彼岸花はきつねのかんざし (学研の新・創作シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784052028960

作品紹介・あらすじ

おきつねさんは、人を化かす。おばあちゃんは、しょっちゅう化かされる。でも、也子の前にあらわれた小さいきつねは、まあるい目をした、かわいい子ぎつねだった。-戦争の悲しみとは、あたりまえにあるやさしい時間が、とつぜん失われることかもしれない。小学校中学年から。

感想・レビュー・書評

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  • 「おきつねさんは、人を化かす。おばあちゃんは、しょっちゅう化かされる。でも、也子の前にあらわれた小さいきつねは、まあるい目をした、かわいい子ぎつねだった。-戦争の悲しみとは、あたりまえにあるやさしい時間が、とつぜん失われることかもしれない。小学校中学年から。]
    (『この本読んで!2022年夏号』平和を考える絵本 の紹介より)

  • きつねの子と人間の女の子の不思議なふれあい。でも、ところどころに書かれる戦争の影、そして最後は…

    今普通だと思っている日常がある日突然奪われる、それが戦争だと、そして、どんな理由も戦争を肯定するものはないということを、戦争を知らない子どもたちに本を通じて伝えたい。

  • 2021.02.08

  • これこそ子どもたちに読まれるべき本。

  • 不慮の事故や病気などで人が死ぬことがあるかもしれないが、戦争で人を死なせてしまうことだけはなくなってほしい。普通の夢見る命が一瞬のうちに消えてしまう。耐えられないことだ。作者の朽木祥(くつきしょう)は1957年生まれ。私より2つ若い。被爆二世だという。
     
    最近、大学図書館で児童書を見つけて読むのが楽しみ。この本は装丁の美しさで手にしたのだが、こんな結末とは、最後の最後まで気がつかなかった。

  • 朽木祥は被爆二世で、戦争をテーマにした児童文学の書き手としてよく取り上げられるが、初めて読んだ。
    伝えようとする者が戦争を知らない場合、戦争のおそろしさを今の子どもたちに伝えるのに文学は適しているが、なかなか難しいなとつくづく思う。
    この本も非常に誠意の感じられる作品で、丁寧な書き方に好感が持てるが、戦争の恐ろしさを伝えられているかはちょっと微妙。なおかつ物語として面白いかと言われると、いまひとつ・・・。
    例えば『人形の旅立ち』(長谷川摂子)は(戦争とは関係ないが)、丁寧な書き方で一昔前の子どもを描いていたが、物語として面白かった。
    『ふたりのイーダ』は構成が巧みなうえ、なんともいえぬ不気味な恐ろしさと悲しみが伝わる。
    これはどっちにも及ばない。
    被爆二世で、被爆した人たちから直接話をきいて育ったであろう著者だからこそ期待したのだが。

  • 広島原爆の話だけれども、とても不思議でせつない話。
    ~戦時下の厳しい暮らしの中でも子どもたちは、元気よく駆けまわったり、縁側であやとりをしたり、おばあちゃんにお話をきかせてもらったりしていたのです。実に子どもらしい暮らしをしていたのに、一発の原子爆弾によって、一瞬のうちに七万を超える命が失われました~

    也子(かなこ)は四年生。
    おばあちゃんとおかあさんとねえやん、コウさんと暮らす。
    広島の町から少し離れた山に近いところ。
    お父さんは兵隊になって中国へいったという。

    也子のおばあちゃんは、しょっちゅうきつねにばかされるという。
     「あれはきつねではのうて、おきつねさんじゃ」
    同じ場所をぐるぐる歩かされる。
    也子のお母さんは、もうばかされないという。

    コウさんは
    「わしは絶対に化かされんのじゃ。うまく人相を変えてみせるとるけえのう」
    「人相を覚えられんよう、いろんな顔をしてみせるんんじゃぞ」

    おばあちゃんは
    「ひとりで竹やぶに入ったらの、おきつねさんに化かされるかもしれんけえのう」

    ある日みんなで「たすけ鬼」をしていたら、警戒警報がなり、てんでに竹やぶにかけこんだ。だがすぐに解除され、遊びの邪魔をされたはらいせにたけやぶでかくれんぼをしようとしたのだが~
    そこで也子は子ぎつねに出会う。
    子ぎつねは、おばあちゃんを化かしたおきつねさん(オババ)の孫らしい。
    「あんた、わたしに化かされたい?あたし、わりあい、上手に化かせるんだよ。」
    「ぜんぜん」

    「心があって悪さをするきつねを、おきつねさんと呼ぶんか…」
    「也子には、そういうふうに聞こえたんか。人間にはわからん不思議な力のあるものを、そんなふうに読んできたのかもしれんのう。あんたさんらを畏れております、こちらから悪さはしません、おろそかにはしません。だからあんたさんらも、わしらに悪さをせんでください、という気持ちをこめての。こういうものらはそっとしといて、こちらかは関わり合いにならんのが一番じゃ。」

    ある日、也子がおしろいばなで首飾りを作ったが、家に持ち帰るとひとつ足りない。
    ところが一日たった後、地蔵石にかかっていた。
    也子はこんどは子ぎつねのために首飾りを作り、手紙と一緒に置いておく。

    ー家の中にいても雨がやんだのはすぐにわかる。降りやんだとたんに鳥や虫が出てきて、大きな声で鳴き始めるからだ。

    ふせごの中に閉じ込められたら、こんな感じかな。
    (鶏などを入れておく籠)

    ー「一人で竹やぶに入ったら、コトリに連れていかれますのやで。かのちゃん」
    コトリ?子盗り?

