暗闇の非行少年たち (メディアワークス文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.85
  • (12)
  • (12)
  • (16)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 446
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784049147605

作品紹介・あらすじ

少年院から退院した18歳の水井ハノは、更生を誓いながらも現実に馴染めず、再び犯罪に手を染めようとしていた。そんな時、SNSで「ティンカーベル」という人物から、ある仮想共有空間への招待状が届き……。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 少年院から退院した18歳の水井ハノは、更生を誓いながらも社会に馴染めず苦しんでいた。そんな時、「ティンカーベル」と名乗る人物から、ある仮想共有空間(メタバース)への招待状が届き──。

    メタバース「ネバーランド」へ来たハノは、VRを使った交流を経て、信頼のおける友人たちを作っていく。仮想現実で得た友人を通して、現実における自分の弱さや罪悪感へメンバーが立ち向かっていくのは熱かった。お互いのいいねを競って消費し合うSNSよりも、メタバースは没入感があって人間関係は深まるのかもしれない。直接的な暴力も振るえないし、悪口もVRを通しているから面と向かって言いづらいというか。

    読んでいて岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』を思い出した。加害者の罪は確かに罪ではある。ただ、加害者もDVやイジメの被害者の一面があったり、その心にある泥を吐き出さない限り、更生は形骸化してしまう。厳罰化が取り沙汰されている中、彼らの排除ではなくその社会背景や原因を知って対策しなければ、罪を繰り返させるだけになってしまう。誰しも罪を犯したいと願って犯罪をしているわけではないのだから──。

    ハノがやっとの思いで言葉に出した助けが欲しいという本音。
    失った相方とお笑いの道を目指していた真二のノートを埋め尽くす謝罪の言葉。
    カノンが見つけ出した自身の加害者性と被害者性の線引き。
    罪の先に自分は何ができるのか真剣に考えること。それこそが更生なのかもしれない。

    「俺たちの行動が、選択を正解にするんだよ」

    印象深い文章を引用して終わります。自己愛についての洞察はなるほどって感じた言葉。

    p.75
    「高尚なものは、それが理解できる人にとっては良いものなんだろうよ。でもな、それって理解できない者はさ、寂しくない? 俺はさ、人に寂しい気持ちにさせるより、低俗って言われてもいいから笑わせたい」

    p.194
    「汝、自身のごとく隣人を愛せよ」
    戸惑った。その言葉は「自分が自分を愛している」ことが前提に聞こえたから。無性に腹が立った。俺は自分自身に嫌気が差しているというのに。犯罪を繰り返していたのは他に生き方を知らないから。でも同時に思う。腹が立つってことは自分を愛しているってことじゃないのか。俺にも愛情というものがあるのか。

    p.210
    「いいか? 大事なことを教えてやる。箱から箱へ移動し続けた、俺なりの人生訓だ。『俺たちは賢くない』。何度だって間違える。ミスを犯す。だから悟っちゃいけない。賢くない人間のくせに『自分の幸せはこれしかない』とか簡単に決めつけるな」

  •  おおざっぱにまとめると,はみ出してしまった子達が「更正すること」にあがく物語かな?
     ちゃんとしようと思っているのだけれども,そうできない自分を持てあましているハノは,禁じられていたブル前にまたたむろするようになるのだが,あるきっかけで仮想空間のネバーランドに行く.そこには,後悔から贖罪を続けていた信二や,カノンこと衝動的に取り返しのつかないことをしてしまった三春などがつどっていた.ハノ達はネバーランドに自分達の居場所を見つけていくのだが,主催者のティンカーベルが,続いて古株の鐘倉もいなくなってしまい・・・.
     贖罪と更正をごっちゃにして自己満足で切って捨てることがよくあるけど,良い行いをすることは良いことなので,「それは,しょせん自己満足だ」って非難されるいわれはないよね.ただ謝罪の場合は,謝罪相手からの「お前の謝罪は自己満足に過ぎない」との非難は甘んじて受け入れるしかないのだろう(つらいけど).

