和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041103050

作品紹介・あらすじ

「和僑」とは、今世紀になってから日本人の間で作られた造語である。中国で喰い、中国を喰らう日本人を追った前代未聞のルポ。

感想・レビュー・書評

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  • 和橋と言う本で、中々面白い本だったと思います。

    まず和橋と言う言葉の定義に関してですが、著者は中国に渡った日本人と言う定義で話を進めています。架橋は各国に渡った中国の人間だったので、和橋は中国で活動する日本人と定義すべき、と言うロジックは全然通ってないと思いますが、この本の対象は、「中国に渡った」和橋であります。面白いです。

    ストーリー形式で話が進んでいきますが、話の発端は2ちゃんねるに書き込みをした、中国の田舎で暮らしていると推測される日本人を探し出し、インタビューしようと言うところになります。

    書き込みに残された幾つかの痕跡から、彼の身元を追っていくのが前半になりますが、途中で話が終わり、著者のこれまでのインタビュー話に切り替わります。

    例えば、マカオで売春する日本人女性の章では、日本人であることを武器にして海外で積極的に富を得ようとする女性たちの話が出てきます。ギャンブル的でもそこに魅力を感じる女性たちの生き様ですね。力がなければ夢を描けない日本より、一晩17万と言われる世界に夢を見る、と。

    続いて中国に於けるエリート在員の暮らしについて。領事館などで働く人々、大企業の駐在員が月30万と言われる日本人向け高級マンションで暮らし、日本に居るよりも日本らしい、かつて日本人が理想として持ってきた生活を謳歌する人々の話は中々面白かったです。インターナショナルスクールは月々20万円だっけな。現実問題として子供の教育をどうすべきか、というのは難しいですね。どうでも良いですが、我が母校の名前が出てました。これだけ金を掛けて我が母校に入れた親たちは発狂するのでは…。閉じた社会とそこでクラス人々の未来はどこに続くのか、興味深いです。何にせよ遠くない未来に既存のシステムではやっていけなくなるでしょうね。

    更に続いて、中国で活動する日本人ヤクザの話。日本人社会が中国社会でやっていく為に必要なインフラとして必要とされ、金とコネの力で機能する暴力団システム、その成り立ちについて。

    そして閑話の最後に日中友好と言う良く分からん言葉に踊らされ、また自分の道を生きている人々の話ですね。これはそこまで斬新な話でもなかったです。

    そして話は戻り、当初の2ちゃんねらー探しが終わり、インタビューしている場面に戻ります。簡潔に言えば、窮屈な日本社会より、旧態依然で混沌としている中国の方が住みやすい人々も居るようです。

    普段目にしない中国に暮らす日本人のナマの声が収録されている(と思われる)ので、知識として非常に有用だと思われます。

  • 若いルポライターが放った一作。3年ぐらい前に香港ではちょっと話題になった。「和僑」という言葉は、ここにいると割と身近。ただ、この本が定義する和僑は大分狭義なもの(筆者も断っている)、従い僕はこの本で書かれていることが「和僑」とは思わない。中華圏に限定すべきとも思わないし、中華圏でももっと違った層をカバーする方が実態に近い。彼が捕まえたのはかなり隙間的なところにいる人達なので、それをして「和僑」というのは、どうかな。でも、今の中国の実態で見えづらいところにタッチしてる、と言う点では、読んでもいいと思う。ハードカバーの値段払うほどの価値があるかはわかんないけど…(俺払っちゃったよ!)。ところでこう言う本はKindleだったらガツンと値段下げないと!

  • ここで扱われている「和僑」とは、21世紀になってから日本人の間で作られた造語です。ここでは中国で行き、中国を喰らい、したたかに生きる人々を気鋭の筆者が追い続けた貴重な記録です。混沌がここにあります。

    僕が中国に関心を本格的に持ったのは予備校時代に漢文講師の宮下典男先生の授業を受けたのがきっかけで、それから時は流れていく星霜。日本と中国との関係が変化していっていく中で手にとって読んでみた本です。

    ここでは『和僑』といわれる日本人たちが、中国で生き、中国で喰らい、中国を喰らうしたたかな生き方を気鋭の筆者が書きとめたルポルタージュであります。出てくる人間もまぁ多士済々で、雲南の山村に住む2ちゃんねらー。欲望の海・マカオで「ニッポン定食」として働いていた風俗嬢。上海で日系企業の依頼で組を作ったやくざ…と規格外の人間ばかりで、読み終えたときにはあまりのディープな世界でため息すら出たのですが、彼等の『濃厚』な生き様と、それを追い続けた筆者の『執念』に感動すら覚えてしまった自分がおりました。

    2ちゃんねるに書かれた情報を元に中国の農村へと単身飛び込んでいく無茶を最初に持っていき、その雲をつかむような様子に始まり、マカオではそこに蠢いている人間から『金を儲ける』ということはいったいどういうことであるかを語り合い、マカオの歓楽街で『ニッポン定食』と呼ばれる「おねいちゃん」をやっていた『世界をまたに駆ける』風俗嬢と歌舞伎町というこれまたディープな世界でワールドワイドな『性』事情を赤裸々に語りつくす。本当にディープな世界です。

