同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)
- 星海社 (2016年1月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061385801
作品紹介・あらすじ
「同性愛者」――この言葉にひそむ、愛と闘いの歴史
あなたは「同性愛者」という言葉が、どのようにつくられたかご存じですか? 実はこの言葉は、とある二人の友情の物語からうまれました。その後、同性愛者とされた人たちは、時に罪人に、時に病人にされ、様々なかたちで「罰」を与えられ、「治療」をされてるようになっていきます。そしてそれは、今も……。さあ、150年前からはじまった、同性愛者という言葉とそれに翻弄されてきた人たちのドラマを、一緒にひもといていきましょう。この本には、悲しい話も、笑っちゃうような話もまとめて盛り込みました。誰もが快適に過ごせる未来のため、ふりかえってみませんか。私たち人間を振り分けた、「同性愛者」という言葉の過去を。
感想・レビュー・書評
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世界における同性愛者の歴史をまとめた本です
世界史についてはわかりませんが、日本の同性愛についての記載は偏見に満ちているとみなさざるを得ません。
83ページに日本の「エス」に関する記述が気にかかりました。筆者は、エスをさも同性愛のように扱っていますが、エス女性たちは後に男性と結婚している例も少なくなく、彼女たちを同性愛者とくくるのは筆者が冒頭で疑義を呈している「同性愛or異性愛」の単純な二分化そのものではないでしょうか?
また、この他にも110ページからの日本に対する記述も偏見まみれのひどいものです。日本では同性愛者が悪として扱われていたとありますが、同性愛の「専門家」を気取って本を書いている割に男色という基本的なことさえ知らないのでしょう。これは、言い換えれば日本史の専門家が書いた書籍に、「江戸幕府は織田信長が開いた」と各レベルの誤りです。
【こんな人におすすめ】
世界の同性愛事情について雑学感覚で学びたい人詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
同性愛にしろ、異性愛にしろ、両性愛にしろ、無性愛にしろ、いや、それらだけではなくすべてのものがある世で「同性愛」を判定する必要は何のためにあったのだろうかと思う。
特に男性の同性愛が罪とされる社会の中、その罪を問うための同性愛の判断基準は、まるで魔女裁判のようである。何をそこまで恐れたのだろう。
この本に書かれないホモホォビアは、どうしてそうせざるを得なかったのだろうか。そんなことを感じた。 -
書店で『百合のリアル』と合わせて購入し、読了しました。監修の『同居人の美少女がレズビアンだった件。』も含めると、牧村さんの著書は3冊目のレビューです。
人々が「同性愛」をどのように捉え、どのように見て、どのように「異性愛」と区別し切り分けようとしてきたかの歴史についてのお話です。幾分硬めの内容ですが、語り口は牧村さんらしい軽妙洒脱で読みやすい文章です。実感に基づいて、かつ決して外してはならない要点をきちんと押さえて伝えているので、本書も非常に分かりやすく大変勉強になる一冊でした。
「同性愛」は、本当につい最近に至るまで「病気」と見られ、「犯罪」と扱われていた。この事実を、決して忘れてはいけないのだと強く感じました。蔑視、排除、隔離の歴史があったということを抜きに、ホモフォビアも語れないし、なぜセクシャル「マイノリティ」なのか、なぜ「人権」として性のあり方を考えなければいけないのかということも見えてこないのだと思います。
紹介される数々の診断法も、こうして単純に読む分には本当に笑ってしまうというか、大真面目にピントのズレたことをやっているなぁ感がありますね。ただ、なぜこの本を読む今の私の目にはピントがズレていると分かるのか、ということを考えると、人間の業の重さに大変胸が苦しくなる思いがします。実際に多くの志のある人達が迫害され、踏みつけられ、拷問され、処刑あるいは自殺という末路を辿ってきたのですから。本当に多くの人が涙を流しながら殺されてきたのですから。これは「自分/あの人は同性が好きか、異性が好きか」云々の問題ではない。そもそも「相手の性を愛するということはいかなることか」ということに無知だったがゆえに我々が積み重ねてきた、血塗られた歴史です。法律が刑法として、医学が診断法として、社会科学が優生思想として、そして我々一般民衆が嘲笑や非難や密告として、その歴史に加担してきたのだと思います。