  •  少年院から退院した18歳の水井ハノは、更生を誓いながらも上手く現実に馴染めず、再び犯罪に手を染めようとしていた。そんな時、SNSで「ティンカーベル」と名乗る人物から、ある仮想共有空間(メタバース)への招待状が届き――。
     空間に集う顔も本名も知らない子供たちとの交流を通し、暗闇にいたハノは居場所を見つけていく。だが、事情を抱える子供たちのある“共通点”に気づいた時――、謎の管理人ティンカーベルが姿を消した。予想もつかない事態へ、ハノたちも巻き込まれていく。

    子供たちを集める謎の管理人ティンカーベルの目的とは。更生を願い、もがく少女が見つけた光は、希望かそれとも――?
    鳴りやまない反響に20万部突破 『15歳のテロリスト』の著者が放つ、新たな衝撃ミステリー!!

  • 非行を行う者は根っからの悪人じゃなく、そうするしかない人たちが多い。だからこそ少年法とか少年院って大事なんだなっておもう。
    罪を背負って生きていくって相当大変なことなんだなって。
    そういう時に逃げ場所を与えることができる人ってめちゃくちゃすごい。
    ほんとどの小説も心が突き動かされる小説。

  • 暗闇の中で生きる少年少年たち。そんな中、仮想共有空間で出会う。
    オンラインの世界が好きだから、どこか登場人物に共感できる所もある。
    読んでよかった。

  • 少年院を出た18歳の水井ハノは、孤独を抱え生きていた。
    あるとき手にした「仮想共有空間」への招待状は
    その後の彼女に大きな影響を与える。
    管理人ティンカーベルの正体などわからないことは多い。
    でも「ネバーランド」に集まれば仲間に会える。
    そして孤独からも解放される。

    何度も犯罪に手を染める者たち。
    その道しか知らない彼らのために
    ティンカーベルは救いの手を差し伸べる。

    初読み作家さん。
    地方紙(中日新聞)の記事を読み本書を手にした。
    若い読者が多いらしい。

    〈もうちょっと上の世代向けの小説を書いてみたい〉と。
    (好書好日より)

    どのような作品が届けられるだろうか。
    楽しみに待ちたい。

  • 見事に社会問題を突いてくるのが松村先生作品の特徴ですが、今回も社会問題を突いてきますね!

    個人的に、今作はキャラクターの印象が逆転することがかなり多かったです。良い人と思っていたキャラクターが悪い人だったり、その逆も然り。そういう意味では作者の意図にまんまと嵌ってしまったように感じます笑

    キャラクターも個性的で愛着の持てるキャラが多かったのでそこも良かった!

    ただ、最後に向けて勢いがなくなっていく感じがしました。ティンカーベルの謎が思ったよりあっさり解決してしまったように感じて、そこは少し残念だったかも、、、。
    しかし、やはり松村先生作品は面白い!!

  • 今まで読んだ松村作品の中で1番好き!!!
    勿論、内容は重め。
    でも読後が滅茶苦茶爽やか。
    表紙になっている3人をメインに“ネバーランド”の運営側2人も絡み、彼等が直面している問題や過去の事件……そういったものをどんどん彼等なりに改めて咀嚼し、理解し前に向こうとする気持ちが伝わってくる作品でした。
    彼等がしたことで許されないこともあるけれど、それでも彼等には幸せになってほしいと願う私がいました。
    悲しい要素もあるのですが、〆方が綺麗で、読んでよかった!!!と心から感じました。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

第22回電撃小説大賞で《大賞》を受賞した『ただ、それだけでよかったんです』(電撃文庫)でデビュー。『15歳のテロリスト』(メディアワークス文庫)が発売から反響が続き20万部を超える代表作に。以降、『僕が僕をやめる日』『監獄に生きる君たちへ』『犯人は僕だけが知っている』も発売即重版のヒット作となっている。

「2022年 『暗闇の非行少年たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

松村涼哉の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×