保身 積水ハウス、クーデターの深層

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041097564

作品紹介・あらすじ

なぜ、小物ばかりトップになるのか!?
日本にはいまだ経営トップの不正を監視し、正す機能がない。
隠蔽された「騙されるはずのなかった」地面師事件。積水ハウスで起きたクーデターの内実を明かし、この国の漂流する企業倫理までも抉る経済ルポ!

地面師=他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師
積水ハウスは地面師に騙され、取引総額70億円、55億5900万円を支払った。

役職が上の者ほど、責任から逃げる。
実力派会長の突然の辞任。それは、社長の「保身」によるクーデターだった!
積水ハウスでは2018年、地面師事件の全容解明を進める会長が失脚した。
背景には、事件への社長責任が明記された「調査報告書」の存在があった。
責任を問われた社長が、会長を返り討ちにしたのだ。
11年のオリンパス事件以降、東芝、日産自動車、関西電力、東京電力とトップ企業の不祥事が繰り返されている。
下には厳しく、上には優しい、名ばかりのコンプライアンスはなぜ蔓延したのか? 
積水ハウス事件から、日本企業の腐敗構造までも暴く経済ルポ!

【目次】
まえがき
序 章  解任――クーデター政権、樹立す
第一章 事件――推進圧力は社長がもたらした
第二章 不正――現場は地面師に引き寄せられた
第三章 予兆――カリスマ君臨と腹心の野望が交錯する
第四章 暗闘――副社長、策動す
第五章 隠蔽――絶対権力の道へ
第六章 結集――公器としての会社を問う
第七章 総会――企業倫理、漂流す
終 章  腐敗――立憲主義を取り戻せるか?
あとがき
主要参考文献

感想・レビュー・書評

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  • 『保身 積水ハウス、クーデターの深層』 藤岡雅 (著)
    2017年6月1日に積水ハウスは地面師に騙され、取引総額70億円、55億5900万円を支払った。
    事件の舞台は、東京都品川区の山手線五反田駅から徒歩3分の立地にある旅館「海喜館」の旅館敷地600坪。そんなことがあるのだと思った。森功の『地面師』を読んで、地面師の手口は実に巧妙で用意周到なのだ。地面師チームは、役割分担がきちんとされる。一番肝要なことは、地主になりすます人をどうリクルートするかにある。地主への徹底したリサーチとそれに基づいた偽地主の作り方と証明書の偽造。まさに、職人技が発揮される。
    本書は、積水ハウスの会長が辞任したということから、それは解任であり、なぜ解任されるクーデターが起こったのか?を執拗に追求していく。
    2018年1月24日の取締役会では、和田が「詐欺事件について責任を明確化する」として、地面師に積極的に関わった阿部の社長解任動議を出したものの否決される。その後、阿部が「新しいガバナンス体制を構築する」として、和田を解任する動議を出したところ、和田が解任させられた。和田は阿部の責任を追及したはずが、返り討ちにあった内紛劇があった。まるで、映画のようなことが日本で起こっている。土地購入の承認を得るための稟議書承認の際、4名の回議者が飛び越され、予め現地視察をしていた社長が先に承認した。回議者全員が押印したのは手付金支払後だった。
    やはり、社長の判断がこの事件を引き起こした。社長はそのことを隠蔽しようとする。騙された上に、隠蔽するから、事件はややこしくなる。「日本人はウソを言うと怒りますけど、隠すことには抵抗がない」と指摘する。
    経営トップの不正を監視して、制御する機能は日本にはないと言う。
    著者は、法務局が本人確認せず、司法書士などの書類が揃って居れば認めるという登記の問題を指摘する。また、そのお金は振り込みでなく、小切手だった。それを扱った銀行が三菱UFJ銀行。支払われた会社は、ペーパーカンパニーだった。銀行には責任がないと言えるか?
    本来なら騙されるはずのない事件。日本の土地登記のシステムとそれに関わる銀行の安易さ、会社のトップの判断ミスを指摘できない仕組みなど、地面師が暗躍できる空間があることを、見事に浮き彫りにした作品だった。

  • 積水ハウスの地面師事件はメディアで盛んに報道されていたが、その裏にこのようなドロドロしたクーデターがあったとは知らなかった。会社である以上「社長案件」のようなことは程度の差はあれ起こり得ると思うが、自分がしかるべき立場だったと仮定してどこまでの行動をとれるだろうかと想像するとサラリーマンの自分としては考えさせられた。

