昭和恐慌と経済政策 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061591301

作品紹介・あらすじ

大戦景気の反動、金融恐慌などが続いた昭和初期、浜口内閣の大蔵大臣・井上準之助は、為替変動の安定化をめざし金輸出の解禁を断行。念願の金本位制復帰を図ったが、そのための緊縮財政は折からの世界恐慌の波をうけ、未曾有の大不況を到来させた。この昭和恐慌を引き起こした経済政策をめぐる政党間の抗争、財界の思惑、投機的行動など、秘められた歴史を明らかにした昭和経済史の泰斗による力作。

感想・レビュー・書評

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  • 井上財政で金解禁がなされるまでの複雑な過程を描いたもの。経済理論的な観点に加えて、政治や財界との関係からも説明していてめちゃ面白い。

    事後的に評価を下すことは簡単だけど、当時の情勢を綿密に紐解いていくと、あくまでその時点の良い判断であったとも思うから、批判することは難しい。

    今では不況時に財政支出を行なって需要を増やすことが当たり前の考え方だけど、当時は緊縮財政をすべきという考え方だから、当然不況は深刻化するわけで、、
    その被害を一番被ったのが政策決定者じゃなくて農民の人々っていうのがなんとも、、
    その頃の農村の話を読むと、100年でこんなにも社会が変わったのすごすぎるなって思う。

    為替レート、貿易収支、物価、金利とかの連動が何の説明もなく当然に語られていて、ちょっと時間かければ理解できるけど反射的には理解できない経済学部生の鍛錬不足が悔しみず。

    • ともひでさん
      本のチョイスがいいっすね、経済系の本しっかり読みたい
      本のチョイスがいいっすね、経済系の本しっかり読みたい
      2021/11/24
    • てぃぬすさん
      授業の課題図書や、、
      授業の課題図書や、、
      2021/11/24
  • とても興味深く読みました。多くの経済学の本がとかくモデルとかデータ、理論などに偏重する中、一貫して人間中心に描かれているところに共感しました。具体的には、昭和初期当時に大蔵大臣を務めた井上準之助が行う金輸出解禁(金本位制への復帰)が、世界経済環境などに翻弄されてしまい、日本も昭和恐慌を引き起こしてしまう、というストーリーです。経済理論は合理的な人間を想定してモデルを構築していきますが、そこで想定しているのは人間というよりロボットです。一方、特に経済恐慌の分析に顕著ですが、そこに登場するのは、非合理的で感情的な人間、言い換えれば人間臭さ満点の世界が展開されています。本書でも、経済的に正しい政策が政治的に行われないことがある、あるいは外部環境が変わってしまったことで、以前正しかった政策が正しくなくなってしまう、という点を強調されていますが、これはすこぶる重要な示唆だと思います。企業経営では朝令暮改をいとわない、むしろ必要があればそうすべきという経営者もいますが、政治家はなかなかそうはいかないですね。

    余談ですが、本書では金融恐慌時に、中小の銀行が倒産し、預金の多くが財閥系銀行に集中、結果として持つ者と持たざる者の格差が拡大したとあります。これはピケティの議論にも関係しますが、格差が起こる重要なメカニズムは、ピケティが言っているr>gという条件式よりも、むしろ不況時の耐性度の違いの方が大きな要因ではないかと感じました(持たざる者は不況への耐性度が極めて低い)。かつての日本は頻繁に不況に見舞われましたが、そのたびに弱き者と強き者の差が開いた、という風で、これは20世紀、21世紀と世紀にかかわらず共通ではないかとも感じました。

  • 金本位制や国際金融に関する基本的知識に乏しいため、内容を十分理解できた訳ではないが、経済政策と言っても、必ずしも経済合理性のみで議論できるものではなく、政治的配慮や党派的利害に影響されてしまうということが、当時の歴史的事実の叙述を通じて分かりやすく教えてくれる。

  • とても面白かった。経済政策は純粋な経済理論によって実行されるわけではなく、時の政治の動向に左右されるという視点は本当に大事ですね。

  • おりしも安倍政権が誕生しデフレ脱却へと大きく前に進もうとしてる。過去を紐解いてみたいと思い、昭和恐慌に関連する書籍第2弾として本書を読んだ。当時の出来事が頭に入ってきた。
    第一次大戦後の不況と日銀特融による財界支援、緊縮財政と欧米強調路線、軍備縮小、金輸出解禁とさらなる経済圧迫、そして満州事変、金兌換停止、日銀の国債引受と連なって、226事件へ。国際情勢の変化と、国内の政府、経済、軍部の激しいせめぎあいの状況だ。明治憲法、政治体制、軍部、金本位制など現代とは全く仕組みが違うのである。当時の仕組みについてしっかりと理解をする必要がありそうだ。

