歌集 滑走路

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 90
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048764773

作品紹介・あらすじ

生きづらい、不安な時代を生きるすべての人へ 若き歌人が残した295首のエール

感想・レビュー・書評

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  • ⚫︎感想
    人生を悩んだ一人の若者の、同じような立場にある他者へ向けて、寄り添う歌が切なくて、ハッとさせられた。
    三十一文字で表現する懸命さに胸を打たれた。
    いくつかの歌を書き写しておこうと思う。

    ⚫︎本概要より転載
    いじめ、非正規雇用・・・・・逆境に負けず
    それでも生きる希望を歌い続けた歌人がいた。
    32 歳で命を絶った若き歌人の絶唱を収めた短歌集。

    「ピュアな言葉に思う。短歌は彼の濾過装置。自在な表現に思う。短歌は彼の翼。真っすぐに心を射抜く短歌が、ここにある。 俵万智」

  • 萩原慎一郎さんの記念すべき第一歌集は、遺歌集となってしまった。

    その理由は推測するしかないのだが、中高一貫校での、いじめが元で、ずっと精神的苦痛を抱えていたとも言われており、高校で同じような体験をした私にとって、真にやり切れない気持ちで目頭が熱くなり、怒り、悲しみのようなものを抑えることができない。

    いじめのことは、他の作品でもうんざりするほど、何度も書いていて、いじめる側にも原因があると冷静に分析するのもいいが、結果として、彼はもうこの世にいないわけで、それを選択したときの彼の気持ちが、どんなものだったか、考えたことがあるのかと言いたくなるし、私自身、他人事になれず、悔しい思いでいっぱいだ。

    もしかしたら、それだけが原因ではなく、この歌集でテーマにしている、労働環境(非正規雇用も正規雇用も)や孤独感もあるのかもしれないが、いずれにしても、この歌集における、彼のまっすぐな思いをしっかり酌み取って、彼の分まで生き抜いてやりたいくらいの、気概は充分いただいた。

    彼は決して、生きることを諦めてはいなかったことは、以下の歌で分かる。


    今日願い明日も願いあさっても願い未来は変わってゆくさ

    癒えることなきその傷が癒えるまで癒えるその日を信じて生きよ

    疲れていると手紙に書いてみたけれどぼくは死なずに生きる予定だ

    内部にて光り始めて (ここからだ) 恋も短歌も人生だって

    理解者はひとりかふたり でも理解者がいたことはしあわせだった

    われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を

    まだ知らぬぼくに会うためノックしてこころの扉開けてゆくのだ

    抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ


    いじめだけではない、孤独も分かるつもりだ。
    だからこそ、上記の歌自体に、熟成さは無いとしても、愚直なまでの自らの思いの熱量の高さだけは、私にもはっきりと分かる。

    私も同じ事を思っていたんだ。ひとりじゃなかったんだよ。

    それから、彼は、何度も恋をしていた。
    滑走路から果てなき高さへと舞い上がった、彼の純粋な魂を、以下の歌で思いたい。


    おもいきり空に向かって叫ぶのだ 短歌が好きだ あなたが好きだ

    あの雲にベンチのように腰掛けてきみとふたりで語り合いたい

  • 歌会仲間からプレゼントされた本
    以前の歌会で先生が紹介していたらしいが覚えていなかった

    正規雇用になって前に進めそうな状況となり、「歌集を出したいんです」と嬉しそうに周囲の方へ報告していたり、週末にリュック背負って書店を巡る姿が浮かびます
    短歌に救いや希望を込めてこんなにもこころの叫びが表現できるのかと驚嘆
    日常ではそのまま見逃されてしまいそうな懸命に働く人へのまなざしが本当に優しい 
    片想いの歌はどれも秀逸で真似をしたくなる
    自分自身の状況を歌ったものは鋭いナイフでえぐられるような感覚
    初めて歌集で泣いてしまった
    三枝昂之さん、又吉直樹さんの解説で理解が深まる 
    ご両親の想いの生きた証として尽力なさって私のところにも届いたことに感謝
    これからも、彼の短歌をもっともっと読みたかった

    どの歌も素敵 特に印象に残ったものを覚書

    いろいろと書いてあるのだ 看護師のあなたの腕はメモ帳なのだ『メモ帳』
    牛丼屋頑張っているきみがいてきみの頑張り時給以上だ『タルタルソース』
    ひるやすみ寝ているきみよ 懸命に働いている証のごとく『カレーうどん』

    作業室にてふたりなり 仕事とは関係のない話がしたい『滑走路』
    脳裏には恋の記憶の部屋がありそこにあなたが暮らし始めた『伝書鳩』
    遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから『言葉と言葉』
    かっこいいところをきみにみせたくて雪道をゆく掲載誌手に『言葉と言葉』
    われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を『歌という鳥』
    耐えがたき感情を抱くここにいるのはぼくだけどぼくなんだけど『あこがれのひと』
    あこがれのままでおわってしまいたくないあこがれのひとがいるのだ『あこがれのひと』
    きみじゃないきみを探すよ あの街にさよならをしてどこかの街で『傷心旅行』
    好きだ 好きだ 好きだと伝えても届かない恋ばかりしてきた『だだだだ、だだだ』

