希望(仮)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041102930

作品紹介・あらすじ

山下幸司は東大を目指す高校三年生だ。成績優秀だが、面白味に欠け融通のきかない人間という自覚がある。受験中、たまたま山谷で出会った手配師・有働の名刺を触っていると不正行為と疑われ失格になってしまう。家にも帰れず途方に暮れた幸司は有働を頼り、京都に向かう。京都に着くやいなや、有働の紹介で肉体労働の現場で働くことに。福井の原発建屋の点検作業に明け暮れ、沖縄のダム建設現場で汗だくとなり…。荒くれ者の群れの中に飛び込まされ、少年の目の前に見えてきたものとは-。

感想・レビュー・書評

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  •  この小説好きだなぁ。大好きな花村萬月の中でも特に私の好きな感じの物語。『たびを』によく似ていて、主人公が幸司。確か、たびをの主人公も虹児(こうじ)ではなかったか。

     この幸司。東大受験のため東京で受験前に1人ホテル暮らしをすることになるのだが、ブラブラ歩いた山谷で出会った男に電話番号の紙を渡され、受験中、その紙をなんとなく見ていたらカンニングを疑われ、失格となる。

     その瞬間から幸司の人生プランは180度変わることに。山谷で出会って親切を受けた戸賀沢。戸賀沢の突然の死。1人電話番号を渡してきた男を頼って行った京都。出会いは最悪だったが、大親友となった味舌。原発での仕事、沖縄への移住。

     次々とやってくる出来事に翻弄されながらもしっかりと成長していく幸司。オドオドしていて自分を持たないような幸司だが、なぜかみんなから好かれ、そういうところも虹児と似ている。言うならば『人たらし』といったところだろうか。最後にはそんな幸司の成長が見られて読者冥利に尽きる。

     花村萬月らしく、ノワール的な要素もあるが、これは間違いなく青春小説。素晴らしい物語の中に、作者の意図が、意思がヒシヒシと伝わってくる。

  • 白い花村萬月......と言うか、ま、彼にしては珍しい、爽やかな系ロードムービー的青春冒険譚。
    で、タイトルも「希望」なんてつけようとして、こりゃ柄でないな.....と、照れ隠し的に「(仮)」なんかつけたのか(笑)......とか思ったりもしたが、そこはしっかり(仮)をつけるべき立派なオチはついている。

    もちろん花村萬月なんで、暴力とセックスはキチンと描かれているのだが、それも今回はかなり控えめで、氏の小説のエグさが苦手な方にも、それなりの萬月ワールドを楽しんでいただけるだろう。

    あと、秀逸なのは「あとがき」で、これのおかげで、氏の古くからのファンも納得できる作品になっているのではないかと、思ったりもする。

    ま、でも、花村萬月.......きほん全然変わらないよな(笑)

  • 成績優秀な高校3年生「幸司」は東大受験当日に
    まさかのあり得ない失態を犯し...高い自意識が故
    実家にも帰れずにそのまま成り行きで三谷暮らしを
    始める。その失態のきっかけとなった手配師から
    新たな仕事を得る事になったのだが、その仕事先は
    福井県にある原子力発電所。原発の点検作業員という
    仕事だった...。

    今作の初出が2010年なので東日本大震災以前からの
    連載作品でありながら、以前から作者のウチにあった
    原子力発電、この国の電力利権、エネルギー利権などと
    震災が起した事が重なった事で、今作が読者に与える
    印象は善くも悪くも「原発」寄りになってしまうところを
    あくまでも主人公「幸司」の飄々と淡々とした、羨ましくも
    ある転落した青春を綴る事で、あくまでも小説として
    最後まで読ませる力量が素晴らしい。

    その後「幸司」は原発作業員の任期を終え、沖縄での
    ダム工事作業員として飯場に入る。そこで様々な
    人間と出会い成長していく様になんだか...異常に
    感情移入させられてしまいます。小説の時代設定も
    絶妙ですね。このクニがまだギリギリで持っていた
    おおらかさが救いになっています。ここ数年の中で
    「西方之魂 ウエスト サイド ソウル」と並ぶ名作。
    だから、萬月作品を追う事をやめられないッス。

    必要以上に悲観もしないし、楽観もしていない。
    現在のこのクニ、そして未来に希望はあるのか。
    (仮)が取れるかどうかは今を生きて、暮らす
    自分が瞬時に考えた行動を起こす事なのかも...ですね。

    • 円軌道の外さん

      お久しぶりです!

      ロックとバイクに明け暮れていた若かりし頃、
      萬月さんの小説の主人公や生き様に憧れて
      自分も小説を書いてみたこ...

      お久しぶりです!