ウルリヒスもケルトベニもヒルシュフェルトもアルフレッド・キンゼイもエヴリン・フーカーも、まず高校の世界史に出てくる名前ではないのですが、出てこないのが残念でなりません。これは私達が知らなければならない大事な歴史ではないでしょうかね。
この本を読む中で心に残ったのは、ホモセクシュアルという言葉の生みの親ケルトベニの「同性愛を生まれつきだとするのは諸刃の剣である。国家はそもそも性のあり方に介入する権利はない」という旨の実に真っ当な言葉もそうなんですが、やはりキンゼイの言葉が印象深い。
「男性は、異性愛者と同性愛者という二つの不連続な集団からなるわけではない。世界は善と悪には分かれない。白と黒にも分かれない。自然界に不連続なカテゴリがあまり見当たらないというのは、分類学の基本である。ただ、人間の価値観だけがカテゴリをつくりだし、ものごとを別々の小さな箱に無理やり押し込めているだけなのだ。命ある世界は、なにもかもすべてがつながっている」(p.188)
キンゼイの心の底からの叫び、いのちそのものが発する絶唱、我々の無知に対する糾弾の咆哮のように感じましたね。改めて、誰が「同性愛」というカテゴリーを必要としているのか、なぜ「同性愛」というカテゴリーを必要としなければいけなかったのか、そもそも「同性愛」というカテゴリーは必要なのか、考えていきたいと思います。 -
歴史の振り返り。ちょっと紹介に留まってる状態で薄いかな。
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同性愛研究の歴史を診断法などから辿っていく本。【先陣を切って同性愛者であると名乗り出た法学者、ウルリヒス。友人が同性愛を理由に恐喝され、自殺に追いやられ、そのような不正義を許すまいと筆を執った作家、ケルトベニ。異性愛者になりたいと泣きつく患者たちを放っておけなかった、精神科医のクラフト=エビング。我が子の同性愛を「治療」できないかと悩む女性を諭し、「同性愛は病気ではない」を表明した精神分析の構築者・フロイト。そして、「父のように人の命を救える人になる」と医師になるも、患者を自殺で亡くし、以来生涯を賭けて刑法175条と闘い続けたヒルシュフェルト】と、色々面白エピソードを交えて教えてくれる。百合のリアルでも本当によく勉強になったので、これからも星海社で色々出してほしいと思いました。
私はレズビアンに偏見を持っていました。レズビアンという存在はみんな、男にモテすぎるか、男とヤリ過ぎて、男に飽きてしまって、やることもなにもないので、思い出作りや性的倒錯者を気取り、いまいち人生をはじけられない自分自身にテコを入れるために、マイノリティを気取って自分を特別にみせるためのカスみたいなテクニックのようなものだと思ってました。しかも、そのマイノリティというものが、レズビアンという、「へ~Lの世界かセックスアンドザシティみたい~」という、海外では中流行ですみたいな、常識ですみたいな、日本は遅れてますみたいなものでもって、「安全にマウンティング」するための「人より優位に立つための行為」だと思っていました。学歴などのコンプレックスを忘れるための「薬」だと思ってました。なぜなら、レズビアンはレズビアン同士で恋をするはずはなく、レズビアンが好きになるのは、たいてい素人の女のはずです、と思っていたからです。めちゃくちゃ男大好き!みたいな女ほど、レズビアンの女の人は、魅かれるものじゃないだろうか。なんで、すぐ「うふふあはは」となれるような女と結ばれるのか。それやったら、お前が男とやってた頃とパターン変わらんやん。そう、思ってました。レズの、地獄の苦しみのような恋。あと不細工なレズはどう生きればいいのか。そこにある人間である本質。苦しみという名の美しさがあるはずなのに、フランス人女とバイブつっこみあってトン汁食べて、いい身分だなこら!と思ってました。
でもそれはすべて間違っていました。
そういう問題ではないのです。
まずは、偏見が問題なのです。
そんな「人間」について議論する以前に、よくわからんオヤジ・オバハンがいっぱいいるので、それに何とか勝っていかないといけない。そういうものがあるのだと思いました。
「よくわかるジェンダー・スタディーズ」も読みましたし、これからも勉強を続けていきたいと思いました。 -
03月10日、難波のジュンク堂(03/21に閉店するらしい)で購入。
第1~4章において、19世紀以降から同性愛概念の歴史をたどり、当時の状況を整理しています。第5章では、性的マイノリティの人たち(著者はLGBTsと表現)が現在どのように受容されているかを説明し、著者の考えを述べています。