    コウさんがいうには、きつねの嫁入りにも二種類ある。
    夜、嫁に行くものは狐火をともしていく。
    昼、嫁に行くものは雨を降らしていうのだという。

    「青海波(せいがいは)の着物じゃ。銀の箔を置いた緞子(どんす)の帯をしめての、三日月の帯〆を合わせてものじゃ」
    青海波=青い波形のそめ模様、もとは雅楽の舞の衣装に使われた
    緞子=光沢のある絹織物。厚地は女物の帯に使われる

    三滝の山を上がったあたりの道じゃ。ものすごう老いた、おきつねさんがおっての。“かあきりきつね”とか“かみきりきつね”とか呼ばれておった。
    ほんまに髪を切りおるからじゃ。

    「古ぎつねはな、きれいな女に化けた上に人の家に入り込むんじゃ。人と、子まで、なすぞ。だれかに見ぬかれるまで、殊勝にお母さんをやり、おばあちゃんいもなって、立派に家も切り盛りしての。またそういう家は立派に栄えるんじゃ」
    まさかおばあちゃんが、その古ぎつねじゃないよね。

    「おぶくさんを、おじいちゃんい供えといで」
    おぶくさん=お仏供 おそなえのこと

    「雨はねぇ、山の向うへにげていくよ。風があっちに吹いてるから。」
    「まだ遊べるよ。日暮れまで時間があるよ」
    ひめじょおんの森で遊ぶ

    「雨がだーっと降るよ。早く帰ったほうがいいよ」
    「そうかもしれん、と思うとったよ。今日は遊べんねえ。」
    「こんど、また、遊んであげるよ。」
    「うん、こんど、また遊んでね。」
    「こんども、こんども、また、こんどもね」
    「あんた、あたしに化かされたい?あたし、わりあい。化かすのが上手なんだよ」
    「大きな栗も、甘い柿もあげるよ」
    「花はどう?夏の前にはきれいな花が咲くけど、暑いさかりは、きれな花をちっとも見ないねえ。あんたは、どんな花が好き?あたしは、首飾りにできるような花が好き」
    「じゃあ、彼岸花」
    「かんざしみたいに、きれいな。花嫁さんが飾るみたいな。」
    「白い、彼岸花がいいな」
    「ああ、それはいいねえ。ものすごくきれな、白い彼岸花が、町の近くの丘に咲くよ。まだ咲いていないかな。咲いているかもしれない。見に行ってみよう。」
    「でも、このごろ、あたしはあんまり町の方にはいかないんだった」
    「町には、こわいことがあるよ。帰ってこないものが、たくさんあるよ。」

    そして也子もピカドンにあう。

    「おきつねさんは、とんと見かけんのう。そもそも、おきつねさんは火事を知らせて鳴くもんじゃが、あの前の晩はちいとも鳴かんかった。」
    「ピカドンは、おきつねさんでも知り得ん、おそろしいおそろしい禍いごと(まがいごと)じゃったということかもしれん。也子も、苦しい痛い思いをしたが、ああようにむごいありあsまを、その目で見んですんだのは、心の幸いじゃ。」

    「町から帰ってこないものが、ある」

    「ピカドンの独は、ゆっくりひろがるものもあるからのう。毒を拾ってしもうたら、せっかく無事に帰ってきてもーたとい傷がひとつもないように見えても、けっきょく、命が切れてしまう。」

    「ああようにおそろしいことがあったのに、帰ってこん人が、ようけい、おるのに、前とおんなじに針が進んで時計が鳴って、また次の日が来るんがのう」

    「先だって、地蔵石のところに、妙な花束が置いてあったのう。お彼岸のころじゃ。だれぞが供えたもんじゃとばかり思うとったけど、どうも人の手で作ったものではないように、わしには見えての。暑いなか、不思議に、みずみずしゅうて。それもめずらしい白い…」

    きつね、彼岸花なんか、いらない。
    わたしは、あんたに化かされたい、っていえばよかったよ。

  • おきつねさんは、人を化かす。でもこの本に出てくる人はキツネに化かされても、おおらかに受け入れる。也子(かのこ)のばあちゃん、お母さんを代々化かしてきたキツネの子が、也子の前に現れた。くりくりっとした目の可愛い子狐。「化かされたい?化かすの、うまいんだよ」って聞いてくる。
    しかし、そのゆるやかで楽しい時間は戦争とともに消えてゆく。
    当たり前だった、日本の田舎の日常が少しずつ、そして原爆で大きく変わった。被害者はその時まで、普通に生活していた普通の人だったのだと改めて思う。

  • 戦争時代に生きた広島の女の子ときつねの物語。最初は、化かしたい、化かされない、とかけひきをしていた女の子ときつねのかわいらしいお話でしたが、ある日原爆が投下されて・・・著者の言葉が胸にひびき、じわっときました。

  • 朽木さんの文章は、なんというか、しっとりしていて、強くないけど残ってくる、という感じで。
    『かはたれ』の河童も魅力的だったけど、今回の子狐もイイです。
    ラストの余韻は、なんと表現したらいいか……。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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