歌集 滑走路 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041096123

作品紹介・あらすじ

歌集としては異例のベストセラー。そして、映画化も決定!
いじめ、非正規雇用……逆境に負けず それでも生きる希望を歌い続け
32歳という若さで命を絶った歌人・の萩原慎一郎の歌集がついに文庫化。

解説:又吉直樹

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NHKニュースウオッチ9で「“非正規”歌人が残したもの」として紹介され、大反響。
10月16日放送、NHK「クローズアップ現代+」で特集、又吉直樹氏により大絶賛。
11月3日「朝日新聞」「売れてる本」、「日経新聞」書評欄「ベストセラーの裏側」掲載
11月20日「毎日新聞」特集ワイド掲載。
紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30「キノベス!2019」、第8位。

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感想・レビュー・書評

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  • 昭和20年代、第二芸術論争なるものがあったと聞いている。対象は俳句ではあったが、それは短歌をも巻き込むものだった。「(作家たちは)いつも慄いている。名も知らぬ土地の人の机の引き出しの中に、世紀の傑作が眠っているのではないか、と」出典にあたっていないので正確ではないが、おおよそ以上のような主張に、おおよそ俳人とか歌人とかと言われる作家たちが一斉に反発した。

    現代、歌人と称するためには何が必要なのだろうか?
    公の新聞や雑誌で、歌が頻繁に公開されていること?
    歌集を出していること?

    定義はどうでもいい。
    むかし、おおよそ130年間に詠まれた歌が一冊の文集にまとめられた。万葉集といい、それは1300年の時を経て、そのうちの一部、或いはおおよそがいまだに人口に膾炙されている。
    私は、あくまでも私の意見ではあるが、そうなって初めて歌人は歌人になると思っている。

    そのためには、繰り返し繰り返し「その歌」が引用されなければならない。

    ここに1人の若くて優しくて脆かった青年が、その最後の最後に編んだ一冊の歌集がある。

    どうなんだろ。
    バブル崩壊後、リーマンショックの最中、非正規労働者として20代を過ごした青年の心の記録として、20年後、100年後、1000年後に残る歌だろうか?「現代万葉集」があれば、一首でも採用されるだろうか?現代ならば、数万回ネットに載ったか、を基準にして選ぶことが出来るかもしれない。

    慎一郎さんの歌が載るかどうかはわからない。現代は、1300年前と比べてあまりにも詠む人が多いから、難しいんじゃないかな、とも思う。でも、とも思う。何かの「気まぐれ」が、この時代の何かを掬い取って、たとえば以下のような歌が選ばれないとも限らないのではないかと。


    抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ

    きみといる夏の時間は愛しくて仕事だということを忘れる

    牛丼屋頑張っているきみがいてきみの頑張り時給以上だ

    紐引けば花咲くように電灯のともりて学びの時間になりぬ

    電車に乗りながら夜空に伝書鳩放つがごとく送信したり

    あのときのこと思い出し紙コップ潰してしまいたくなりぬ ふと

    ぼくたちの腹部にナイフ刺さるごと同時多発テロ事件はあった

    箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる

    コピー用紙補充しながらこのままで終わるわけにはいかぬ人生

    だだだだだ 階段を駆けあがるのだ だだだだ、だだだ 駆けあがるのだ

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      相変わらず手厳しい。。。

      「小説家になる前のボラーニョは詩人をやっていた。詩人とは小説家と違って職業ではない。...
      kuma0504さん
      相変わらず手厳しい。。。

      「小説家になる前のボラーニョは詩人をやっていた。詩人とは小説家と違って職業ではない。 詩人「をやる」というのは、世界文学という輝かしい共和国の辺境にあるスラム街で食うや食わずの暮らしを送り、読み手を永久に得られない可能性の高い戯言を書き続けて恬然としていることだ。」
      松本健二〈ボラーニョ・コレクション>完結に寄せて | 白水社Publisher's Review(2017年秋号№182)
      2023/06/06
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      まぁこちらは世間に全く影響力ないしがないレビューサイトの(しかも自分の信条を吐露したのみの)戯言ですが、向こうは公の文書ですから...
      猫丸さん、
      まぁこちらは世間に全く影響力ないしがないレビューサイトの(しかも自分の信条を吐露したのみの)戯言ですが、向こうは公の文書ですから。
      松本さんの方が、辛辣とは思います。
      2023/06/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      やっぱり、、、そうだね。
      kuma0504さん
      やっぱり、、、そうだね。
      2023/06/06
  • 心が躍ったり、落ち込んだり、忙しい歌集でした。
    恋の歌が好きだなー。おばちゃん、ときめいちゃったもの。
    萩原さんの短歌は優しいだけじゃないと思う。(良い意味で)プライドが高く、向上心に溢れていて、創作への情熱が痛いほど伝わる。
    こんなにストレートに心に入る短歌ははじめてかもしれない。今まで読んできた短歌はくすぐってきたり、引っ掛かりがあったりするものが多かった。(そんなに読んでいませんが)
    文庫化に供なって追加された又吉さんの解説がすこぶる良くて、なんだか勝手に救われた気分になった。

    この本は一時期ネット書店で軒並み売り切れで買えなかった。リアル書店に「あそこなら、あるかも」と期待と願をかけて赴き、平置きで一冊だけ置いてあったもの。
    見つけたときキラキラ光って見えた。
    そんな思い出とともに特別な本になった。

