演劇入門 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061494220

作品紹介・あらすじ

リアルな芝居とは何だろう。戯曲の構造、演技・演出の秘訣とは?平易で刺激的な入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 大学で演劇サークルに所属していました。
    入学した時にこの本を読んでおけば、多少は演劇に対しての考え方も変わってたのかなと感じました。

    演劇を見ていてリアルに感じられない時があるのは何故かという疑問を起点として、戯曲の書き方をメインとして、演出・俳優についても論理的に書かれています。

    特に「演劇=コンテクスト(文脈)の摺り合わせ」というのは当たり前といえば当たり前ですが、改めて考えさせられました。

    ・役柄同士の対話
    ・俳優同士・俳優と演出家の対話
    ・表現者と観客の対話
    この3つの対話によって、コンテクストを摺り合わせ、互いのコンテクストを広げる、気づきを得るのが演劇の目的

    もう一回演劇やってみようかな。

  • 平田オリザ(1962年~)氏は、国際基督教大卒の劇作家、演出家。劇団「青年団」主宰。東京藝大アートイノベーションセンター特任教授、大阪大学コミュニケーションデザインセンター客員教授、日本劇作家協会理事なども務める。
    芝居がかったセリフではなく、日常的な話し言葉で舞台を演出する方法を体系化した「現代口語演劇理論」を提唱し、その手法は、現在の演劇界に大きな影響を与えた。
    本書は、演劇(戯曲)を創るためのハウツーから始まって、現代日本における演劇の役割までを論じたものであるが、その論旨の展開はスリリングかつ見事で、演劇の世界の門外漢である私にとっても示唆に富む内容であった。
    (ノウハウ以外で)印象に残った点を以下にいくつか挙げてみる。
    ◆近代芸術には「伝えたいこと(=テーマ)」があったが、現代芸術(演劇)の特徴は、「伝えたいこと」がなくなってしまった点である。ただ、「伝えたいこと」はないが、「表現したいこと」はたくさんあり、それは、世界とは何か、人間とは何かという、自分の内側にある混沌とした想いであり、換言すれば、私たち人間の精神の振幅、心の在りようである。
    ◆演劇というドラマの本質は、運命に立ち向かうにしろ、立ち向かわないにしろ、もともとは卑小な存在であった一個人が、直面する問題の中で右往左往し、人間として変化を遂げていくことである。シェイクスピア劇や忠臣蔵が長く舞台化されてきた理由もそこにある。
    ◆日本語は、その歴史的背景から、「会話(Conversation」(既に知っている者同士のお喋り)には向いているが、「対話(Dialogue)」(他人と交わす新たな情報交換や交流)には適していない。「対話」が重要な要素を占める戯曲を書くという行為は、日本人・日本語の「対話」の形を探るという意味も持つ。
    ◆演劇とは、一人ひとりが持つ「コンテクスト」(ここでは、一人ひとりの言語の内容、一人ひとりが使う言語の範囲を指す)を擦り合わせる(共有を目指す)行為である。それには次の3つの側面がある。①演劇とは他者との「対話」を中心とするものであり、舞台上の演劇作品の内部において、コンテクストの共有が必須である。②演劇を創る上で、俳優と劇作家・演出家の関係において、コンテクストの共有が必要である。③表現者と観客の間でコンテクストが共有されてはじめて、「リアル」な演劇となる。
    ◆上記の「コンテクストの共有」とは、「対話」を通じて行われるものである。一個人があるときは表現者になり、あるときは観客となる、「参加する演劇」を文化としていた古代ギリシャにおいては、①~③は地続きに繋がっており、常に対話を通じたコンテクストの擦り合わせが行われ、それが民主制の維持に役立っていた。
    翻って、現在の世界を見ると、自国(自分)第一主義、他国(他人)についての想像力の欠如が蔓延っているが、その根本的な原因のひとつは、まさに「コンテクストの共有=対話」の欠如である。本書の示す演劇の意義というのは、予想を超えて大きな問題の解決に繋がっていると言えるのかも知れない。
    (2020年5月了)

  • 作劇の方法が書かれている珍しく貴重な書といえる。
    作劇方法以外に、とくに作者の演劇に対する見解がとても興味深くハッとさせられる文が多かった。他の著書でもうすこし深掘りして読んでみたい。
    以下、印象的な文を引用。

    ─私たちは、先にテーマがあって、それを表現するために作品を創るのではなく、混沌とした自分の世界観に何らかの形を与えるために表現をするのだ。

    ─演劇とは、リアルに向かっての無限の反復なのだ。その無限の反復の中で、ゆっくりと世界の形が鮮明になっていく。この混沌とした世界を、解りやすく省略した形で示すのではなく、混沌を混沌のままで、ただ解像度だけを上げていく作業が、いま求められている。