  • 現在の、経済情勢と照らし合わせて読むと、大変面白い。もちろん、現在は金本位制ではなく、金輸出解禁などという問題ではない。しかし、財政政策と金融政策をどのように考えるか、という根本問題では大いに参考となる。まあ、世の中あまり進歩していない、という言い方もできるが、経済のグローバル化がより進展していることは確かなので、資本主義経済の不安定性による危機のリスクもより大きくならざるを得ない、というところだろうか。

  • 昭和初期の民政党政権の大蔵大臣・井上準之助による金解禁政策の話。政治家にとって政策は一度決めたらもし誤っていることがわかっても転換できない、合理的に行動できない、という主題がおもしろい。そうかだから政権交代が必要なのか。 
    金本位制にこだわりすぎた理由として、英米の資本主義体制への信仰が根底にあったというのは、ちょっと痛い指摘かも。 
    国際金本位制の働きや世界恐慌の状況についてよくわかった。ただ、主人公の井上まわりの出来事の描写があっさりしすぎていた。若槻内閣総辞職の政局や三井銀行ドル買い事件や血盟団による井上暗殺はもっと描けたのではないか。 

  • 【書評】
     日本は井上準之助蔵相のもとで1930年に金輸出解禁を打ち出した。これは結果から見れば、最悪の時期に最悪のやり方で行なった経済政策であった。本書では、なぜこのような政策が実施され、二年間も続いたのかを様々な角度から描き出すことに成功している。国際的には第一次大戦によってイギリスの覇権が終わりつつある中、アメリカは覇権を受け容れる準備ができていなかった。国内的には大戦で膨張した経済が崩壊し、金融危機の事後処理に戸惑ったあげく歴史上初めて経済問題を理由に政権が倒壊した。そんな中で、浜口民政党内閣の二大看板である軍縮と金解禁政策は、公約実現で無理をした結果、政党政治の揺らぎの原因を作ってしまった。
     
     経済政策が政治により翻弄され、一度取られた経済政策は農村の困窮や右翼の結束と実力行動へと、個人の意図を越え波及的で決定的な影響をもたらした。政策担当者の個性と当時の社会状況によって、柔軟で必要とされた政策転換は政治的に不可能になった。現代でも、「金輸出解禁」政策の失敗から学べることは多い。

    【感想】
     本書は戦間期における日本国内の政治経済的な動きがいかに、金解禁政策という経済政策を歪め難しくして行ったのかを述べている。徒に井上準之助の非を主張すると言うより、むしろ危機時、全てが異常となった状況下で、正統とされた経済政策が実行された結果生じた悲劇を綴っているという方が正しい。非常にバランスの良い、信用出来る書と言った感想。
     選挙公約と真逆な政策を次々やろうとする現状日本の政治に照らすなら、政府の看板を容易に変更しない政党政治の気概を感じることも出来る。経済政策が政局化される場面は、増税、TPPなど今日と通じる点が有り参考になる。
     あの頃たしかに、日本の議会制は生きていた。しかし経済政策の失敗と時期の悪さ、それを利用した政友会の墓穴が悔やまれてならない。

  •  一言でいって、中村 隆英氏はかなり、学問的にも誠実な人なんだろうなと考えられる。というのも、昭和恐慌期での金融政策についても多くのページを割き、まめな検証がされているからである。デフレへ落ち込むことの危険性の指摘から、金融政策についても多くの説明を入れ、財政政策についても述べられている。バランスがとれた人々の動きも表している歴史の記述だと思う。
     そこが、大恐慌が民間経済へ持ち込むデフレによる民間人の生活の有様の記述だけで終わってしまう。それはマクロ経済上のデフレの恐ろしさをさらりと流してしまう秋山の29年発とされる世界恐慌の作とは大きな違いある。

  • 昭和恐慌を引き起こした経済政策をめぐる政党間の抗争、財界の思惑、投機的行動・・・秘められた歴史を明らかにする。

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著者プロフィール

中村 隆英
中村隆英:元東京大学名誉教授

「2015年 『明治大正史 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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