ふたりのイーダ (児童文学創作シリーズ)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 21
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061189409

感想・レビュー・書評

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  • (2013.06.07読了)(2013.05.30借入)
    談話室の「一文クイズ」でこの本を知りました。レビューで、広島原爆関連の本ということがわかったので、図書館から借りてきました。
    広島の原爆を直接的に扱うのではなく、被爆後20年経過してという扱い方は、「夕凪の街 桜の国」こうの史代著、に近い。今の人にアプローチするには、この方がいいのかもしれません。
    兄の直樹は、小学4年生、妹のゆう子は、二歳十一か月。お母さんは取材で九州へ行くので、子供たちをおじいさんおばあさんのいる花浦(広島近郊の町?)に預けた。
    直樹は、おじいさんの家の近くで、誰かを捜しながら歩いている小さな椅子を見かけた。
    椅子は、おじいさんの裏手の、空き家に住んでいる。誰かの帰りをいつの日からか、ずーっと待っているらしい。めくられないままの日めくりカレンダーを見ると、2065年8月6日になっている。1960年代のはずなのにどうして?この家は未来空間なの?
    (実は、この暦を使うと、西暦2013年は、2673年に当たります。)
    椅子の住んでいる家の人は、1945年8月6日の朝に出かけたきり帰ってきていなかったのです。椅子は、ゆう子を待っていた子供と思っています。
    直樹は、おばあさんの知り合いのりつ子さんの力を借りながら、ふしぎの秘密を解き明かしてゆきます。
    最後には、椅子の待ち人をつきとめることができました。驚きの結末でした。
    8月6日に、広島で何があったのか、それが、20年後までも尾を引いていることも教えてくれます。

    【目次】
    1 列車は花浦についた
    2 歩くいすと、ふしぎな家
    3 おほりばたに出るものは
    4 見えなくなったゆう子
    5 ゆう子といす
    6 りつ子
    7 ふたりのイーダ
    8 おそうじ、おそうじ
    9 それは、むかしの話なのだ
    10 赤んぼうは、しっている
    11 このいすはだれが―
    12 おかしなカレンダー
    13 協力者
    14 数字の意味はわかった
    15 りつ子、ふしぎな家へいく
    16 とうろう流し
    17 生まれかわり
    18 ほんとうのことをはなしたとき
    19 これですべてが―
    20 りつ子からの手紙
    あとがき

    ☆関連図書(既読)
    「ヒロシマ日記」蜂谷道彦著、法政大学出版局、1975.06.30
    「ヒロシマ・ノート」大江健三郎著、岩波新書、1965.06.21
    「黒い雨」井伏鱒二著、新潮文庫、1970.06.25
    「夏の花・心願の国」原民喜著、新潮文庫、1973.07.30
    「父と暮らせば」井上ひさし著、新潮文庫、2001.02.01
    「ひとりひとりの戦争・広島」北畠宏泰編、岩波新書、1984.08.20
    「新版1945年8月6日」伊東壮著、岩波ジュニア新書、1989.05.22
    「夕凪の街 桜の国」こうの史代著、双葉文庫、2008.04.20
    「もはや高地なし」ニーベル・ベイリー著、カッパブックス、1960.10.15
    「原爆投下は予告されていた」古川愛哲著、講談社、2011.07.27
    (2013年6月8日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「イナイ、イナイ、ドコニモ…イナイ…。」直樹とゆう子の兄妹は、おかあさんのいなかの町で、だれかをもとめてコトリ、コトリと歩きまわる小さな木の椅子にであい…。原爆の悲劇を子どもたちに語りつぐ古典的名作。

    • jyunko6822さん
      以前私が『一文クイズ』で出題した児童書です。
      nakaizawaさん、気にかけていただき読んでいただき、そしてレビュー書いていただきありがと...
      以前私が『一文クイズ』で出題した児童書です。
      nakaizawaさん、気にかけていただき読んでいただき、そしてレビュー書いていただきありがとうございました。
      椅子が話しながら歩いたり、カレンダーが不思議な数字だったりとホラーファンタジーのようですが、広島の原爆の悲劇を子どもにもわかりやすく書いてあって素晴らしい児童書だと今も思っています。ありがとうございました。
      2013/06/09
  •  帰らない少女を廃屋で待ち続ける椅子の物語。
     小学生の頃,たぶん3年生くらいの頃に学校の図書室から借りて読んで,たった一度しか読まなかったけれど,その後ずっと忘れられない本だった。それだけに今更読んでがっかりしないだろうかと不安を感じつつも長年読み返してみたくて迷っていた。そして,やはりどうしても大人になった自分がこの本をどう思うのか知りたいと思い,図書館から借りて読むことにした。

