新訳 茶の本 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 315 ビギナーズ日本の思想)
- KADOKAWA (2005年1月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043093038
作品紹介・あらすじ
芸術の域にまで高められた「茶道」の精神を紹介しながら、伝統的な日本文化の独自性を詩情豊かに解き明かした名著。日本文化が大切に育んできた自然と人間の調和共生の関係は、環境破壊の進んだ今日、わたしたちに心の豊かさと新たな文明の指針を与えてくれる。
感想・レビュー・書評
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もうかれこれ20年以上前から読みたかったのだがようやくご縁により読むことができた
元々は「茶の心」は岡倉天心が西洋人に「茶」の精神を理解させるために英文で書いたものだ
(天心は幼いころから家業の関係で英語に携わることが多く、また語学センスが素晴らしかったようだ)
そして勘違いしていたが、決してお茶の指南書、概説書ではなく、日本の精神や文化を広めるための書といえよう
そして天心は詩人であった!
ユーモアもあり、皮肉も批判もするが、良いものは良いとし、平和と精神文化を追求する
非常に読ませる文章のセンスに驚いた
シンプルな言葉で読みやすいものの、真意をくみ取り自分の中で咀嚼するには難解な本かもしれない
しかしそれが醍醐味であり、浅ましい考えを嫌うであろう天心の意図かもしれない
深すぎてレビューが書きづらい
もう抜粋形式で雑に行きます
◇天心曰く、「茶」とは…
~茶の哲学は、唯美主義にとどまるものではない
人間や自然に対するもろもろの見方をあらわしている点で倫理や宗教と結びついている
清潔さを強調する…衛生学、単純質素なものに安らぎを見出す…経済学、宇宙とのバラン感覚を養う…精神の幾何学~
(発想力が深いのです)
◇天心の西洋批判
~西洋から「野蛮国」とされる日本及び東洋
戦争に勝ったときだけ文明国という
お互い批判するのではなく足りないところを補い合おう~
…といいつつも天心は明らかに西洋より東洋の方がすぐれているとしている(笑)
~日本は武士道(戦いと死)よりももっと深い文化(平和と生に導く文化)として茶がある~
◇茶の魅力
~ワインのような傲慢さも、コーヒーのような自意識も、ココアのような抜けた幼稚さもない
茶はなんとも微妙に人をひきつけ、その魅力には抵抗できない
茶道は美を見出してもそれを包み隠しておくたしなみであり、あからさまな表現を避けて暗示するにとどめておく術だ~(この表現力の素晴らしさ)
◇茶の歴史
茶の三段階
発展の順番から…「団茶」、「抹茶」、「煎茶」
・団茶…固形の茶を煮立てる
・抹茶…粉末の茶を泡立てる
・煎茶…葉のまま茶を浸す
それぞれ中国の時代を表す
唐(団茶・古典派)、宋(抹茶・ロマン派)、明(煎茶・自然派)
しかしこれらを経て、13世紀モンゴルの侵略により宋文化は破壊される
さらに17世紀には満洲族が侵入し異民族支配(清朝)となり抹茶は忘れさられた
唐や宋の茶の精神がすたれ、茶は日常的な飲み物になってしまう
日本へはおそらく遣唐使が持ち込んだのが始まりか
中国ではすたれてしまった宋の文化を日本が継承ができたのだ
◇禅と道教
茶の湯は禅の礼法から発展
そして道教を根底とする
道教「この世に生きる術」として論じるのが常
私たち自身を問題とする
この世をありのままに受け入れるのであり、儒教や仏教とは違って、嘆かわしいこの世の暮らしにも美を見出そうとする
酢の味見をする3人のものと言う宋の例え話が面白い
釈迦、孔子、老子
酢の壺を人生の象徴とし
孔子…すっぱい(実際家)
仏陀…苦い
老子…甘い
つまりこの世の一切は相対的な存在であって、絶対的に固定されるものなどない
すべては絶えず移り変わっている
だからこそ目の前の現実をかけがえのないものとして受け入れ、茶を味わえという
暮らしの細々とした事柄のうちに偉大さを見出す