      ロックとバイクに明け暮れていた若かりし頃、
      萬月さんの小説の主人公や生き様に憧れて
      自分も小説を書いてみたことを思い出しました(^_^;)

      「ブルース」くらいまでの
      初期の作品が好きで、
      ここ最近は
      萬月作品からは遠ざかっていたけど、
      neon_booksさんの
      熱のこもったレビュー読ませてもらって
      久々に萬月熱が再燃しそうです(笑)


      大変参考になりました!

      素敵なレビュー
      ありがとうございます!

      2013/04/08
  • 書店で良く見る作家さんでしたけど、読んだのは初めてでした。なかなかスケールの大きな話を書かれるのですね。四角四面の山さんの成長物語ですが、かなり変化と波乱に富んでます。読後感も良かったです。

  • 東大だけが大学じゃない。自分が本当に学びたいことかあるなら、何処の大学に行こうが関係ない。自分が学びたいという気持ちが本物なら何処の大学でも学べる筈だ。世の中には、どんな事情にせよ厳しい環境でしか働き口が無い人もたくさんいる。逆に言えば、そういう人達が末端で頑張っているから社会が成り立っているのかも知れない。エリートしか居ない世の中は成り立たないのか?多分色んな人がいるから成り立つのかも知れない。どんな人であろうと社会に貢献しているなら、それでいいんじゃないか。そして、自分がやりたいことがあり、状況が許されるなら置かれる環境にこだわらずそれに向かって進むべきだ。そんなことを思ったりした。

  • とにかく、話の展開が、かなり強引。
    内容も、日雇い労働者問題、原発問題、沖縄問題と、かなり無理して詰め込んだ感じ。
    ただ、主人公の幸司と味舌の友情の絡みは、なかなか微笑ましいものがあり、その点はよかった。
    結局は、主人公の幸司が成長していく過程を描いた小説で、多少支離滅裂感はあるが、まあまあ面白かった。

  • 東大に行くはずが、なぜか原発で働き、沖縄で道路工事…。主人公は、さまざまな人に出会い、教科書には載っていない人生の奥深さや真理(?)を実地で学んでいく。
    ひと癖もふた癖もある、主人公を取り巻く人たちがおもしろかった。
    それにしてもあきれるほど女性とのあれこれが出てくるのに辟易…。

  • 「東大生になっていたはずなのにどうして原発で働いているのだろう」という帯に興味を惹かれて購入。
    東大を合格できたはずなのに山谷で出会った有働産業の社長から貰った紙のせいでカンニング行為を疑われ試験失格となった主人公、山さんが、福井の原発の原子炉建家の検査人や、沖縄の道路工事員としてユンボを動かしリアルな働く姿を学ぶお話。
    弱肉強食の世界において最も有効なのは力だと気づく山さんの複雑な心境が、戸賀沢さん、味舌や石嶺、尚史さん、下世話だけれども憎めない飯場の人々によって描き出されるのがなんとも痛快で、中盤以降本の厚みを忘れるほどにのめり込んだ。荒くれものには荒くれものの生き方があるのを感じとり、そこに順応していく山さんの姿は、実は結構憧れる。
    平たく言うと、すごく楽しそうだ。読み終える前とあとでは、逞しさが段違いである。
    舞台は昭和の福井だが、この話の同時代性は震災以後福島の原発メルトダウンに沸く現在にあると思う。ここで最後に指し示される希望、果たして先伸ばしにし続けて、後の世に叶うのだろうか、という問いかけが隠されているのではないだろうか。この話の終わりと現在の状況は、どうにも被る気がしてならない。問いかけると同時に、作者自身もその状況にたいして答えを出してはいないようであるが。
    花村萬月を読むのはゲルマニウムの夜に続いて二作目であるが、社会に寄ったこの作品は同氏の性描写にやや抵抗があっても読み進めやすいのではないだろうか。

  • #読了。1970年代後半、東大の受験中にカンニング容疑をかけられ受験資格を取り上げられた山下幸司。山谷をぶらぶらとしている際に知り合った手配師を頼りに、原発で働くことに。青春小説ではありながら、原発(事故)というものに対しての警鐘を鳴らす。最後は、筆者として言いたかったことであろうが、その前で切っていても。。。

  • 受験生である少年が、貰った名刺でカンニングと間違われ
    そのまま蒸発するかのように、ふら~っと…。

    それだけを目標に生きて行けば、確かにこんな状態になるかも。
    とはいえ、かなり思い切った生活へ変わったわけですが。
    その道を示されていたから、という選択もありますが。

    ほわほわと生きているような感じもしますが
    そこまでが一応苦労してるような気も。
    女っけがないので、確かにこうなりそうですが
    こればっかり、というのに、読むのが疲れてきました。

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著者プロフィール

1955年東京都生まれ。89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。98年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞、2017年『日蝕えつきる』で第30回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『ブルース』『笑う山崎』『二進法の犬』「武蔵」シリーズ、『浄夜』『ワルツ』『裂』『弾正星』『信長私記』『太閤私記』『対になる人』など。

「2021年 『夜半獣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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