平易に書かれていて、とても読みやすい本でした。
【簡易目次】
第1章 「犯罪」とされた同性愛 (‐1868)
第2章 「犯罪」とされた同性愛 (‐1871)
第3章 戦火の中の同性愛 (1938‐)
第4章 同性愛は「人種」なのか (1945‐)
第5章 現代社会と同性愛 (‐2015)
【内容紹介】
「同性愛者」――この言葉にひそむ、愛と闘いの歴史
あなたは「同性愛者」という言葉が、どのようにつくられたかご存じですか? 実はこの言葉は、とある二人の友情の物語からうまれました。その後、同性愛者とされた人たちは、時に罪人に、時に病人にされ、様々なかたちで「罰」を与えられ、「治療」をされるようになっていきます。そしてそれは、今も……。さあ、150年前からはじまった、同性愛者という言葉とそれに翻弄されてきた人たちのドラマを、一緒にひもといていきましょう。この本には、悲しい話も、笑っちゃうような話もまとめて盛り込みました。誰もが快適に過ごせる未来のため、ふりかえってみませんか。私たち人間を振り分けた、「同性愛者」という言葉の過去を。
<http://seikaisha.co.jp/information/2015/12/16-post-douseiai.html>
【目次】
はじめに [003-009]
目次 [010-014]
第1章 「犯罪」とされた同性愛(-1868) 015
「実は、僕もゲイなんだ!」
同じ同性愛者どうしというけれど
“同性愛者”以外の分類いろいろ
ある、男を愛した男の死
「同性愛者」というカテゴリーの誕生
第2章 「犯罪」とされた同性愛(-1871) 051
同性愛の理由を「からだ」に探す
診断法1 ブームにかき消された「同性愛者は脳で見分けられる説」
診断法2 人体実験にまでエスカレート、「同性愛者は精巣で見分けられる説」
診断法3 「同性愛者は直腸で見分けられる説」
同性愛の理由を「こころ」に探す
同性愛が「第三の性」とされるまで
診断法4 「同性愛者はお尻で見分けられる説」
診断法5 「レズビアンは精子を、ゲイは生理の血を出すのでは説」
第3章 戦火の中の同性愛(1938-) 081
ナチスの台頭と同性愛迫害
診断法6 「同性愛者=少子化につながる=国家の敵説」
ナチスの“同性愛治療”――ブッシェンヴァルト強制収容所の悪夢
診断法7 「男性同性愛者は男性ホルモン値で見分けられる説」
米軍式、同性愛“診断”法
診断法8 「男性を脱がせたら同性愛者だけ恥ずかしがるのでは説」
診断法9 「男性同士でオナニーについて話し合わせたら同性愛者だけ恥ずかしがるのでは説」
診断法10 「口の中に“同性愛者発見器”を入れれば分かるのでは説」
診断法11 周性愛者はおしっこで見分けられるのでは説」
日本は同性愛をどう見ていたか?
第4章 同性愛は「人種」なのか(1945-) 119
診断法12 「診断法じゃないのに診断法扱い、キンゼイ・スケール」
「人間は同性愛者と異性愛者に分かれる」説に対する、両性愛者(バイセクシュアル)の戦い」
診断法13 「性のあり方をセルフチェックできる、クライン性的指向グリッド(KSOG)」
同性愛が心の病気とされていたころの診断法いろいろ
診断法14 「四五五問のクイズで同性愛チェック! ターマン・マイルズ・テスト」
診断法15 「単語知識ではかる、スレイター選択的ボキャブラリーテスト」
診断法16 「なんと日本の公務員試験でも!? ミネソタ多面人格目録」
診断法17 「異性愛者は○○しがち、お人形さんテスト」
診断法18 「こじつけか、それとも……? ロールシャッハテスト」
同性愛が犯罪でも病気でもなくなった日
第5章 現代社会と同性愛(-2015) 163
現代も同性愛を「犯罪」「病気」とみなす地域
“ネタ”としての同性愛診断法
診断法19 「本当は○○の診断法なのに……日本のネットで広まったデマ」
診断法20 「アメリカの男子生徒たちが授業中に試した『ゲイ・テスト』とは」
繰り返す歴史、国家レベルでの同性愛診断法
診断法21 同性婚式出席者に、エジプト警察が同性愛法を強制」
診断法22 同性愛診断テストを理由に《ワールドカップをボイコット?」
診断法23 「ピンクの証明書――トルコの軍隊による同性愛者排除」
母国を追われる「LGBTs難民」
診断法24 「チェコ五十年の歴史ファロメトリック・テスト」
診断法25 「女装してないならゲイじゃない? 難民に向けられる偏見の目」
診断法26 「子どもを産んだらレズビアンじゃない? 弁護士の発言が物議を醸す」
人は「同性愛者」と「非・同性愛者」に分けられるのか?
おわりに [192-200]
参考文献 [201-204]