     宮島にたくさんのたくさんの死体が運ばれた日のこと。下では燐の青い炎がめらめらと燃え,その上を人魂が飛び交っていた日のこと。だが戦争の悲惨さだけが主題の本だったら子どもだった私はこの本にそこまで惹かれなかったと思うし,今の私はがっかりしただろう。

     生きているとはどういうことか,命とともに受け継がれて流れてゆく記憶があるとしたら何なのだろう,そういう深い考察が物語の中に散りばめられており,これを読んだ小学校三年生くらいの私がそれを理解できたとは到底思えない。が,理解できないまでも感じ取ったから,この物語はずっと心に残っていて,物語を読みながら頭の中に思い描いた風景を夏が来る度に思い出し続けてきたのだろうと思った。

     2605年と聞いて,皇紀であると今の私ならすぐに思うが,小学生の私は紀元のことなど知りもしなかった。皇紀2605年は,即ち昭和20年,西暦1945年。1945年に何があったか。私がこの本を読んだ当時はまだ戦争から近い時代だったし,小学生でも1945年がどんな年か考えるまでもなくわかったと思う。児童書でありながら,子どもを子ども扱いせず真剣に語る物語だ。
     一番赤んぼうに近いからこそ一番何かを覚えているかもしれないのが3歳未満の小さな子ども。ゆう子が突然童歌を歌うようになったり,「さよなら、あんころもち、またきなこ。」などと言うようになったかはある程度わかったが,どうして見知らぬ家に「ただいま」と帰って玩具のある場所まで知っていたのか,結局わからなかったのが気になった。

  • 夏休み、お母さんの仕事の都合で急遽おじいちゃんおばあちゃんの元に預けられることになった直樹(小学4年生)とゆう子(2歳11ヶ月)。
    初めて訪れるその土地で、直樹は不思議な体験をする。
    「イナイ、イナイ」と呟きながら歩き回る椅子、雑木林の奥にひっそりとたたずむ奇妙な洋館、そこに掛かっていた未来を示すカレンダー……。
    決して忘れられる事のない、あの夏にまつわる物語。

    職場の大先輩からお借りした本です。
    今なお読み継がれている名著だと(それも、原爆に関する作品であることも)知らずに読み、すっかり打ちのめされました。

    私の娘が今2歳4ヶ月なので、物語の冒頭から愛らしいゆう子の姿に重ねていたのですが、読み進むにつれハラハラと云うか冷や冷や。喋る椅子に連れ去られてしまうのではないかと、気が気ではありませんでした。
    勿論、カレンダーの謎が解けて以降は言わずもがな。焼け出されて、ひとり地獄のような町をさまよう3歳の女の子を想像すると、その小さい子のために、そして今目の前にいる私の小さい子のためにも、「いやだ、やめて」と叫び出したくなります。

    直接的に戦争の悲惨さを描いた作品ではないだけに、戦争がその後の未来に及ぼし続けている影響と云うか、経験者ではない世代がどう過去に向き合うかを考えさせられたように思います。
    作中では「20年前の出来事」ですが、私が読んだ今は「あれから70年後」ですし……。

    娘が小学生になったら、青い鳥文庫版を贈ろうと思います。
    「あなたがイーダちゃんと同じくらいの頃にお母さんも読んだんだけど……」なんて話ができたらいいな。

  • イナイ、イナイ、ドコニモ、イナイ…

    小さいころに読んでからずっと忘れられない。自分が監督になって映画化したい。

  • 小さい頃に読んだけれど 今でも 思い出される 本のひとつ。
    コトバの表現が 叙述が すごく ココロに残る。
    目を閉じると 情景が フワァっと 浮かんでくる。
    「イーダ。イーダガイナイ…」
    呟きながら カタリコトリと歩き回る 一脚のイス。
    怖い。けれど切ない。そして、哀しい。現実。
    松谷みよ子の 直樹3部作(?)のひとつです。

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著者プロフィール

1926年、東京生まれ。1944年頃より童話を書きはじめ、1956年、信州へ民話の探訪に入り、『龍の子太郎』(講談社)に結実、国際アンデルセン賞優良賞を受ける。以来、民話に魅せられ創作と共に生涯の仕事となる。日本民話の会の設立にかかわり、松谷みよ子民話研究室を主宰。著書に『女川・雄勝の民話』(国土社)『日本の昔話』『日本の伝説』『昔話一二ヶ月』『民話の世界』(共に講談社)『現代民俗考』8巻(立風書房)など。

「1993年 『狐をめぐる世間話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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