  • 以前、同じ事件を題材にした「地面師」という本を読んだが、本書は事件そのものだけではなく、事件を防げなかった社内の問題、その後の会長解任などの内紛などに取材を広げている。
    それ故に企業のガバナンス、とりわけ日本企業であればどこにでも抱えていそうな弱点があらわになっており、単なる事件物に留まらない読み応えがあった。
    一方で本書は善玉・悪玉が割とはっきり書かれているが、見方を変えれば別な言い分、異なった結論があるのではないか、という印象が残った。

  • 力作。
    世間一般の評価と実態の乖離に驚いた。
    年齢ではく、人間性の本質、なんだな〜。
    それにしても、積水にお勤めの皆様、ご苦労様です。

  • 地面師事件に端を発した積水ハウスの内部紛争の顛末を記した一冊。クーデターを起こした側が取材を基本的に受け付けていないので、見方が偏っている可能性もあるが、とても迫真に迫る出来栄えであった。ここまで書かれても反論等をしなかったり取材に応じないということは、書いてあることが相当に事実に近いということになるのか。そうであれば社員は本当にかわいそうだと思うし、これでは誇りをもって働くことなどはできないのではないかと思うけど、大きな会社だから、どこか遠いところで起こった出来事という感覚なのかな。
    前半は事件や会社内部の動きがリアルで面白く、後半はコーポレートガバナンスのくだりがとても印象的だった。これまでコーポレートガバナンスというのは、この本の登場人物も言っている通り、インナーコントロールと勘違いしていたかもしれず、本当の意味に近いところが本書で理解できたように思う。個人的にはコーポレートガバナンスをもっと深ぼって学んでいきたいと思った。

  • 2023年9月26日読了

  • 五反田にある謎の廃墟「海喜館」をめぐる積水ハウスの詐欺事件とそれから起こるクーデター。
    調べれば調べるほど「なぜ騙されたか?」と疑問に思うほどのずさんな地面師の手口と、社長案件だからと無理筋決裁に進めて行く当時の積水ハウス経営陣。
    社長を譴責→追放しようとした会長を逆に解任してしまい、自らの失策の責任を取らないままに被害者として事件を隠蔽する経営陣を追及する各種取材。
    オリンパスと何も変わらない日本の大企業の暗部を改めて白日の下に晒した一冊。

  • クーデターとは、革新派が保守派を倒す構造なのかと思っていたが、こんなパターンもあるのか。

    欧米式株主至上主義には全く賛同できないが、日本式経営家族主義も闇は深い…。

    経営の新しいカタチを生み出せないものだろうか。
    組織の統治は構成員の納得感と信頼感に支えられている、か…。

  • 積水ハウスが55億円の詐欺被害にあった地面師事件に絡み、社長の責任を追求しようとした会長が逆に辞任に追い込まれたクーデターから3年近く経ち、事件の裁判や株主提案を経た2021年5月に刊行された本。

    「事実は小説より奇なり」と言うけど地面師事件そのものは面白いけど小説どころか「絶対やっちゃアカン取引」啓発ビデオくらいにしかならなそうなお粗末なもの。対して、失脚させられた会長はじめ老兵たちが真のガバナンスを求め米国関係者を巻き込み捨て身の株主提案を行うまでの流れは胸が熱くなる。

    クーデターにまつわる実際のところは一方からではわからない。が、裁判時の提出資料などをもとに書かれていて信憑性はある程度担保されているし、何より後半での真のコーポレート・ガバナンスとは何か、そして日本でそれを実現しようとするのがいかに難しいかについてが面白くて魅力のある良書でした。

  • 「女帝小池百合子」を読んだ時も思ったが、こんな丹念な取材をして本にしてくれる人が居る、ということが少しホッとする。そして資本主義社会は限界に近いのだろうなあ、とも思った。

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著者プロフィール

1975年4月6日、福岡県生まれ、拓殖大学政治経済学部卒。編集プロダクションを経て、2005年12月より講談社『週刊現代』記者。福岡のいじめ自殺事件やキヤノンを巡る巨額脱税事件、偽装請負問題などを取材。リーマンショックを機にマクロ経済やマーケット、企業研究などの分野に活動を広げ、東芝の粉飾決算の問題などを担当した。現在は『週刊現代』のほかに「現代ビジネス」、「JBpress」などに記事を寄稿している。

「2021年 『保身 積水ハウス、クーデターの深層』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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