命、プロレタリアート独裁、民主集中制の3つのうち、民主集中制が特に重要である。これは、民主主義と中央集権が合わさった体制で、上層部と末端(細部と言われる)に分かれる。これは上層部の意見が絶対で、末端側がその意向に反した場合、処分が下される。このように、議会制民主主義であるのにもかかわらず、組織としての日本共産党は、民主主義に反し、むしろ全体主義ではないか、と著者は批判する。(ちなみに、諸外国でも共産党が誕生したが、面白いことに、専制君主制やカトリックの国々では勢力が伸びた一方で、アメリカやイギリスのような自由主義国では影響力は小さかった。)

  • 戦前の共産党が壊滅にいたるまでの経緯について、克明な調査をおこない、その歴史を記した本です。第一巻では、世界革命をめざすコミンテルンの指導のもとでの日本共産党の活動の軌跡を追い、田中清玄と佐野博の二人による「武装共産党」時代までをたどっています。

    戦前の共産党の歴史における最大の理論的な争点となったのは、山川イズムと福本イズムの対立ですが、本書ではインテリ優位の分離結合論が現場からの乖離という欠点をもっていたことが指摘され、いわゆる講座派がかかえる重要な問題としてその傾向が継承されていったことを指摘するとともに、この問題が「内なる天皇制」へと回帰することになった佐野学・鍋山貞親の転向の布石となっていったことが示唆されています。著者は、思想の解釈と評価をおこなうのではなく、健全なジャーナリズムの立場から事実を明らかにするという立場を堅持しており、共産党の歴史について知りたい読者にとって、現在でも有益な内容となっているように思います。

    また雑誌連載時に、日本共産党が著者に反対するキャンペーンをくり広げていたので、著者のほうもそれに応答をおこなうとともに、当時の宮本顕治による共産党運営のありかたに対しても批判をおこなっています。

  • 『田中角栄研究』と並び、おそらく立花隆氏の代表的著作の一つだろう。

    本書の中心は、戦前における日本共産党の歴史である。また本書が書かれた1970年代の日本共産党が戦前と比較してどうであるかについて、筆者が論考を行っている。

    一見すると、立花氏は共産党に対して批判的な立場に立っているように見える。だが読んでいくと、立花氏は共産党に対して必ずしも批判的な立場にあるわけではなく、中立的な立場から論考を加えている。

    まだ第1巻しか読んでいないのでなんとも言えないが、字面をそのまま受け入れるのではなく、自分の頭で考えながら批判的に読むべきであるという、読書と思考の基本が本書を読むとよく理解できる。

  • 共産党の黎明期(1922年頃)から1933年の「リンチ事件」までの党と特高の動きを追いながら、共産党の本質をあぶり出そうという本。1975年頃に文藝春秋誌上に発表され、その後加筆を経て1983年に文庫化された。

    リンチ事件からは80年、本の執筆からも30年以上のタイムラグがあるわけだけど、言葉(取材内容)が活きているというか、相当な大部であるにも関わらず面白く読んだ。

    単純な感想を書くと、「共産党、グダグダだなァ」ということであった。

    少なくとも当初は、労働運動とは名ばかりのインテリの言葉遊びであった、「暴力革命」を指向していた、ロシア(コミンテルン)からの豊富な資金が遊蕩や横領に消えたりした、上層部の命令は絶対であった(しかも上層部は「現場」を知らなかったりした)、スパイが横行し、裏切りと猜疑、挙げ句にリンチが繰り返された・・・。

