- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784046016287
作品紹介・あらすじ
働き者として知られる働きアリだが、実はその7割はいつも休んでいて、1割は一生働かない! だがこの事実にこそ、組織存続への秘密が隠されているのだという。これを発見した生物学者が著した、新感覚の生物学。
感想・レビュー・書評
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働きアリの8割は働いていない、という説や、働かないアリだけを集めるとそのうちの2割は働くようになる(逆に、働いているアリだけを集めるとその8割は働かなくなる)という説は聞いたことがありましたが、その理由が「反応閾値」の違いにあり、「働かないアリ」がいる、ということによってコロニー全体の利益となっている(司令官がいないムシの群れであっても、必要とされる仕事を必要なだけの労働力で適切に対処することができる)、ということを知り、とても興味深く読むことができました。
とくに自身の子孫を残さない、ワーカーとよばれる働きアリたちが、コロニーのために行動する(利他行動をとる)のはなぜなのか、「真社会性生物」とよばれるアリやハチ、カビなどの生態からその理由を探り、ダーウィンの進化論(自然選択説)に加えて、ハミルトンの「血縁選択説(自分自身の子どもを増やすよりも、群れに協力して自身の兄弟を増やす(血縁をたやさない)ことのほうが効率よく自身の遺伝情報を遺すことができる)」をもとに解説していて、素人にもわかりやすくまとめられていました。
加えて、生きものは「ムダな進化(選択)はしない」ということも(どのスパンで見て「ムダ」かどうかはそれぞれの場合で異なるようですが)改めて大きな発見でした。
例えば昆虫は、若いうちは巣で卵の世話をしたり巣の補修をしたりしますが、年を重ねてきて「いつ死んでもおかしくない」ようになると、巣の外で採餌を行うようになります。その方が労働力の喪失という観点からは効率的だからです。一方で、人間では老人の方がコロニーの内部で危険のない環境で過ごしていることが多いです。これは、老人の「知恵」がコロニーの存続に大きな利益をもたらすからだと考えられています。
それぞれの生物学的な特徴に応じて進化する、生物の多様性が現れている部分だと感じました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白いのは、虫は何も意識していないということだ。本能で「働くこと」も「働かないこと」も選択している。
進化の過程で生き残るのは、環境に適応したものだという。
周囲の環境が全く変わらなければ、生物はある程度の進化でそれぞれ均衡が取れて、進化としては止まってしまうのかもしれない。
しかしながら、結局捕食者である敵も進化し、自分たちを取り巻く環境は少しずつでも変化していくのだから、その状況に対応できなければ絶滅してしまうという訳だ。
何千万年、何億年もかけて今の形に適応してきたことを考えると、本当に不思議な感覚になる。
我々人間にも同じように進化の過程が刻まれている。
つまり本書で記載されている「働かない」ということも、「本能」の可能性があるということだ。
人間社会、特に会社などを見ていると、ものすごく不思議に感じる。
アリやハチとは異なり、人間には意思もあるし、その意思を他人に伝えることも出来る。
会社で仕事をサボっている人を見ると、自分の意志なのか、無意識という本能なのかが分からなくなってくる。
よく言われることであるが、人間でも「2:6:2」の法則が成り立つという。
その中で上位「2」だけの人で集めると、やはりその中で「2:6:2」になるのだという。
本当かどうかは分からないが、これには自分自身でも感覚的に身に覚えがある。
ある集団にいて自分が先頭に立って引っ張ろうとしていた場合、その後状況が安定し、ある程度人数が集まったり、自分が引っ張らなくても何とか動いているような状況の場合、何となく「今日はサボってもいいか」という気分になったりする。
経営者からしたら困ったものかもしれないが、常に全力で突っ走っていたら、息切れしてしまうのも確かだ。
長く働くことを考えたら、ある程度の強弱は必要な気がする。
それが「働かないアリの意義」と関連するのかは定かではないが、何となく本書の内容に納得感がある。
もし生物が自分の遺伝子を残すことを第一と考え、その中で環境に適応できない遺伝子が脱落するとしたら、今現代にいる人類は間違いなくその生存競争に勝ち残っている訳だ。
私などは決して勉強が出来る方でもなかったし、容姿なんて決して自慢できるものではない。
それでもこうして生き残っているのが事実なのだから、頭の良し悪しや容姿などは生存競争に関係なかったと考えてもいい。
もしくは、頭や容姿が多少悪い方が生き残れるということか。
そんな事を考えていると、どういう理由があって今ここに自分が存在しているのかが不思議でしょうがない。
悠久の時を超えて存在する自分自身とは、何なのだろうか。
これは自分だけに限らずに周囲の人たちも全く同じだ。
仕事をする人もしない人も、確かに今生き残っている。
完璧よりも、不完全な所があった方が、全体としては上手くいく。
単体よりも、多様性があった方が、この場合も全体として上手くいく。
強い者が勝ち残る訳ではない。弱くても環境に適応した者だけが勝ち残る。
ついつい自分自身も完璧を追い求めて、それが出来ない自分に落ち込む時があるが、そういう考えを改めた方がいいのではないだろうか。