(現代人に必要な教訓だ)
◇茶室について
茶室は「すきや」であるのだが、
数寄屋であり、単なる小家屋であり、好き屋であり空き家という(面白い)
余計な装飾を排し、何らかの要素をわざと未完成のまま残しておくことによって想像力は仕上げの働きを果たすことができる
というある意味異端の建築だ
しかしながら深い芸術的配慮に基づいたものでありどんな豪勢な宮殿や寺院建築にも負けない入念さで細部が仕上げられている
さらに外部の自然環境と合わせて一体化に見るべきと強調する
現代のエコロジー的思想にも通ずるものがある
芸術鑑賞や花、東洋の思想まで…幅広い熱い哲学も紹介されており、
はっと気付かされる大切なメッセージがたくさんある(書ききれません)
最後に天心の最後の恋について書かれている
50歳くらいの頃9歳年下のインド在住の女性に恋するのだが
まぁとにかく今までの力強い行動力、指導力、確固たる考え…
そのような偉大な人物とは思えないほど、愛に嘆き、喜び、赤裸々に弱さをさらけ出す
解説者も「異様ともいえるほどだ」と言うが
世間にさらされた天心はなんと思うのだろうと心配してしまった(ここ必要かなぁ…)
「茶」が世の中に与えた影響は数知れず、建築から住居、芸術、日常生活…あらゆることにあてはまるという
そして「茶」の精神というのは謙虚さや質素、自然との共存…など
日本人だけでなく、自然界に生きる人にとって大切なことであり、物質的に豊かな社会になればなるほど
決して忘れてはならない日常に組み込まれる精神なのだと感じた
そしてこの精神は中国やインドをはじめとする偉大かつ精神世界を大切にする東洋文化から引き継ぎ、
日本で育まれた大切なものとして、私たちは守っていかなくてはならないのだろう
背筋が思わず伸びてしまう
襟を正し、正座をしたくなる
そして日本人であることを誇りに思う
素晴らしい1冊だ
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岡倉天心(1863(文久2年)~1913年(大正2年)/本名は覚三)は、福井藩士の次男として横浜に生まれ、東大文学部を卒業後、文部省に入り、美術行政を担当する。1886~87年、東京美術学校設立のためにアーネスト・フェノロサと共に欧米を視察し、1890年に東京美術学校(現・東京藝大美術学部)の初代校長に就任。1898年に東京美術学校を排斥され辞職してからは、インド訪遊を経て、1904年以降ボストン美術館の仕事で頻繁に米国に滞在したが、晩年には茨城県五浦に隠遁し、1913年に日本にて永眠。
子どものときから学んだ英語と、優れた国際感覚をもって、日本・東洋の文化を内外に訴え、本書収録の『茶の本』は1906年にフォックス・ダフィールド社(ニューヨーク)から出版された『The Book of Tea』、『東洋の理想』は1903年にジョン・マレー書店(ロンドン)から出版された『The Ideals of the East-with special reference to the art of Japan』の、それぞれ邦訳である。中でも『茶の本』は、新渡戸稲造の『武士道』、内村鑑三の『代表的日本人』と並び、明治時代に日本人が英語で日本の文化・思想を発信した作品として夙に有名。
本書では、『茶の本』と『東洋の理想』(序章・終章のみ)の新訳に、訳者による、各章の「解説ノート」と90頁に亘る「エピソードと証言でたどる天心の生涯」が加えられており、作品についての理解を大いに助けてくれている。(角川ソフィア文庫は、岩波文庫や講談社学術文庫に既に収められている作品を新訳で出すものが少なくないが、充実した解説や参考資料が付されていることが多く、とても有用である)
『茶の本』は、1章:茶碗に満ちる人の心、2章:茶の流儀、3章:道教と禅、4章:茶室、5章:芸術鑑賞、6章:花、7章:茶人たち、という章立てとなっており、茶道を、道教、仏教(禅)、建築、華道などの関わりから捉えて、日本の文化・美意識・価値観を幅広く解説しようとしている。
