ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」
- KADOKAWA (2022年8月2日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784046059314
作品紹介・あらすじ
『豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス』ウクライナ戦争関連動画、総PV3000万超。
テレビ東京報道局元モスクワ支局長が、自身の人気番組をベースに全面緊急書き下ろし!
◎被害者意識にとりつかれた「ロシアの論理」を歴史から理解する
◎なぜロシア軍は“弱い”のか? サイバー空間でも不利なのか?
◎NATO、北欧諸国、米中……ウクライナ戦争が変えたパワーバランス
◎“台湾戦争”想定シナリオと、左右の対立を超えた日本の安全保障の未来像を提示
ウクライナ戦争の戦況と歴史的背景、米中、日本への影響までを1冊で理解できる。
深く、分かりやすい解説で圧倒的反響を呼ぶ気鋭の報道記者、初の著書。
必読のノンフィクション!
感想・レビュー・書評
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長いけど分かりやすい。
欲しい情報がぎっちり詰まってる。セカンドオピニオンは必要だろうけど、この一冊でお腹いっぱい。さすがメディアの人。池上彰さんのようなふむふむ感が満載。
前半はロシア・ウクライナ戦争で、後半まるまる台湾有事について(作者は敢えて「台湾戦争」と呼ぶ)。日本が嫌でも巻き込まれるシナリオを生々しく語る。YouTubeでも中田敦彦さんが解説しているので観た人が多いのでは。内容はそちらで。
この作品の一貫したテーマは「論理」。
戦争の論理は被害感情から始まるという。汝、平和を欲するならば戦さの備えをせよ。これはローマ時代からある人類の財産で、今日でも平和の論理だ。私たち日本はその両方から外れる特殊な存在に違いない。
── 安全保障をめぐる戦後の日本の論理は平和主義だった。これを論理と呼べるかは別として、戦争を絶対的な悪として、いかなる条件においてもそれを拒否する考え方である─
戦争への激化を抑止する唯一の方法は対話。つまり相互理解。その中身は歴史を知り、政治を理解し、経済を把握し、活発に議論し、選挙に反映させて国を動かすことだと作者は言う。
おっと出た。選挙。やっと「私」が関われるのか。
なら選挙に行かんかい!とはもはや言いづらい。
選挙の有効性を疑っている人も多いのでは。これは成田悠輔さんの受け売りながら、SNSと多様性の時代にハガキを持って投票所へ足を運び、特定の候補者の名前を紙に書いて箱に入れる。これで民意の反映と呼ぶのか。
もちろん戦争は殺人。私はイヤに一票入れたくなる。しかし家族がレイプされて銀行口座が吹き飛んで自宅から焼け出されてから殺してやると叫ぶくらいなら、なぜ備えをしなかったのかと悔やむだろう。もっと議論できなかったのかと。
エスカレート・デ-エスカレーション(エスカレートさせないためのエスカレート戦略)はさらに対極となる論理。一発殴って黙らせる核武装の推進。地球の破壊ショーになりかねないので、その中間あたりに着地点となる論理を見つけなくてはならない。
暴走しない強い軍隊をどう維持するか。国家の話し合いは力のない国にはテーブルも用意されない。日本はイスがあるのにどうぞどうぞ状態だと見られている。
終章ではこうした「平和の責任」についても語られる。これがまた熱い。いま私たちが子どもらの将来を形作らないと責任の先送りになる。負の遺産を残した既得権者たちの安らかな死は見飽きた。現役世代の苦しみは、現役世代で解決させてほしい。長老の論理はいらない。
これを読む前は、台湾戦争が勃発すれば世論も変わるでしょうと他力本願に同調していた。変わる前には間違いなく政治が混乱する。その空白で趨勢は決すると作者は警告する。スポーツでも混乱したチームほど勝てる確率は低くなる。試合前から立て直す練習をしておくのは定石。ロシアに攻め込まれたフィンランドもウクライナも、それをやっていたから生き残っている。
日本の防衛費は中国の5分の1以下。そこは同盟があるじゃん、の論理は実は崩れかかっている。プーチン大統領の失策、それを間近で見た習近平主席の野心を見せることで私たちをイスに座らせたい。そこに作者の意図がある。と思える。
タブーをタブー視しないで、当たり前を突破する。選挙を変えて、リーダーを育てる。そのためには何ができるか。サピエンスは力を合わせる方法を変えることができる唯一の動物だとか。過去に学び、未来の正解を想像する。
将来への考えにものすごく集中できた良著。
まずは投票所で「オレ」って書こうっと。(バッカだね〜相変わらず)