    朝が来た こんなぼくにもやってきた 太陽を眼に焼き付けながら『プラトンの書』
    パソコンの向こうにひとがいるんだとアイスクリーム食べて深呼吸『太陽のような光』
    提げている袋の中におにぎりと緑茶を入れてもうすぐ春だ『おにぎりと緑茶』
    夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから『自転車の空気』
    東京の群れのなかにて叫びたい 確かにぼくがここにいること『歌詠む理由』

  • 5552の文庫版のレビューを読んで気になって読んだ。

    32歳という若さで亡くなってしまった歌人萩原慎一郎の第一歌集であり、かつ、遺歌集となってしまった。ストレートでまっすぐな表現で詠まれた短歌が多くてとても胸を打たれた。

    長く非正規雇用として働いていたそうで、同じ境遇で働く若者へのエールと思える短歌も多くあった。

    “非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている”

    “挫折などしたくはないが挫折することはしばしば 東京をゆく”

    “ぼくたちのこころは揺れる 揺れるのだ だから舵取り持続するのだ”

    “かならずや通りの多い通りにも渡れるときがやってくるのだ”

    “占いの結果以上にぼくたちが信じるべきは自分自身だ”

    「外へ出ると短歌がたくさん出来るんだよ」という著者の言葉も心に残った。

    • 張飛さん
      まこと、コメントありがとう!ブログにもコメントをくれてありがとう!

      ブログの方は、承認制になっていて俺がコメントに気づいた時に承認ボタンを...
      まこと、コメントありがとう!ブログにもコメントをくれてありがとう!

      ブログの方は、承認制になっていて俺がコメントに気づいた時に承認ボタンを押してはじめて、コメントが表示されるようになっているんだ。

      ただ、ブクログみたいにコメントの通知機能がないから、気づくのが遅くなってしまった。申し訳ねえ!

      さっき、ブログの方にコメントを返信したからぜひ読んでみてくれ!
      2023/03/28
    • まことさん
      張飛さん♪

      お返事ありがとうございます。
      ブログの方に返信させていただきました。
      本当に重ね重ねありがとうございます。
      張飛さん♪

      お返事ありがとうございます。
      ブログの方に返信させていただきました。
      本当に重ね重ねありがとうございます。
      2023/03/28
    • 張飛さん
      まこと、こちらこそブログへの返信ありがとう!また、気軽にコメントしてくれ!
      まこと、こちらこそブログへの返信ありがとう!また、気軽にコメントしてくれ!
      2023/03/28
  • 32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎さんの第一歌集であり、遺歌集。

    真っ直ぐ素直な言葉で綴られた、約300首の短歌が収録されています。

    読まれる内容は、不安定な労働環境や片思い、将来の夢や憂いや、短歌への愛情。
    純粋で透き通っていて、でも痛々しく切実さを感じられる31文字の言葉たち。
    生き辛い世の中を、それでも希望をもって生きようとしていたことがわかります。

  • ぽつん、ぽつん、と、普通の本より行間を開けられて書いてある三十一文字の言葉を、目で追う。

    わかるなぁ、と思う。自分に語りかけられているような気もしてくる。生活を切り取ったかのような、短歌。萩原さんに会って話したいな、って思った。

  • 日常の中に潜む「その先」を想像するのが上手い人。帰り道に買うコンビニの肉まんが美味しいことを知っているだろうし、横断歩道のボタンを押す感覚がきっと好きだろうなと思う。人間らしい人間だなあと個人的に感じた。
    この作品は著者が今のままではいけない、もっと、もっとと高みを目指して、そうして、その意志と共に羽ばたくことを願ったのを随所から読み取る事が出来る作品。呼吸に合わせて読みたくなるし、ホットミルクよりも麦茶のほうがこの歌集には合う。
    みそひともじを愛した彼は翼を得ただろうか。ことばに遺された心臓が、とても温かく、柔らかくて、酷く切なくなった。

  • 弟の健也さんの宣伝で知り読み始めました。短歌といえば寺山修司や石川啄木辺りしか読んだことが無かったのですが、これはそういうものに匹敵するような力がある作品だと思いました。時間を忘れて夢中で滑走路の世界観に引き込まれ読み終えたときには、目頭が熱くなっていました。

    いじめとか非正規とかそういう可哀想な人が可哀想な日記を書いたのでなく、どんな状況でも立ち向かい続けた萩原慎一郎という一流の詩人が、平成を代表する大作を残し旅立っていったのだなと思いました。

    この本に出会えて良かったです。

  • 歌集なので、好き嫌いが分かれるというか、刺さる人と刺さらない人の差はすごいと思うけど、私には大きな矢のような感じで心に刺さった。「最後に1冊だけ選んで旅立て」と言われたらきっとこの本を選ぶ。

  • 私にとって、俵万智以来の口語短歌。
    俵万智とは違い、ときに悲鳴のような、ときに祈りのような、痛切な思いを感じる。
    バブルで浮き足立っていた頃と、経済的に先が見えない今の違いなのかと思ったけど、それだけではない事があとがきで分かって、やり切れなくなる。
    彼の純粋な感性と才能を潰してしまったかつての野球部員たちは、それでも自分たちの罪ではないと思うんだろうな。いじめた方は覚えてなかったり、自分がしたことを正当化して記憶してたりするから。

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著者プロフィール

1984年 東京都生まれ私立武蔵高校・早稲田大学卒業。りとむ短歌会所属2017年6月8日逝去(享年32)

「2020年 『歌集 滑走路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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