- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041212110
作品紹介・あらすじ
芸術家志望の若者も、大学の助手も、社長の御曹司も、誰一人夏子を満足させるだけの情熱を持っていなかった。若者たちの退屈さに愛想をつかし、函館の修道院に入ると言い出した夏子。嘆き悲しむ家族を尻目に涼しい顔だったが、函館に向かう列車の中で見知らぬ青年・毅の目に情熱的な輝きを見つけ、一転、彼について行こうと決める。魅力的なわがまま娘が北海道に展開する、奇想天外な冒険物語!文字の読みやすい新装版で登場。
感想・レビュー・書評
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これまたブクログサイトで知った作品。
三島作品としてはかなりライト。「潮騒」のような真っ直ぐな物語とはまた違うけれど、楽しめた。
モテすぎて男にウンザリしているお嬢様の夏子は、ある日突然『あたくし修道院に入る』と宣言、家族を慌てさせる。
モテすぎて何故修道院?と、その思考に驚くが、夏子の中では男と結婚して『美しい小さな牢屋に閉じ込められる』ことが嫌で、同じ閉じ込められるなら修道院が良いということなのかと勝手に想像した。
しかし夏子は男たちに『情熱』を感じなかったことが物足りなかったらしい。『野心』ではなく『情熱』こそが夏子の求めるものだった。
夏子の『情熱』に劣らぬ『情熱』を持つ男が現れないことには彼女の心は満たされない。
ところがいざ修道院のある函館へ向かう途中、夏子は猟銃を担いだ青年・毅の『森の獣のような光を帯びて』『よく輝く』『異様に美しい瞳』に『情熱の証し』を見出だし、一気に彼に興味を持つ。
毅はかつてアイヌの村で出会い恋した少女が熊に殺されたことで、熊を撃ち仇討ちの旅に向かっていたのだった。
夏子は持ち前の強引さで毅の仇討ちに付いていくことにする。
亡くなった恋人の仇討ちに行く男に付いていき惹かれる夏子の気持ちと、恋人の仇討ちに行きながら次第に夏子に惹かれる毅の気持ちについていけないまま読み進む。
一方で夏子を取り戻すべく追いかける夏子の母、伯母、祖母の三人組がワチャワチャして面白い。女三人寄れば姦しいことこの上ない。
途中までは夏子の強引さや周囲を振り回すところにウーンと思っていた。
ライバルの登場でしおらしくなる彼女に、やはり夏子も恋する乙女だったかと皮肉に感じたがそうではなかった。
お嬢様らしい聡明さと素直さを持つ、ブレない彼女にだんだん結末が知りたくなる。
母ら三人組の追跡の行方も気になる。
熊撃ちも気になる。行く先々で馬や家畜や人まで襲われて結構危険。
読み終えると、やはり夏子はブレていなかった。そのことが嬉しい。
夏子にとっては人食い熊を追いかけ撃つなんて、お嬢様人生では得られない、とんでもない経験と興奮いっぱいの『冒険』だったのだろう。
コミカルでドタバタもあるのに、表現は安っぽくない。そこは三島作品らしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知ってしまった一冊。
読みやすい面白い三島作品を知ってしまった、その気持ちでいっぱい。
修道院に入る宣言をしたお嬢様 夏子。函館に向かう列車で、瞳に情熱を、肩には猟銃を持つ熊撃ちの青年に出逢い気持ちは一転、彼についていくことに。
この我が道を行く夏子は魅力がいっぱい。
この行動力、夏子の情熱には感嘆の吐息しか出ない。
北の大地へ熊撃ちへの冒険は夏子にとって煌めき以外の何者でもなかったんだろうな。
随所で伺える夏子の聡明さも実に気持ちが良いし、振り回される母達も面白い。
ちょっとした表現に言葉の美しさも味わえて、思わずリフレインしたくなるほど。
最後まで夏子に、そして熊にハラハラドキドキの時間、楽しかった! -
三島由紀夫によるラブコメ小説。
(なんか金閣寺とかの有名どころじゃなくてこんなんばっかり読んでいる。)
退屈な現実に嫌気がさしたハタチの夏子は、突然「あたくし修道院へ入る」と高らかに宣言し、またもや家族たちの度胆を抜くことに成功する。
そしていざ函館へ向かう船では、瞳に情熱的な火を宿す青年・井田毅と出会いあっというまに恋に落ちる。
危険だから、という彼の静止も聞き入れず、目指す修道院をもほっぽり、夏子は北海道の大地で意気揚々と”熊をめぐる冒険”に乗り出す、というストーリーだ。
自由奔放で傍若無人なエキセントリック娘に始めは辟易していたのだが、そのあまりにも突き抜けた気高さに私までまんまと心を奪われてしまった。
夏子、毅、野口、不二子、夏子を生け捕りしようと奮闘するおばさまたち。たくさんの魅力的な人物が二転三転するドタバタ劇がとにかく面白い。
熊に襲われた男性の話は鬼気迫るほどでゾッとさせられる。さて夏子と剛は無事に4本指の人喰い熊を仇討ちすることができたのだろうか?
本当に面白いのでぜひ読んでほしい。
なんてったってラスト3行がたまらないのだ。そこにこの小説の良さが凝縮されている。
電車で読んでいて思わず声出して笑っちゃったもんね。エピローグでまさか、まさか、とは薄々思ってたけどそのまさか。あー痛快。
夏子のように生きてみたい……と思ったけど、でもひょっとしたら私も二十歳の時はこのぐらい恐れ知らずの無鉄砲ガールだったような、気がしなくもない。
じゃなきゃ今こんなことになってないもんなぁ。 -
恥ずかしながら、初めての三島作品。
こんなラブコメから入って良かったのだろうか。
とても読みやすく、頭の中に映像が浮かんでくる感じ。小説を読んでいると言うより、映画でも観ているかのよう。
中でも松浦家の女三人が面白すぎ。
人物描写が素晴らしく、本当に生き生きとしている。
他の作品も読もうとおもいます。 -
ゴールデンカムイを読んでたおかげで、昔は想像できなくて引っかかっていたであろうアイヌの表現がするするわかり、三島由紀夫を読みやすいと思う日が来るとは・・・という感じだった。
全体的にラブコメなんだが、比喩が三島節というか、1番美しい表現の真ん中の的を正確に射抜くように、ひょうと書かれるので、コメディ舞台を見ているのか文学を読んでいるのか、バランス感覚を失いそうになる。
夏子は羨ましい女の子だ。 -
三島由紀夫さんの作品にしては気負わずに読みやすい小説でした。面白かったけど、特別に惹かれる部分はあまりなかったです。
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やっぱり三島由紀夫の恋愛小説は面白い!読んでいる途中から、やんわりラストが読めてはいたが、「でもまさかね」と何度も反復して考えた。ラストの夏子の一言に、「ああー」と声を出さずにはいられない。ああいう高飛車な我儘娘は全く修道院へ行き独身を貫くのが良い選択だ。
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三島由紀夫は何を示唆しているのかよくわからなかったが夏近の奔放さをコケティッシュに読んだ
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北海道旅行にて。
函館行き
これは純文学というより書き方が大衆小説っぽかった。二つの書き方ができるもんなんだな。