心臓に毛が生えている理由

著者 :
  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046211552

作品紹介・あらすじ

ウィット、ユーモア、毒舌-。読者を笑わせ、裏切り、挑発しつづけた米原万里の、ラスト・エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 最後のエッセイ集。以前読んだ物と重複するエピソードもあるが、多岐にわたった内容と池澤夏樹氏との対談もあり読み応えあった。言語に関する考察やナショナリズムに対しての見解、アメリカによるイラク侵攻を憂う。万里さんが今の世を見てたらな。

  • 図書館より。
    「共産党員の父を持ち、幼少期をプラハで過ごし、少女時代にロシア語を学び、その後ロシア語同時通訳者としても活躍した」著者によるエッセイ集。
    その経歴ならではの、世界情勢や通訳の仕事についても書かれているし、一人の女性としての視点や飼っている動物のことも書かれていたりして、ピリリとした少しの毒も効いているおもしろいエッセイでした。

    米原万里さんって名前は知っていたけれど、読むのは初めて。
    文章を見ただけでとても聡明な女性だったということが伺える。思春期を海外で過ごしているからこその“自分の意見をはっきり言う”という武器も兼ね備えているように思えた。

    惜しくも夭逝してしまう作家さんってけっこういるけれど、この米原さんもその一人で、今ももし生きていたら今のこの情勢に対してどんな痛快なことを言ってくれるのだろう、と思ったりした。
    エネルギーに満ちあふれた女性。カッコいい。

  • 2000年〜2003年あたり、米原さんの晩年の短編エッセイー集。ロシア、東ヨーロッパ全てをひとくくりにして、「あっちの方」としか認識していない私に、そこには生い立ちが違い、民族も違う様々な国が存在し、そしてその国の中に個人があることを米原さんの本はいつも教えてくれる。日本語が美しいのも米原さんの書くものの特長だと思っていたら、本書の中で、「日本語が立派、非の打ち所のない日本語と言われる」が、「私の文章はぎくしゃくして恐ろしく硬い。自由自縦横無人に日本語が操れたらどんなにいいだろうかと憧れていた」と振り返っていた。そして「帰国子女の私にはまだきちんとした日本語が精一杯。それを崩せるほどまでには身についていない」と。この自己分析!改めてすごい人なのだと思う。

  • 言葉に極めて実用的な関心を持っている人の話、面白い。さすがに時代に合わない表現もちらほらあるが。

  • 移り変わる世界と、変わる人間たちと。

    集められたエッセイは、時事ネタ、家族のこと、通訳のことなど。今読むと懐かしく思える話も多い。インターネットの功罪やコンピュータ化が人間に与える変化など、予言のような文章もある。歯切れ良い文章を読んで、気持ちが前向きになった。

  • 米原万里さんの最後のエッセイ集です。ロシア語を勉強する者にとって、米原万里さんはあこがれのマドンナであり、神様でした。
    後年、ウィットとユーモアと毒舌に満ち溢れ、それでいて深い感動がある、かくも沢山のエッセイを書くとは....想像にすらできませんでした。その米原万里さんが亡くなってはや2年、もう読めないと思うと寂しいです。「年賀状と記憶力」 や、「父の元へ旅立つ母」 と題された、母の告別式での挨拶が秀逸です。

  • 聡明で博学でユーモアたっぷり。嘘つきアーニャの真っ赤な真実の誕生秘話や対談もあり。ロシア語通訳時代の話には笑い、母との話にはほろりとした。

  • ロシア語通訳であり帰国子女である著者の、新聞に掲載されていた短いエッセイなど。

    わかりやすく軽妙な文章で読みやすく、面白かった。
    様々な文化的な背景が鮮やかに綴られるなか、どういう視点で世界を見ているか、著者の確固たる芯みたいなものを感じた。
    「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」に関わる部分もあってさらに楽しい。

  • 読書の醍醐味って、読んでいる最中のおもしろさ以外に、何かと何かが結びついたときの興奮がたまらない。

    最近読んだ米原さんの本は、
    オリガ→アーニャ→心臓に~ の順。

    掲載されているエッセイが、そのまんまアーニャに書かれている。
    そのときに感じていたほかのことも、巻末の対談に書かれている。

    米原さんのエッセイは他にも読んだことがあるのに、『アーニャ~』と『心臓~』の結びつきの濃厚なこと。
    こういう、偶然なんだけれど、 読むものの結びつきに出会うと、これが本どうし、知識どうしの引きかと思って嬉しい。
    同じ作者の本なら、その確率も高いけれど、Aを読んでいてわからなかったことが、Bでわかる。これに出会ったときは、最高ですな。

    ということで、アーニャを読んだら、心臓~を読むのがおススメ。
    米原さんの、愛嬌があってシモネタも好きで、人びとの苦しみに心を痛めるエッセイが並んでいますよ。

  • 今更ながらに惜しい方を亡くしたものだ。同時通訳は、異なる文化に対して深い造詣を持ち、瞬時のひらめきでエスプリとユーモアを利かせたコミュニケーションを提供していく類稀なお仕事。さまざまなジャンルに理解がないと成りたたない商売。そんな胃がキリキリするような修羅場をかいくぐり、依頼主の信頼を勝ち得てきた素敵で有能なお人柄を再確認するエッセー集。

    彼女は素敵な人を紹介するのも旨い。いくつもの中から印象に残ったエピソード。

    スターリンの粛清により女性専用のラーゲリ(強制収容所)に5年間も閉じ込められていた人の話。
    ラーゲリ生活で苦しかったのは、過酷な労働でも、貧弱な食事でも不衛生でもなく、全ての情報を断ち切られ、本と筆記用具の所持を禁じられていたことだそうだ。
    そのような状態に居る女囚たちはどんなことで自分たちを救ったのか。
    俳優だった女囚が「オセロ」の舞台を独りで演じることから始まり、それぞれが記憶の中にあった本を声を出して補い合いながら話すこと。かって読んだ小説や詩を次々に読破していくこと。
    「悲惨な状況の中でも寝る時間を割いては行った「本のない朗読会」。アンナ・カレーニナに同情して涙を流し、詩の朗読を楽しみ、面白い物語に抱腹絶倒していたら、肌の艶や眼の輝きが戻ってきたのよ」だって!!

    娑婆にいた頃に心に刻んだ本が、生命力の源泉になったのだ。

    今、ある小学校では、日本の古典から小説、短歌・詩などを1年から6年まで暗記する授業があるそうだ。いつか「自らを助ける力」になる、人間らしい記憶を作っていくことは素晴らしいことだね。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。作家。在プラハ・ソビエト学校で学ぶ。東京外国語大学卒、東京大学大学院露語露文学専攻修士課程修了。ロシア語会議通訳、ロシア語通訳協会会長として活躍。『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)ほか著書多数。2006年5月、逝去。

「2016年 『米原万里ベストエッセイII』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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