- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061593251
作品紹介・あらすじ
トロイア遺跡の発掘で知られるハインリッヒ・シュリーマン。彼はその発掘に先立つ6年前、世界旅行の途中、中国につづいて幕末の日本を訪れている。3ヵ月という短期間の滞在にもかかわらず、江戸を中心とした当時の日本の様子を、なんの偏見にも捉われず、清新かつ客観的に観察した。執拗なまでの探究心と旺盛な情熱で、転換期日本の実像を生き生きと活写したシュリーマンの興味つきない見聞記。
これまで方々の国でいろいろな旅行者にであったが、彼らはみな感激した面持ちで日本について語ってくれた。私はかねてから、この国を訪れたいという思いに身を焦がしていたのである。──(第4章 江戸上陸より)
感想・レビュー・書評
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シュリーマンは1865年(43歳の時)に世界漫遊の旅に出る。本書はその旅行記で処女作らしい。幕末、大政奉還前の江戸を訪れている。将軍家茂上洛の行列見物も出てくる。目に見えてくるよう…。
当時の日本の様子が、偏見もなくよく観察され記されている。
特に江戸時代の人々の暮らしが、シュリーマンによって生き生きと伝わって来たのは良かった。
・日本人は園芸愛好家で、住宅は清潔
・家具の類がいっさいない。かまどくらい
・主食は米で、パンは知られていない
・主婦はご飯が炊けるとお櫃に持って部屋の中央に置く、そこに煮魚と刺身の椀が添えられる
・家族全員が食事の周りに正座し、めいめい椀を手に取り、器用に箸を使って優雅に食べる
・夜の9時頃には皆眠ってしまう
家族ばらばらで忙しく時間が流れ、物で溢れた現代の生活を考えると、この時代の良さにも気付かされた思いだ。
また独楽の曲芸に感動したらしい。この独楽芸とは反対に、アメリカの興行師バーナムの売り方に触れ、批判している部分がある。バーナム氏の成功を描いた映画"グレイテスト・ショーマン"が思いついた。この方の事か、この時代の事かと結びついた。シュリーマンの多面的なものの捉え方に感心する。
江戸東京博物館に行きたくなったし、シュリーマンの他の著書も読んでみたくなった。
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トロイア遺跡の発掘に人生の後半生をかけた、ハインリッヒ・シュリーマン氏。
その情熱は『古代への情熱』でも見てとれ、学生時代に影響をうけました。
にもかかわらず、そのシュリーマンが幕末に日本に来ていたとは初耳で、びっくりしました。
時は1865年、日本でいうと大政奉還の2年前になります。
シナから日本へと回った数か月の旅の見聞が綴られているのですが、
それを伝える観察眼はとても活き活きとしていて、興味深いです。
また、この時代のよく見られる欧米至上主義にとらわれることなく、
非常に客観的に、当時の様相を伝えてくれています。
欧米の中世代に類して、一種の暗黒時代とも評される事も多い江戸時代ですが、
現在では失われてしまった日本の様々な特質を、見出すこともできました。
40代になってなお、トロイア遺跡発掘への想いをつないでいたシュリーマン、
その好奇心の強さと客観性に裏づけされた情熱と夢は、本書でも感じ取る事が出来ました。
ん、久々に『古代への情熱』を読み返してみようかなぁ、、なんて。 -
すごく当時の国の状況などが事細かに表現されており、NHKラジオでも松平定知さんのすごく落ち着く声で朗読をなさっていたのがこの本を読んだきっかけです。
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西洋人による19世紀後半の清国と日本の旅行記である。著者はトロイア遺跡の発掘で知られている。清国では万里の長城を訪れた。日本は幕末である。