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ウクライナ関係の本は多数あるので迷うが、この本は偏った見方をしていないので良いと思いました。
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名著。これは買ってよかった。寡聞にしてこの著者のことを存じ上げなかったがYouTubeが有名な様子。チェックしてみよう。経験豊富なジャーナリストが徹底した取材に基づいて書いたノンフィクションはかくも面白い。
前半はずばりウクライナ戦争そのものについて。ロシアが戦争を始めた背景、なぜ戦況が長引いているのか(イコールロシア軍がそこまで強くないのか)の分析、対峙する欧米の反応についてなどウクライナ戦争の概要を掴むには十二分の内容。出た当初に読みたかった。
後半は中国の台湾戦争の予測シナリオと対策、そして突き付けられる日本の課題について。リアリティを持って語られる戦争のシナリオはこの部分だけでも読む価値充分と言えるもの。実際に起こってほしくはないが、起こり得るものとして我々日本人は思考しなければならないのだろう。 -
【はじめに】
テレ東Bizの動画でウクライナ戦争に関する情報を積極的に発信をしていた豊島晋作。動画もほとんど見たと思うが、フェアな視点で安心して見ることができた。報道局の元モスクワ支局長を務めていてロシアの状況にも通じている同氏が、まだ終りの見えないこのタイミングで書籍にまとめたものだ。
【概要】
本書の構成は以下の通り。
第一章 ”終末の時代”再び
第二章 ウクライナ戦争はなぜ起きたか
第三章 戦時下のウクライナから
第四章 ”ロシアと戦う国々”の論理
第五章 プーチン大統領暗殺は起きるか?
第六章 中国・習近平の「台湾侵攻」
第七章 試される「日本の論理」
第一章では現状の分析を行い、ロシアがなぜ戦闘初期において敗れてしまったのか、そしてこの先に核兵器の使用がありうるのかを分析している。ロシアは単純に兵站の問題や制空権を取れなかったという誤算、情報戦における劣位などが挙げられている。そして、ロシアの核兵器の使用の可能性を軽視するべきではないと警告する。もちろん期待も込めてその可能性は低いとしながらも核戦争が起こるシナリオはゼロではないとして、この章のタイトルを”終末の時代”再びとしている。
続く第二章は、歴史を振り返り、ロシアがこの戦争を起こすに至った論理を整理している。ウクライナとロシアの関係を考える上では複雑な歴史と、第二次世界大戦の独ソ戦の記憶を抜きで語ることはできない。ロシアは本質的に無秩序よりも強い独裁者を求めているのだという言葉もその背景を踏まえると悲しくかつ恐ろしい。
第三章はウクライナから見たこの戦争を取材の結果も踏まえて描写する。戦争による大気汚染がひどいというのは実際にその場にいる人でないとわからないことだ。
第四章はこの戦争をめぐる国際関係を論じている。NATOに関する分析が重きを占めており、NATO拡大の抑止の観点ではウクライナがその意を強くするであろうことに加えて、フィンランド、スウェーデンが加盟申請をしたことでプーチンの思惑が大きく外れてしまった。白眉とも言えるのが、アフリカ諸国の分析である。ケニアのキマニ大使による感動を覚えるようなスピーチとともに、多くの国がロシアを非難「しない」側に回ったという現実にも目を向ける。また、インドもロシア非難の決議で棄権に回ったことにより、世界人口の半分はロシアを非難していないということも指摘する。日本での報道はある程度は西側の論理に沿ったものであり、世界には他の見方も存在するのだということを忘れるべきではないのだ。
第五章はプーチン暗殺の可能性を論じている。ナチスドイツでもヒトラー暗殺の試みは行われたのだから、可能性はゼロではない。しかし、結論としてその可能性どころかプーチンを権力の座から引きずり下ろす勢力も見当たらないとしている。
第六章が、ウクライナ戦争が与える影響として日本の立場から最も注視しなければならない事項として著者が挙げる「台湾侵攻」である。中国は、ウクライナの状況を見て台湾侵攻に当てはめてシミュレートしていることだろう。間違いなく中国は、台湾侵攻の「意図」と「能力」を有している。ウクライナが起きたのであれば、台湾で同じことが起きないということはできないと考えるべきだろう。
第七章は、それを受けて日本が何をするべきかを著者なりにまとめたものである。台湾侵攻についてリアリティをもって事前に考え、準備することを主張している。ここで、著者は明らかに現実主義者であり、軍備強化とそのための法整備に傾いているように見える。ウクライナの本でありつつ、著者の主張したいことはこの章に凝縮されているのではないか。
【まとめ】
