ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい

  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041106624

作品紹介・あらすじ

クリスティン・バーネットの息子ジェイコブは、アインシュタインより高いIQの持ち主。記憶力抜群で数学が大好物。三歳で天文学に強い興味を示し、九歳で宇宙物理学についての独自の理論に取り組みはじめ、十二歳の夏休みには、量子物理学の研究者としてアルバイトも経験した。彼はいずれノーベル賞候補にもなり得るだろうと言われている。こんなジェイクだが、かつては自閉症によってその才能の片鱗すら見出されていなかった。「息子さんは十六歳になったときに自分で靴ひもを結べるようになっていたらラッキーだ」と言われていたのだ。

感想・レビュー・書評

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  • 息子は自閉症、そして
    12歳の宇宙物理学者

    この帯の紹介文。天才の育て方が分かるかも!と軽い気持ちで読み始めた私。しかし序盤からそんな自分を反省。長男の自閉症と次男の病気、そして著者自身も若くして脳卒中になり2008年にはリーマン・ショックと次から次に困難が襲いかかる激動の人生。そんな困難の中でも自分の家族はもちろんのこと、隣人のためにできることをやり続ける著者のパワー。朝は保育所運営、夜は自閉症児のためのプログラム、しかもそのプログラムがまたとんでもない熱の入れよう。子どもたちの好きを伸ばすためにできることはなんでもする。自閉症児のプログラムは参加費を一切取らないので材料費もほぼ実費。近所のリサイクルショップで使えそうな廃材を片っ端から集めるパワフルさ。好きなことを思いっきりやれる環境の中で、文字を読んだり会話することが難しいと言われた自閉症の子どもたちが、社会で活躍できるまでに育っていく。自叙伝自体あんまり読んだことはないけれど、彼女の生き方は本当に素晴らしいと感じた。
    できないところではなくその子の光る部分に目をつけて伸ばしていく。自閉症の子に限らず、すべての子育てにおいて忘れてはいけない視点だ。
    子育てに限らず、もう既に大人である自分自身を見つめる際や他者と接する際も、この視点を大切にするべきだと思う。
    そしてさらにこの母親の尊敬すべき点は、息子がどれだけ天才児(どれくらい天才かは是非本書で確かめてほしい)であろうと、普通の子ども時代を過ごさせることをやめなかったこと。友達とスポーツをしたり、家族でピクニックに行った毎週末の思い出こそ、彼をよりいっそう魅力的な人(会ったこともないけど)にしたのだと思う。
    こんなに一冊の本に背中を押されたのは久々。
    この本は私のお守りだ。

  • 恥ずかしいところではあるが、自閉症の子ども・人間について正面から扱った本を読んだのはこれが初めてかもしれない。
    母親である著者は、息子が2歳の時に自閉症と分かる。
    それは1990年代の終わり、20年以上前のアメリカでは、まだ自閉症についての理解や考え方が現在ほど進んでいなかったころ。今でこそ、新聞やメディアでよく取り上げられるようになったけれど、当時の社会状況はより厳しいものであったと思う。そんな中で、母親の取ったアプローチ、献身、乗り越えてきた数々の試練が、本人の筆で書かれている。2013年発行のこの本を書くこと自体も、彼女の強い意志と有機なくしては実現しなかっただろうと思う。

    彼女が大事にしていたことは、自分らしくいられる場所、自分らしくいられる時間を子どもに作るということ。彼女の母親から学び得てきたこの養育アプローチは、自閉症の息子本の中で述べていることは、息子ジェイクを育てることのみならず、他の兄弟や、運営する保育園や慈善事業実施においても実践されており、軸となっている。才能に期待するのではなく、自分のやりたいことに打ち込む時間を確保することにより、その子どもの特出した才能を伸ばすのみならず、その機会を与えるという行為を通してその子の生きる世界との距離を縮め、人間同士の関係を築き、共に分かり合うためのプロセスになる。それを著者とその息子の経験が物語っている。

  • 自閉症を抱え生まれた我が子が天才数学者になるまでの様子を母親の視点から描かれた奮闘記。
    難産の末生まれた我が子が、普通の子供のようにコミュニケーションをとれず、読み書きを諦めた方がいいと告げられたときの落胆は相当なものだと思う。それでも、母親の勘のようなもので、息子の秘められた才能を見出し、周りに反対されようとその才能をそれを伸ばそうとした。その信じる力がすごいと思った。確かにジェイコブ本人の能力は別格なものなのだろうけど、この母親がいてこそ開花できたのだと思う。あそこで学校を辞めず通常の教育を無理に受けさせていたら、才能を隠したままずっと障害児として生きることになってしまっていたと思う。
    そう考えると、個々の長所を発掘し、そこを伸ばしてあげる教育の必要性を感じた。