清国では社会の腐敗、堕落、不潔感が描かれる。清国が官吏に外国人を雇ったことは半植民地状態の結果と見ることが一般であるが、外国人官吏の方が腐敗は少なかったという(16頁)。効果的に仕事をするかが問題であって、自国民か否かは問題ではない。
清国の否定的評価の後に日本の肯定的評価がなされるため、日本人の民族的自尊心を高める書籍である。しかし、清国社会の堕落にはイギリスが売りさばいた阿片があることを考慮しなければ公正ではない。
この点は現代の日中を比べると不安になる。現代では依存性薬物の刑罰は日本よりも中華人民共和国の方がはるかに厳しい。日本は有害な依存性薬物を合法ドラッグと称して販売するようなモラルに欠けた状況である。その危険ドラッグの原料の多くは中国から輸入されている。中国で厳罰に処せられるものが日本で販売されるという逆転現象が起きている。
日本の美点として物の少ないシンプルな生活が挙げられる。これも現代の消費を煽る傾向とは異なる。また、著者は日本では少ない生活費で生活できると驚嘆する(84頁)。これも価格と品質が比例すると考えるような浅ましい拝金主義の対極にある。著者が幕末の日本を評価したからといって、現代日本人があぐらをかくことはできない。
本書は「民衆の生活の中に真の宗教心は浸透しておらず」と指摘する(141頁)。宗教心の希薄化は文明化の結果と分析されることが多いが、文明社会からの観察者が前近代の日本を評していることが興味深い。
シュリーマンは永代橋を渡り、深川八幡宮を訪れている。「本殿は二部屋から成り、各部屋にそれぞれ祭壇、朱塗りの椀、おびただしい数の偶像、青銅製の獅子、銀の壺、金製の蓮の花等々がある」(155頁)。深川八幡宮の後は洲崎弁天を訪れた。著者は洲崎弁天を寺と認識している。「寺の傍らに、一メートルの厚い台座の上に、高さ二・二二メートルの青銅製の大仏が座っていた」(155頁)。廃仏毀釈以前の様子を伝えている。明治時代の神仏分離によって洲崎弁天社は洲崎神社になった。
日本の問題点としては政府の管理主義を指摘する。「日本では『嘘』は一つの制度であり、しかもある動きを政府の行政機構のすみずみまで伝えるばねの一つとなっている」(168頁以下)。これを本書は「民衆の自由な活力を妨げ、むしろ抹殺する封建体制の抑圧的傾向」と分析している。これは封建体制に限らず、現代日本の行政の管理主義的体質に重なる。 -
全体を通して、シュリーマンの強い好奇心が凄い。何一つ書き漏らさないという意気込みに感嘆! 偏見 欧米至上主義が微塵もない。
木村尚三郎
ふいご、土蔵、舌のない鐘
台風の語源
文明の理解 文明開化 最高の完成度 教育 お目付 嘘 封建的支配
軍隊派遣費用 >商取引利益より小さい場合は派遣しないなど現代の中東阿の政治状況と同じ。
後付け カギ十字の由来 -
感覚が現代的。
違うからって劣ってるって思わなかったのがすごいな。 -
花魁の記述が興味深かったです。娼婦を神格化していることにシュリーマンがカルチャーショックを受けてます。
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トロイ遺跡発掘で著名なシュリーマンは幕末に来日していた。その旅行記のうち、北京から万里の長城、上海を経て横浜・江戸に滞在し、アメリカへ渡るまでの部分が翻訳されている。
彼が関心をもった日本の文化・風習が細かく観察されて描写されている。
当時の日本がヨーロッパ人のいう「宗教的」には文明化されていないことや、外国との交易を妨害する徳川幕府による有形・無形の妨害については批判的だが、日本文化全体についてはかなり好意的である。 -
えらい面白かった。シュリーマンが幕末の日本へ来ていた事を知らなかった。
シュリーマンの好奇心と的確に物事を捉える目に感心。
西洋の考え方を押し付けない。
物の大きさ(寸法)を記述する 。
なかなかできることではない。
それと支那と日本への感想が両極端で面白い。