クォン・デ ――もう一人のラストエンペラー (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 157
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043625048

作品紹介・あらすじ

1951年、杉並区の粗末な貸家で孤独に息絶えた老人・クォン・デ。彼はフランス植民地支配からの祖国解放運動のため、45年前に来日したベトナムの王子であった。母国では伝説的カリスマであった彼が、その後なぜ一度も帰郷できず、漂泊の日々を送らねばならなかったのか…。満州国皇帝溥儀を担ぎ出した大東亜共栄圏思想が生んだ昭和史の裏ミステリーを、映画界の奇才が鮮やかにドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • 植民地支配を受ける、ベトナム(仏領インドシナ)の王族として日本にわたり、そこから祖国を思いながらついぞ帰れずに亡くなった人生。報われないことも多い中、彼を支えた人たちとの交流が心に残った。犬養毅との交流は日本の昭和史を知るうえでも貴重だと思った。彼の帰国を祖国で待っていた妻トランのその後も気になった。

  • インド独立の闘士が日本に亡命して中村屋に匿われていた話を読んで感想文を投稿したら「これも面白いよ」と薦めて頂いた作品。取材で出会ったベトナム人に「僕たちの王子は日本に殺されたようなものなのになぜ日本人はそれを知らないのか」と言われてしまったテレビディレクターがその歴史を追求した作品。ベトナム最後の王朝である阮朝はその成立の過程でフランスの力を借りてしまった故にフランスの強い支配下にあり19世紀には完全に植民地となっていた。王朝の直系の王子であるクォン・デは独立運動の闘士の導きもあって日本に亡命し、日本の力を借りて祖国の独立運動を進めようとした。殆どが欧米の植民地にされていたアジアの国々で独立を志した人達の多くが日本に強い期待をしていたことに改めて驚きを感じた。本作でも触れられているが日本は結局、アジアの開放者を標榜しつつそのアジアの中では支配者として振る舞おうとした結果、最終的に大破綻を来してしまうのだが...後知恵ではなんとでも言えるけどももう少しうまいやり方があったんじゃないかな、五族協和とかスローガンだけではなしに実質を追求する道があったのでは、とどうしても思わざるを得ない。作者は王子をいわば中国における溥儀のように傀儡国家で利用しようとして結局飼い殺しにしてしまった日本の悪を責めつつ、ひたすら機会を待つだけで自らは何も行動を起こそうとしなかった王子のことも冷静に見つめており好感が持てる。最終的にベトナムに渡り本国での王子の足跡を辿ったラストがひたすら悲しい。これは良い作品でした。

  • 2007-07-00

  • あるテレビの仕事の取材でベトナム青年がふともらした「僕らの王子は、日本に殺されたようなものなのに、日本人は誰もこのことを知らない」という一言をきっかけにして、戦前の文献などを調べることとなったベトナムの王子クォン・デについての伝記。日露戦争で欧米列強の一国であるロシアに勝ったことはアジアからの期待は大きく、当時フランスの支配下にあったベトナムの人々にとっても憧れの国でもあった。クォン・デは、フランスからの祖国解放のために妻子を置いて、革命家のファン・ボイ・チャウらとともに来日した。しかし、結局は大きな貢献をすることもなく、最後までベトナムに帰ることなく日本の地で亡くなった。

    本書はクォン・デの生涯を描きつつ、当時の日本と現在にも通底する日本社会の課題を浮かび上がらせるように書かれている。「クォン・デが来日してから第二次世界大戦が終結するまでの裏面史を描くことで、現在の歪な日本の姿を、少しだけ角度を変えた光源から距離を置いたスクリーンに浮かびあがる映像のように際立たせることは、当初の意図のひとつだった」と書く。
    確かに第二次世界大戦に至る日本の歩みは森達也氏の問題意識と直接的に関係している。日本が戦争に突き進んだのは、ドイツやイタリアとは違った形のいわゆる日本的な「民意の暴走」によるものだと著者は解釈する。「日本は、究極的なデモクラシーを体現しながらファシズム国家への道を歩むという稀有な歴史を持つ国なのだ。 (中略) つくづく思う。日本という国は、ずっとこうだった、誰もが確信犯にならないまま、誰もが無自覚なまま、一人ひとりが全体の一部になることで思考停止して、国家としては取り返しのつかない愚策や過ちをいつのまにか犯している」

    著者は、もともとはテレビ業界出身の映像の人であり、オウムを追った『A』、『A2』などの社会派ドキュメンタリーの人だ。最近のゴーストライター事件の佐村河内氏を彼の側から描いた『FAKE』なども素晴らしかった。クォン・デの話も当初は映像ドキュメンタリーのフォーマットで形にできないかと検討したが、予算もつけられず、また書籍のフォーマットの方が適しているであろうということでこのような形で進められたと。そして、そのことで著者自身「ターニングポイントになる、とても大切な作品」と言っている。

    森さんらしく善と悪との二分法には抗がう。クォン・デを善人としても英雄としても描かない。逆にピュアだが、国の行く末を任せるにはやや頼りない経験不足な人物として描かれる。「この王子は批判や咀嚼の力があまりに弱すぎる。投げるのも直球なら受けるのも直球のみだ。これでは革命は成就しない」と評する。それでも、森さんの思い入れは伝わってくる。あとがきに何度も読み返し、少し涙ぐみさえもするという。

    この本を書くための調査の最後仕上げとしてベトナムに行くのだが、そこで想定外のオチが付く。場合によっては全体の構成自体を揺るがしかねない事態だが、それはそれで意味があることなのかもしれない。

    戦前のベトナムのこと、当時の日本とアジアとの関係、そしてもちろんクォン・デ自身のことなど全く知らなかったが、面白く読めた。

  •  面白かった。

     日本の歴史でいかに自分が教科書だけの知識しかなかったか。

     日本とアジアの関係。

     そこに絡むヴェトナム。

     王位継承者である彼の孤独が伝わる。

     一気に読了でした。

     

  • 本書のなかで、客観的な歴史など存在しない、歴史とは解釈するものによる主観的なものだ、と著者は云う。私も至極最もだと思う。だから、他人の主観を鵜呑みにしてはいけないのだ、とも思うのだ。
    ベトナムへは仕事で何度となく行ったが、いまだにその理解が難しい。私が子供の頃のベトナム戦争。そして終戦と統一。けれどその後の中越戦争や、カンボジア侵攻、そしてボートピープルというのはどうしても理解できなかった。
    今のベトナムはどうだろう。昨年、日越国交50年記念ということで、ファン・ボイ・チャウを描いたテレビドラマが日本で放送され、クオン・デも登場していた。日越合作だったと思うが、内容は彼らに好意的だったから、本書が書かれた時代とまた歴史解釈が変わったのだと思う。

  • ベトナム阮朝最後の王子クォンデが若くして日本に渡り、結果として何もなさぬまま日本で生涯を終えた王子の無為徒食の物語。
    ドラマあるドキュメンタリーを撮れると思って調べたら何も見つからなかった著者の苦悩いかばかりか。

  • 森達也独特の冗長な、情緒的な、文章で、もってかれて、もってかれて。日本人て、何なのだろうなぁ、てことを考えながら読んでいた。忘れてしまうことは、なんとも、悲しいなぁ。。。僕は、正直、歴史を知らなすぎるなぁ。(12/1/29)

  •  

  • 2007年87冊目

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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