空の彼方 (メディアワークス文庫 ひ 1-1)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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本棚登録 : 734
感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048682893

作品紹介・あらすじ

小さな路地に隠れるようにある防具屋「シャイニーテラス」。店の女主人ソラは、訪れる客と必ずある約束をかわす。それは、生きて帰り、旅の出来事を彼女に語るというもの。ソラは旅人たちの帰りを待つことで世界を旅し、戻らぬ幼なじみを捜していた。ある日、自由を求め貴族の身分を捨てた青年アルが店を訪れる。この出会いがソラの時間を動かすことになり-。不思議な防具屋を舞台にした、心洗われるファンタジー。第16回電撃小説大賞"選考委員奨励賞"受賞作。

感想・レビュー・書評

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  •  防具屋シャイニーテラスの女主人、ソラとシャイニーテラスに訪れる兵士たちの姿を描くファンタジー。

     世界観はRPGゲームに近いものの、基本的にソラとそのお客たちの会話が中心となるのでファンタジー色はそこまで濃くないです。

     とある理由により店の外に出ることのできないソラ。そのため彼女は防具を売った客にある約束を交わし、そして「いってらっしゃい」と声をかけます。

     この「いってらっしゃい」という言葉と防具が結び付くのがこの本です。「いってらっしゃい」はそれ単体だと宙ぶらりんの言葉だと作中であります。「いってらっしゃい」があり「おかえりなさい」という言葉があってこそ、この言葉は成立するのです。

     そしてもちろん、おかえりなさいためには帰ってくる必要があります。無事に帰ってきてほしいからこそ、ソラはそれぞれにあった命を守る防具を売るのです。

     世界観に文章、そして登場人物たちの思いの優しさが温かい小説でした。

    第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞

  • ファンタジーなんだけど、戦う方じゃなくて、待つ方の視点。他の物語じゃ一瞬の描写かもしれない、書かれないかもしれないけど、だからこそ、本物のファンタジーなんだなぁ、って思います。
     防具屋の主ソラの視点と、そのお店で人々が思い出しながら語る冒険は、瞬間のスリルこそ少ないけど、より考えや気持ちがこもってて読み応えがあります。

  • 「いってらっしゃい」
    「いってきます」
    「ただいま」
    「おかえり」
    ただそれだけを言うために。
    ただそれだけを聞くために。

    待つことしかできないけど、待つことならできる。
    帰るべき場所を、守り続ける。

    と、なんだかただただ待ってるだけのようなことを書きましたけど、それだけじゃないですよね。
    彼女はただ待つだけじゃない、言うなれば「能動的に待つ」のです。
    防具を作り、手渡し、それにより一緒に戦う。
    防具を作ることで、一緒に旅をし、彼らの身を守り、そして彼女が待つ、その場所へ帰ることを手助けする。
    受動的になりがちな、待つことを能動的にする。
    積極的に待つ。

    同じ防具を使う仲間によるネットワーク作りも、能動的待ちのひとつの策。
    同じ防具を使う仲間同士が助け合えば、それぞれが生き残り、帰ることができる可能性が飛躍的にアップすることは確実。

    すべては待つために。
    帰りを待つために。



    最初、なんだか硬い文体だなと思っていたのですが、なんだか途中からこなれてきたのか、それも気にならなくなりました。

    剣と魔法の世界を舞台とするファンタジーなのだけど、戦闘シーンと呼べる戦闘シーンはほぼ出てこない。
    それもやはり、この作品のテーマを表してるのかなと思ったりします。
    すべては帰るために。

  • 1人の少女をもとに、人と人が結び合って命を繋げていく、ジャンルはなんだろ、、、。
    ただただ優しい物語

  • 武器屋、防具屋、薬屋、魔法屋、旅人向けの無骨な店が目立つトラマンテ通りの狭い裏路地を進むと、見逃しそうな細い下り階段がある。
    「防具全般取扱店 シャイニーテラス」
    薄い色彩の華奢で小柄な女性、ソラの防具の店。
    この店には3つのルールがある。
    ・この街に住み、帰ってくると決めていること
    ・生きて帰るため、最大限の努力をすること
    ・帰ってきたら旅の出来事を話してくれること
    貴族社会を飛び出した若者、弟を失った素材屋、女性騎士、それぞれがソラの防具を身に纏い旅に出る。

    ソラは防具屋からは一歩も出ないのに、いつの間にか話の中心に彼女がいる。
    彼の最後の呟きに熱いものが込み上げてしまう。
    チクショー!みんな男前すぎー!

    私は、何も変わらない。私は、この店[シャイニーテラス]の主人。この店で大陸中で戦う防具を作り、旅人に「いってらっしゃい」を言う。
    そして「おかえりなさい」と言い続ける。籠から出られないからではなく、自分の意思で。
    これからも、私は旅人の帰りを待ち続ける。
    待ち続けたいと願っているの。

  • あたたかい気持ちで読める。
    戦闘シーンが直接出てこないので静かで安心できるファンタジー。

  • 日光に弱く外に出ることのできない防具屋の女主人と、旅の話をするお客たちの話。
    元貴族の用兵、弟が処刑されたハンター、女騎士の話を進めながら、それぞれの行動がひとつの事件に絡み合う。行方不明の幼馴染の死が明かされ、防具のみが帰還する話。
    やさしい雰囲気に乗れて、よい。

  • 綾崎隼さんの吐息雪色の中で読まれている、と綾崎さんが話されていたのが気になり購入。
    (綾崎さんもオススメされてました)

    RPGで遊んだ経験があるせいもあり、
    なんだか読みやすく、
    戦闘シーン等もなく、ただただ待つことしかできない視点は面白かったと思います!

  • 私としては、これ、すごい王道なファンタジーに感じました!
    なんか、ファンタジーといったらコレ!みたいな小説です!RPGっぽいです!!

    どこかブレイブストーリーを彷彿とさせます!!

  • 小さな路地にある、誰かに紹介でもされない限り分からない防具屋。
    そこの客となるには、主人との約束を了承せねばならない、という決まり。

    プロローグは、過去と、初めてのお客さんと店主と
    店のルールについて。
    そこからは連続短編集のように、3人の人物が
    店にやってきて話していく。

    少年と軍人の繋がりはうっすらと分かったのですが
    冤罪で捕まっていた彼については、どう繋がるのか。
    首を傾げていたら、きれいに繋がりました。
    だからなのか、と。
    ヒントはあったのに、まったく気が付かないのは
    どうなのでしょう?w

    当人にとっては緊迫感のある状態が続いた事でしょう。
    しかし体験した本人の口から語られているので
    確実に帰宅できた、という終点のおかげで
    ゆっくりと聴く事ができました。
    物語なのですが…なんだかこう、童話に近いものを読んだような?

    鳥かごにいる少女。
    ドアから外に出るか、中のままでいるか。
    選ぶのも自由、というのに頷けます。

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著者プロフィール

菱田 愛日(ひしだ まなび)
1985年、東京都生まれ。2009年、『空の彼方』で第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞し、メディアワークス文庫よりデビュー。
代表作に、『夜のちょうちょと同居計画! 』シリーズ、『』シリーズなど。
本業はアパレルショップ店長で、兼業作家。

菱田愛日の作品

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