しっかりとした分析を、筋道立ててわかりやすく説明している。著者の主張も明確だ。おそらく結果論も含めた批判も覚悟しているだろう。骨太の本だと感じた。引き続き動画も出していくだろうから注目をしていきたい。 -
【星:4.5】
ウクライナ戦争を題材として、日本を取り巻く世界情勢を分かりやすく説明してくれている。
この本を手に取ったのは、ウクライナ戦争がなぜ起こったのかを知りたかったからであったが、その点については当然に詳しい説明がなされている。
その説明も、これまでの歴史やその歴史を踏まえたプーチンの考え方など、多面的な考察がされており、かつその説明も多すぎず少なすぎずでちょうど良い。
そして、ウクライナ戦争を踏まえ世界がどう動くか、そしてその動きに対する日本の課題への説明と繋がる。
ここでは台湾有事を中心に説明されており、日本として危機に直面していることを今更ながらに実感することができた。
世界情勢については感度を養える素晴らしい1冊であった。 -
名著。
Youtubeはあらかた見ていたが、読んでよかった。
話が分かりやすい人は文章も分かりやすいのだと感じた。
印象的だったのは、後半の台湾戦争の予想シナリオと、その時に日本がどんな立場に置かれうるかの部分。
日本の自衛隊が法的にいかに微妙な立ち位置にあるか、また時の政権がいかに難しい決断を迫られることになるかがよく理解できた。
果たして今の国会議員達がこの国難を乗り切れるのかという点で、非常に不安になった。(下らない足の引張り合いで徒に時間を費やし、亡国の憂き目に遭う気がしてならない…) -
テレ東の名物ニュースキャスターである豊島晋作氏の本。著者はテレビやYouTubeでも積極的に情報発信をしているため、本作の一部はすでに見聞きした内容であったが、新しい内容も多くあった。
ロシアの変遷と彼らが抱える怯え、バルト三国やフィンランドといったロシアと国境を接し、歴史的に戦争経験もある国々の思い。第三局としてのインドやアフリカといった国々の思惑等、ウクライナ戦争を舞台に地政学的な解説が続く。
最終的には台湾戦争という将来起こりうるリスクと戦局、その際の日本の立ち位置等具体的な部分まで突っ込んだシミュレーションがされている。
国際政治の興味深さと普段真聞きしているニュースの限定性について改めて考えさせられる内容であった。 -
テレ東bizを見てから豊島さんのファン
ここまでリサーチできる力とそこから冷静に状況を説明できる客観性は毎度お見事
もし台湾戦争が起きてしまった時、日本があらゆる言い分を用いて一ミリも戦争に参加しない場合、日本人は命を落とさないかも知れないが、何十年にも渡って台湾という盟友を見捨てた国家として、国民は更に誇りを無くして生きていくことになるのではと思ってしまう
もちろん何も起きないことが一番 -
読むきっかけは英会話の先生からのアドバイスでした。
「日本ではこんな良い本が出ているけれど、君の周りでは読まれているのかな?」という煽りのような質問。
「いえ、名前も聞いたことがありません」と返すのが精一杯でした。
普段は古典を中心に読んでいるので、発刊されて1年以内の本を読むのは新鮮です。出てくる時期、ワード、状況がテレビの報道と一致するからです(古典の場合は、数十年、数百年前の事情を考慮しないといけません)
その新書で読んだテーマは、ウクライナに対するロシアの侵略について。
なぜロシアの電撃作戦が足止めを受けることになったのか?
どうしてウクライナは、小国ながら大国ロシアからの猛攻に耐え、局地的には押し返しているのか?
そういった直近の話題から、ロシア、独裁者プーチンが侵略を決めるに至った、歴史的な経緯までを平易な文章で説明してくれます。
この「歴史的」という部分がこの本の骨子だと評価しています。
何が起きているかはー偏向報道であることを認めつつもーニュースを見れば理解できます。
ですが、普段ニュースでは取り上げられない過去、時間をさかのぼった事情をこの本から理解すると、今回の侵略は無為無策ではなく、何かしらの理由と原因があるとわかるのです。
ロシアが持つ「悲観的」な歴史感、プーチンが感じるNATOの裏切りなどが興味深いですね。
また、作者の豊島さんは似た事例でノルウェーやバルト三国といった近隣の「ロシアに国境を面した」国々の決断、遍歴を文中で取り上げ比較をしています
ウクライナを軸に据えながら、ヨーロッパの地政学についても紐解く。最終的には、同じくロシアを隣国として持つ日本についても意見を展開します。
「これは他人事ではない」という感覚が芽生えます。
10年後、この本で書かれていたことの一部は、誤った解釈と評価されるかもしれません(本人もそれは自覚されています)
長年読み継ぐためではなく。むしろ、今読んで、今の私たちの意見を洗練させるために読むべき本です。 -
初心者向きでわかりやすい