出版後百余年を経て、日本人の我々が読んでも気付かされることが多いが、私が最も心に残ったのは、6章で、「死を栄光とする花」である桜は、「さようなら、春よ、私たちは永遠に向かって旅立つのです」と語りかけながら消えてゆくと語ったあとで、最終章の7章で、「美しく生きてきた者だけが美しく死ぬことができる」のだとして、千利休の最後の茶をとりあげて、「顔に笑みをたたえて利休は未知の世界へと旅立っていった」と締めくくられているところである。茶の達人の生死は、花の生死と等しく、人間と自然は究極的に合一する。。。これこそ、茶(と禅)の心ということであろう。また、死は生の完成であり、至高の芸術であると言え、利休の最期はまさにそうした典型であり、いわば、希代の茶人の最大の「茶事」であるとも言えるのだ。
茶~禅・老荘思想を柱に日本文化の本質を語った、現在でも読む価値の大きい古典である。
(2020年12月了) -
岡倉氏の恋愛に苦しむ、苦々しさが、茶と何の関係があるのかわからないが、その苦さが茶だったといえばつながる。お相手の方は西洋の方だったので、そこに悩みもあったのだろう。現代なら紅茶でもコーヒーでもいけるよね。
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お茶を始めたので読んでみた。「茶の本」と「東洋の理想」(序章と終章)が解説とともに収められている。
岡倉天心は東京藝大や日本美術院の礎を作った美術評論家である。英語に巧みで、アメリカの美術館で東洋部の顧問をするとともに、日本や東洋の文化をプロモーションしていた。「茶の本」は茶道(原文では Tea ceremony ではなく Teaism らしい)を東洋独自の美と調和の精神の結晶として紹介し、西洋の文化とは別の価値を持つものとしている。
「茶の本」を茶道思想のスタンダードになる教科書的読物だと思っていたが、どちらかといえば天心独自の見解を開陳したものだった。茶には老荘思想、道教、禅の考え方が背景にあり、それこそが東洋を貫く哲学であるとする。
文化に造詣が深く、審美眼も確かな人が書いたものなので、独自の見解がスタンダードになっても特段支障はないのだろうと思うし、西洋圏の人が読む入門書としていいと思う。ただ、日本で生まれ育った者としては、チェリーピック的なところも目についてしまった。
本書の半分は解説だったが、解説つきの本を最初に読めてよかった。時代背景や美術史的な動向の解説もなしに、英語の原文など読んでいたら、全く分からなかったろうと思う。 -
岡倉天心原文the book oftea 1906年M39米国発表。
日本の茶道を欧米に紹介する目的だったが日清戦争
に続き最強ロシアとの戦争1904-1905にも勝利したことにより本書にも注目が集まる。死の術武士道だけではない生の術茶の道を通じての日本の美意識、東洋的と西洋的思考の違いを。解説で恋多き天心さんを知ることも出来ました。 -
「茶」を切り口に古代中国の道教思想から現代生活様式まで、作者の好きなように語った一冊。岡倉天心のやりたい放題ここに極まれり、で、意外と悪くない。
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日本の美学を再認識しました。
名著。 -
茶の本のビジュアルブックを読んで、訳わからなかったので新訳を購入。解説を読んでやっと少し理解できた。
西洋への怒りのすごいこと(笑)
茶道をTeaismと訳したことに、信念を感じる。
外から見た日本の美徳が浮き出されている。
でもまだ落とし込めてないので、もっと分かりやすいやつを読む予定。 -
分かりやすかったです。天心の著書『茶の本』に加え『東洋の理想』の一部抜粋、本人の生涯を追うエピソード付きの大ボリュームな内容となっています。
現代だからこそ共感できる部分が多く、100年以上前からこの思想を唱えていた天心という人の凄さを感じることができます。
訳文も非常に分かりやすいです。小見出し付きで読むのに一区切りつけるのも楽です。
原典が一番であるのは言うまでもありませんが、訳本としては決定版と言っても良いかもしれません。