    また、ジェイコブの母の本当のすごさは、ジェイコブの自閉症のみならず、2人目の息子の重い障害、自身の病気、夫の解雇による生活難…様々な難題が降りかかる展開の中、それでも子供への愛情と仕事の夢を決して捨てず乗り越えたバイタリティだと思う。普通はこんなに頑張れない。

  • 感動。
    よみながら、お母さんの敏感期を思い出していた。
    モンテッソーリに一時期はまっていたけど、
    どんな子でも、注意深く観察することによって、
    それぞれどんなことに興味があるのか
    どこの力をのばしたがっているのか
    分かるんじゃないのかなあと
    思った。
    でも、実際には難しい。
    それも分かる。

    【引用】
    娘が他の子どもたちと違っていることに母親がまったく動じないことがどれほどすごいことか、当時のわたしはもちろん全然わかっていませんでした。ただ、そういうものだと思っていたのです。でも、誰にでもその人特有の才能や能力があることーたとえそれが思いがけない、意外なものであってもーを、私は妹から学んだのだと思います。そしてその能力をフルに活かすためには、子どものうちからそれを引き出してやることが重要だということも。

    だから障害があろうがなかろうが、その人特有の能力や才能を探してやるという点では変わりがないのだと思う。果たして、それができているかというと、全然全く足りていない。足元にも及ばない。
    自分の枠が狭いからだ。

    【引用】
    以前より進歩した自閉症児を見るたび、わたしはこの子のために激しく闘ったであろう誰かのことを思います。成果が何であれー一人でトイレに行けるようになったとか、中学校に入れたとか、やっと言葉を話すようになったとか、仕事が見つかったとかーその背後にはかならず、その子を信じ、その子のために闘っただれかがいるのです。

    自閉症児ではより大きく、はっきりと感じるのかもしれないけれど、多かれ少なかれ、誰にでもあるんだよね。
    その背景を忘れてはいけない。

    【引用】
    我が家で「ジェリービーンズ事件」と呼ばれているこの出来事に対してわたしがとった行動は、その後もずっと、あらゆる子どもに対して応用し続けている方法です。「気が動転する気持ちはよく分かるわ」とわたしはジェイクにいいました。「でも物事には尺度というものがあるの。愛する人が亡くなったら、それはレベル10.レベル10だったら自制心を失っても無理はないわ。ベットにもぐり込んだまま出てこなくても仕方がない。そのときはティッシュの箱を持ってそばにいてあげる」
    「そのレベルで考えたら、ジェリービーンズのことはどう?誰かが骨を折ったわけでも、腕をなくしたわけでもない。どこでも買えるようなお菓子が瓶に入っているだけなのよ。だったらそれはレベル2.そしてレベル2の出来事にはレベル2のリアクションをしなさい。レベル10でなくてね」

    こういうことは教えないとわからないよなあ。
    そして、この伝え方は秀逸だと思う。
    アンガーマネンジメントができないと、
    社会では生きられないのだから。

    【引用】
    子どもというんは好きなことに打ち込む時間さえ与えられれば、それ以外のスキルも自然と向上していくものだと。

    そうかあ、そうかあ。
    そうなんだよなあ。
    好きなことをできる環境を整える。
    好きなことを見つける目を大人が持たなければ。

    というわけで、示唆に富んだ本で無我夢中で読んでしまいました。
    特に、子どもと関わる方に読んでもらいたい本ですね。

  • 一気読み。
    タイトルだとわからないだろうけど、「数式で宇宙の美しさを伝えたい」自閉症男児を育てた母親の奮闘育児(⁉︎)の様子。
    この母親本人はサヴァンとかではない普通の人ということなのだろうけれど、いやいや勝るとも劣らない能力の持ち主。
    不屈の精神、心の柔軟性、人を受け入れる度量、奉仕の精神、あふれるアイデア、どれをとっても並みの人ではない。
    全ての親は自分の育児を多少なりとも反省することと思う(笑)
    育児でいろいろな困難があっても、きっと何かしらの良いアプローチがあるに違いないと思わせてくれる本。

  • 通勤途中の電車の中で久しぶりにウルウルしてしまった。それも何度も。
    自閉症児を育てる母親が語る、その子供の成長と教育について。世の画一的な、日常生活をする上での所作を身に着けることに注力するのではなく、子供の好きなコト、その分野の才能を伸ばすことで、生活も改善していく。結果、その才能は開花し、まだ子供ながら、大学院またはそれ以上の才能を見出す。何度も困難を乗り越えながら、成長していく子供の姿に感動し、そのように教育することに情熱を燃やし、かつ、他の自閉症の子供達の面倒をみるということに畏敬の念を覚える。この長い休みにぜひおススメ。