  • 書店でふいに手に取ったのは、死んだ友達に名前が似ていたから。
    で、ネットの評判など何も調べることなく読んで、不思議な気持ちになった。
    もとから幻想耽美人工的な短歌のほうが好きなので本来の好みとはいえないが、それでも読み続けてしまった。
    「ベランダで沈む太陽観ていたら急に切なくなってしまった」
    とか、自分も体験したことがある、と思ったのだが、よく考えてみたら、そんな経験ないかもしれない。
    なのにこの歌を読んだことで、記憶が上書きされたかのような気がする。
    彼は僕に似ている。
    いや、僕が勝手に彼に似ているような気がしているだけなのだ。
    同じ国で似た年齢だから似た経験をしていてもおかしくはない。
    しかし当たり前だが彼は僕と別の町で、「集中を持続した」人だ。
    実際この人だって
    「ひとの数だけ歌がある不思議かな たった三十一文字なのに」
    と歌っているくらいだし。
    だからいまこんなに響いても、一か月後には忘れている。
    というか自分の生活にいまの気持ちは埋没していってしまう。
    それも判っている。
    穂村弘が「近代短歌の、私の生の一回性」みたいなこと、あるいは「現代短歌の棒立ちの歌」のようなことを言っていたし、それがおそらく歌人に読み手が仮託して読むことの不思議さ、交換可能性を思ってしまうことと、つながっているんじゃないか。
    ……よくわからないことを書いてしまった。
    その後ネットで、凄いブームになった作品集だということを知りそうになって、慌てて調べるのをやめた。

  • 一首目、ニ首目から力強さを感じる。
    「〜なのだ」と言い切っているもの、同じ言葉を繰り返し使っているものがお気に入り。
    他の作品も読んでみたいと思ったが、本書が唯一の歌集らしいので、本書を思う存分堪能したいと思う。

  • 映画から入る。
    それはそれ。
    仕事の辛さ、先の見えない生活、届かない想い、、、辛い歌たち。一方で色んなものに向ける優しいまなざしも感じられる歌たち。
    短歌で飛び立ちたかった彼が、飛び立つことが決まった直後に命を絶つほど辛いことがあったのかと思うと胸が締め付けられる。

  • 言葉というのはとても素晴らしいものです。本を沢山読んでこれだけ色々な感情を揺さぶられるのは、作り手も読み手も「言葉」というもので繋がっているから。
    しっかりと構築された文章を読む事を好むので、詩歌についてはあまり知らないのですが、生け花のように美しく置かれた言葉にもまた感動する事もまた気分がいいです。
    作家としても名を成しておらず、これから名を成すぞと自分を鼓舞して歌作を続ける青年。色々な不安と戦いながらも前を向いている事が見て取れる言葉。とても眩しくみずみずしいです。
    上梓する前にお亡くなりになってしまったという事で非常に残念です。唯一の作品集世の中に刺さっています。

  • 32歳の若さで去った歌人、萩原慎一郎さんの歌集

    初めて歌集を読みました。
    恋に食に労働に、命が日々暮らしている中で呟く言葉を口語体で歌われているので、凄く共感できるものが多かったです。
    そして普段感じることのなかった、自分の心の奥行きを感じる事ができました。

    この歌集が作品として素晴らしいモノなのかは分かりません。
    ただ、生きている苦悩や乗り越えようとする足掻きが31文字に込められ、「命」だと思えました。

    自分の在り方に迷っている今、この作品を手に取れたことに感謝です。


    迷い道
    されどもそこも
    滑走路
    まだ見えぬとて
    先にある空

  • 詩集というものをほとんど買ったことがなく、たしかNHKニュース9でも取り上げられていて、買って読みたいと思っていた。
    写真を撮影するときにピントが合うような言葉の選び方が上手で、とても感動した。
    著者には生きて言葉を紡いで欲しかった...

  • 遅ればせながら読みました。
    読んで感じたことを最初全く言語化できなかったけれど、解説を読んでようやく少し言語化できるようになった気がします。
    特に又吉さんの読み解きの深さに救われました。
    ようやく、自分が感じていたものの正体や、それでいて自分の読み解きの浅さが浮き彫りになったから。

    詠み手の優しさ、彼の目を通して見た世界を今こうして追体験出来る奇跡。
    口語の短歌なので、すぐそばで語り掛けてくれているようであり、励ましの歌にこんな情勢だからこそより救われている。
    自らの翼で滑走路から飛び立った彼の心が今も自由で優しく美しくあれと願ってやみません。

    この境地に自分は到底たどり着けませんが、少しでも近づけるよう何度も読み込もうと思う一冊です。

  • 【解説:又吉直樹】
    われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を 「歌という鳥」

    たとえば、その「われを待つ人」は私でもある。萩原さんが短歌で作った滑走路は彼だけのものではない。萩原さんが「ぼくたち」と言ってくれる限り、それは万人に開かれている。萩原さんは苦しい夜を何度も何度もくぐり抜けた。この歌集はその格闘のしるしでもある。私はどうしようもない夜にこの歌集をひらくだろう。その夜を乗り越える方法を萩原さんの短歌が教えてくれる。
    (p.167)

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著者プロフィール

1984年 東京都生まれ私立武蔵高校・早稲田大学卒業。りとむ短歌会所属2017年6月8日逝去(享年32)

「2020年 『歌集 滑走路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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