  • 私は演劇やTVドラマ、映画などは見る一方なのだが、手に取って読んでみて、なるほど、TVドラマと演劇とでは似て非なるものであることがよくわかった。たしかに映画やドラマ、演劇では全くちがう感覚で見ていることに改めて気付かされて自覚的に改めて演劇を見たいと思った。このコロナ禍で、オンラインでのライブ配信などさまざまな取り組みがなされてはいるが、やはり生ならではの良さが演劇にはある。改めて演劇の奥深さを感じた。

  • 演劇、戯曲について丁寧にわかりやすく解説されていました。作品は作者と観客のコンテクスト(文脈)の照らし合わせによって生まれるという解釈が腑に落ちました。
    観客が作品に対して、アートリテラシーを持つべきというのも納得できました。

  • リアルな演劇の脚本を書くためのハウ・ツー本の体裁をとりながら、著者自身の演劇の捉え方が明らかにされています。

    本書はまず、演劇をリアルなものにするために、「セミパブリック」な空間・時間を利用することや、「遠いイメージから入る」といったテクニックを紹介しています。その一方で、そうした工夫が「役者と対象、あるいは役者と観客との間で「コンテクストを摺り合わせる」こととして捉えることができるというアイディアが示され、均質性の高い日本社会においては「対話」の伝統が育まれてこなかったことなどに触れつつ、「コンテクストを摺り合わせる」という観点から演劇を包括的に捉えなおすような視座が示されることになります。

    演劇の見方を解説した本だと思っていたので、ちょっと期待外れかな、と思いながら読み始めましたが、演劇におけるリアルを追求することが、メタ演劇的な考察につながっていることが明らかになっていくスリリングな議論の運びにしだいに興味を引かれ、おもしろく読めました。

  • ◆社会で生きる、他人と関係を築いて行く為の哲学。
    妹の結婚式での叔父スピーチ(味覚の実験にて、隣の人とこうも味覚は違うのか!同じ物質であってもそもそも遺伝的にセンサーが違う。育ってきた環境によっても違う。その違いを理解するする、感じ方、考え方の違いを意識して楽しむ。自分の知らない新しい世界を見ることができる。)
    正に、自分のテーマを見つける、少しづつでも前に進める、足がかりではないか。

    ◆コンテクストの擦り合わせ
    自分のコンテクストの範囲を認識すること
    対象のコンテクストの広さの範囲をある程度、明確にすること
    対象のコンテクストとの差異のを仮に埋める為の方法論を吟味し、その埋める為のトレーニングを積んでおく

    ◆テーマがあって書き始めるわけではない。むしろ、テーマを見つけるために書き始めるのだ。それは、私たちの人生が、あらかじめ設定されたテーマ、目標があって生きているわけではないのと似ているだろう。私たちは、いける目的をどうにかしてつかもうとして、この茫洋としてつかみどころのない人生のときを、少しずつでも前に進めて行くのではないたろうか。私たちは、生きるテーマを見つけるために生き、そして書くのだ。(p108)

  • 「演劇入門」は、劇作家・演出家の平田オリザさんが演劇の"作り方"を分かりやすく解説した入門書。98年に出版され、すでに22回も版を重ねる隠れたベストセラーです。本広さんはこの本を「何回読んだか分からない」といいます。

    続きはこちら
    GUEST 070/映画監督・本広克行:スミスの本棚:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
    http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/blog/smith/2013/01/post142128.html

  • 作者が実施した「戯曲を書くプログラム」を書籍化したもの。劇作家志望ではないけれども、演劇の分析的見方や劇作家の心理を知りたくて読んだ。

    技術的な側面よりも、第一章を中心とした、演劇に対する「心構え」を語っている箇所が面白かった!

    あとは、「ダメな台詞」、対話dialogue についてや、演出家と俳優のコンテキスト(中学か高校の国語の教科書で読んだ部分笑)の箇所なども印象に残った。

    演劇を創るということを、
    「私に見えている世界を社会に向けて開示する」(p.4)、
    「自分の妄想を他者に伝える」(p.5)、
    「混沌とした自分の世界観に何らかの形を与えるために表現する」(p.32)
    ことだ、と述べているところが、やはりアート(広義)の本質だな〜ってしみじみ。意外とみんな理解してないようだけど。

    また、近代演劇から現代演劇への転換に言及しているところでも、やはりアート全体に共通する流れだったんだ、と再認識した。

  • お芝居を書く、いわゆる戯曲をどのように作っているのかの概要を理解することが出来た。私は批評家ではないので、仮に不自然な戯曲に出会っても技術的に脳内で補完修正してより深く鑑賞に浸るようにしたい。高校演劇が割と引き合いに出されているので、是非一度高校演劇を観てみたいと思った。
    また、戯曲に限定されるものでなく、広く示唆に富んだ内容なので確かに演劇が色んな人間模様を描く表現だということなのだろう。

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著者プロフィール

1962年、東京都生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)、『日本文学盛衰史』(鶴屋南北戯曲賞受賞)。『22世紀を見る君たちへ』(講談社現代新書)など著書多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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