  • 9歳で大学に入学しいつかわノーベル賞受賞も夢ではない少年はアスペルガー症候群。2歳で10度の自閉症と判断され一生喋ることもできないだろうと言われた両親。クリスティンとマイケル。クリスティンは保育所を自宅でしている保育士。マイケルはスーパーに勤める普通の労働者階級。
    自閉症は幼い時にどれだけ刺激を与え、導くかでその後が変わると言われていた。ありとあらゆる療法士のフォローを受けたが、進展はほとんどなし。

    母親クリスティンは保育所が終わったあと、自閉症児障害児などを集めて無料のキンダーガーデン風のクラス「リトル・ライト」を開設。何もできないと匙を投げられた我が子を連れてくる親がたくさんやってきたが彼女は誰も断らないで受け入れた。

    できないことにフォーカスするのではなくその子供が大好きなこと、気持ちのいいことにフォーカスし、伸び伸びとその才能を伸ばすことこそ自閉症児には必要なのではないか?と考えたからだ。
    夫マイケルも力になる。
    大不況にあって職を失ってしまっても、二人は頑張った。2番目の子供にも障害が見つかる。

    この伝記は母親の立場から描かれたものだ。
    だから本人が発したあの「東田直樹さんの自閉症の僕が跳びはねる理由」とは反対の描かれ方ではあるが、この両親の深い考察と愛情から自閉症児の息子に対するアプローチがそれまでの定説にはなかったことばかり。
    アメリカと日本では国から受けることができる援助もかなり違うはずだ。決して、安直に離れない現状が日本にはあるが、一読してみると新しい考えが増えるのではないでしょうか?

  • タイトルの通り、宇宙論の本だと思っていたのでノーマークだったが、自閉症の子供を持った母親が、子どもの才能を潰すことなく、それを活かすことによって自閉症から回復させるために奮闘した物語だった。

    我が子の気分がいい時と悪い時の状況を見分けて、自らの考えを信じ、プロの特別支援クラスをやめさせて自ら家で学習させたり、小学生の子どもを大学の授業に出席させるといった常識的ではない行動にすら出ていく様は見事。さらに、他の自閉症児のための夜間クラスまで開いているから、そのエネルギーには圧倒される。

    「なぜみんな、この子たちができないことばかり焦点を当てるのだろう?なぜできることにもっと注目しないのだろう?」
    「彼ができないこと、したくないことばかりやらせようとするのではなく、好きなことにもたっぷり時間を使えるよう気を配りました。」

    しかし、自閉症であるかどうかは関係ないように思う。著者も、息子のストーリーはすべての子どもに当てはまる話だと書いている。自分の能力を発揮することが社会に認められることは、だれにとっても嬉しいことだから、それを見つけることが学校で学ぶことなどよりも重要だとも思える。むしろ、障害があった方が、生きる能力を身につけるために、本人の能力を見出す様々な努力がなされるのであれば、その方が幸せなのではないかとさえ思えてくる。教育とは何か、生きることは何かといったことを考えさせられる本だった。

    なお、円周率の小数点39桁まで用いれば、観測可能な星の外周を水素原子レベルまで推定できるらしい。あっぱれ。

  • 自閉症の物理数学者ジェイコブ・バーネットの母親であるクリスティン・バーネットによる子育てノンフェクション。
    クリスティンはわが子が自閉症とわかって専門家の支援を受けたとき、それらがわが子の「できないこと」に視点をあてて、できない社会的スキルを改善させるという視点から構成されている支援プログラムに疑問を抱き、専門家の支援を断って、クリスティンが試行錯誤のなかで自分がベストと思える支援をしていくという話。クリスティンの支援の視点は、自閉症の子供がいったい何に関心を持っているのかを見極めることに最大の労力と関心を注いでいるということである。クリスティンがいうように、この視点はジェイコブのように知性が高い自閉症のみならず、いろいろな自閉症の子供にとっても大切な視点であるし、自閉症でない子供にとっても大切と思われる。だからこそ、本の題名にも副題にも「自閉症」という語句をあえていれなかったのではと思った。(原題は「THE SPARK」で、ここからも、自閉症の子供がもつ関心の輝きや、輝けるものを大切にしていることがうかがえる)
    あと、興味深かったのは、自閉症の子供の発達のあり方。ジェイコブの場合は、はじめて、周りの人と会話らしい会話をしたのが、3歳のときにジェイコブが興味のある天体で「火星の惑星の大きさは?」というものだった。定型発達の子供なら「ジュースちょうだい」とか「おはよう」とかだと思うと、かなり関心を惹かれた。

  • 自閉症児の母の自叙伝。
    ここまで波乱万丈で有りながら子どもの可能性を信じてやまない話です。
    涙あり、感動あり、家族愛あり。

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著者プロフィール

アメリカ・インディアナ州在住。1996年に地元向けの保育所「エイコーン・ヒル・アカデミー」を立ち上げた。現在は自閉症及び特別な支援が必要な子どもとその家族のためのコミュニティ・センター「ジェイコブズ・プレイス」を夫マイケルとともに運営している。

「2018年 『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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