    しかし、上海では『かつての日本』を形作るような福利厚生の厚い会社に勤める人間と現地の人間と積極的に交わっていく『起業家』たちとの『差異』についての考察も非常に面白かったです。さらには日本の広域暴力団の幹部だった男が上海で現地の人間の上に巨大な組織を作り上げ、なおかつそれが『お上公認』であることに衝撃をうけ、かつて日中友好に身を捧げた女性が『ネット右翼』のような『さらば日中友好』に変じていった軌跡を追い、圧巻のラストは最初で会うことの出来なかった中国で暮らす日本人の青年との直接対決のエピソードでありました。

    彼が
    「日本よりも中国のほうが自由で暮らしやすいんですよ」
    と語る彼の生活は、これまた規格外のもので、こういう人間がまだいたのか!という驚きと共に、『人に定めなし』という黒岩重吾先生のお言葉をいまさらながらに感じざるを得ませんでした。混沌を極める現代の中国。そこでしたたかに生きる日本人の存在とその息吹を、少しでも感じ取っていただければ、幸いに思います。

  •  二十数年前に中国に留学していた自分にとって、とても面白く読める一冊だった。著者の気持ちがとてもわかるのである。中国に自分の意志で長期滞在する人たちは、心のどこかに「自分は特別」という意識がある。だからこの地で日本の暮らしをする人々(本書では上海の日本人社会にいる人たち)に対し上から目線になってしまうのだ。しかしそんな目線を、著者はあえて客観視する。「正直な自分」と「分析する自分」とが交錯するところが絶妙である。
     注目したいのは著者の「しつこさ」である。ネットで知った「ヒロアキさん」を探しに中国の奥の奥まで踏み込んでいく姿勢、黒社会の人、風俗嬢など、名を明かせない人々の深奥に迫る姿、などなど、自分の身に危険が及ぶのではないかとも思える取材に、限りない好奇心を感じるのだ。やはりこの人は普通ではない。
     本書では、好奇心あふれる行動をとる著者と楽しい旅をさせてもらった。同時に二十数年前、数々の理不尽を、時には怒り、時にはあきらめていた自分と再会したようで、懐かしさがこみ上げてきた。
     著者の第二弾にも期待したい。

  • 中国に渡った日本人(和僑)に、もはや現実の日本国内にも存在しないほど、過剰に日本らしい日本を見てしまうというルポ。
    おしとやかで男性を立てる大和撫子(マカオの風俗嬢)、勤め人のご主人と専業主婦の奥さんからなる幸せな四人家族(上海の駐在サラリーマン)、堅気の人間を守る侠気を持つやくざ(上海のやくざ)、理想主義だけで割り切れるシンプルな国際認識(北京で日中友好の幻想に翻弄された人たち)、閉鎖的だが内部に入り込めば居心地のいいムラ社会(雲南省の農村に住むVIPPER)。
    著者のまとめ方に完全に賛同できるかは別として、話は面白かった。

  • 総論として「和僑」を語るにはサンプルが少なすぎ、かつ著者が興味を持った対象のみ。こんな人もいるのね、という程度の話。

  • 中国の農村で暮らす2ちゃんねらー、マカオで稼ぐ風俗嬢、上海の闇を取り仕切るヤクザ、その一方で同じ上海でも平穏に「日本人として」の生活を全うしようとする駐在員たち…様々な理由で中国と関わり続ける"和僑"たちから、最終的に筆者は過去の日本の「残り香」を感じ取る。
    一口に「中国と関わる」と言ってもその関わり方は様々だ。日本にいて中国に意見する人々もこれに加えれば、それぞれがそれぞれの立場で互いの関わり方に(程度の差はあれ)非難・意見している状況。その多様性が本書からも伝わってくる。
    自分自身も細い糸ではあるが中国という国と関わりを持っている。そんな自分が個人的に興味を持ったのは風俗嬢のルポ。自分でも何故惹かれるのかは分からないが、恐らくそれは純粋な好奇心から関わってるからであろうか。「あるべき論」ではなく、今現に関わっている人たちの等身大の姿は読んでいて清々しい。「ガツガツと外に出ていけ!」というギラギラオヤジどもの論調が溢れる昨今だが、それぞれが思い思いのやり方で外国と関わる姿は、むしろ元気や希望を与えてくれる。

  • 2024/01/28

  • 自分自身が旅行者という身分だったからか、旅行中に「異郷で暮らす人びと」に興味を持つようになった。なかでも、中国人はいろいろな場所で目にした。

    イラク北部のクルディスタンでも中国資本の商業ビルが建っていたし、ネパールのカトマンズでは小さな中華街が建設中だった。ヨルダンでは、春をひさぐ小姐たちの店で一夜を明かさせてもらったりもした。本国内外を問わず、安くて味の保証された中華料理には幾度となくお世話になっている。まったく、中国人はたくましく生きている。

    (この本が定義する)「和僑」=「中国で暮らす日本人」は、いわゆる「勝ち組」だけに限らない。彼らはどうして中国に流れ着いたのか、彼らの目に中国はどう映るのか。

    国家としての「中華人民共和国」ではなく、地域の名称としての「中国」が好きだという筆者の論調は、ちょっと暑苦しいと思うところもある。それでも共感を覚えてしまうのは、やっぱり僕も「中国」が好きだからだろう。

  • 和僑に関係する断片的なチープエッセイ。

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著者プロフィール

ルポライター

「2023年 『2ちゃん化する世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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