ロシア幽霊軍艦事件 (角川文庫 し 9-8)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041682081

感想・レビュー・書評

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  • 『暗闇坂の人喰いの木』から『アトポス』まで続いた長厚壮大な御手洗シリーズとは打って変わって、初期の御手洗作品を思わせるような文庫本にして340ページ弱のコンパクトな作品。しかも今回は今まで冒頭で延々と語られていた事件に纏わるエピソードを作品の後半に持ってきたスタイルで、御手洗シリーズの源流であるドイルのホームズシリーズの構成を想起させた。

    今回の謎は見え見えであると云ってもいい。
    ロマノフ王朝の皇女の1人アナスタシアとアナ・アンダーソンが同一人物である事は色んな反証を挙げているもののレッドへリングもないシンプルな物語の構成上、容易に解るし、冒頭に出てくる倉持氏がどのようにこの事件に関わってきたのかも183ページで登場するクラチュワの名前が出た時点で全て解ってしまった。また幽霊軍艦の謎も物語の2/3の部分に当たる224ページで早くも明かされてしまう。

    つまり今回の主題はこのロシア幽霊軍艦の謎を解き明かすことよりも島田氏が21世紀本格として提唱している脳の秘密と本格の融合についての実践にあると感じた。
    『眩暈』では悪夢のような実際にありえそうもない手記の内容について論理的にそれら一つ一つを合理的に解決していったが、今回アナという女性が繰り広げる奇行―髪の毛をむしり取る、衝動的な暴力的行為、糞公害やゴミ屋敷―について大脳生理学上の見地から説明を行っている。過去の実例を挙げて非常に理路整然としていて読みやすく、興味深く読んだのだが、今後の本格の行く末について危惧したのも確か。知識ではなく知恵で解き明かす知的ゲームとしての本格が専門的な知識も動員しないと解けなくなるのは寂しい感じがした。

    また御手洗の特徴として常人には理解できない奇行があるが、今回もレオナの知人でロマノフ王朝について調べていた在野の研究家ジェレミー・クラヴェルが御手洗の許を訪れて一緒に食事に行く際に馬の毛で作ったブラシを突然買い、頭の薄いクラヴェルに勧めるシーンがある。非常に面白いエピソードだが、これが実に後半有機的に働くのだ。
    今までならば御手洗の人物描写として味付けがなされていた奇行さえも本作の真相解明に一役買っていることからも今回の作品が実に贅肉をそぎ落とした作品かが解る。

    そして島田氏のロマンティストぶりも健在。
    アナスタシアと倉持氏のやり取りなどは結末を知っているだけに胸が痛む恋物語である。ロシアの皇女と日本の一兵卒の身分を越えた恋。少女マンガが好む題材である。
    メインのテーマである幽霊軍艦の謎が解れば物語は終わりだからか、別れのシーンが描かれなかった。長大化を嫌って自重したのか。一読者として私はそこまで読みたかった。

    しかし、このまま行けば本格がますます解けないパズルゲームになってしまいそうだ。これが島田氏の本懐なのだろうか。
    知的ゲームとしての本格か、それとも本格の意匠を纏った物語か、うーん、悩ましい。

  • 御手洗のところに、レオナから一通の手紙が届く。
    それは不思議な手紙だった。
    アメリカで活躍するレオナに、ある日本の元軍人がアメリカにいるアナ・アンダーソンという人にメッセージを伝えてほしいというものである。そしてそこから物語は始まる。

    ロシア革命で家族全員殺されたとされる、ニコライ二世の一家。その四女である、アナスタシア生存説にのっとって書かれた話である。
    創作部分が多く含まれているにもかかわらず、アナスタシア生存説を非常に説得力をもたせて説明している。

    そこに描かれるアナスタシアは、とても悲しい。
    いや、その時代のロシアがとても悲しいのだ。
    耐えきれず、何度も本を閉じてしまった。しかし、抗いがたい魅力が、そこにはある。最後まで本を読ませるだけでなく、真実を知りたくなりさまざまなアナスタシア関係の本が読みたくなる。アメリカではいまだに、一年に一冊の謎解き本が出版され続けているという。

    これまでロシア革命についてなど、名前しか知らなかったが、今後アナスタシア関連の本も注意して読んでいくことにする。

  • 好き嫌いが分かれるかも。
    私は結構好きだったが読んでて辛かった。ロシア皇室最後の姿についての描写箇所が特に。ノンフィクションと分かっていても、だ。

  • この作品は、御手洗シリーズだけどいつもとは毛色が違う。いわゆるミステリとしての殺人事件は起こらない。とは言うものの、歴史の謎というミステリにフィクションを織り交ぜながら踏み込んでいる。どちらかと言うと、同著者の「三浦和義事件」のフィクション版のようなイメージか? ロマノフ王朝の王女アナスタシアの謎を追うストーリー。勉強不足でアナスタシアと言う言葉はどこかで聞いたことがあったけど、それがロマノフ王朝の王女だったとは知らなかった。ロシア革命のときに処刑(というのか、虐殺というのかわからないけど)されたはずだが、その痕跡が残っていないと言うことは当然知らず。あとがきで著者が、どの部分がフィクションだということを明記しているので、歴史の勉強になった。 物語は松崎レオナから御手洗

  • この頃は御手洗もだいぶエリート思考になってきてる、それでも割りと好きな話、第二次大戦とロシア史のミステリが好きなら是非、知らなくても面白いけど

  • 面白かった。
    非常に歴史の勉強になったし、興味を持てた。
    ミステリー感は強くないが、レストランで彼を紹介したのはビックリした。

  • 御手洗潔シリーズ。

    これまでのシリーズ作品においても、史実に基づく挿話で大半を占めるモノがいくつかあったが、今作は完全に歴史ミステリーの謎解きに終始している。まぁ、それが嫌なわけではなく、むしろ好物な性質なので、新しい歴史的解釈にワクワクしながら読めた。しかし、どこまでが史実でどこまでが作者のフィクションなのか、絡め方が上手すぎて、逆に混乱しかねないのが困ったところ。にしても、読みごたえがあって、面白かったデス。

  • 御手洗シリーズ。文庫版で再読。
    写楽読んだときも思ったけど、島田先生の史実を織り交ぜた歴史ファンタジーみたいな話は、興味のない歴史の話でも物語として面白く読ませてくれるし、本当にこうだったら面白いなぁというロマンを感じさせてくれるから好きです。クラチュアとアナのラブストーリーもよかった。思わずほろりと来た。
    なぜあえてレオナに頼んだのか、というのはいまいち納得できなかったけど。

  • 史実をなぞらえつつ、物語が展開されており常にワクワクしながら読めました。
    世界史の知識が浅いので色々調べながら読み進め、少しロシアの歴史に詳しくなりました。

  • 御手洗シリーズ。

    箱根のホテルに飾られていた一枚の写真には
    芦ノ湖に浮かぶロシア軍艦が写っていた。

    嵐の夜に現れ忽然と消えた軍艦の不可解な謎、そして
    ロマノフの皇女アナスタシアの真実に迫る歴史ミステリ。

    ロシアの歴史を振り返る形で、深ーく考察された話は
    どこまでが史実なのか判らないほど
    説得力があり読み応えがあった。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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