世界が完全に思考停止する前に

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 164
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048839006

感想・レビュー・書評

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  •  オウムを題材とした記録映画『A』、『放送禁止歌』をはじめとするメディア批評などで知られる著者が雑誌などへ発表した文章を集めた本。
     名前は知っていたのだが、調べ物のついでにひっかかったamazonの書評で、むちゃくちゃ★が多かったのが読んでみたくなった理由。

     一読して……とても「当たり前」を感じたのは、意外だった。「勇気ある言説に対して尊敬がたりん、お前がナニをした」と言われればぐうのねも出ないのだが、「感覚」として、著者の視点は奇をてらうものではない。メディア批評とか、タブーに挑むだとか、イメージからしてもっと強面というか、向こう傷をいとわない勇ましさを勝手に思いこんでいたのだが、悪い意味でなく肩すかしをくった気分。

     時事のニュースを追う形だが、著者の主張はそれほど多岐にわたるものではない。
    ・メディアを疑え
    ・そんなくだらないメディアを支えている、自分たちを振り返れ
    ・あいまいな「私たち」で垂れ流される、主語のない言葉を疑え
     これくらいである。このテーマは形を変えて、繰り返し現れてくる。

     じゃあ、何を信じろと言うのか。そこまでこの著者は親切ではない。「オレについてこい」というほど傲慢でもなければ、「自分以外の何か」にその責任を押しつけるほど無神経でもないのだろう。著者は言うなれば、メディアの「中の人」である。だから、材料として、メディアの中にあるもの以外は出てこない。
     つまりは、この本には自己言及的な構造が必然的に生じるのである。
     この本を「正しく」読むならば、この本もきちんと疑われなくてはならない。「先進国で死刑存置するのはアメリカと日本だけ」と書いてあれば、恥ずかしく思うだけではなく「なぜ」を考えるべきだ。「で、何だったんだろう、あの牛丼騒ぎって。」と著者が疑問を呈したときは、著者をほめたたえるより先に、自分で「何だったのか」を考えるべきだ。
     著者の誠実な態度に共感を覚えながら、この本のとおりに「疑問を持ってしまう」だけに終わってはいけないと自戒する。

  • 一気に読めてしまいました。そして、自分の無知さ加減に気付くのでした。<BR>

    憤る事は多々。<BR>
    知らなかった事件にやっぱり日本のつらさを感じて、今までオウムが日本における一つの区切りだった、という言葉にあまり実感はなかったけど、これを読んで、そうかもしれない、と気付く。<BR>
    主語を自分にしなければならないと言う事、私も肝に銘じなければ。<BR><BR>「本当の憎悪は激しい苦悶を伴う。でも主語を失った憎悪は、実のところ心地よい。だからこそ暴走するし感染力も強い。」<BR><BR>
     なるほど、と付箋をいっぱい張った。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「でも主語を失った憎悪は」
      暴走しても、意識は自分じゃないから罪悪感も何も感じずに済む、、、とても怖いです。。。
      「でも主語を失った憎悪は」
      暴走しても、意識は自分じゃないから罪悪感も何も感じずに済む、、、とても怖いです。。。
      2012/12/18
  • 思い込みで判断することが本当に多いと改めて感じた。
    小さな疑問をそのままにしないこと、言葉で伝えていくことで人々は考える。
    メディアが偏る、臭いものに蓋をする事で、どんどん日本人は怠けてしまう。
    他にも今の日本は、ラオス政府が国民が知恵や知識を身に付けすぎないようコントロールしていることに似ている気がした。
    今急にメディアが真摯に報道しはじめると、日本は混乱するだろうと思う。でも、それを乗り越えた未来を見据えて、変わるべき姿勢があると感じた。

  • 著者は、大抵の人がそのまま聞き流したり、当然のことと感じてしまうさまざまな事に、はっとするような角度から主張を始める。もちろん、著者の主張が全て納得いくものではなかったが。先の『ドキュメンタリーは嘘をつく』でも感じたのだが、森達也という人は本能的に多数の人と同じ方向を向くことができないようだ(違う方向を見るというより多数の視線を逆方向から見返すような感じ)。

  • 刊行されたのは随分前で話題は古くても、考え方や今の日本の根本的な問題はあんまり変わってないし、むしろ酷くなっている気がして哀しくなった。私達は何を信じて生きて行けばいいのだろうか。垂れ流されている情報が真実でないとしたら、それを見極める力を身につけなければいけないのだろうけれど、それを身につける方法すら今の日本人には難しいのかもなぁと思った。もちろん私を含めて。

  • 図書館で借りてきた本。

    著者があとがきで書いているとおり「良く言えばリサイクル。」の本。同じことばかり書いている、と評価されるらしいが、この本やこの本と同じ体裁の本(過去の雑誌で書いた文章を集めたもの)はそういわれても仕方がない。

    もうこの人の本、何冊目になるんだろう?だいたい、雑誌の連載を集めたものとかそういうのは面白くないんだよね。これだったらわたしが借りるまで全く読まれてなかったように見えた「「池袋シネマ青春譜」の方が本当は面白かった。この本の方が発行年月日は遅いのに、実はボロボロ。まぁ確かに森達也っぽい題名の付け方や内容なんだけれども、初めてこの人の本を読むならともかく、もう柔軟冊目になるわたしが読むほどの本ではなかった、と思う。その後の言動やなんかで同じことをこの人は言ってるからだ。

    ってことで、文句を言っても仕方ないんでこれで終わり。おそらく今後はこの手の本は読むことはないだろうしね。

  • 例えば、パンピーの私が政治について野田総理と同じ次元で考える必要はないけれど、道端に転がっている黒いホームレスから目を逸らしてはいけないと思うのです。

  •  オウム真理教を追ったドキュメンタリー映画『A』で有名になった森達也氏の評論集。

     メディアの側に居る者から発信される言葉は、みんなとりあえず落ち着いて考えようよ、という当たり前の意見だ。しかしそれが出来ない人間を作り出しているのは他でもないメディアなのである。
     森達也は語る。ウジウジ悩む事は悪いことではないと。それより人の考えにすぐ便乗して自分の思考を停止してしまう事の方が恐ろしい。

     なんだか今の世の中に違和感を感じている人は必読。もっとも、違和感を感じてない人はもっと必読だ。

     ただ気になるのは、収録されている評論の一つ一つがそれぞれ別々に発表されたものなので、一冊の本としてつながりが無いって事か。なのでイマイチ物足りない気がする。

  • 2009/5/30購入

  • 吉野朔美(ほんだなより)
    文庫あり

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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