新しい科学論―「事実」は理論をたおせるか (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061179738

作品紹介・あらすじ

人間にとって科学とは何なのかを考える……自然科学は、けっして人間や人間社会から切り離された、中立の道具などではないのです。良かれ悪しかれ、その時代その社会の基本的なものの考え方、底流となっている前提と結ばれているものなのです。……現代の科学は、その長所も欠点も、わたくしども自身のもっている価値観やものの考え方の関数として存在していることを自覚することから、わたくしどもは出発すべきではないでしょうか


人間にとって科学とは何なのかを考える
……自然科学は、けっして人間や人間社会から切り離された、中立の道具などではないのです。良かれ悪しかれ、その時代その社会の基本的なものの考え方、底流となっている前提と結ばれているものなのです。……現代の科学は、その長所も欠点も、わたくしども自身のもっている価値観やものの考え方の関数として存在していることを自覚することから、わたくしどもは出発すべきではないでしょうか。今日の自然科学は、今日のわたくしども人間存在の様態を映し出す鏡なのです。(本書「第二章」から)

感想・レビュー・書評

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  • 「新しい科学論」について述べた本。出版年は30年以上前だが内容は現代でも十分通じる。第1章では一般的な科学論の確認、つまり、科学は中立的・客観的であり、データが蓄積する事で理論を包括的に捉える事ができ、進化していくという流れである。第2章ではそれをひっくり返す、すなわち、宗教と科学の関係、人間という媒体を通した主観性(ア・プリオリ)、ゲシュタルト崩壊と科学革命とつながっていく。科学は手段ではなく人間の営みであり、見直すべきものは解釈する人間の方であると締めくくられている。優しすぎず難しすぎず、第1章から第2章への大きな転換は科学論の捉え方としても読み物としても面白かった。

  •  人間にとっての「科学とは何か」という命題を問い直した本。

     戦後、科学者をお茶の水博士のような「白衣の聖職者」という具合に人間社会の発展という崇高な理念だけを掲げている人々と見なす風潮があった。しかし著者は、科学は人間的な営みだと主張する。

     スピノザが「神すなわち自然」、ガリレオが「自然は神が書かれた書物」と表現したように、神が作った自然=世界を説明するツールとして科学が発展した。コペルニクスの地動説も、ニュートンの万有引力の法則も元々はキリスト教の信仰から出発したものだった。厳密に言うと、近代科学はキリスト教の他、古代ギリシアやアラビアの自然学(代数、幾何学、錬金術)の影響を受けているが。

     科学の世界においてはデータの集積が重要である。データというのはギリシア語の”dare(与える)”が語源であり、「与えられたもの」を意味する。

     集積されたデータから理論を導き、理論から事実(fact)を作り出す行為は人為的である。そしてfactとfictionは語源("造り出す"の意)が同じというのにも驚き。

     たまには、こういう科学もいいな、と思った。

  • 序章 科学的なもの、人間的なもの
    1 科学についての常識的な考え方
      1.帰納
      2.常識的科学観の特性
    2 新しい科学観のあらまし
      1.文化史的観点から
      2.認識論的観点から

    科学理論の本というよりも、哲学の本のような気がした。
    第一章で相対性理論やマルクシズムと小難しい展開でしたが、
    第二章でのひっくり返し方は見事にやられてしまいました。
    このひっくり返し方は、「食い逃げされてもバイトは雇うな」と『食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』のような感じで面白かったです。第一章で後でひっくり返すと何度もおっしゃっておられましたが。
    科学も所詮は人のなせる業なのですね。

  •  科学とは何かを考える本。科学のこれまでの歴史と、今のあり方について書かれている。著者は科学哲学・科学史の分野では著名な村上陽一郎氏。

     前半では一般的に信じられている科学像を紹介し、後半でその科学像を打ち破る。「データは与えられるもの」「人が持っている偏見などがそのデータを歪める」「科学技術は時代が進むにつれ蓄積されていく」というような従来の科学の見方を否定し、新しい科学を論じる。

     「専門的な書物を読んだことのない読者の方がた(例えば中学生諸君)にもわかっていただけるように、なるべく問題や術語をときほぐして説明することを心がけました」とはじめに書かれてある通り、難しい専門用語はいっさい使われておらず読みやすい。科学哲学について少し考える、そして科学史に触れる良い入門書であると思います。

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

  • クーンの「パラダイム論」に代表される「新しい科学論」の内容を、中高生向けに解説ている本です。

    著者は、わが国に新科学哲学を紹介することに長く力を注いできた研究者です。本書は二つの章に分かれており、第一章では常識的な科学観にひそむ前提がとりだしされています。第ニ章は、前半で示された科学観をひっくり返す新科学哲学の見かたがわかりやすく解説されています。著者は、現代の啓蒙主義的科学観の来歴を訪ね、キリスト教的世界観に根ざしつつ、そこから脱却する努力のなかで形成されてきたという文化史的な考察がおこなわれています。つづいて、ハンソンが主張した「観察の理論負荷性」にかかわる認識論的考察が展開されます。

    本書の主題になっている「新しい科学論」は、いわゆる社会的構成主義の理論的な基礎を提供してきたことで知られています。ただし、科学の社会学的な観点からの分析が認識論における相対主義にまで拡張されることに対しては批判も多く、この点にかんしては他の科学哲学の入門書などで補うことが必要であるように思います。

  • 処分後に買い直して再読。

  • 科学系シントピ。フォトリーディング&高速リーディング。

  • 新しい科学論についての本。著者である村上の主張が示されている。
    常識的な科学論の説明も丁寧で、かなり読みやすいと思う。

    著者自身は中高生にと言っているが、読めなくはないが難しいんじゃないかと思う。

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著者プロフィール

1936年東京生まれ。科学史家、科学哲学者。東京大学教養学部卒業、同大学大学院人文科学研究科博士課程修了。東京大学教養学部教授、同先端科学技術研究センター長、国際基督教大学教養学部教授、東洋英和女学院大学学長などを歴任。東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授。『ペスト大流行』『コロナ後の世界を生きる』(ともに岩波新書)、『科学の現代を問う』(講談社現代新書)、『あらためて教養とは』(新潮文庫)、『人間にとって科学とは何か』(新潮選書)、『死ねない時代の哲学』(文春新書)など著書多数。

「2022年 『「専門家」とは誰か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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