    そしてプロレタリア独裁という麗しい旗印とは裏腹に、スターリン的な個人崇拝の体制にならざるを得ないだろうとオレでさえ思う、極度な中央強権システムであった。

    時代背景も含めて、このような高みからその弊害が見通せなかったのは仕方ないにしても、やや短絡的・閉塞的な思想とシステムそのものには無理があったのではないかと思う。

    今、日本共産党は合法政党となり、武装闘争も放棄し、比較的穏健で庶民に耳触りのいい政策を口にしている。

    さて、黎明期のDNAは完全に変わったのだろうか。万一権力を握ったりしたら、一皮剥けちゃうんじゃないんだろうか・・・30年以上のタイムラグをまたどこかで埋めないといけないけど、その辺りが読後の率直なところである。

  • 東2法経図・6F開架 315.1/Ta13/1/K

  • 共産党は変ったか?◆日本共産党の誕生◆第一次壊滅から再建へ◆コミンテルン主導下の再出発◆三・一五の大弾圧◆強化された取締まり体制◆中間検挙と四・一六事件◆共産党のアイデンティティ◆“武装共産党”の時代

    第1回講談社ノンフィクション賞
    著者:立花隆(1940-、長崎市、ジャーナリスト)

  • 「甲乙丙丁」を読んでいて、あまり背景を知らなさすぎるので、本書を読んでみることにしました。
    立花隆の本だから、おもしろいに決まっています。
    おもしろい本を読みながら、日本共産党の歴史も学べるので、一石二鳥です。

    「甲乙丙丁」では、いろんな人物の戦前の活動ぶりが語られますが、その当時の共産党への強烈な弾圧ぶりに、いまさらながら驚かされます。
    しかし、本書、とくにこの第1巻の焦点は、そういった弾圧ぶりを描くことにあるのではなく、密輸した拳銃で武装し、潰されても潰されてもしぶとく再建を図る非合法共産党と、それに対して次々とスパイを送り込み、悪辣なまでに容赦のない殲滅を図る特高との闘いを描くことにあるようで、これが手に汗を握るおもしろさ。一気に読んでしまいました。
    複雑怪奇な話でも、まるで波乱万丈の冒険小説を読んでいるみたいにスラスラ読めるのは、立花隆の論術がいつものようにクリアで分かりやすいおかげだと思います。

  • [下部構造の暴露]主に戦前の日本共産党の歴史を、一次資料や関係者への証言を基に記した作品。その圧倒的な情報量と共産党の組織体制への批判から、特に70年代の中盤から後半にかけ、論壇をはじめとして右派・左派両方からの大反響をもたらし、第1回講談社ノンフィクション賞を受賞した作品です。著者は、『田中角栄記録』でも政界に鋭く切り込んでいった立花隆。


    当時の思想的展開やイデオロギーではなく、人物や事件を中心として描かれているため、教科書からはどうしても落ちてしまう昭和の一側面を知る上で、今日的にも十二分に有益な作品かと思います。タイトルにあるように日本共産党のことを知ることができるだけでなく、その組織から見た戦前日本の情勢が映し出されており、その点も非常に興味深かったです。

    〜ここにおいてようやく我々は、当初の問いかけ、社民化した共産党のアイデンティティはどこに求められるのかという問いに対する答えを得たことになる。それは、前衛エリート主義、独善性、秘密主義、指導部絶対性、一枚岩主義などなどを特徴とする共産党の体質とそれを形成している共産党の組織原則=民主集中制である。〜

    骨太とはこういった作品を指していうものと痛感☆5つ
    (注:本レビューは全3巻を通してのものです。)

  • 1983年(底本1978年)刊行。◆多様な文字史料を基に、或いは関係者からの取材を通じ、戦前における日本共産党の成立、推移、戦前共産主義運動の事実上の消滅までを描いたノンフィクション。著者がもっとも油の乗った時期に書かれたものの一つで、個人的には、著者の作品の中で最も優れたルポであると思っている。それは、史料の徹底的な徴求と分析、それに基づく記述の厚みに由来する。◆全3巻中の1巻。本書は①誕生から、②27年テーゼ、③三・一五弾圧から四・一六事件を経て、第二次共産党の壊滅、④武装共産党の時代までを叙述する。

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著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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