自己肯定感を高めて「今の自分を受け入れる」ということが大事。
本書を読むと「それでいいのだ」と思えてくる。
人間もアリも所詮あまり変わらないのかもしれないと思えてきた。
(2022/12/15) -
働かないアリがいることに生物学的な意味がある。多くの事例や考察に下支えされた内容が単純に面白いことに加え、人間社内でもサボっている人へのアクションなど、色々考えさせられる一冊
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パレートの法則が現実問題としてそういうことになる、以上にその理由やメカニズムを考えることは
学術的興味を唆るのはもちろん、我々社会生物のあり方を思惟するにあたっての冗長性にもなりうる。 -
「働かない人は会社から要らない」という雰囲気は、リストラの嵐が吹き荒れた21世紀になる直前に、以前勤務していた会社で感じたものです。リストラの終了とともに、世界経済は長い成長を続けて、コロナが起きる前までは順調だったと感じています。
現在はコロナ対策でまだ水面下にあると思いますが、これが落ち着く頃には、かつての再来のような状況になると感じています。そういう私にとって、この本のタイトルは興味を惹かれるものでした。蟻の社会と、人間の会社内における社会は似ているような点があると個人的に思っているからです。
働かないことは良くないと断言することは簡単ですが、働かないアリにはどのような意義があるのか、研究した成果が述べられていて興味を持ちました。似たような優秀な人ばかりの組織では、順調に成長しているときには効率的だが、天変地異や予期しない環境になった場合に「働かないアリ」は本領を発揮するようです。面白い視点だと思いました。
以下は気になったポイントです。
・腰が軽いものから重いものまでまんべくなくおり、しかもサボろうと思っているものはいない、という状態になっていれば、司令塔なきコロニーでも必要な労働力を必要な場所に配置できるし、いくつもの仕事が同時に生じてもそれに対処できる。さまざまな個体が交じりあっていて、初めてうまくいく点がキモである(p65)
・働くものだけを取り出してもやはり一部は働かなくなる、という現象は人間における社会学の領域で「2:8の法則」とか「パレートの法則」と呼ばれているが、蟻の世界でも実在する現象である。原因は、仕事への反応性の個性のせいだと考えられる。(p71)
・さまざまな仕事を同時に効率よく処理するためには、コロニー内の反応閾値の変異を大きくしておく必要がある。するとコロニー内に多様な反応閾値を示すグループが必要になり、それを保持するために、女王は多数のオスと交尾して、それぞれの反応閾値をワーカーに継承させる必要がある(p73)
・誰もが必ず疲れる以上、働かないものを常に含む非効率的なシステムでこそ、長期的な存続が可能になり長い時間を通してみたらそういうシステムが選ばれたということになる(p84)
・強調しておきたいのは、「働かないアリ」は「働きたくないから働かない」訳ではないといいうこと。みんな働く意欲は持っており、状況が整えば立派に働くことができる(p86)
2021年3月7日作成 -
「自分が頑張っているのに、あいつはサボっている。」
という飲み屋で聞く愚痴から解放される一冊。全員が我武者羅に動き回る組織は持続しないことを、アリという集団から見出せる。
上手く回り続ける組織のあり方を考えるための一冊。
育児、介護、障害者雇用…いろいろな場面で、人と同様に全員が働けるわけではないので、多様性のあるチームを機能させるためのヒントがありましょう。 -
遺伝子の乗り物たる生物はとてもうまく設計されていて、自分の遺伝子が少しでも多く残るように様々な戦略を取る。
ニートの存在意義について近頃考えているため、その文脈で本書に取り掛かった。働かない働きアリは大方「働きたいけど働けないアリ」であって、仕事量が増えたり、よく働くアリが疲れた時などに働くためのバックアップ要員である。反応閾値が高く鈍すぎるために一生働かないアリもいるらしいが…。それとは反対にチーター(ずる、タダ乗りするもの)は社会の資本を横取りしているだけであり、がん細胞のように増えすぎると社会は滅びる。こちらはバックアップではなく、社会の繁栄には役立っていないようだ。
実はこちらが本当に主張したいことなのかもしれないと思ったのは、働かない働きアリのように一見短期的には役に立たないように見える研究や取り組みも、大きなパラダイムシフトが起こるときには役に立つようになる、かもしれないということである。
かならずしも余裕がなくても、常に将来の種を蒔いていくこと、一歩引いて一見役に立たなさそうなことに時間やお金を投資してみるというのは長期的戦略を考えると大切なことなのかもしれない。
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北海道大学の准教授が著者
主にアリを生物学の観点で解説
オスと後尾をしても自分のクローンしか産まない女王アリなど、なぜそう進化したのか解釈が難しいアリが実は結構沢山いる
反応閾値が異なるから一見働かないアリに見えるものもいる。が、全く働かないアリもいる。果たして進化にはそれが必然だったのか。 -
働かないアリがなぜいるのか興味があって読んだ。一見無駄だと思われることも長年の進化の中でいまに至る。人間の社会でも働かない人はいるけど同じことなのだろうか。色々と考えさせられた。学問的な話が多く難しい本だった。